姉妹チート:RE

和希

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3rdSEASON

祈りの儚さ求める切なさ

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(1)

最近調子が悪い。
情緒不安定になる。
胸やお腹が痛い。
頭も痛いし肌も荒れている。
お酒の匂いを受け付けられない。
飲むなんて絶対無理。
陽介が飲んでその息を吸うだけで気持ちが悪くなる。
眠気とだるさがある。
眠気が残ってるから情緒不安定になるのだろうか?
食欲がない。
味覚が少し変わったみたいだ。
息切れがする。
そして何より月のものが来ない。
さすがに私でも一つの結論に至る。
そして妊娠検査薬を買って試してみる。
陽性だった。
陽介に事情を説明する。
情緒不安定だから不安になる。
陽介の付き添いで産婦人科に行く。
陽介は病院の駐車場で待機していた。
丁度4週目にあたるそうだ。
まだ性別までは分からない。
車に戻ると陽介に報告して相談する。
とりあえずはこれから店をどうするかだ。
味覚が変わっている私が厨房に立つことは出来ない。
何より働く事がきつい。

「岬は家でやすんでろよ。店はスタッフがいるからなんとかなる」
「ごめん……」
「家に一人でいるのが不安なら実家に帰っていてもいいぞ」

初産だ、何が起こるか分からない。
世話をしてくれる人がいた方が安心できる。

「でも、陽介の実家じゃなくていいのか?」
「逆に岬に気を使わせるだろ?不安要素は一つでも取り除いておきたい」

とりあえず、岬のお母さんに報告するのが先だと陽介が言う。
私達は酒井家の実家に寄って母さんに報告した。

「この歳でお婆さんになるとは思ってなかったわ」

母さんはそう言って笑っていた。

「すると僕はお爺さんかい?」

父さんもそう言って笑っていた。

「そう言う相談なら引き受けるわよ」
「すいません、お世話になります」

陽介が頭を下げる。

「陽介は一人で大丈夫なの?」
「一人暮らしはしてましたから」

話が済むと、私達は家に帰って私の荷物をまとめる。
次の日酒井家に荷物を持って行く。
午前中は店は閉めているので陽介に送ってもらう。

「それじゃ、暫くよろしくお願いします」

陽介が言う。

「偶に様子見に来てやってちょうだい」

母さんが言う。

「あんたなんて産まなきゃよかった!」

産みの親にそう言われた私が今命を授かった。
私は絶対に言わないから。
安心して元気に生まれて来てね。
大事に育ててあげるから。

(2)

来月から担当になる子供たちのリストに目を通す。
膨大な量だ。
名前を覚えるだけで大変だな。
どんな子供達なんだろう?
今から楽しみだ。
そんな中でも気になる子供がいた。
片桐冬吾と多田誠司。
片桐先輩と多田先輩の子供らしい。
つまり天音や水奈の姉弟。
不安はあった。
しかし楽しみでもあった。
どんな子供だろう?
片桐先輩の子はやっぱりやる気を見せないのだろうか?
多田先輩の子はやっぱり2枚目なのだろうか?

「水島先生。そろそろ出ないと間に合いませんよ」

今日は教師たちで花見の日。
花見の場所に行くと皆で騒ぐ。
卒業した担当の先生を「お疲れ様」とねぎらい、入学してくるクラスを担当する先生に「頑張って」と励ます。
花見の場所はよく渡辺班で花見をしてた公園。
最近してないな。
なかなか時間が合わないようだ。
だから年末の忘年会には必ず顔を出す。
花見が終ると代行で家に帰る。
佐がビール片手にテレビを見ていた。

「お疲れ様」

私に気付いた佐が声をかける。
私は風呂に入ると佐と一緒にテレビを見る。

「新1年生の担任するんだって?」
「まあね」

また6年間受け持つんだろうな。
どんな問題児がいるのやら。

「どんな奴がいるんだ?」
「まだ会ってないからわからない。ただ……」
「ただ?」
「片桐先輩と多田先輩の子供がいるみたい」
「……そいつは楽しみだな」
「そうだね」

どんな問題を背負いこんでくるのか?
頭を悩ませてはいるけど、その反面楽しみでもあった。
春は出会いと別れの季節。
まだ見ぬ出会いに期待を膨らませていた。

(3)

入学式。
今日から新入生を迎える。
初めて子供たちと対面する。
何度も経験してきたけどやはり緊張する。
教室扉を開けると子供たちの注目を集める。
凄い数だ。
じっと私を見ている。
私は教壇にあがり、そして黒板に名前を書く。
子供たちの顔を見て自己紹介する。

「今日から皆さんにお勉強を教えます。水島桜子といいます。よろしくお願いします」

聞いているのかいないのか分からないけど反応がない。
初めてのクラスにつくとき必ずする事。
1人1人顔を確かめながら名前を読み上げていく。
毎年難しい当て字を使ったりして読めない子も多い。
それは子供達も同じで自分の名前を漢字で書こうとしても書けない子もいる。
一度見ればなんとなく顔と名前が一致する。
何度もしてきたことだから慣れた。
全員分を覚えたところで今日の説明をする。
入学式をした後の事も説明していく。

「みんなわかたったかな?」
「は~い」

元気な返事が聞こえてくる。
そして体育館で入学式を終えると教室で今後の事を説明して皆帰ることになった。
何度か経験してきた事だけど今年は数が多い。
幼稚園の子は運動会の時に何度か見てきたから分かるけど、それに加えて保育園、別の幼稚園の児童も加わり驚く数になった。
さすがに疲れた。
皆が教室を出たのを確認して私も職員室に戻る。

「お~い桜子」

聞き覚えのある声がした。
振り返ると片桐愛莉先輩と多田神奈先輩がいた。

「先輩、お久しぶりです」

そう言えば2人のお子さんもいるんだったな。
2人がが連れてる子供を見た。
片桐冬吾君と多田誠司君。
誠司君は少し落ち着きのない所があったくらいで特に問題を起こしそうな気配はない。
まだ初日だから緊張しているというのもあるかもしれないが。
冬吾君は妙に落ち着いていて終始笑顔で私を見ている。

「これからお世話になります」

冬吾君は元気にそう言った。
私は座り込み冬吾君の頭を撫でる。

「よろしくね、分からないことがあったら何でも聞いてね」
「は~い」

凄くいい子のようだ。
本当に天音と同じ血をもっているのだろうか?

