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熊野編
第五話
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お部屋は広く清潔で、畳の清々しい匂いがした。
窓からは湯けむりが立つ温泉街の景色が見える。
夕食までまだ時間があるので、少し散歩に出掛けてみるのも良いかもしれない。
今暮らしている大学の寮は、コンパクトにまとまった洋室のため、こういった落ち着いた和室は実家を思い出して寛げる。
不二子さんと暮らす京都の家は、代々受け継がれてきた日本家屋に所々暮らしやすいよう新しいものを取り入れ、それでいて和の趣をこわさない心地よい空間だ。
不二子さんは装いもそうだが、家屋も家具も食器や小物も、全てにおいてセンスが良い。
その絶妙なバランス感覚は母にも受け継がれている。
「ルリ子にはあまり引き継がれてないね」
「私は着回しが利く、コストパフォーマンス重視のタイプなので、◯ニクロが一番なの」
「僕はルリ子は神楽を舞う時の装束姿が一番美しいと思うけどね」
須加さんは私の奉納する神楽が好きだ。
私自身は一種のトランス状態に入っているのでよく覚えてないのだけれど、神楽を舞う際、私の姿は本来の容姿に戻っているらしい。
「私も装束を着ると気分が引き締まるというか、気持ちを切り替えられる感じが好きだけど、あれは偶にだから良いのよ」
「そうだね。僕も今じゃこのジャージ手放せないもの」
嬉しそうにジャージに頬ずりする須加さんが他の人に見えたとしても、誰も神様とは思わないだろうな。
普通に今どきのイケメンのお兄さんにしか見えない。
須加さんはとても背が高い。がっしりとした体格で、長い黒髪を無造作にしばり、目は涼し気な切れ長で、鼻筋が通っている。
私は須加さんの横顔が一番好きだ。
この美しい神様の姿を自分しか見ることができないという事が、ちょっぴり嬉しい。
だから私は須加さんの絵を描くということを決してしない。
大概私も痛い人間なのかもしれない。
ただの人間が神様を独占するなんて無理なことなのに…
窓からは湯けむりが立つ温泉街の景色が見える。
夕食までまだ時間があるので、少し散歩に出掛けてみるのも良いかもしれない。
今暮らしている大学の寮は、コンパクトにまとまった洋室のため、こういった落ち着いた和室は実家を思い出して寛げる。
不二子さんと暮らす京都の家は、代々受け継がれてきた日本家屋に所々暮らしやすいよう新しいものを取り入れ、それでいて和の趣をこわさない心地よい空間だ。
不二子さんは装いもそうだが、家屋も家具も食器や小物も、全てにおいてセンスが良い。
その絶妙なバランス感覚は母にも受け継がれている。
「ルリ子にはあまり引き継がれてないね」
「私は着回しが利く、コストパフォーマンス重視のタイプなので、◯ニクロが一番なの」
「僕はルリ子は神楽を舞う時の装束姿が一番美しいと思うけどね」
須加さんは私の奉納する神楽が好きだ。
私自身は一種のトランス状態に入っているのでよく覚えてないのだけれど、神楽を舞う際、私の姿は本来の容姿に戻っているらしい。
「私も装束を着ると気分が引き締まるというか、気持ちを切り替えられる感じが好きだけど、あれは偶にだから良いのよ」
「そうだね。僕も今じゃこのジャージ手放せないもの」
嬉しそうにジャージに頬ずりする須加さんが他の人に見えたとしても、誰も神様とは思わないだろうな。
普通に今どきのイケメンのお兄さんにしか見えない。
須加さんはとても背が高い。がっしりとした体格で、長い黒髪を無造作にしばり、目は涼し気な切れ長で、鼻筋が通っている。
私は須加さんの横顔が一番好きだ。
この美しい神様の姿を自分しか見ることができないという事が、ちょっぴり嬉しい。
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