姉妹チート

和希

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壊れるまで届け

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(1)

「空、おはよう。今日から学校だよ」
「美希、おはよう。今起きた。準備してから学校に行くよ」
「わかった」

 今日から3学期。
 1年もあとわずかだ。
 あっという間に過ぎた気がする。
 いよいよ小学校最後の年。
 最上級生になる。
 着替えるとダイニングに降りて朝食をとる。
 朝食を終えると支度をして翼たちを待つ。
 翼たちが仕度を終える頃水奈がやってくる。
 僕達は学校へ向かう。

「いってきま~す」

 天音の元気な声が聞こえる。
 天音と水奈は休みの間にあったことを話しながら登校する。
 僕達はその後ろをついて行く。
 翼から美希とはどうか?とか善明から何か聞いてないか?とか話しながら。
 学校に着くと昇降口で天音達と分かれる。
 教室に入るといつものメンバーと話をする。
 休みの間何してた?
 宿題終わった?
 髪切った?
 様々な話題が飛び交う。
 翼も一人の女の子。
 話に加わり盛り上がっている。

「そろそろ時間だ席につこう」

 学がいうと皆席につく。
 高槻先生が教室に入ってきて朝礼が始まる。
 だけど高槻先生の後に児童がいる。
 この時期に転校生?
 女子二人だった。
 先生が名前を書く。
 江口美帆と江口美雨。
 それぞれ、双子の兄弟らしい。

「今日から皆さんと一緒に学校生活を送ることになりました。仲良くしてあげてください」

 二人の挨拶が終ると皆で体育館に行く。
 始業式を終えると教室に戻る。
 美希は転校生を知っているらしい。
 江口さんは美希のお母さんの親戚なんだそうだ。
 両親は江口重工の社長。母さんは江口銀行の会長についている。
 当然のように二人はSHに入った。
 美希がSHについて説明する。
 先生が教室に戻ってくると終礼が始まる。
 終礼が終ると僕達は天音を待つ。
 なかなか降りてこない。
 終礼が長引いてるようだ。
 原因はやはり天音にあった。
 初日からよくやる。
 そんな話を翼としていた。

(2)

 キレた。
 大地が黙って喜一の仕掛けたトラップを解除する。
 桜子が入ってきたら大量の卵が桜子の頭上に落下するというものだった。
 新学期初日からまだこいつは病院送りにされないと気が済まないらしい。
 片桐家にとって食べ物は絶対。
 食べ物を粗末にすることは許されない。
 私が喜一をぶっ飛ばすと乱闘は始まった。
 粋と遊は花となずなを守る。
 大地と祈が雑魚の相手をする。

「ニワトリさんに謝れ!」
「心配しなくても消費期限切れの卵だよ!腹を下したいなら勝手に食え!」
「同じだこの馬鹿!てめーは何人分のTKGを無駄にしたと思ってるんだこら!」
「何の騒ぎ!?皆席につきなさい!」

 桜子が教室に入ってきた。
 知らない男子3人を連れてきた。
 大地は知ってるらしい。
 江口亘、亨、陸なんだそうだ。
 3人は席につく。
 女子共は騒いでいる。
 無理もない、見た目も良ければ中身も良さそうだ。
 説教は無かった。
 始業式まで時間がなかったから。
 始業式の間にSHとFGの勧誘合戦は始まっていた。
 3人は迷うことなくSHを選んだ。
 3人の話を聞く。
 東京に住んでいたらしい。
 親の意向で地元に引っ越してきた。
 大地はこの事を知っていた。
 クリスマスのパーティで紹介したんだとか。
 そういやなんかいたっけ?
 上に双子の姉がいるんだとか。
 どうやら翼達のクラスにいるらしいことはメッセージのやり取りで知った。
 始業式が終ると、桜子の説教がはじまった。
 朝の騒ぎについてだ。
 桜子は私を犯人だと決めつけた。
 まあ、最初に殴り飛ばしたのは私だから間違ってはいない。

「天音!新学期早々なにやってるの!」
「ムカついたからぶん殴っただけだ!」
「あなた女の子でしょ!?」
「女の子にぶん殴られて先生に泣きつく男子ってのも傑作だな」