「天音さんと水奈さんは上手くやっていますか?」

私は2人に聞いてみた

「ああ、水奈は今年から高校生だ」

神奈先輩がそう言ってにやりと笑った。
もうそんなに経つのか……。
私は冬吾君を見る。
まだ初対面だけどなんとなく分かる。
この子には邪気がない。
逆に私の気持ちを読み取っているようだ。
片桐冬夜先輩の能力を受け継いだのだろう。
でも冬夜先輩とは違う意味での純粋さを持っている。
これを大切にしてあげたい。
この学校には問題児の集団がいる。
フォーリンググレイス。
彼等に染まってしまわぬように気をつけないと。

「こいつはとにかく落ち着きのない奴で手を焼くかもしれないがよろしく頼む。ほら、ちゃんと挨拶しろ」
「よろしくお願いします」

神奈先輩が言って頭を抑えると誠司君はぺこりと頭を下げて挨拶をした。

「よろしくね」

私は返事をして誠司君を撫でてやる。

「じゃ、私達もそろそろ帰るわ。また年末でも会えたら会おう」

私達が属するグループ渡辺班は毎年年末に忘年会をする。
近年は如月翔太の経営する如月リゾートや酒井晶先輩の酒井リゾートフォレストを貸し切ってするので小さな子供がいても安心して楽しめるらしい。
私や主人の佐も参加している。
愛莉先輩や神奈先輩は子育てが一段落したと思ったら手の離せない子供が現れて中々参加できなかった。
それにしても驚いた。
誠司君は多少落ち着きがない所があるけど、基本的に2人とも良い子だ。
ここから先あの二人がどう育つか。
その責任を私を負う。
私も気を引き締めていかなければ。
真っ直ぐに育ってくれることを祈っていた

(4)

「空、水奈が来ましたよ」

母さんに呼ばれて慌てて支度して学ランを着ると鞄を持って玄関に向かう。
玄関に立っている水奈を見て思わず息を飲んだ。
綺麗だ……。
制服が高校のブレザーに変ってちょっぴり大人っぽくなってるけどそれだけじゃない。
校則の規定通りのスカートの丈に紺色のソックスと靴。
鞄は自転車に積んであるのだろう。
髪形は相変わらずのサイドポニーにちょっとだけ栗色に染めたらしい。
でも顔を見るともじもじしている水奈。
その違和感の正体を探っていた。
……なるほど。

「化粧変えたんだね?」

正解だったみたいだ。
水奈の表情が明るくなる。

「よく分かったな。少しだけ変えただけなのに」

高校生ともなればそれなりに濃い化粧をする女子もいる。
だけど水奈のは自然で落ち着いた感じのメイクだった。
パッと見ただけなら、唇が少しだけ艶っぽいくらいだ。
でもこの3年間ずっと見て来たから分かる事もある。

「ずっと水奈だけを見てきたんだからそのくらい分かるよ」
「似合ってるかな?」
「似合ってるよ」
「……ありがとう」
「そろそろ出ないと遅刻しますよ」

母さんの一言で二人だけの世界が崩れる。
急がないとまずい。
いくらなんでも水奈に自転車を全力疾走させるのはかわいそうだ。

「んじゃ行ってきます」

僕がそう言うと水奈も母さんに軽く礼をして家を出る。
家から学校までは自転車で30分弱。
自転車だから話すことはできないけど一緒に登校出来る事に喜びを感じていた。
水奈もきっと同じ気持ちなのだろう。
自転車置き場に自転車を置くとお互いの教室に向かう。
昼休みになるといつもの屋上に向かう。
水奈の方が先に来ていたみたいだ。

「はい、いつも代わり映えしなくて悪いけど」

そう言って渡してくれるのは水奈の手作りの弁当。
「ありがとう」と言って受け取る。
それを食べながら午前中あった事とかを話して昼休みを過ごす。
午後の授業が終り、終礼をすませると昇降口に向かう。
水奈が待っている。
帰りには本屋によったり、ファストフード店に寄ったり、SAPに寄ったりしていた。
僕は家に帰らずに水奈の家に寄る。
家庭教師の仕事はまだ続けていた。
僕も水奈の疑問に答えられるように必死に勉強していた。
基礎が染みついている水奈にとってまだ高1の授業内容はちゃんと理解できている様だ。

「あんまり変わらないんだな」

そんな事をいう余裕すら見えた。
勉強が終ると僕は家に帰る。
少し寂しそうな水奈が僕を見送る。

「また明日会えるよ」
「……うん」

家に帰ると、着替えてご飯を食べて風呂に入って自分の部屋で勉強。
たまに水奈からメッセージが届いてくる。
そして「おやすみ」と言ってベッドに入る。
水奈と僕の新生活はまだ始まったばかりだった。
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