姉妹チート

和希

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(1)

「こら~!空起きろ!!朝だぞ!!」

 そう言って空の部屋に乱入する天音。
 私はゆっくりと服を着替えて持ち物を鞄に入れて空の部屋に行く。

「空……そろそろ朝ごはん」
「ああ、わかった」
「天音も自分の準備しないと」
「もう済んでるよ!」

 天音の言葉を背に私は一足先にダイニングに行く。
 そして席に座って皆を待つ。

「冬夜さん、そろそろ時間ですよ。起きてくださいな」
「おはよう愛莉」
「子供たちに見られたらどうするんですか?困った旦那様ですね」

 ちなみに何度も見たことがある。
 それで愛莉が困ってるそぶりを見せたことは一度もない。
 空と天音が降りてくる。
 そして、祖父母もそろって食事。
 ご飯を食べると支度をする。
 仕度を済ませる頃水奈が来る。

「おはよう水奈」
「あ、おはよう」
 
 水奈も、もう空の事はあきらめがついたようだ。
 何事もなかったかのように空と接している。
 そんな水奈に空の方が戸惑っているようだ。 
 学校に着くと昇降口で水奈達と別れる。
 空と教室に向かった。
 教室に着くと空は美希と挨拶をしている。
 あのアドバイスの効果があったのだろうか?
 空が美希と接する時どことなく落ち着きがない。
 昼休み。

「ねえ翼。空に何かあった?最近様子が変なの」

 美希が聞いてきた。

「ちょっと背中を押してあげただけ」

 そのうち美希には分かるよ。

「今日翼達家庭訪問だよね?」
 
 麗華が話題を持ち出した。

「うん、高槻先生がくるみたい」
「私のところは明日。ああ憂鬱だわ」

 麗華が言う。

「私のところは大丈夫かな?母さんは高槻先生より強いから」

 美希が言う。
 美希の母親は石原恵美。芸能事務所「USE」の専務を務めている。
 地元の芸能事務所じゃ最大手。東京にも支社を構えている。
 父親は石原望。貿易会社「ETC」芸能事務所「USE」の代表取締役。母親には頭が上がらないのはうちのパパと一緒。
 パパの知り合いは皆妻に頭が上がらないらしい。
 そうでないのもたまにいるみたいだけど。

「それにしても、空は低学年にも人気出て来たみたいだね」

 美希が話題を変える。
 それが悩みの種だった。
 空は誰にでも優しい。遠足の時の天音の事件を境に1年生や2年生の女子からも目をつけられた。
 空は基本的に何もしなかったらイケてると思う。それは父親似だと愛莉は言ってた。
 あの性格はどうにかしないと美希も気が気でないだろう。
 その空は友達の光太や学と給食を食べてる。
 食べた後は大体ベランダで時間を潰してる。
 私達は教室で喋って時間を潰す。
 そして午後の授業を受けると家に真っ直ぐ帰る。
 今日は家庭訪問だ。
 時間も決まっている。
 天音は明日らしい。
 愛莉は部屋を掃除していた。

「先生は千歳ちゃんですよね?」

 高槻千歳先生の事だ。
 水奈の父親・多田誠の妹らしい。
 旦那の高槻翔は中学校の体育教師。
 バスケットボール部の顧問をしてる。
 ちなみに水奈は父親の事を嫌ってるらしい。
 理由は至ってシンプルで「気持ち悪い」
 そういうお年頃なんだろうか?
 ちなみに私のパパはそんな事がない。
 愛莉が押さえているのか分からないけど、水奈の父親のような溺愛というわけではないらしい。
 基本的に自由にさせてくれる。育児に興味がないとかそういうわけでも無い。
 私達も彼氏探そうって話をした時寂しそうだった。
 パパにもそういう感情あるんだなって思った。
 後日愛莉のお父さんに相談しに行ったらしい。
 飲んで帰って来た。
 パパでもそういう気分があるんだ。
 パパは基本的に優しい。甘いとかそういうのではなくて優しい。
 愛莉と同じで私たちの主張をちゃんと聞いてくれる。

「翼、そろそろ高槻先生くるみたいだよ」

 空が部屋の外から呼んでいる。
 私は部屋を出て二人でリビングに向かった。

(2)

 家庭訪問の時期に入った。
 まあ、家庭の事情を聞いて学校での生活を伝えるだけの仕事だけど。
 簡単なようで難しい。
 幸い私のクラスには問題児はいない。
 問題と言えば問題は抱えているけど。
 まずはその問題から取り掛かることにした。
 片桐家の呼び鈴を鳴らす。

