邪気眼侍

橋本洋一

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巾着切りの恋 其ノ壱

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家に帰ってからの私はまだ立ち直れずに考えこんでいた。

なんでそんな事になったのか?私はなんでそんな中途半端なところで命を落としてしまったのか?考えれば考えるほど悔しくて堪らなかった。

そしてそれは本当に私?織田信長なのか・・

そう考えるともっと詳しく知りたいと思い始めた。
そんな時、机の上の(パソコン)が目に入った。
「そうだこれがあるじゃないか!」
歌奈に使い方は教えてもらったが文字がよく分からないので、もっと学んでから使ってみようと思っていたが、自分の名前くらいは憶えておこうと書き写していたのが役に立ちそうだ。

教わった手順通りに黙々と進め「のぶなが」といれてみる「変換」だよな・・「信長」でた!そして「検索」でた!思いもかけず沢山の「信長」が出てきた!
覗き込むが…そうだ!字が読めない!
でも諦めたくない!

「やっぱり歌奈に聞こう!」

私は自分の部屋を出て歌奈の部屋を叩き話しかけた。

「歌奈ごめん。ちょっと気になった事があるから教えて欲しいんだ。」

開いた扉の向こうの歌奈は心配そうな表情を浮かべていたが、ためらいながらも私が検索した内容を細かく読んでくれた。
その内容を聞いていて自分がどんどん落ち込んでいくのが分かった。
気まずい空気が漂う中、淡々と話していた歌奈は暫くすると「三郎もういいよね」と言って部屋を後にした。


何度聞いても、何を見ても同じ史実だ。
私はその織田信長だった。
何も考えられなかった。ただただ情けなくなり。聞かなきゃよかったとさえ思った。

しかし、今の自分も情けなくこの時代に逃げて来た愚か者なのに、未来でも志を達成できずに中途半端に死んでしまうとは情けない・・もうその言葉しか浮かばなかった。
「織田三郎信長はなんて馬鹿な奴なんだ・・」思わず呟いた。



周りの明るさに目が覚めた。

どうやら寝てしまったらしい。

窓の外に目を移すとまばゆいばかりの太陽が燦燦と輝いている。

太陽はいつの時代も同じなんだな・・そんな事を思いながら暫くその光を浴びていると昨晩の憂鬱はどこかに行ってしまったように穏やかな気持ちになった。

考えてみれば・・中途半端に終わってしまう私の人生だが、その中でこんな体験が出来るなんて、これこそが誰にも真似がが出来ない貴重な人生ではないのか?
そうだ!こんな事は他の誰もしたことなはないはずだ!
この人生の中でこんなにも貴重な経験をしてるんだ!なのに落ち込んでなんていたらバチがあたる。短い人生だ。もっと楽しまなくちゃもったいない!
そして思い出した。
今度またこの時代に戻れたなら、次は絶対にここに来た意味を、尻込みせずにちゃんと探そうと決めたはずじゃなかったのかと・・
そう思うと自然と笑みがこぼれ、何だか吹っ切れた!


気持ちが落ち着くとある疑問が頭をよぎる。
昨日の二人の態度からすると、もしかして、歌奈と秀一は私の正体に気付いているのかもしれない・・
(話してみようかな?)
ふと、そんな気持ちが湧いて来た。


気を取り直した私は別人のように勉強をし直した。
過去も現在もそしてこれから起こりうるであろう未来も・・
もちろん、歴史だけではない他の事も貪欲に吸収していった。
今度、私の世界に戻ったなら躊躇まよいなくこの未来の良いとこ取りで尾張を豊かにする為に・・

そうこうしているうちに、あっという間に2か月が過ぎ・・
また新たな疑問が湧いて出た。

(そういえば前回はちょうど3か月で尾張に戻ったよな?もしかすると今回も三か月で戻るとか?そんな事じゃないのか?)

もしそうだとしたら・・自分はこんなに悠長に過ごしていて良いのだろうか?と、焦りが出る。
そうだった・・この現象はいつ終わるか分からない。こんなにのんびり構えていたら折角の貴重な時間を無駄にしてしまう。この2か月間、確かに色んな事を学んだがまだまだ足りない。
そしてまた、三か月で尾張へ戻ってしまうのだとしたら、こんなにのんびりなんかしていられない!

考えた挙句・・やはり歌奈と秀一に真実を打ち明けようと私は決心した。
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