21 / 26
第三章『大陸掌握』
漆黒
しおりを挟む
セイラの一言でこの場の空気が一気に冷え込んだように感じた。
「興が醒めたな。」
そう言って彼は立ち上がる。行為が中途半端に終わったというのに相手していた2人も別に気にした様子もなくそれに従い床に敷かれた毛布の上に座り込んだ。
部屋内に1脚だけあった椅子に彼も腰掛けると空を見上げて大きなため息を1つもらした。
「むかーし、昔。ここではないどこかのお話。」
唐突に彼はそう語り始めた。
「あるところに一人の冴えない男がいた。
平凡な顔で平凡な仕事につき、平凡に結婚して平凡な家庭を築いた。」
それが彼の話だと言う事を3人は理解している。
「平凡な家庭に1人の娘が産まれた。
平凡で特にこれといったものが何もなかった男はそれを大層喜び、平凡なりに娘の為に努力した。
遅くまで仕事をこなして金を稼ぎ、少しでも家庭を楽にしようと頑張った。
これを頑張ればまた1歩家族が幸せになれる。それだけを一途に男は自分に鞭を打って努力し続けた。
しかしそうやって得ようとした幸せは平凡な男にとって分不相応なものだった。
家庭のために家庭を顧みず仕事に励んだ結果、男の妻は男と幼い娘を捨てて姿を消した。
男の妻は何もかもを放棄して自分勝手に姿を消した。
知らぬ間に多額な借金を男は背負わされていた。
男の妻はずいぶんと家賃を滞納していた。
じゅうぶんに生活できるだけの金を稼いでいたのにほとんどを私利私欲に散財していた。
男が気付いた時にはもう手遅れだった。
家を追い出され、破産に追い込まれた。
子連れで出来る仕事では無かったため仕事も失った。
0、いやマイナスからのやり直しだ。粗末な部屋を借りて家事と仕事に追われながら男はまた努力をした。
幸い娘はそんな男を見て素直に育った。
苦しいがそれでも男は幸せだった。
しかし、そんな男の幸せは突然奪われた。
男の娘を含む100人もの人々が突然行方をくらました。
男は探した。毎日毎日探した。働くよりも娘が心配で探し続けた。
そんな事をすれば当然仕事を失った。それでも探し続けた。
1年2年、10年以上男は娘を探し続けた。
帰る家はもう無くなっていた。食事も数日に1回になっていた。
死なないギリギリでそれでも男は娘を探し続けた。
しかし見つからなかった。ついには男に限界が来た。
眠るように意識を失った男は死の間際に神と名乗るものと相対した。
そして真実を知らされた。
男は怒り狂った。運命を呪った。神を呪った。世界を呪った。そして自分を呪った。
それを見た神は男に手を差し伸べた。
神もまた怒り狂っていた。
それからは、お前達の知っている通りだ。」
他人事のように彼はそう締めくくった。
「その男は、どうなったんですか?」
セイラに尋ねられて彼は自嘲気味に笑った。
「どうもしないさ。その男は死んで終わった。
世界と神と運命と自分を恨み呪ったまま死んだ。」
「でも、その男はあな・・・」
「俺は漆黒だ。この世界を、女神ルドラを怒り呪った異世界の神によって生み出された悪意だ。
男の体を使ってこの世界の全てを破壊する楔だ。
勘違いするな。男はもう死んだんだよ。」
彼女に割り込んで彼はそう締めくくった。
そして話は終わりだとローブだけ羽織って部屋を出て行った。
部屋の中を重い空気が占める。
「ごめんなさい。私のせいで・・・」
セイラの謝罪にしかしリーザもイライザも気にした様子はない。
「別に謝罪はいりませんわ。話を聞いたからといって特に何が変わることもありませんし。」
「むしろご主人様をよく知れて逆に興奮した。
あぁ、あの感情のない無機質な目で蔑まれたい。」
そんな事を言って服も着ずに毛布に寝転がり始めた。
セイラもなんとなく何もかも面倒になりそのままベッドに転がった。
(だから何もないって言いたいのかしら。
そんな事はないことなんてあなたが1番わかってるんでしょ?ノワール)
出て行った男に想いを馳せてセイラは目を閉じた。
----------
瓦礫の上に座り彼は空を見上げた。
異世界にも星と月はある。配置は地球と全く違うものだから世界というのは惑星単位の物事ではないと言う事なんだろう。
「しずか・・・」
男の最愛の娘の名を呟く。そんな自分を柄にも無く少し感傷に浸ってしまっているなと彼は苦笑した。
「俺はノワール。この世界を破壊するために異世界の神よりここに送られた終末の魔王だ。」
自分に言い聞かせるように彼はそう呟いた。
「興が醒めたな。」
そう言って彼は立ち上がる。行為が中途半端に終わったというのに相手していた2人も別に気にした様子もなくそれに従い床に敷かれた毛布の上に座り込んだ。
