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冬の章
求婚されました。
しおりを挟む外は冷たい雪で覆われ、シンと静まり返った城の中。
それは皆が寝静まっている頃ーー
千春は自室のベッドに潜りこみ、ふるふると震えていた。
この国も少しずつ発展してきているが、暖房器具はまだ無い。
暖炉や寝具で暖をとるしか無いのだ。
「っさむい…っ。ぅうー、火ー。」
『…どうした?』
千春が小さく呟くと暖炉の火が一瞬大きく揺れ、その火から真っ赤な髪の男が現れた。
そして千春の元に歩み寄り、ベッドへと腰掛ける。
「火、さむいの。この部屋もっとあったかく出来ない?」
『出来るけど…、そんなに寒いならアクラスにくっついて寝ればいいのに。あいつ、千春の男なんだろ?』
そう言いながらもすぐに部屋を暖めた。
「そんなの恥ずかしいじゃない。それに夜に部屋を訪れるなんて、はしたないわ。
…ほぅ、あったかーい。ありがとー、火。」
一気に暖まった部屋に頰が緩む。
『ま、俺は別にいいんだけど。んじゃ俺が添い寝してやろうか?俺もそこそこあったかいぞ。ずっとは居られないけどな。』
火は極真面目にそう提案した。
「ほんと⁈はい、来て!」
部屋は暖かくなっても、ベッドの中はまだ少し冷たい。
千春は喜んでバッと布団をめくった。
『…あの男が少し可哀想だな。添い寝ははしたなく無いのか…。
千春、少しは警戒心を持てよ?俺達は問題無いけど、他の人間はそうはいかないんだからな。』
そう言うと千春の隣へと入り、横になると手で自身の頭を支えながら千春を見降ろす。
「?そんな事分かってるよ。こんな事みんなにしかお願い出来ないし、アクラスさんには恥ずかしいから時々しか出来ないけど。」
そう言って火へと擦り寄った。
「ぁー、あったかい…。」
『…寝つくまでは居てやるから、もう寝ろ。明日に響く。』
「うん。おやすみ、火…。」
千春はあったかい温もりに包まれながら眠りについた。
翌朝ーー
千春はアンナとアクラスと共に自室で寛いでいた。
今日は天気も良く気分が良い。
「…なんで怒ってるの?アクラスさん。」
気分の良い千春は、隣でムスッとしているアクラスを不思議そうに覗き込む。
「…惚れた女から嬉々として他の男と添い寝した事など聞きたくない。」
そう言うとそっぽを向いた。
千春は昨夜の事をアクラスに話したのだ。
とても暖かくて、よく眠れたと。
「男って…、火ですよ?
私だって、アクラスさん以外の人とはそんな事しませんよ。」
「人でなくても男なんだからダメだ。
…そんなに寒いなら、これからは俺の所に来たらいい。」
「…だって、アクラスさんと一緒じゃゆっくり眠れないし、その…疲れちゃうもの。」
「……」
アクラスは言い返せなかった。色々と思い当たる事があるのだろう。
「まぁま、千春様も分かってあげてくださいな。好きな女が他の男と寝るなんて、例え人間で無くても妬いちゃうものなのですわ。」
「…ごめんなさい、アクラスさん。」
「あぁ。だが、千春殿が寒さに震えて風邪を引いてしまってはいけないからな。やはり近いうち部屋を一緒にしよう。俺が一緒に寝てやる。」
「えぇっ⁈なんでそうなるんですか!?(だから、そんな事したら私が色々と耐えられない…っ。)」
「…大丈夫だ。最近は俺も我慢を覚えた。
それとも、俺と一緒の部屋はそんなに嫌か?」
「い、嫌じゃないんですけど。照れるというか…それに…、(夫婦でもないのに一緒の部屋なんて、いいのかしら…。)」
「…夫婦じゃないのにいいのかって顔だな?」
「っ考え読まれてる…っ⁈」
「千春様は分かりやすいですから。」
アンナがニコリと笑う。
「…千春殿は私との将来も考えてくれてるんだろう?」
「(っそれって、結婚のこと…?)それは…もちろんです。」
「それなら問題無いじゃないか。いずれ結婚するんだ。
…いや、もういっそすぐにでも結婚するか。」
「……え、今、なんて…。」
「千春殿、俺と結婚して欲しい。」
「け、けつ!?…こ、⁈」
「女性がケツなんていうもんじゃない。」
「いやあのっ、結婚ですか⁈私まだ子供ですよっ?」
「まぁっ、なんてこと!私、お邪魔ですわね!
申し訳ございませんわ、プロポーズの場に居合わせるなんて!私はこれで失礼致しますわー!」
アンナは「やだわぁ、オホホホ…」と、満面の笑みで部屋から飛び出して行った。
そんなアンナを見送ったアクラスは、
千春の手をとり、その掌へと口付けを落とした。
「…確かに、貴女はまだ16で、子供と言う者も居るだろう。
だが、俺にとってはただ愛しい女だ。貴女以外と添い遂げるつもりは今後一生無い。」
「っその、嬉しいんです。でも、アクラスさんが、悪く言われたりしませんか?子供となんて…。(日本だったら犯罪だもん…。)」
「この国は自由恋愛だぞ。この程度の年の差、そこらにいくらでもいる。それに俺の事は心配いらない。周りからは早く貴女と結婚しろと急かされてるくらいだからな。」
「そうなんですか…!」
「あぁ。…それで、どうなんだ?俺と結婚、してくれるか?」
「っはい!もちろん喜んで!」
「そうか、ありがとう。
これからは俺が千春殿を守り、助けると誓おう。」
こうして突然の2人の婚約に城中は驚きに包まれたのだった。
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