「千歳ちゃんいらっしゃい」

 母親・片桐愛莉が出迎えてくれた。
 片桐愛莉は私の兄・多田誠の友達・片桐冬夜さんの嫁。
 掴みどころがない。

「愛莉さん。今日は私仕事で来てるから」
「あ、そうね。いらっしゃいませ、高槻先生。さ、どうぞ」
「失礼します」

 そう言ってリビングに通される。
 リビングには翼と空がいた。
 私は腰掛けると説明をする。
 と、いってもこの二人に関しては特に問題はない。
 成績も常に上位を保ってるし、問題を起こすことは無い。
 問題は妹の天音だ。
 職員会議でもたびたび出てくる天音の行動について。
 桜子先輩は大変だろうな。
 私の説明を笑顔で聞いていた。

「ご家庭で何か変わった事とかありませんか?」
「ん~特にないですね。2人とも良い子ですよ」

 愛莉さんはそう答える。

「親子のトラブルとかはないですか?」

 トラブルを起こすような2人じゃないけど。

「特にないですね。2人共学校では何かやってるんですか?」
「いえ、さっき説明した通り特に問題ないです」

 天音と同じ血を引いてるとは思えないくらいに。

「強いて言うなら交友関係が非常に狭いくらいですね。休み時間も2,3人で固まってるし。もう少し友達を作ることが出来ればいいのですが」
「協調性が無いという事ですか?」
「いえ、そういうわけではないんです。ただ自分たちの殻を作ってそこから出ないんです。2人とも家では何をしてるの?」

 翼と空に聞いてみた。

「宿題してゲームやってテレビ見てる」
「宿題して本を読んでる」

 空と翼が答えた。
 そういうご時世ではないけど聞いておいた方がいいだろうな?

「友達と遊びに行ったりしないの?」
「大体翼や天音と遊ぶから」

 空が答えた。

「そこが問題かもしれないですね。もっと友達と遊んだり。外で野球やサッカーしたリ」
「僕球技苦手だし」
「私がやると皆しらけるし」

 翼は何でもこなす。見ただけで理解してしまう。愛莉さんそっくりの才能を持っている。

「翼はスポーツとかに興味ないの?サッカーとかミニバスケとか」
「面倒だからやらない」

 そこは片桐先輩に似たのか。

「お母さんから何か2人に要望はありませんか?将来こうさせたいとか?」
「まだ2人共進路を決めてないみたいですから。中学になってから決めればいいと思ってます」
「私は決めてるよ」

 翼が答えた。
 愛莉さんも初耳らしい。

「いつの間に決めたの?母さん聞いてないけど」
「この前決めたから」
「翼の夢は何なの?」

 私は翼に聞いてみた。
 すると予想だにしない答えが返ってきた。

「お嫁さん」

 お嫁さん?

「誰か好きな子でも出来たの?」

 愛莉先輩も初耳だったらしい

「これから探す」

 翼は楽しそうに答えた。

「これから探すって……」
「私の知ってる限りじゃ学か光太だし」

 光太は気になる女子がいるみたいだし、学は今それどころじゃないっぽいから。
 その回答に空も驚いていた。

「そんなに焦って探す必要ないと思うんだけど」
「先生の言う通りですよ。高槻先生だって大学時代に初恋の相手を見つけたのだから」

 そう言う問題じゃないです愛莉先輩。
 冷静になれ。
 まだ小学5年生。心変わりはいつあってもおかしくない。
 しかし愛莉さんの子供……油断はできない。

「空はどうなの?」

 愛莉さんが空に聞いていた。

「父さんの会社継ぐんじゃないのかな?って」

 どうでも良さそうな回答だった。
 さすがは片桐先輩の息子なだけある。

「わかりました。そろそろ次に行かなければならないのでこの辺で失礼します」
「はい、お疲れ様です」

 愛莉さんはそう言って見送ってくれた。
 私は次の家に行く。

「お嫁さんになる」

 愛莉先輩も同じことを言っていたと桜子先輩から聞いた。
 血は争えない物なのだろうか?