部屋内に1脚だけあった椅子に彼も腰掛けると空を見上げて大きなため息を1つもらした。
「むかーし、昔。ここではないどこかのお話。」
唐突に彼はそう語り始めた。
「あるところに一人の冴えない男がいた。
平凡な顔で平凡な仕事につき、平凡に結婚して平凡な家庭を築いた。」
それが彼の話だと言う事を3人は理解している。
「平凡な家庭に1人の娘が産まれた。
平凡で特にこれといったものが何もなかった男はそれを大層喜び、平凡なりに娘の為に努力した。
遅くまで仕事をこなして金を稼ぎ、少しでも家庭を楽にしようと頑張った。
これを頑張ればまた1歩家族が幸せになれる。それだけを一途に男は自分に鞭を打って努力し続けた。
しかしそうやって得ようとした幸せは平凡な男にとって分不相応なものだった。
家庭のために家庭を顧みず仕事に励んだ結果、男の妻は男と幼い娘を捨てて姿を消した。
男の妻は何もかもを放棄して自分勝手に姿を消した。
知らぬ間に多額な借金を男は背負わされていた。
男の妻はずいぶんと家賃を滞納していた。
じゅうぶんに生活できるだけの金を稼いでいたのにほとんどを私利私欲に散財していた。
男が気付いた時にはもう手遅れだった。
家を追い出され、破産に追い込まれた。
子連れで出来る仕事では無かったため仕事も失った。
0、いやマイナスからのやり直しだ。粗末な部屋を借りて家事と仕事に追われながら男はまた努力をした。
幸い娘はそんな男を見て素直に育った。
苦しいがそれでも男は幸せだった。
しかし、そんな男の幸せは突然奪われた。
男の娘を含む100人もの人々が突然行方をくらました。
男は探した。毎日毎日探した。働くよりも娘が心配で探し続けた。
そんな事をすれば当然仕事を失った。それでも探し続けた。
1年2年、10年以上男は娘を探し続けた。
帰る家はもう無くなっていた。食事も数日に1回になっていた。
死なないギリギリでそれでも男は娘を探し続けた。
しかし見つからなかった。ついには男に限界が来た。
眠るように意識を失った男は死の間際に神と名乗るものと相対した。
そして真実を知らされた。
男は怒り狂った。運命を呪った。神を呪った。世界を呪った。そして自分を呪った。
それを見た神は男に手を差し伸べた。
神もまた怒り狂っていた。
それからは、お前達の知っている通りだ。」
他人事のように彼はそう締めくくった。
「その男は、どうなったんですか?」
セイラに尋ねられて彼は自嘲気味に笑った。
「どうもしないさ。その男は死んで終わった。
世界と神と運命と自分を恨み呪ったまま死んだ。」
「でも、その男はあな・・・」
「俺は漆黒だ。この世界を、女神ルドラを怒り呪った異世界の神によって生み出された悪意だ。
男の体を使ってこの世界の全てを破壊する楔だ。
勘違いするな。男はもう死んだんだよ。」
彼女に割り込んで彼はそう締めくくった。
そして話は終わりだとローブだけ羽織って部屋を出て行った。
部屋の中を重い空気が占める。
「ごめんなさい。私のせいで・・・」
セイラの謝罪にしかしリーザもイライザも気にした様子はない。
「別に謝罪はいりませんわ。話を聞いたからといって特に何が変わることもありませんし。」
「むしろご主人様をよく知れて逆に興奮した。
あぁ、あの感情のない無機質な目で蔑まれたい。」
そんな事を言って服も着ずに毛布に寝転がり始めた。
セイラもなんとなく何もかも面倒になりそのままベッドに転がった。
(だから何もないって言いたいのかしら。
そんな事はないことなんてあなたが1番わかってるんでしょ?ノワール)
出て行った男に想いを馳せてセイラは目を閉じた。
----------
瓦礫の上に座り彼は空を見上げた。
異世界にも星と月はある。配置は地球と全く違うものだから世界というのは惑星単位の物事ではないと言う事なんだろう。
「しずか・・・」
男の最愛の娘の名を呟く。そんな自分を柄にも無く少し感傷に浸ってしまっているなと彼は苦笑した。
「俺はノワール。この世界を破壊するために異世界の神よりここに送られた終末の魔王だ。」
自分に言い聞かせるように彼はそう呟いた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
神様!僕の邪魔をしないで下さい
縁 遊
ファンタジー
可愛い嫁をもらいラブラブな新婚生活を予想していたのに…実際は王位を巡る争いやら神様とのケンカやらいろいろあり嫁との時間が取れない毎日。
誰か僕に嫁と2人で過ごせる時間をください!