 そう言うとSHの皆は笑っていた。
 桜子の説教が長引いた。
 私は終礼が終ると喜一に教室に残る様に言った。

「お前のせいでまた今日昼飯の時間が遅くなったじゃねーか!下手すれば晩飯抜きだ!責任とれよ!政治家でも謝るくらいするぞ!」

 私が言うと次々とSHのメンバーが言う。

「氷砂糖とグレープだか知らねーか大概にしやがれ!一々くだらねーことするんじゃねーよ!」

 すると喜一は笑った。

「ダサいのはどっち?先生が怖いの?真面目ぶってさ」
「なんだと?」
「なんだかんだ言って、結局真面目ぶってるだけじゃん。しらけるんだけど」

 喜一が言うとFGの連中が笑う。
 真面目ぶってるかどうかは知らないが、食い物をどうでもいい事と言われた事にイラっときた。
 人は食べなきゃ生きて行けない。
 だから食事は尊い事。食べられる事に常に感謝しなければならない。
 片桐家の人間なら絶対の掟だ。

「お前はどうやら3か月程度の入院じゃ懲りないらしいな」

 葬儀の手配も火葬場の準備も手間をかけるだけ悪い気がする。この場でひき肉にして鶏のエサにしてやる。

「まあ、待ちなよ天音ちゃんだっけ?」
 
 そう言ったのは転校生の江口陸だった。

「天音ちゃんの言う事は正しいけど、こんな小者相手に天音ちゃんの品格を下げるのは俺は賢明じゃないと思うな」

 陸が言う。

「誰が小者だと?転校生から洗礼を浴びせないとわからないのか?」

 喜一が言うけど陸は動じなかった。

「しょうもない悪戯をしようとして女子に邪魔されて逆切れした挙句、殴り飛ばされて先生に庇ってもらう事の方が余程ダサいと思ったから小者だと表現したんだけど?」
「舐めるなよ?お前ひとりを袋叩きにするくらいどうってことないぞ?」
「君こそ俺を舐めないでほしいな。フォーリンググレイスってのがどれだけのグループなのか把握してないけど、雑魚がキャンキャン喚いてるだけのしょうもないグループってのは今理解したよ」

 俺もも江口家の人間。対多数の戦闘の訓練くらいは受けてると陸は言う。

「相手は陸一人だと思うなよ。女の子相手に暴力を振るうってのなら俺も黙ってないぞ」
「どっちに正義があるかくらい一目瞭然だ。俺も転校初日からデビュー戦と行こうか」

 亘と亨が言う。

「お前たち!いつまで残ってるんだ!さっさと家に帰りなさい!」

 見回りの教師に見つかった。
 ちっ。

「皆帰るぞ……」

 私がそう言うと皆で帰りに着いた。
 昇降口には翼と空と美希と善明が待っていた。

「じゃ、また来週」

 そう言って私達は家に帰る。
 大地は遠回りだけど私を家まで送ってくれた。

「今日は遅かったわね。何かあったの?」

 愛莉が聞いてきた。

「別に何もないよ。ちょっと終礼が長引いただけ」
「そう。じゃあ今から昼ご飯作るわね。鞄おいてらっしゃい」

 愛莉がそう言うと私達は部屋に荷物を置いてダイニングに行って昼ごはんを食べる。
 その後空の部屋に行くと今日あった出来事を話した。

「へえ、天音のクラスにも江口さんがね」

 翼が言う。

「ところでその卵どうしたの?」
「どうもこうもねーよ、消費期限切れてる卵だ、処分したよ」
「もったいないな、加熱処理したら食えたのに」
「冷蔵庫にも入れてなかった卵だぞ。無理だろ!」

 ボーリンググレープの話は空にとっては卵の処分以外に興味はなかったみたいだ。
 まあ、卵の方が重要だよな。

「あいつ、今度私を怒らせたら次こそ鶏の餌にしてやる」
「まだ私達に手出しする連中がいたなんてね」

 翼が言う。
 SHの噂は学校中に広まってるはず。手出しできるはずがない。
 そう思っていた。

(3)

