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般若の男
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五人の男たちは旅人の姿をしていたが、明らかに尋常ではなかった。殺気がひしひしとこちらに伝わってくる。雷次郎は手加減すればやられてしまうなと思い、刀を正眼に構えた。すると一人の男だけが、雷次郎と正対した。
四人で雪秀の相手をするらしい。いや、光を攫うのを目論んでいるようだった。そして実際、正しい判断だった。雪秀が強いと言っても、光を守りながらでは戦いにくい。少しでも隙を見せれば、それでおしまいである。
焦りを覚えつつ、雷次郎は目の前の男――短刀を逆手に構えている――に斬りかかる。先手必勝というわけではない。急いで雪秀の加勢をしなければならないからだ。
しかし男は雷次郎の攻撃を避けてはいるもの、攻撃に転じようとしない。雷次郎の足止めに徹している。
「そうかい。だったら――」
雷次郎は攻撃を止めて、そのまま反転、雪秀のほうへ走る。これには刺客の男も驚いた。おそらく武士であろう雷次郎が敵前逃亡をしたのだから。武士の誇りはないのかと考えつつ、男は雷次郎の後を何も考えずに追った――
「ま、当然。そう来るよな」
雷次郎はわざと自分と男の距離を詰めさせて、そこから突然振り返り、男の胴を狙って――刀を振るった。かなりの速度で走っていたので、急には止まれない。胴を斬られた男は横に吹き飛び、うずくまってしまう。
「……何か仕込んでいやがったな」
雷次郎は自分の刀の腰が伸びたのを見て舌打ちをした。服装から見て鎖帷子でも着込んでいたのだろう。さらに振り返って刀を振るったせいで、十分な力が伝わらなかったのも原因だった。
刀を肩に担いで雪秀のほうへ向くと、二人の男が倒れていた。雪秀に倒されたのだろう。残りの二人に囲まれながらも、なんとか光を守る雪秀。だがよほど大変なのか、汗を流している。
「雪秀! 今行くぞ!」
残りの二人を牽制するように、雷次郎は大声を出して走り出した。
二人の男は顔を見合わせて、一斉に雪秀に襲い掛かる――
「――ぬるい」
その声と共に、残りの二人が唐突に倒れた。雪秀と光は何が何だか分からないという表情をしていたが、雷次郎の角度からは分かった。街道に植えてある街路樹の上から、背に向けて二本の棒手裏剣が放たれたのだ。
雷次郎は忍びの佐助と才蔵と親しいので、その忍具を知っていた。だから最初はその二人か配下の者が影ながら守ってくれたのかと思った。しかし、街路樹を見上げると、そこには般若の面を被った町人風の男がいた。
足を木の太い枝に引っ掛けて、逆さになってこちらを見ている。まるで蝙蝠のようだなと雷次郎がのん気に思っていると、般若の男はそのまま器用に身体を回転させて降りていく。
「いや、助かった。ありがとうな」
雷次郎がとりあえず礼を述べても、般若の男は反応せず、雪秀と光の近くへ歩み寄る。雪秀は光を背で隠して――小さいから隠し切れない――警戒している。
「お前、何者だ!? この者たちの仲間ではないが……」
「……貴様ら、ぬるいな」
「なんだと!?」
般若の男は「それでは光殿は守れない」と言う。
雷次郎はそれでいくつかの疑問が生まれた。光の名を知っている? どうして今、助言をした? 俺たちを助けた理由は?
