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事前準備の少年時代

海水塩と岩塩

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 数日後、ジョーンヌ殿の商会は大量の香辛料と共に王との謁見を願った。

中には砂の国でしか取れないものも多く含まれ、それらの定期的な輸入と砂糖の単価を下げる事を条件に砂糖の取引量を保つ事を依頼したのだ。

王国としてはそれは願ったりだ。商会を通した砂の国としても砂糖の値下がりは痛いが今まで無価値に近かった香辛料が高額で取引できるなら損はない。

両国に利があるこの取引により王国と砂の国の間にもより強い友好関係が結ばれるのだから言うことなしだ。

これで後の問題は塩だけになった。

 塩。この世界で塩といえば基本的には岩塩を細かく砕いたものになる。

主な産出国は東の山の国だ。しかし岩塩はその名の通り岩山で産出される。

できる限り錬金術などで分離は行なっているが岩塩にはどうしても砂が混じっていることが多く、食感があまり良くない。

今回王国で海水塩が作られる事となった。海水にも当然砂が混じっているのだが、海水に溶けた塩を煮詰めて取り出すことと何度も濾過で不純物を分離するため海水塩には殆ど砂は混じらない。

使いやすさは断然海水塩のほうがいいと言える。

そして1番のポイントはその長期的な供給量だ。

海水塩は海水を原料にするだけあって無限に生成できる。

しかし岩塩はそうはいかない有限資源だ。長い目で見ればいつか枯渇する。

それはすぐの話ではないがいつかやってくるのだ。その点においても岩塩はどうしても海水塩より劣るように感じるだろう。

しかしかと言って岩塩の輸入量を一方的に下げては国交にヒビが入る。

案の定どこからか海水塩の噂を聞きつけた山の国の使者が抗議にやってきたらしい。

海水塩が僕の提案した案なだけに少しさりげに手を差し出すことにした。

「岩塩と海水塩って味が違うんでしょうか。」

たまたま珍しく夕食の席が一緒になった父上に何気なくそう尋ねた。

目から鱗が落ちたかように父上は僕をじっと見つめた後苦笑を1つ浮かべる。

「優秀な息子を持てて助かる。」

食事を早々に済ませると父上は執務室に戻っていった。これでこの話もうまく進むだろう。

 僕の提案によって動いた3つの事業。これは全て調味料。つまり食における嗜好品ばかりだ。

人間が生きていく際に塩は必須だが生きていくためだけならばコストを含めて海水塩だけで十分だ。

麦芽糖も同様で甘味が欲しいのであれば多少味が落ちようが安価な麦芽糖で賄える。

香辛料に至っては使えばより良くなるだけのものだ。生きていくためだけならそこまで必要なものではない。

生きるのに精一杯の平民でも貧しいもの達には今回の麦芽糖や海水塩は救いの手になる一方で、私財に余裕のある貴族には香辛料ぐらいしか今回の恩恵はない様に感じただろう。

砂糖に比べて苦味があり菓子作りにおいては砂糖より劣ると思われている麦芽糖だが苦味を活かすような使い方をすればそれは砂糖に勝る武器となる。

そして今回の海水塩と岩塩。確かに岩塩には砂が混じり無限に生み出せる海水塩よりも劣ると思われがちだろう。

しかし岩塩には岩塩の魅力があるのだ。それが僕がさりげに提案した味。

岩塩は岩山で取れるだけあって塩自体に色々不純物が多い。塩以外にマグネシウムや鉄分といったミネラルが豊富に含まれているのだ。

海水塩にだってミネラルは含まれているがその量は岩塩の方が圧倒的に多い。

このミネラルの豊富さが塩本来の味以上に素材の味を際立たせる。

味が良くなるのなら私財に余裕がある貴族は多少高くてもそっちを選ぶ。

美食という嗜好のこの格差が需要を生み、経済を回すことで他国間の軋轢を軽減できると思ったのだ。

 案の定岩塩を使用した方が同じ料理でも海水塩より格段に味の質が高くなることがその後証明され、それを手札に山の国との交渉が行われた。

内容は岩塩の輸入単価を下げる代わりにこちらからも海水塩をその価値に見合った量を輸出するというものだ。

これによって山の国との国交も回復し、王国は砂の国、山の国共に強い友好関係を以降長きに渡って結ぶこととなる。

生産が安定した海水塩と麦芽糖は平民の間で瞬く間に広がり、利用法の広まった香辛料から様々な新しい料理が生み出されていった。

それはが知っているものに比べれば当然まだまだ発展の余地があるものだが、転生してすぐに比べれば目まぐるしい進化と言える。

 そして、この砂の国と山の国との友好関係が来たる5年後の本番に影響を及ぼすだろう。

ゲームの攻略対象となっていたキャラは5人だ。そのうち2人が僕と弟のノワール。

そして砂の国出身のジョーンヌ殿と山の国から留学生としてやってくるブルシエル王子だ。

この4人はゲーム内では険悪とは言わないがお互い距離感の感じる間柄になっていた。

王になるためストイックに教養を受け続けた結果、婚約者と弟に距離を置かれる孤独な王子ブランシュタイン。

幼い頃からそのブランシュと比較され、優れた兄に対する劣等感と反発心を持った拗らせ王子オルノワール。

家の商会の発展だけにしか興味を持たず、その為なら手段を選ばない腹黒商人ベルジョーンヌ。

隣国山の国の王子で、土地柄に貧しい国の経済をなんとかしようと奮闘する薄幸の王子ブルシエル。

僕は今回の一件でジョーンヌ殿とブル殿下と友誼を結ぶことができた。

異世界の知識とという人格を得ることで婚約者のオプスキュリテ嬢とノエルとも関係を保つことができている。

ゲームにおける背景設定はかなり改善出来ただろう。

元々はオプスキュリテ嬢と結ばれたくて始めた事だったが随分と話が大きくなったものだ。

しかしそうなると最後の1人が気になる。ゲームでは4人をクリアした後で追加される隠れ攻略対象キャラだった帝国の諜報員ルージュリア。

帝国は王国と敵対関係の国だ。このルージュは身分を隠して王国の学園にやってくる。

目的は王国から優秀な人材を奪うことだ。

彼とは流石に交流を持つことができなかった。そしてゲームの主人公となるリゲル。

彼女は平民の娘で突然目覚めた聖の魔法から特待生で学園にくる。

しかし現時点では普通の平民の彼女に対して交流を持つきっかけは最後まで持てなかった。

そう言った懸念が残る中、僕は最大限の前準備と本来の次代の王としての養育を受けながら忙しい5年間を過ごした。

----------

【コンコンコン】

真新しい学園の制服に身を包み、自室で待機していると扉がノックされた。

「ブランシュタイン様、馬車のご用意が出来ました。」

シェーラの呼びかけに返事をし、僕は部屋を出る。

学生寮住まいとなるので慣れ親しんだこの部屋ともしばらくお別れだ。

身長が伸び、成長した僕の外見はもうすっかりあの・・ブランシュとなった。

いよいよ学園生活本番が始まる。
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