姉妹チート

和希

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なぜ?

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(1)

 教室に行くと自分の席に荷物を置く。
 そして美希さんの席に向かった。

「おはよう」
「おはよう、空君」

 昨日のことなどなかったように明るい美希さん。
 このままなかったことに出来るならそれに越したことは無い。
 だけど母さんは言った。

「空も男の子なら自分の意思をちゃんと返してあげなさい」

 母さんも父さんも言う事は大体いつも正しい。
 だからちゃんと返事することにした。
 ただそれは今言うべきか悩んだ。
 二人っきりで話をするべきだろうな。
 間違っても教室で話をするべきことじゃない。

「美希さん今日放課後空いてるかな?」

 僕がそう言うと美希さんは困惑していた。
 昨日の今日?
 不安になったんだろうか?話の内容を悟ったのだろうか?
 心配は杞憂だったようだ

「分かった。昨日と同じ場所でいいかな?」

 美希さんは明るく振舞った。

「うん」
「じゃあ、放課後に」
「うん」

 用件を伝えると僕は席に戻る。
 すると光太がやって来た。

「おっす空。昨日はどうだった」

 今話すべきことじゃない。
 だけど光太は親友。
 隠すべきことでもないな。

「その話昼休みにしない?」
「わかった。給食食ったらベランダで話そうぜ」

 光太はそう言って自分の席に戻る。
 翼を見る。
 普通に美希さん達と話をしている。
 もっとぎくしゃくするんじゃないかと思ったけど杞憂に済んだようだ。
 そうしていると静かに高槻先生が入ってくる。

「起立!」

 学級委員の桐谷学が言うと皆起立する。
 そして授業が始まった。
 授業が終わると昼休みに光太とベランダに行く。
 大体の人間はグランドでドッジボールをしたりしてる。
 僕は球技は苦手なので参加してない。
 こうして光太とベランダで時間を潰してる。

「で、どうだったんだ?」

 光太が聞いてくる。
 悩んだけど、結果を伝えた。
 天音の事は伏せて置いた。
 話がややこしくなると思ったから。

「美希さんと水奈から告られた」
「お前モテるな!羨ましいぜ!」

 そんなに良いものでもないぞ。

「で、どっちにするつもりなんだよ?」

 光太が聞いた。

「美希さんに決めた」
「なんで?どっちも可愛いじゃん」
「分からない」

 ただ、翼でもない。天音でもない。全く知らない女子の美希から「好き」と言われて嬉しかった。
 そんな頼りない感情から物語は始まるんだろう。

「そっか、まあ美希って結構大胆っぽいし覚悟しておいた方がいいぞ」

 いきなりキスとか求めてくるかも。と、光太は言う

「なんでそうなるんだよ?」
「お前見たことないのか?」

 体育の授業の時着替えるとき覗いたら美希の下着が派手だったらしい。
 だから大胆だって安直すぎないか?

「胸だって大きいって聞いたしさ」
「誰から聞いたんだよ?」

 美希は日差しが強い場所が苦手だからって水着にすら着替えないんだぞ?

「だから着替えを覗いた時に見たんだろ?」
「光太は見たのか?」
「見ては無いけど……」

 走ってる時胸が揺れてるだろ?

「それ……勘違いって翼が言ってた」
「どういうことだ?」

 胸とかが発達する頃の女子は激しい運動で胸が揺れるのを抑えるための下着をつけるらしい。
 だから揺れるわけがない。
 実際翼と風呂に入ってる時翼の胸もそれなりにあるのにどうして揺れないの?と聞いたことがある

 ぽかっ

 で、説明を聞いた。

「僕の事ばかりじゃなくて光太には好きな女子いないのか?」
「いるよ。麗華」

 光太は即答した。

「告白しようとか思わないの?」
「クラスメートだぜ?断られたら気まずくなるじゃん」

 そういうのは卒業式に伝えるくらいがいいんだよ。と光太は笑って答える。
 卒業まで2年もあるんだぞ?