(3)

 次に訪ねたのは桐谷家。
 ここも桐谷学に対しては何の問題も無い。
 問題があるのは弟の遊。
 やっぱり桜子先輩の受け持ちだ。
 私が関与する事じゃない。
 呼び鈴を鳴らす。
 母親・桐谷亜依さんが出てきた。

「千歳、いらっしゃい!」
「桐谷さん、私今日仕事で来てるから」
「あ、それもそうね!どうぞ。高槻先生」

 そう言って居間に通される。
 壁には秋吉有栖。昔のアイドルALICEのポスターと最近の売れっ子女優烏丸こころのポスターが張られてあった。

「ああ、それ、うちの馬鹿亭主の趣味。困ってるんだよね」

 亜依さんの旦那は桐谷瑛大。
 大学時代からの困った人で仲間に迷惑をかけてる。
 大体のトラブルはうちの兄と瑛大さんが起こしてた。
 居間に座ると学の学校生活について報告した。
 学も特に問題はない。優等生だ。
 成績もいい、社交性もある、そして真面目で責任感がある。

「鳶が鷹を生むってこの事だよね」

 亜依さんはそう言って笑っていた。

「ご家庭ではどうですか?」
「凄いいい子だよ。私の代わりに家事もやってくれるし娘の面倒も見てくれる……問題は遊よね。旦那の血を見事に継いだみたい」

 亜依さんが言う。

「それは水島先生に相談してください」
「そうね……ごめんごめん。で、学に何か問題ある?」
「いえ、学校でも面倒事を進んで解決しようとする責任感あるお子さんですから。学級委員も自らするし」

 ある意味、片桐姉弟より優秀かもしれない。

「学君は遊びに行ったりはしないんですか?」
「私が不規則な生活してるでしょ?だから兄弟の面倒見るのが精いっぱいみたいで。悪いことしてるなとは思ってるんだけどね」
「学は何か困ったこととかないの?」

 私は学に聞いていた。

「特にないですね。恋も大人しいけどいい子だし。ただ遊にてこずってるくらいですね」

 桐谷遊。片桐天音たちとつるんで問題を起こす困った存在。
 首謀は天音と多田水奈……兄の娘だけど。
 毎年……毎日のように問題を起こす、

「わかりました。それではそろそろ次があるので失礼します。お茶ご馳走様でした」
「いいのよ、また昔みたいに女子会しようよ!」
「はい、それではまた……」

 天音といい水奈といい遊といい粋といい問題児は4年生に集中しているらしい。
 そして学校は全員を同じクラスにまとめて水島先輩に押し付けた。
 水島先輩は毎日胃が痛いらしい。

(4)

 今日の最後の訪問。石原美希の家についた。
 石原美希は石原恵美先輩の長女。
 やはり特に問題も無い。
 そして弟の大地にも問題がない。
 恵美先輩の躾がいいのだろうか?
 呼び鈴を押すと恵美先輩が出た。

「ようこそ、高槻先生」

 私はリビングに通される。
 ソファに腰掛けると紅茶を出された。

「うちの娘はどうですか?」

 恵美先輩から話を持ち掛けられた。
 恵美先輩に学校での美希の状況を報告する。
 恵美先輩はそれを聞いて満足したようだ。

「私も仕事が忙しくて子供にずっと構ってやれなくて新條に任せっきりの部分もあったから心配してたのよ」

 恵美先輩は言う。
 やっぱり新條さんの「教育」が影響してたか。

「美希さんも成績は良いし、ただちょっと友達作るのが苦手なところがあるけど上手く学校生活送ってます」
「そうみたいね、翼や麗華と仲良いらしいし」
「ただ、最近悩みがあるみたいなのでそれが気になりますね。恵美先輩は聞いてませんか?」
「美希?そうなの?なにがあったの?」

 恵美先輩が美希に聞いていた。

「あ、えーと……悩みってほどの事じゃないんだけど」

 美希は言うのを躊躇ってる。

「大丈夫、誰にも言わないから。どんな些細な事でもいいから教えてくれないかな?」

 私が美希に言った。
 美希は躊躇っていたがしばらくしてから話を始めた。
 もう思春期なのだろうか?
 美希は恋をしたらしい。
 友達・片桐翼の双子の弟・片桐空に恋をしたらしい。
 結果空と交際をすることになった。
 毎晩メッセージや電話で相手をしてくれるらしい。
 だけどそこから先へなかなか進めない。
 空もどうしたらいいのか分からないようで悩んでいる素振りがある。
 美希もどうしたらいいか分からず悩んでいた。