「一つ忠告しておこう。光殿を守れ。怪我一つ負わせるな」
「あんたが何者か分からないけどよ、俺たちはそのつもりだぜ」
雷次郎がゆっくりと近づくと般若の男は距離を取った。
用心しているのか、こちらを信用していないのか、判断はつかない。
ふと、般若の男は光を見つめた。面の奥からも見つめている視線が分かる。
光は少し怯えながら「な、何よ?」と強気で訊ね返した。
「あなた……私を知っているようだけど、どこかで会ったことある?」
「……いや、ない」
般若の男はそれだけ答えて、すたすたと歩いて、街道から逸れてどこかへ行く。
雷次郎は「本当に知り合いじゃないのか?」と光に訊ねた。
「知らないわよ。私には、あんな知り合いはいない……」
そのときの視線が妙に淋しそうだったのを、雷次郎は見逃さなかった。
しかし問い詰めることもなく「分かった」とだけ言う。
「さてと。こいつらから何か聞きだすか」
「……雷次郎様。どうやらそれは無理のようです」
雪秀の声が震えている。
棒手裏剣でやられた男二人は息絶えている。顔色が青ざめていることから、毒が塗られていたことが分かる。
雪秀が倒した二人も、事切れている。無論、素手で戦った雪秀の仕業ではない。二人の刺客の傍には薬の包み紙が落ちていた。服毒して自害したのだろう。
雷次郎が倒した男も同じく毒を飲んで倒れていた。最初にいた老人の姿はない。失敗を見届けて逃げたのだろう。
「おいおい。あっさりと死を選ぶって。今は天下泰平の世じゃねえのか」
「――おい、しっかりしろ!?」
雪秀が光を抱えている。この光景に衝撃を受けて気絶してしまったのだ。
雷次郎は刀を捨てて光を負ぶった。
「雪秀。その刀、腰が伸びちまった。直せるかな?」
「いや、無理ですね……小田原城に着いたら、新しいのを用意させます」
「ありがとう。そんじゃ戸塚まで急ぐか」
◆◇◆◇
戸塚の宿に着いたのは、すっかり夕方になってからだった。
数ある宿場町の宿の中でも、上等な宿に泊まれた雷次郎たち。まだ目覚めない光を布団で寝かせて、二人は今後のことを話し合う。
「私たちだけで彼女を守り切れますか?」
「今みたいな刺客が来たらやばいな。それに守りに入るのは性に合わねえ」
「では、いかがしますか?」
雷次郎は腕組みをして「昔、島のじいさんに教えてもらったことがある」と言う。
「攻撃する敵に対し、予想外の攻撃をすると、勢いが無くなるらしい。ほら、中国大返しで雑賀衆が援軍で来たのと同じだ」
「ああ、あの話ですか。私は真実かどうか疑っていますが」
「ま、できすぎな話なのは俺も同感だ。ここで重要なのは、追っている敵に対して、逆に追ってみるのはどうだってことだ」
雪秀はしばし考えて「私たち以外の味方に、敵を追わせるということですか?」と問う。
「ああ。追うというか、狙いながら狙われ続けるって、結構きついぜ」
「それは分かりますが、その狙ってくれる味方にアテはあるんですか?」
「まあな。お前のところの風魔衆、使えないか?」
雪秀は顔を歪ませた。よほど嫌なのだろう。しかしそれは大事な部下だからではないのは次の言葉で明らかになった。
「彼らは母上に忠誠を誓っています。私の言うこと、聞いてくれませんよ」
「情けないこと言うなよ。お前は小田原城城主、真柄伊豆守雪秀だろう?」
「ですが……」
なおも文句を言い続けた雪秀だったが、雷次郎の説得で渋々ながら折れた。
ふと雷次郎は光の寝顔を見つめた。
どこか苦しそうで、もがいている。
「光は、何を背負っているんだろうな」
「あまり良いものではないでしょう」
