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第三章『大陸掌握』

漆黒

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 セイラの一言でこの場の空気が一気に冷え込んだように感じた。

「興が醒めたな。」

そう言って彼は立ち上がる。行為が中途半端に終わったというのに相手していた2人も別に気にした様子もなくそれに従い床に敷かれた毛布の上に座り込んだ。

部屋内に1脚だけあった椅子に彼も腰掛けると空を見上げて大きなため息を1つもらした。

「むかーし、昔。ここではないどこかのお話。」

唐突に彼はそう語り始めた。

「あるところに一人の冴えない男がいた。

平凡な顔で平凡な仕事につき、平凡に結婚して平凡な家庭を築いた。」

それが彼の話だと言う事を3人は理解している。

「平凡な家庭に1人の娘が産まれた。

平凡で特にこれといったものが何もなかった男はそれを大層喜び、平凡なりに娘の為に努力した。

遅くまで仕事をこなして金を稼ぎ、少しでも家庭を楽にしようと頑張った。

これを頑張ればまた1歩家族が幸せになれる。それだけを一途に男は自分に鞭を打って努力し続けた。

しかしそうやって得ようとした幸せは平凡な男にとって分不相応なものだった。

家庭のために家庭を顧みず仕事に励んだ結果、男の妻は男と幼い娘を捨てて姿を消した。

男の妻は何もかもを放棄して自分勝手に姿を消した。

知らぬ間に多額な借金を男は背負わされていた。

男の妻はずいぶんと家賃を滞納していた。

じゅうぶんに生活できるだけの金を稼いでいたのにほとんどを私利私欲に散財していた。

男が気付いた時にはもう手遅れだった。

家を追い出され、破産に追い込まれた。

子連れで出来る仕事では無かったため仕事も失った。

0、いやマイナスからのやり直しだ。粗末な部屋を借りて家事と仕事に追われながら男はまた努力をした。

幸い娘はそんな男を見て素直に育った。

苦しいがそれでも男は幸せだった。

しかし、そんな男の幸せは突然奪われた。

男の娘を含む100人もの人々が突然行方をくらました。

男は探した。毎日毎日探した。働くよりも娘が心配で探し続けた。

そんな事をすれば当然仕事を失った。それでも探し続けた。

1年2年、10年以上男は娘を探し続けた。

帰る家はもう無くなっていた。食事も数日に1回になっていた。

死なないギリギリでそれでも男は娘を探し続けた。

しかし見つからなかった。ついには男に限界が来た。

眠るように意識を失った男は死の間際に神と名乗るものと相対した。

そして真実を知らされた。

男は怒り狂った。運命を呪った。神を呪った。世界を呪った。そして自分を呪った。

それを見た神は男に手を差し伸べた。

神もまた怒り狂っていた。

それからは、お前達の知っている通りだ。」

他人事のように彼はそう締めくくった。

「その男は、どうなったんですか?」

セイラに尋ねられて彼は自嘲気味に笑った。

「どうもしないさ。その男は死んで終わった。

世界と神と運命と自分を恨み呪ったまま死んだ。」

「でも、その男はあな・・・」

「俺は漆黒ノワールだ。この世界を、女神ルドラを怒り呪った異世界の神によって生み出された悪意だ。

男の体を使ってこの世界の全てを破壊する楔だ。

勘違いするな。男はもう死んだんだよ。」

彼女に割り込んで彼はそう締めくくった。

そして話は終わりだとローブだけ羽織って部屋を出て行った。

部屋の中を重い空気が占める。

「ごめんなさい。私のせいで・・・」

セイラの謝罪にしかしリーザもイライザも気にした様子はない。

「別に謝罪はいりませんわ。話を聞いたからといって特に何が変わることもありませんし。」

「むしろご主人様をよく知れて逆に興奮した。

あぁ、あの感情のない無機質な目で蔑まれたい。」

そんな事を言って服も着ずに毛布に寝転がり始めた。

セイラもなんとなく何もかも面倒になりそのままベッドに転がった。

(だから何もないって言いたいのかしら。

そんな事はないことなんてあなたが1番わかってるんでしょ?ノワール)

出て行った男に想いを馳せてセイラは目を閉じた。

----------

瓦礫の上に座り彼は空を見上げた。

異世界にも星と月はある。配置は地球と全く違うものだから世界というのは惑星単位の物事ではないと言う事なんだろう。

「しずか・・・」

男の最愛の娘の名を呟く。そんな自分を柄にも無く少し感傷に浸ってしまっているなと彼は苦笑した。

「俺はノワール。この世界を破壊するために異世界の神よりここに送られた終末の魔王だ。」

自分に言い聞かせるように彼はそう呟いた。
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