柳友哉のあやかし交幽録

橋本洋一

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和菓子屋、明日も営業予定

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 良いことも悪いこともあるけど、私たちは明日も生きていく。

 私の店の前で、しぐれたちは待っていてくれた。
 輪入道の車から出て、私の姿が見えた瞬間、しぐれは泣き崩れてしまった。
 慌てて駆け寄ると「急に居なくならないでください……」と私に抱きついてくる。

「馬鹿、馬鹿! 私がどれだけ心配したと……」
「ごめんな。帰りが遅くなって」
「酷い人です……」

 それからたくさんのごめんなさいと、たくさんのありがとうを言って。
 ミケに小言を言われて、コンに首絞められて。
 それからアリスを紹介して、みんなに受け入れてもらった。

 アリスは初め、私以外に人見知りだったけど、ゆっくりと仲良くなった。
 店もなんとか再開して、常連客や応援してくれる大学の教授も訪れるようになって。
 少しずつ、元の生活に戻ろうとしている。



 それから春になって。
 暖かな季節が始まった五月。

「アリス。もうすぐ登校の時間ですよ。班の皆を待たせてはなりません」
「はあい……ふああ、眠いなあ」

 アリスは髪を梳かしながら、リビングへ下りてきた。
 悪五郎に頼んで、戸籍を作ってもらい、地元の小学校に通っている。
 トイレの花子さんなどの学校の怪談とも仲良くなっているらしい。

「友哉さん、店の準備は出来上がっていますか?」
「ああ。もちろん。ミケ、商品をショーケースへ」
「分かったにゃん。綺麗に並べるんにゃん」

 ミケは商品のケースを持って、店のほうへ向かう。
 コンはアリスの隣で油揚げを食べている。時々、アリスの学校に隠れて行っているようだ。

 あれからも妖怪たちは店に来ている。
 砂江さんや変化した河童などは常連客だ。
 店が休みのときは、海で釣りをする。そのとき、海坊主や船幽霊と一緒になることもある。

 慌ただしい毎日だけど、家族やお客さんのおかげでやりがいもあり、元気に楽しく過ごしている。
 そして最近、嬉しいことがあった。

「ゆっくりしなさい。大事な身体なんだから」
「ええ、ありがとうございます。友哉さん」

 しぐれの身体に新しい命が宿った。
 私と彼女の子だ。

「この子が大きくなるときは、人と妖怪はどのような関わりになっているのでしょうか」

 窓から見える晴れの空を眩しそうに見上げるしぐれ。
 私は隣に座って「何も変わらないさ」と答える。

「妖怪と出会って、分かったんだ。人がどんなに変わってしまっても、それに合わせて妖怪は生き続ける。決して居なくならない」
「……そうですね」

 しぐれも頷いてくれた。
 そのとき、店のドアベルが鳴った。

「お客さんですよ、友哉さん」
「ああ、行ってくる」

 私は今日も明日も店を営む。
 人と妖怪と交わりながら生きていく。
 私にできることは、和菓子を売ることだけど。
 それが世界に少しでも良い影響を与えてくれたら嬉しい。

「お待たせしました。ようこそ、いらっしゃいませ!」
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