「ああ。それは分かる。昔の俺、そのものだ」
ああ、だから雷次郎様はこの娘に同情しているかと雪秀は気づいた。
雷次郎の過去を知っている彼にしてみれば、気づくのが遅かったが、それは今の雷次郎が大きすぎるせいでもあった。
「なあ雪秀。あの般若の男に言われたからじゃねえけど、俺ぁこいつを守ってやりたいよ」
「…………」
「あんな怖い連中から狙われるなんて、年頃の娘としたら酷いと思うぜ。魘されるのも分かる」
いつものお人よしではないと雪秀は感じた。
だから彼は「そうですね。守ってあげましょう」と言う。
「母上と風魔衆の説得、手伝ってくださいよ」
「そこは私に任せてくださいっていうところだろ」
四人で雪秀の相手をするらしい。いや、光を攫うのを目論んでいるようだった。そして実際、正しい判断だった。雪秀が強いと言っても、光を守りながらでは戦いにくい。少しでも隙を見せれば、それでおしまいである。
焦りを覚えつつ、雷次郎は目の前の男――短刀を逆手に構えている――に斬りかかる。先手必勝というわけではない。急いで雪秀の加勢をしなければならないからだ。
しかし男は雷次郎の攻撃を避けてはいるもの、攻撃に転じようとしない。雷次郎の足止めに徹している。
「そうかい。だったら――」
雷次郎は攻撃を止めて、そのまま反転、雪秀のほうへ走る。これには刺客の男も驚いた。おそらく武士であろう雷次郎が敵前逃亡をしたのだから。武士の誇りはないのかと考えつつ、男は雷次郎の後を何も考えずに追った――
「ま、当然。そう来るよな」
雷次郎はわざと自分と男の距離を詰めさせて、そこから突然振り返り、男の胴を狙って――刀を振るった。かなりの速度で走っていたので、急には止まれない。胴を斬られた男は横に吹き飛び、うずくまってしまう。
「……何か仕込んでいやがったな」
雷次郎は自分の刀の腰が伸びたのを見て舌打ちをした。服装から見て鎖帷子でも着込んでいたのだろう。さらに振り返って刀を振るったせいで、十分な力が伝わらなかったのも原因だった。
刀を肩に担いで雪秀のほうへ向くと、二人の男が倒れていた。雪秀に倒されたのだろう。残りの二人に囲まれながらも、なんとか光を守る雪秀。だがよほど大変なのか、汗を流している。
「雪秀! 今行くぞ!」
残りの二人を牽制するように、雷次郎は大声を出して走り出した。
二人の男は顔を見合わせて、一斉に雪秀に襲い掛かる――
「――ぬるい」
その声と共に、残りの二人が唐突に倒れた。雪秀と光は何が何だか分からないという表情をしていたが、雷次郎の角度からは分かった。街道に植えてある街路樹の上から、背に向けて二本の棒手裏剣が放たれたのだ。
雷次郎は忍びの佐助と才蔵と親しいので、その忍具を知っていた。だから最初はその二人か配下の者が影ながら守ってくれたのかと思った。しかし、街路樹を見上げると、そこには般若の面を被った町人風の男がいた。
足を木の太い枝に引っ掛けて、逆さになってこちらを見ている。まるで蝙蝠のようだなと雷次郎がのん気に思っていると、般若の男はそのまま器用に身体を回転させて降りていく。
「いや、助かった。ありがとうな」
雷次郎がとりあえず礼を述べても、般若の男は反応せず、雪秀と光の近くへ歩み寄る。雪秀は光を背で隠して――小さいから隠し切れない――警戒している。
「お前、何者だ!? この者たちの仲間ではないが……」
「……貴様ら、ぬるいな」
「なんだと!?」
般若の男は「それでは光殿は守れない」と言う。
雷次郎はそれでいくつかの疑問が生まれた。光の名を知っている? どうして今、助言をした? 俺たちを助けた理由は?