そう思いながら毎日を過ごしている王子のお話です。
※この物語は『神様!モフモフに囲まれる生活を希望しましたが自分がモフモフになるなんて聞いていません』のスピンオフです。
前世ポイントッ! ~転生して楽しく異世界生活~
霜月雹花
ファンタジー
17歳の夏、俺は強盗を捕まえようとして死んだ――そして、俺は神様と名乗った爺さんと話をしていた。話を聞けばどうやら強盗を捕まえた事で未来を改変し、転生に必要な【善行ポイント】と言う物が人より多く貰えて異世界に転生出来るらしい。多く貰った【善行ポイント】で転生時の能力も選び放題、莫大なポイントを使いチート化した俺は異世界で生きていく。
なろうでも掲載しています。
召喚体質、返上希望
篠原 皐月
ファンタジー
資産運用会社、桐生アセットマネジメント勤務の高梨天輝(あき)は、幼少期に両親を事故で失い、二卵性双生児の妹、海晴(みはる)の他は近親者がいない、天涯孤独一歩手前状態。しかし妹に加え、姉妹を引き取った遠縁の桐生家の面々に囲まれ、色々物思う事はあったものの無事に成長。
長じるに従い、才能豊かな妹や義理の兄弟と己を比較して劣等感を感じることはあったものの、25歳の今現在はアナリストとしての仕事にも慣れ、比較的平穏な日々を送っていた。と思いきや、異世界召喚という、自分の正気を疑う事態が勃発。
しかもそれは既に家族が把握済みの上、自分以外にも同様のトラブルに巻き込まれた人物がいたらしいと判明し、天輝の困惑は深まる一方。果たして、天輝はこれまで同様の平穏な生活を取り戻せるのか?
以前、単発読み切りで出した『備えあれば憂いなし』の連載版で、「カクヨム」「小説家になろう」からの転載作品になります。
異世界でお金を使わないといけません。
りんご飴
ファンタジー
石川 舞華、22歳。
事故で人生を終えたマイカは、地球リスペクトな神様にスカウトされて、異世界で生きるように言われる。
異世界でのマイカの役割は、50年前の転生者が溜め込んだ埋蔵金を、ジャンジャン使うことだった。
高級品に一切興味はないのに、突然、有り余るお金を手にいれちゃったよ。
ありがた迷惑な『強運』で、何度も命の危険を乗り越えます。
右も左も分からない異世界で、家やら、訳あり奴隷やらをどんどん購入。
旅行に行ったり、貴族に接触しちゃったり、チートなアイテムを手に入れたりしながら、異世界の経済や流通に足を突っ込みます。
のんびりほのぼの、時々危険な異世界事情を、ブルジョア満載な生活で、何とか楽しく生きていきます。
お金は稼ぐより使いたい。人の金ならなおさらジャンジャン使いたい。そんな作者の願望が込められたお話です。
しばらくは 月、木 更新でいこうと思います。
小説家になろうさんにもお邪魔しています。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる