姉妹チート:RE

和希

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2ndSEASON

リアルな感情

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(1)

「空はいい加減に一人で起きなさい!今日から中学生なんですよ!」

母さんに起こされるようになった。
今まで起こしてくれた翼はもういない。
文字通りいなくなった。
瞼を開ければ翼がいたのに今はいない。

「そういうところは冬夜さんに似たんですね。困った子です。早く仕度しなさい」
「うん」

僕はベッドから出て制服に着替えだす。
着替え終えるとダイニングに向かう。
ダイニングには先に天音がいた。

「遅いぞ。お前翼がいないからってたるんでないか!?」
「制服に着替えるのが手間なんだよ!」

天音と言い合ってた。
クラスの顔触れは少し増えた程度だ。
小学校の時とほとんど変わらない。
それによその小学校から来た人が増えたくらいだ。
他の人は部活をやっている。
ちなみに僕はやってない。
面倒だから。
だから朝練もないのでのんびりと準備をして学校に行く。
途中まで天音達と行く。
小学校で天音達と別れてあぜ道を通って中学校に向かう。
授業にももう慣れた。
休憩時間に皆と話してる。
部活をやっていないんで学校が終るとすぐに帰る。
学は生徒会副会長に推薦されそして当選した。
放課後残って色々やる事があるらしい。
ちなみに学級委員には光太がと麗華がなった。
麗華はめんどくさそうだったけど。
途中コンビニによって買い食いして帰る。
家に帰ると取りあえず1人で宿題を済ませてのんびり過ごす。
予習?
どうせ聞けばわかるから無駄なことしないよ。
そんな堕落した学校生活を送っていた。
校舎が変わり、制服を着るだけの変化。
1週間もすれば新鮮味も無くなる。
中学校に何を夢見ていたのだろう。
あの日心の彼方に描いた場所にいる。
その場所はとても退屈な場所で途方に暮れてたりする、けれどもう戻れない。
夢に見た形とは何もかもが違う現実に眩暈さえする。
現実に揺れてる感情だけど負けたくない。
もうただ走るしかないこの胸に聞こえてくる「僕は一人なんかじゃない」
今僕に出来る事、それは信じる事。
真実はこの胸にある。
現実世界に揺れてる感情、支えるのは今の自分。
だから、一人じゃない。
現実世界に揺れてる感情を感じるけど目を閉じれば君がそこにいる。
絆がある。
だから一人じゃない。
夕飯を食べると風呂に入る。
そして部屋で時間を潰す。
テレビを見たり漫画を読んだりゲームをしたら。
でもそこにはいつもいた翼の幻を見ていた。
今でも寂しい時もある。
でも僕は一人じゃないからと言い聞かせる。
そして時間になると僕達は眠りにつく。
また明日がやってくる。

(2)

「行ってきます」
「ああ、気を付けてな」

母さんに挨拶すると私は天音の家に向かう。
父さんは朝寝てる。
あんなだらしない生活でよくサッカー選手続けてられるな。
天音の家に着くと呼び鈴を鳴らす。

「おっす!」

1人元気な天音が出迎えてくれる。

「……おはよう」

その後に出てくるのは眠そうな空。
けだるそうにしてるのはきっと眠気だけじゃない。

「お前彼女が迎えに来てくれてるのに、もう少し喜ぶとかねーのか!」

天音が空の背中を叩く。

「あ、ああ。そうだね」

空は未だに引きずっているらしい。
翼から空を託されてどれくらい経っただろう。
今は天音だけが片桐家のムードメーカーらしい。
でもこれしきの事で挫けていたら翼に合わす顔が無い。
一生懸命に空に話を振って空の気を紛らわせようとする。
お前の彼女は私だって訴える。
空は優しいから応えてくれる。
でもそれは友達とか妹とかに対する感情。
彼女に対する感情とはかけ離れていたものだった。
少しでも心配をかけたくないというのがみえみえだった。
小学校に着くと空はさらに奥にある中学校に向かっていく。
あいつ上の空だったけど事故ったりしないだろうな。
空と一緒にいると不安になる。
本当に私でいいのだろうか?
やっぱり私に翼の代わりなんて務まるはずがないんじゃ……。
そんな相談を祈や天音にしていた。

「まあ、無理だろうな」

祈が即答する。
流石に私も落ち込む。

「だからどうしたんだ?」

祈が言うと私は祈を見た。

「お前は翼じゃない、水奈なんだ。翼はいないけど今カノは水奈なんだから自信持てよ」
「祈の言う通りだ。空の彼女は水奈だ。悪いのはいつまでもくよくよしてる空だ」

祈と天音が言った。

「どうすればいい?」

2人に率直に聞いてみた。

「何もしなくていいよ。空と水奈は付き合ってると言う事実は変わらない。もう少しだけ待ってやれ。水奈まで揺らいだら空中分解してしまうぞ」

天音が答えてくれた。
何もしなくていい。
本当にそうなんだろうか?
まだ私にはよく分からない状況だった。

(3)

喫茶店「青い鳥」

「お、愛莉じゃねーか?」
「あ、神奈」

神奈は私の向かい側に座った。

「誠司君は?」
「今日はお母さんが見てくれてるからたまには羽をのばしてこいって」
「そうなんだ」

私も冬吾と冬莉を麻耶さんに預けて久しぶりにこの喫茶店に来ている。
神奈の娘、多田水奈と私の息子空が交際を始めた事は2人とも知っている。
ただ、空はいまだに翼が東京に行ってしまったショックから立ち直れずにいる。
その事が水奈に迷惑をかけているんじゃないかと相談してみた。

「まあ、水奈も何も言わないけど不安はあるみたいだな」

ただでさえ小学生と中学生だ。
たった一つしか違わないけど。
弱ってる空に他の女子が近づいて来るんじゃないか?
そんな不安はあるんだろう。
もっとも今の空が他の女子に目を向ける余裕はないんだろうけど。

「そうだな。愛莉に助言もらってもいいかな?」
「私に?」
「お前とトーヤも似たような時期あったろ?」

それは私と冬夜さんが中2の時。
クリスマスのデート中に冬夜さんが神奈の事を気にかけていて私が我慢できなくなった時。
あの時はこれでもう終わりだ。
本気でそう思った。
だけど冬夜さんがやっと本音で打ち明けてくれて仲直りした話。
……もし空が冬夜さんに似ているのなら使えるかもしれない。

「神奈、上手くいくかどうかわからないけど……一つだけ手がある」
「お、なんだよそれ?」

私は神奈に耳打ちした。

「サンキュー、水奈が相談して来たらアドバイスしてみるよ」

その後家に帰ると冬吾と冬莉の世話をする。
夕食は麻耶さんが準備してくれる。
冬夜さんが帰ってくると、神奈に話したことを冬夜さんに話してみた。
冬夜さんは誰よりも子供の事を理解していられるから。

「……それでいいんじゃないか?多分僕や愛莉が言うよりは効果あると思う」
「でも一つだけ不安なのです」
「どうしたの?」
「もし空が翼に未練があって、水奈と別れるって言いだしたら……」
「それはないよ」

冬夜さんは断言した。

「どうしてですか?」
「毎日水奈に挨拶してる、メッセージもやりとりしてるんだろ?」
「それが根拠になるのですか?」
「空は僕に似てるからね、その気も無い子にマメに連絡するような子じゃないよ」

今は翼の事が忘れられずにいるだけ。
だから私が言ったような荒療治が一番効果的だと言う。

「それが出来るのは今なら水奈以外にいないと思うよ」

冬夜さんがそう言うのなら多分間違いないのだろう。
空は最近食欲も減ってきている。
いい加減何か手を打たないといけない時期だった。

(4)

その日もテレビを見ながら新しい彼女の水奈とメッセージをやりとりしてた。
スマホの中には翼の連絡先は今なお生きてる。
ただ、僕がかけても出てくれない。
メッセージを送っても「送る相手が違う」と突き放される。
これから先どうしたらいいんだろう?
そんな事を考えてる時だった。

「……今どこにいる?」
「自分の部屋」
「天音は?」
「自分の部屋」
「じゃあ、電話かけても大丈夫だよね?」
「いいけど」

メッセージじゃダメなんだろうか?
するとすぐに電話がかかってくる。
とりあえず電話に出た。
すると水奈は大声で怒鳴りつけてきた。

「いい加減にしろ!この馬鹿!」

なんかすごく機嫌が悪いみたいだ。

「ど、どうしたの?」
「いつまでもうじうじしやがって!お前の彼女は誰だ!?言ってみろ!」
「水奈だよ」
「分かってるならどうして私を見てくれないんだ!?いつまでも翼の事を考えて私の気持ちに気付いてくれないのはなぜだ!?」
「ごめん……」
「全然わかってくれないじゃないか!心が読めないからなんて言い訳聞きたくないぞ!それが普通なんだよ!」

心が読める読めないの問題じゃない。
それ以前の問題だ。
僕は端から水奈の事を見ていない。
表向きはそう見えてもいつも遠いどこかにいる翼の事ばかり考えてる。
元カノの事ばかり考えて自分の気持ちに気付いてもらえない今カノの事を考えたことがあるのか?

「ごめん……」
「だからそうじゃないだろ!まだわかんないのか!?」

どうしたらいいんだ?

「本当にしょうがない奴だな。空は私の事どう思ってるんだ?」
「それは……大事な彼女だよ」
「そうじゃない!私は空の気持ちが知りたいんだよ!」

僕の気持ち……。

「好きだよ……」
「もっとはっきり言え!」
「好きだ!」
「ちゃんと言えるんじゃねーか、私も好きだ。いつも空の事を見ている、だからいつまでも立ち直れない空を見ているのが辛い。しっかりしてくれ!」
「ああ……」
「……突然怒鳴ってごめん。でもこれ以上は辛すぎる。私じゃ翼の代わりになれないんじゃないかって」
「そんなことないよ」

ずっと僕の心配をしてくれてるのは気づいてる。
でもどうしたらいいか分からないんだ。

「……私は翼じゃない。私は私だ。翼の事を忘れろとは言わない。だけど私を支えてくれ、心細いんだ。空は本当に私が好きなのか?私でよかったのか?」
「……余計な心配かけたみたいだね」
「彼氏の心配をしない彼女なんているわけないだろ」
「そうだね」

今の彼女は水奈……か。

「ありがとう。何となくやるべきことが見えた気がする」
「それはなんだ?」
「とりあえず今は水奈を抱きしめたいかな」
「うーん、うちにはド変態がいるからな。空の家にお泊りしてもいいか?」
「母さんに聞いてみる」
「ありがとう。もう大丈夫みたいだな」
「うん」
「じゃあ、また明日。朝しけた面してたら承知しないからな!」
「分かってる、お休み」
「おやすみ」

電話が切れた。
そしてメッセージが届いた。
画面中ハートにまみれる中「大好き」と一言。
僕も「大好きだよ」と送っておいた。
ホーム画面にはあの時撮った水奈とのツーショットのプリ画像。
これは仮だったな。
今度ちゃんと恋人になった記念とでも言って撮り直すか。
夢の中には相変わらず翼が出て来るけど。
僕はもう行くよ。
小さくて大切な彼女が待ってるから。
何度でも言おう。
いつか夢に水奈が出てくるまで。
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