「蓋は空けてみないと分からないだろ?今開けても卒業式に開けても確率は二分の一だ。気まずくなるのを考えたらあとの方がいいんだよ」

 なるほどね。

「ま、迷ってるなら付き合ってみるってのも手だと俺は思うけどな」

 光太はそう言って立ち上がる。

「あ、俺が栗林さんの事好きって言うの内緒だぞ」
「分かってるよ」
「じゃあ、そろそろ時間だし教室に戻ろうぜ」

 光太はそう言う。
 そして他の生徒と話し出す。
 僕は席について教科書を眺めていた。
 だって漫画を学校に持ち込むわけにはいかないだろ?
 図書館に行く時間もないし。
 教科書を読んでいると翼が来た。

「光太と何話してたの?」
「男同士の相談」
「私に隠し事はできないのは知ってるでしょ?二人の事話したんだ?」
「まあね、昨日ラブレターの事相談したし」
「……話はそれだけ?」

 翼に隠し事は出来ない。
 笑ってごまかした。
 
 ぽかっ

「美希結構気にしてるからあんまり意識しない方がいいよ」

 男子の視線を常に気にしてるらしい。 
 チャイムがなる。
 翼も席に戻る。
 午後の授業が始まった。

(2)

「で、昨日あれからどうなったの?」

 なずなと花が聞いてきた。

「わかんない」

 私はとぼけて答えた。

「どういうことだ?」

 水奈が聞く。

「今日中には答え出るだろ」
「あのさ……この際だから言うけど、空君って結構人気あるみたいだよ」

 花が言った。
 空が人気ある?初耳だ。

「まじで?」

 水奈も初めて知ったらしい。
 空は私と翼がいるから影は薄いけどその気になれば大体の事はこなすし、優しいし、普通に考えて人気が無い方がおかしいでしょと花が言う。

「花の言う通りだね。私も天音がいなかったら狙ってたかも」

 もっとも天音と知り合って無かったら空の事知らなかったと思うけどとなずなが言う。
 私がいても告白した奴は黙って話を聞いている。

「水奈は返事もらえたの?」

 花が水奈に聞いていた。

「あさイチで振られたよ」

 水奈が答える。
 
「てことは美希なのかな?」

 なずなが言う。

「多分そうなんじゃねーの?」

 水奈が答えた。

「やっぱり年下じゃ無理なのかな~」

 なずなが言う。
 まあ、そういう事なんだろうな。
 その時男子が割り込んできた。

「か、片桐さん。今週掃除当番だよ?」

 そう言うのは石原大地。
 何かとつけて私にいちゃもんつけてくる困った奴。
 石原美希の弟だ。

「私に構ってる場合か?粋が逃げ出そうとしてるぞ」
「え?」

 栗林粋、栗林麗華の弟。
 そそっかしくて落ち着きがない奴。
 大地は慌てて粋を追いかける。
 その隙に逃げ出してしまえ。
 水奈たちに声をかけると私達は教室を出ようとした。
 すると私と水奈は襟を掴まれる。
 犯人は一人しかいないけど。
 私と水奈は後ろ振り返る。
 水島桜子先生、通称桜子がにこりと笑っていた。

「昨日も逃げ出したそうね?」

 大地のやつちくったな?

「今日はちゃんと掃除終わるまで帰しませんからね!」
「そ、そんなに怒るとまた皴が増えるぜ桜子」
「五月蠅い!つべこべ言わずさっさと掃除しなさい」

 すると大地が粋をつれて戻ってくる。
 大地は気が弱いけど運動能力だけは抜群にある。 
 ああ見えて喧嘩も強い。
 多分鍛えられているんだろうとパパが言ってた。
 大地も粋も、いや水奈も花もなずなもみんな両親は知り合いらしい。
 世間は狭い。
 しょうがないので掃除をする。
 なずなと花は私達を待ってる。
 掃除をまじめにしてるのは大地だけ。
 私と水奈と粋は箒をもってチャンバラやって遊んでる。
 そして様子を見に来た桜子に見つかって怒られる。
 掃除が終わってから私達は帰る。
 翼たちはもう帰っただろうか?
 スマホを見る。