「一つ忠告しておこう。光殿を守れ。怪我一つ負わせるな」
「あんたが何者か分からないけどよ、俺たちはそのつもりだぜ」
雷次郎がゆっくりと近づくと般若の男は距離を取った。
用心しているのか、こちらを信用していないのか、判断はつかない。
ふと、般若の男は光を見つめた。面の奥からも見つめている視線が分かる。
光は少し怯えながら「な、何よ?」と強気で訊ね返した。
「あなた……私を知っているようだけど、どこかで会ったことある?」
「……いや、ない」
般若の男はそれだけ答えて、すたすたと歩いて、街道から逸れてどこかへ行く。
雷次郎は「本当に知り合いじゃないのか?」と光に訊ねた。
「知らないわよ。私には、あんな知り合いはいない……」
そのときの視線が妙に淋しそうだったのを、雷次郎は見逃さなかった。
しかし問い詰めることもなく「分かった」とだけ言う。
「さてと。こいつらから何か聞きだすか」
「……雷次郎様。どうやらそれは無理のようです」
雪秀の声が震えている。
棒手裏剣でやられた男二人は息絶えている。顔色が青ざめていることから、毒が塗られていたことが分かる。
雪秀が倒した二人も、事切れている。無論、素手で戦った雪秀の仕業ではない。二人の刺客の傍には薬の包み紙が落ちていた。服毒して自害したのだろう。
雷次郎が倒した男も同じく毒を飲んで倒れていた。最初にいた老人の姿はない。失敗を見届けて逃げたのだろう。
「おいおい。あっさりと死を選ぶって。今は天下泰平の世じゃねえのか」
「――おい、しっかりしろ!?」
雪秀が光を抱えている。この光景に衝撃を受けて気絶してしまったのだ。
雷次郎は刀を捨てて光を負ぶった。
「雪秀。その刀、腰が伸びちまった。直せるかな?」
「いや、無理ですね……小田原城に着いたら、新しいのを用意させます」
「ありがとう。そんじゃ戸塚まで急ぐか」
◆◇◆◇
戸塚の宿に着いたのは、すっかり夕方になってからだった。
数ある宿場町の宿の中でも、上等な宿に泊まれた雷次郎たち。まだ目覚めない光を布団で寝かせて、二人は今後のことを話し合う。
「私たちだけで彼女を守り切れますか?」
「今みたいな刺客が来たらやばいな。それに守りに入るのは性に合わねえ」
「では、いかがしますか?」
雷次郎は腕組みをして「昔、島のじいさんに教えてもらったことがある」と言う。
「攻撃する敵に対し、予想外の攻撃をすると、勢いが無くなるらしい。ほら、中国大返しで雑賀衆が援軍で来たのと同じだ」
「ああ、あの話ですか。私は真実かどうか疑っていますが」
「ま、できすぎな話なのは俺も同感だ。ここで重要なのは、追っている敵に対して、逆に追ってみるのはどうだってことだ」
雪秀はしばし考えて「私たち以外の味方に、敵を追わせるということですか?」と問う。
「ああ。追うというか、狙いながら狙われ続けるって、結構きついぜ」
「それは分かりますが、その狙ってくれる味方にアテはあるんですか?」
「まあな。お前のところの風魔衆、使えないか?」
雪秀は顔を歪ませた。よほど嫌なのだろう。しかしそれは大事な部下だからではないのは次の言葉で明らかになった。
「彼らは母上に忠誠を誓っています。私の言うこと、聞いてくれませんよ」
「情けないこと言うなよ。お前は小田原城城主、真柄伊豆守雪秀だろう?」
「ですが……」
なおも文句を言い続けた雪秀だったが、雷次郎の説得で渋々ながら折れた。
ふと雷次郎は光の寝顔を見つめた。
どこか苦しそうで、もがいている。
「光は、何を背負っているんだろうな」
「あまり良いものではないでしょう」
「ああ。それは分かる。昔の俺、そのものだ」
ああ、だから雷次郎様はこの娘に同情しているかと雪秀は気づいた。
雷次郎の過去を知っている彼にしてみれば、気づくのが遅かったが、それは今の雷次郎が大きすぎるせいでもあった。
「なあ雪秀。あの般若の男に言われたからじゃねえけど、俺ぁこいつを守ってやりたいよ」
「…………」
「あんな怖い連中から狙われるなんて、年頃の娘としたら酷いと思うぜ。魘されるのも分かる」
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