 担任が教室に入ってきた。
 二人の男子を連れて入ってきた。
 担任が名前を書く。
 志水竜馬と志水拓也。
 私の母様の親戚だ。

「新しいお友達を紹介するわ。みんな仲良くしてあげてね」

 担任が言うと二人共頭を下げる。
 担任が席を決めると席に向かう。
 転校生の紹介が終ると体育館に向かう。
 志水君達は早速FGの勧誘を受けているようだ。
 だけど二人共SHにすでに入っている。
 丁重に断った。

「後悔するぞ」

 その言葉を聞いて本当に後悔したものがどれだけいようか?
 2人とも気にも留めなかった。
 終礼が終って先生が教室を出るとさっそく洗礼を浴びる。
 瑞穂は既に泣きそうだった。
 恋と紗奈と身を寄せ合って震えている。

「天と小泉君と大原君は三人をお願いします」

 そう言って前に立つ。
 前と違って人数が多い。
 さばききれるか?
 すると私を庇うように志水兄弟が立つ。

「お前らも痛い目を見ないと分からないか?」

 勝次がいう。

「痛い目を見るのはどっちだと思う?俺はまだ手加減というものを知らない。どうなっても保証しない」

 竜馬が言う。

「あなた達まだ教室にいたの?早く下校しなさい」

 担任が戻ってきた。 

「ちっ、行くぞ」

 勝次が言うとFGの連中は去って行った。

「転校早々、巻き込んでしまってごめんなさい」

 二人に謝罪した。
 二人は言う。

「女子が一人で立ち向かうのを見過ごしたって母さんに知れたらしかられるよ」
「男として当然の事をしたまで。気にすることは無い」

 そう言って二人は帰って行った。

「2人ともカッコよかったね」

 帰り道紗奈が言う。

「そうですね。でも二人だけじゃありません。紗奈達を守ろうとした男子達も十分勇敢です」
「そうだね」
「でも、天は私のものですからね。横取りは許しませんからね」
「大丈夫だよ」

 紗奈は笑っていた。
 SHも少しずつ大きくなっているけどFGもそれ以上に勢力を増しているのは確かだった。
 今は天音さんの存在が、お兄様たちの存在が抑えているけど、いつまた暴動を起こしてもおかしくない状態だった。

(4)

 僕は今ショッピングモールの100均にいる。
 目的は消しゴムをポケットに入れて店を出ること。
 僕は今FGに入る試験を受けている。
 このくらいできないでFGに入るなんて笑わせるなと言われた。
 見張りがいる。代金を払って持って帰るなんて真似は許されない。
 やることは立派な犯罪だ。

「ばれやしねーよ、さっさとやれ!」

 悪友に誘われて入ることになったフォーリンググレイス。
 僕は兄や姉とちがって立派な人間じゃない。
 父さん達からも比較されて嫌になる。
 岳からは止められた。

「どう考えてもやばいじゃん。やめとけって!」

 そうは言われたけど……。

「このくらい幼稚園児でもやれるぜ。それともお前も袋にされたいのか?」

 一度関わったら抜け出せないのがFG。
 意を決して恐る恐る消しゴムを取る。
 そしてそれをポケットに入れようとするとその手を誰かが掴んだ。
 店員に見つかった!?
 すぐに振り返る。
 サイドポニーの女の子が立っていた。

「その消しゴム買わねーなら譲ってくれよ」
「あ、いや、その……」

 どう返事していいか分からなかった。

「お前由貴じゃないか?何やってんだ?」

 そう言ったのは双子の兄・指原桃李の友達・桐谷遊の兄・桐谷学。
 ということは遊の彼女の多田水奈か。

「兄貴!買い物済んだぜ!って由貴じゃん!?珍しいなお前ひとりなんて。桃李はどうした?」
「お兄ちゃんその人誰?」

 遊とその妹・恋が来た。

「とりあえず消しゴム出せよ。欲しいなら買ってやるから」

 水奈が言う。
 僕は消しゴムを置いてその場から逃げようとしたが学に掴まれた。

「話を聞く必要がありそうだな。水奈、面倒事に巻き込んですまん」
「気にするな、コーヒーショップでも行くか?」
「そうだな。ゆっくり話を聞こう」

 僕は有無を言わさずコーヒーショップに連行された。

「で、何があったんだ?」

 席に座ると学が聞いてきた。
 観念して事情を話した。
 これで俺は明日袋叩きだな。
 涙を流しながら話をしていた。
 体は震えている。
 そんな事情を水奈は「ふーん」の一言で片づけた。