「片桐・遠坂家」のグループチャットを見ると翼から伝言。

「私と空は放課後用があるから先に帰ってて」

 私は返信する。

「用ってなんだ?」
「空が美希を体育館裏に呼び出した」
「今もいるのか?」
「今から始まるところ」

 私達は急いで体育館裏に向かった。

(3)

「あのさ、まず確認したいんだけど……」

 空は空なりに思う事があるんだろう。
 美希に質問していた
 私は空に立ち会っていた。

「どうしたの?」
「なんで僕なのかな?って……」

 空には不思議なんだろう。
 私や天音と違って特技が無いと思い込んでる空だからこその悩みなんだろう。
 私達よりもよほど化け物染みた能力を持っているんだけど。

「そっか……そこからなんだね」

 美希が一言漏らした。

「わかったよ。じゃあ、説明するね」
 
 そう言って美希は説明を始めた。
 それは4年生の時だった。
 女子は男子に恋心を抱き、男子は女子に下心を抱き始める。
 ちょうど第2次成長期も始まり胸に膨らみが出る頃だった。
 美希の場合は特別それが早くスカート捲りや胸を揉まれるというイジメの対象になっていた。
 そんなとき突然空がその男子を殴り飛ばした。

「俺の目の前でうっとうしい真似するな。そんなに胸を揉みたいならお前の母親のおっぱいでも揉んでろ」

 そんな小学生終わってるから俺が人生を終わらせてやる。
 そう言ってその男子を半殺しにしたらしい。
 空は私とお風呂に入っていたからそんなに興味なかったのかもしれない。
 で、美希はお礼を言ったそうだ。

「いいよ、別に。大したことじゃない」

 綺麗な女子は大変だね。
 空は何の意図もなかったのだろうけどその一言で美希は落ちたらしい。
 現に「そんなことあったっけ?」と思い出せないでいる空がいる。

「ありがとう。それがどうしても気になってさ」

 そんな理由だったのかと空は笑っている。

「……で、返事聞かせてもらえるのかな?」
 
 今度は美希が空に聞いていた。
 空は深呼吸をして丁寧に答えた。

「美希さんに”好きです”って言われた時嬉しかった」

 私や天音に言われてもなかった特別な感情。
 それは水奈でも感じなかった。
 それがきっと答えなんだろうと空は思ったらしい。

「たださ、付き合うって意味がよくわからなくて……」

 キスをしたり抱き合ったりはまだ早いという事だけは分かっていた。
 それでもいいならお願いしますと空は返事した。

「ありがとう。こちらこそよろしくお願いします」

 空は美希と握手する。
 空は美希の想いに誠実に答えた。
 空なりの誠意を見せた。
 美希はそれを理解したらしい。
 空は護身術とか武道をゲームや漫画ですぐ真似してみせる。
 気配を感じる事くらい造作でもないのだろう。

「天音達隠れてないで出て来いよ」

 空が言うと物陰から5人が現れた。
 天音と竹本さんと三沢さんとあと知らない男子二人。

「ていうかさ、何でお前らついてきたの?」

 天音も疑問に思っていたらしい。

「なんか面白そうだったから。まさかこんな場面に遭遇するとは思わなかったけどな」

 男子の一人がそう言う。
 もう一人の男子は美希のそばに行く。

「姉さんよかったね」
「大地、どうしてここに?」

 美希は知っているらしい。

「美希の知り合い?」

 私は美希に聞いていた。

「あ、私の弟の石原大地」

 美希がそう言うと大地君は頭を下げた。
 もう一人は栗林粋。麗華の弟らしい。

「じゃ、用は済んだし私達は帰るね。大地行くよ」
「う、うん」

 美希たちが帰った。
 粋君もそれについて行く。
 竹本さんと三沢さんも立ち去り私達4人になる。

「僕達も帰ろうか?」

 空が言った。

「そうだな、天音帰ろうぜ」
「そうだね、翼。ぼーっとしてないで帰るぞ」

 天音と水奈が言う。
 その晩から空と一緒にお風呂に入るのを止めた。

(4)

