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 そして、通路を進むと違和感を覚えた。
 モンスターの気配が一切しないのだ。
 まるで自分一人がダンジョンの中を彷徨う感覚。

 「何かおかしいわ……」

 と、その時であった。

 「ガオー!(こんにちは!)」

 突然、背後からモンスターの叫び声が聞こえたので振り向くと、そこには巨大な人型モンスターが棍棒を振り上げていた。
 サーチスキルがまったく反応していなかった。

 「なっ!?」

 殴り掛かって来た攻撃を避けようとしても、体がいつものように動かなかった。
 それでも寸前で直撃を逃れ、棍棒は激しく地面を叩いた。

 「きゃぁっ」

 「ガオガオガー(聞いた通り魔法少女の動き鈍い)」

 「どうなってるの? と、とにかくコイツを倒さないとだわ。たあああっ!」

 得意の飛び蹴りでモンスターを攻撃したが、まともにジャンプもできず力の入っていない蹴りが虚しく皮膚を叩くだけだ。

 「ガオガオ(そんなの効かない)」

 「力が…… 入らない……」

 焦る桜夜鈴さよりんはステータスを確認すると数値は[--]となっており、すべてのスキルが使えなくなっていた。
 しかし、魔法は使えるらしく、いつもと変わらない。

 「昨日と同じ…… でも身体強化なら。はぁぁぁ…… ヘイスト! パワフル! プロテクト!」

 最大レベルの魔法によって素早さ、攻撃力、防御力が3倍に上がったものの、普段より力が発揮できていないのが感じられた。
 それでも何も無いよりは幾分マシであり、どうにかモンスターに立ち向かう。

 「これなら、なんとか……」

 相手の懐に潜り込みパンチをお見舞いしようとした。

 「ガオガオガオオー(本当に魔法少女が雑魚になってる)」

 魔法で身体強化された筈であったが、攻撃力どころか素早さまでモンスターがまさっていた。
 桜夜鈴にとってはまったくの想定外であり、敵の間合いに入ってしまったのは失敗であった。
 パンチはヒットしたが、同時に横から棍棒のフルスイングが襲って来ていた。


 グシャッ!

 「うごぉっ!?」

 嫌な音を立てた身体は吹き飛び、壁で跳ねてからモンスターの足元に落ちた。

 「がぁぁぁ…… ぐえぇぇぇ」

 壮絶な激痛に苦しみ嗚咽を漏らしなが悶えると、続けざまに腹部を力任せに踏まれた。

 ドスッ!

 「うげぇっ!」

 内臓が潰れそうなまでの衝撃を受け呼吸困難に陥った。

 「がっ、はっ、はっ、お、お腹が…… うがぁぁぁ…… ゴフッ、ゴフッ」

 「ガオガオガオ(大丈夫ですか?)」

 「あっ…… ぐひぃ……」

 「ガオガオガー、ガオガオ(殺すなって言われてる、死なないで)」

 「なん…… でぇ……」

 モンスターが何を言っているのかは分からないので、その言葉は自分に対してであった。
 今まで使えていたチートクラスの能力が突然無くなり、モンスターに蹂躙されている。
 正義が負ける筈などないと思っていたのに、あっと言う間にピンチに陥ってしまった。

 助けてくれる仲間も居ない。
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