「美希は片桐君の息子を射止めたのね!さすがだわ!頑張りなさい」

 そういう問題じゃないと思います。恵美先輩。

「遠足の時料理を教えてって言うのはそういう魂胆があったのね?」

 恵美先輩が聞くと美希はうなずいた。
 恵美先輩と私は悩んでいる。

「どうしたらいいんだろう?」

 空が色気づいた様子は全くない。
 だから正直早熟の美希と付き合い始めたのが意外だった。
 当然キスやそれ以上の事はまだらしい。

「空は何も言ってこないの?」
 
 キスしたいとか裸をみたいとか。
 恵美先輩が聞いていた。
 そんな小学生いないと思います。

「他の男子からは嫌な視線を浴びるんだけど空は違うの」
 
 普通に優しく見てくれる。
 10歳じゃそれが普通だろう。

「私じゃまだ子供なのかな?」
「そんな弱気でどうするの!」

 もっと美希から攻めていきなさい。
 片桐先輩の息子なら少々迫ったくらいじゃその気にならない。
 まあ、そうだろうけど親の意見としてはどうなんですか?

「そういう事なら母さんも協力してあげる。新條にも言っておかないといけないわね」

 恵美さんが言う。

「興味を示さない?ならあなたが押し倒すくらいの勢いでやりなさい!私はパパをそうやって”教育”したわ」
「……わかった!」

 美希がうなずく。

「……恋愛もいいけど、学業を疎かにしないようにね」

 教師として当たり障りのない事を言っておいた。

「あら?この子の成績なら問題ないって言ったのは高槻先生よ?それに勉学よりも大事な事があるのはあなたも学んだでしょ」
「……そうですね」

 そろそろ時間だ。

「そろそろ失礼します。美希。頑張ってね」
「ありがとうございます」

 そう言って私は家を出た。
 まさか小学校5年生で恋愛話がでるとは……。
 私は大学生になって初恋をしたというのに。
 私のクラスには問題児はいない。
 みんな成績もいいし、素行も悪くない。
 しかしある意味皆問題を抱えていた。
 私はつかれた、
 学校に帰って残務をこなして家に帰って寝よう。家族の夕食も準備しなくちゃ。

(5)

 夕食を食べ終わって家族が風呂に入って最後に愛莉が入った。
 時間的に空達はまだ起きている。
 愛莉に空と翼を呼ぶように言った。
 すると二人は降りて来た。
 気配からして天音も様子を伺っているようだ。
 愛莉から家庭訪問の話は聞いていた。
 父親としてちゃんと話を聞いておく必要がありそうだ。

「翼、家庭訪問の話を聞いたんだけど本気か?」

 翼に聞くと翼は黙ってうなずいた。

「だめかな?」

 翼は不安そうに僕を見ている。
 僕はそんな翼を見て笑った。 

「翼は愛莉に似たんだね」

 違うのはまだその相手を見つけてない事だけ。

「そんなに焦ることはないよ。翼にもきっといい恋人が現れるよ」
「冬夜さんは寂しくないんですか?」

 愛莉が聞いてきた。

「そうだね。愛莉パパにでも相談するよ」
「父親だけで飲みに行くのは無しですからね」

 愛莉はそう言って笑っていた。
 次は空か。

「空の相手は石原君の娘さんだっけ?」
「うん」
「石原家の会社を任されるかもしれないのに大丈夫なの?」
「でも他に継ぐ人いないでしょ?」

 僕の会社を継ぎたいという意思はあるようだ。
 
「なら、それでいいんじゃないかな」

 空は僕の会社を継ぐ。翼は誰かのお嫁さんになりたい。
 すごく当たり前の事じゃないか。
 別に僕たちが口出しすることじゃない。
 
「じゃ、2人とももう寝なさい。遅い時間だし」

 愛莉が言うと2人は部屋に戻っていった。
 その後父さん達と話をして僕達も部屋に戻って休む事にする。

「ねえ?冬夜さん」
「どうした愛莉?」
「本当はどうなんですか?」

 娘が早くも嫁に行くと言い出したことについてどう思っているのか?

「複雑だね。愛莉パパもこんな気持ちだったのかな?」
「そんなに寂しいのですか?」
「まだ悩むのは早いとは思うんだけどね」

 愛莉を撫でてやる。
 娘を持った親の宿命というべきだろうか?
 今更じたばたしたところでしょうがない。
 決して平たんな道じゃないと思うけど、影ながら応援することに決めた。
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