 家に帰ると母さんが出迎えてくれる。
 部屋に戻るとカバンの中味を取り出してさっさと宿題を済ませる。
 宿題を済ませるとゲームをしながら考える。
 小学生の交際って何をすればいいんだろう?
 どういう所にデート行くんだろう?
 キスとかどこでするのかな?
 どんな味がするのかな?
 それを翼や天音で実験するのはまずいのは分かっている。
 光太に聞いてもきっといい答えは返ってこないだろう。
 そんなことを考えていると母さんが夕食が出来たと呼んでいる。
 夕飯を食べながら考えていると父さんから話しかけられた。

「空は何か悩み事かい?」
「うん……」
「どうしたの?」

 そう言えば父さんも小6で母さんと付き合いだしたって聞いたな。
 父さんに聞くのが一番だろうか?

「あのさ、彼女が出来たんだけど……」
「あら?もう返事したの?」

 母さんが聞いてきた。

「で、相手は?」
 
 父さんが言うと僕は美希の名前を出した。

「へえ、石原君のところの娘さんか」
「実は昨夜恵美から連絡きてて」

 悪いようにはしないから美希を選んでやって欲しいと母さんが言われたそうだ。

「それはよかったじゃないか」
「そうなんだけどさ……」
「何か問題あるのかい?」
「付き合うって何をするの?」

 僕がそう言うとなぜか翼と天音が怒り出す。

「まさか何も考えてないの?」
「お前も釣った魚に餌はやらないタイプか!?ふざけんな!」

 んなもんベッドに押し倒せばいいだろと天音が無茶を言う。

「なるほどね……」

 母さんはなぜか笑っていた。
 父さんも困っているようだ。
 そんな二人に翼と天音も興味があったらしくどうしたのかと聞いていた。

「いや、父さんは小6で愛莉と付き合いだしたけど正確にはバレンタインの日に告白を受けたんだ」
 
 だから小学生の間なんて期間はほとんどない。
 それに母さんが付け加える。

「冬夜さんはパパさんたちが誘うまでデートに誘ってくれなかったの」

 それに中2のクリスマスでデートに連れて行ってもらえたと思ったら違う女子の事を考えていて本気で泣いたらしい。

「でも確かに小学生がデートは難しいかもね」
「それなら私達が協力してあげたらいいんじゃありませんか?」

 母さんに名案があるらしい。
 なんだろう?

「連休の後半までに宿題を片付けておきなさい」
 
 そしたら美希の家族とどこかに出かけよう。
 そんなことでいいのか?

「これは成長してからでも言えるんだけどね」

 父さんが説明する。
 いきなり二人きりというのはよほど慣れてないと気まずくなる。
 最初は友達と一緒とかそういう所から始めるのが一番なんだ。

「あとはそうだなぁ……空は美希の事をどう思っているの?」
「たぶん好きだと思う」
「そうじゃなくて……」

 今、美希の事をどう感じてる?
 それを考えたら答えは出てくるはずだよ。
 父さんの言おうとしていることがなんとなくわかった。
 夕飯を食べてお風呂に入ると、部屋に戻ってスマホで美希にメッセージを送る。

「今何をしてる?」
「テレビ見てた」
「時間あるかな?」
「どうしたの?」
「声が聞きたくて」

 すると美希から電話がかかって来た。

「私も同じこと考えてた」

 それでどんなお話しする?って聞かれた。

「父さんに相談したんだけど……」
「何を?」
「付き合うって何をすればいいんだろう?って」
「それで?」
「それが間違いだったんだなって思ってさ」

 最初から美希に聞けばよかったんじゃないかって。
 僕の相手は美希なんだから美希とこれからを決めていけばいいと思った。

「それはいいけど、丸投げするのはダメだよ?」

 あくまでも相談するだけ。
 僕の意見も聞きたいらしい。
 そんな風に母さんに叱られるまで美希と話をしていた。
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