「どろぼーはいけないんだよ」

 恋に言われる。
 遊は今頃桃李にメッセージを送っているんだろう。
 程なくして兄・翔悟と桃李。姉の蘭華が来た。

「あんた何やってんの!?私は情けないよ!」

 蘭華は泣いていた。

「ごめん」
「ごめんで済む行為じゃないでしょ!父さんに知られたらどうなると思ってるの」
「どうせ俺は翔悟や桃李と違うんだ!」

 開き直ってた。

「まあ、落ち着こうや蘭華」
「そうそう、未遂だったんだし。いいじゃねーか」

 学と水奈がそう言って蘭華を落ち着かせていた。 

「それよりこれからどうするんだ?このままだとお前明日袋叩きなんだろ?」
「うん」

 遊は相変わらずスマホを操作している。
 あまり興味がないのだろうか?
 そんな遊がようやくスマホから目を離した。

「問題ないってさ」

 遊が言う。
 それを聞いて水奈が言った。

「じゃ、決まりだな。それしか手は無いだろ?」

 どんな手があるというんだ。

「お前らスマホ出せよ」

 水奈は自分のスマホを取り出しながら言う。
 僕と桃李と蘭華と翔悟がスマホを出すと一人ずつ連絡先の交換をして行く。
 そしてグループに招待された。
 セイクリッドハート。
 僕はFGの敵対グループに招待されたらしい。
 なおさら袋叩きじゃないのか?

「これで口実は出来た。あとは天音が動く」

 水奈が言う。

「ついでに岳や朋樹、蓮華も入れとくか?招待してやれよ」

 水奈の言われる通りにした。

「んじゃ帰ろうぜ」

 水奈が言うとコーヒーショップを出る。
 そしてショッピングモールを出ると人気のいない場所に出た。

「こそこそ隠れてないで出てこい!」

 学が言うと黒頭巾を巻いた集団が出てきた。

「遊は恋を守れ」
「分かってる」

 学と遊と水奈と翔悟と桃李はやる気の様だ。
 しかし相手はこっちより圧倒的に多い。
 そしてこっちは皆が戦えるわけじゃない。
 恋と蘭華は普通の女子。その2人を庇いながら戦うなんて余程の戦力差が無いと無理な話だった。
 それでも水奈が懸命に次々と叩きのめしていく。
 しかし相手のリーダーまであと少しと言うところで体を掴まれる。
 一方的な暴力が始まった。
 相手の気が済むと立ち去っていく。

「あとちょっとだったんだけどな」

 水奈がそう言って笑う。

「水奈、あなた顔に怪我してるじゃない」

 蘭華がいう。

「ああ、やばいな。母さんに怒られるな」

 そういう問題じゃないと思うんだけど。

「うちの弟が馬鹿な真似をしなかったら……ごめん」

 蘭華が泣いている。

「気にするな、仲間を庇うのがあたりまえだろ?」

 水奈はそう言って笑った。

「じゃ、帰ろうぜ……あいつらしっかり顔覚えたからな。きっちり仕返ししてやる」

 水奈がそう言って立つと皆立ち上がる。
 帰る途中兄さんや姉さんから散々叱られた。
 そしてボロボロになった僕達に両親が気づかないわけが無かった。

「何があったんだ?」

 父さんが言う。
 蘭華が事情を説明していた。
 もちろん僕が盗みを働こうとしたことは伏せておいてくれた。
 父さんにも叱られる。
 思えば4人そろって叱られた事なんてなかったな。
 父さんから解放されると集まってそんな話をする。
 4人で話をするなんて久しぶりだった。
 話はこれで終わりなわけが無かった。
 休み明け早々事態を知った天音が動き出す。
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