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第5話 魔法少女を危うく殺すとこでした

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 襲い来るピーチエールの攻撃。

 だが、スイも戦闘経験は豊富であり近接戦闘は特に得意である。
 落ち着いて肩のキャノンを光球に合わせて撃つのだ。

 「ショルダーキャノンなのですっ」

 ドーンッ!

 互いに放たれた光球と砲弾はぶつかり合い、激しい爆発が起こった。
 同時にピーチエールの頬を砲弾がかすめ風圧で髪がなびく。
 後少しズレていれば顔面を直撃するとこであった。

 「え……? どうして……」

 必殺技が敵の攻撃に一方的に負けてしまい、焦りの表情が浮かんでいた。

 「大人しくしておいてほしいのです」

 「無理に決まってますっ! 本当にあなたは…… っ!?」

 「ふぬぅ! うりゃぁぁぁ!」

 ピーチエールが喋るのもお構いなしいに、再度突進し攻撃を仕掛けるスイ。

 「まったく、しつこいですよっ」

 と、飛び上がり攻撃を避ける。
 スイは前方のターゲットを失うが履帯を使った殺人ブレーキで急停止。
 そのまま上を向いて再びロックオンだ。

 「ピーチエール様。殺さないようにとの命令ですので、ご安心して喰らいやがれなのです!」

 「馬鹿なのですかっ!?」

 そう言うと、ピーチエールは上空でスティックをスイに向けた。
 それでもスイは、お構い無しに飛び上がる。

 「マサヒデ様との特訓の成果をお見せするです。メテオアッパァァァーッ!!」

 名前こそカッコいいが、どこぞの格闘家が使いそうな只のジャンプパンチだ。
 それに合わせるように、スティックには光の玉が発生する。

 「嘘っ!?」

 だが、あまりにも予想外であった。
 重そうな武器と装甲を体中の付けた少女は、どう見てもジャンプできそうにはない。
 仮にできたとしても速度は知れている筈であった。

 しかし……

 「どりゃぁぁぁっ!」

 ボコォ!

 「うげぇっ! ぐぁ…… ゲハァ!」

 鈍い音と共に腹部に強烈な痛みがピーチエールを襲う。
 口からは血の混じった嘔吐物を吐き出してしまった。
 何が起こったのか分からない。
 考える余裕すら無かった。

 「はわわわ…… ごめんなさいなのですぅ」

 スイのパンチは届いていおらず、空を殴るだけであった。
 アッパーをかまそうと重力スラスターを思いっ切り吹かして勢い良く飛び上がったが……
 拳で手加減しようと思っていた矢先に、垂直に立てたショルダーキャノンが先にヒットしていたのだ。

 砲身の先っちょは腹部を直撃していた。
 苦悶の表情を浮かべるピーチエールは両手両足を垂らしながら喘いでいる。

 「げぇ…… あぁぁぁうぎぃぃぃ…… げぇぇぇ」

 スイの頭に吐血が雨のように降り注ぐ。
 ビックリしてしまい、思わず砲身を水平にしてしまった。

 「はうっ!?」

 ピーチエールが力なく落下してゆく。

 どちゃっ

 顔面から地面に激突してしまった。
 殺すなと言われているのに結構ヤバそうだ。

 普通の人間ならば最初の一撃で腹を貫通していただろう。
 そうなると砲身に内臓が詰まって掃除が大変であったろうが、今はどうでもいい。
 慌ててスイは後を追い地上に降りた。

 「あああぁぁ…… うあぁ、ガハァ、ゴホッ」

 ピーチエールは、なんとか仰向けになるが腹部を押さえながら上半身は痙攣することしかできない様子だ。
 コスチュームが汚れるのも気にせず、涙を流しながら足をジタバタさせている。
 傍らには持ち主の手を離れたマジカルスティックが虚しく転がっていた。

 「はうー、死なないでほしいのです……」

 無残な魔法少女の姿を見る街の人々からはどよめきが上がっている。
 しかし、今のピーチエールの耳には入らない。

 「ハァ…… ハァ…… あぐっ、い、息が……」

 「これを飲むのです」

 そう言ってスイは水の入った小瓶を取り出し、ピーチエールの口に突っ込んだ。

 「もぐっ!? んぐぐぐ…… おごっ」

 一応は飲んでいるようだ。
 と言うより鼻は鼻血で溢れており、口を小瓶で塞がれたので飲むしかない。

 「これで大丈夫です。良かったです」

 そこへ決着が付いたのを見た為次が駆け寄って来る。

 「おおっーい! スイ撤収!」

 周囲を見ると量産型怪人も含め皆は姿を消していた。
 どうやら無事に逃げたらしい。
 一人、自分を迎えに来てくれるあるじに、スイは大歓喜だ。

 「タメツグ様ぁー。スイはここですよー」

 「知ってる。変形して」

 「はいです」

 地べたで横たわるピーチエールを横目に変形したスイタンクに飛び乗る為次。
 すると、全力疾走で現場を離脱してしまった。

 後には砂埃が舞うだけである。

 「はぁ…… はぁ…… どうして……」

 ヒールポーションによって瞬時に回復したピーチエールは唖然と見送るしかできなかった。
 呆気に取られている所へ、白い小動物が近寄り話し掛けてくる。

 「ピーチエール、大丈夫もっち? すぐに手当するもっち」

 「だ、大丈夫です…… 心配しないでむにゅりん」

 「でもっち」

 「本当に…… 大丈夫ですから」

 「分かったもっち…… それにしても…… 強敵だったもっち」

 「少し油断しただけです。次こそは負けません」

 そう言いながら、優しくむにゅりんと呼ぶ小動物を抱きかかえるのであった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 ―― 30分後

 帰還した皆は地下研究所に集まっていた。
 もりもり博士は、かなりご機嫌な様子である。

 「素晴らしい! 作戦こそ失敗したが、あの小娘をあそこまで追い詰めるとはのうっ」

 「なんで、あそこでスイちゃんなんだよ。戦うのは俺でも良かっただろ?」

 戦闘できなかった正秀は少々不満げである。

 「ダメだって、マサだと完全に殺しちゃうよ。スイでもヤバかったのに」

 「お、おう…… 確かにな……」

 「もう少しで臓物を浴びるところだったのです」

 「そ、そうだねー」

 「ヤバイぜ……」

 「お主らは皆がアレ程までに強いのかのう?」

 もりもり博士が聞くと為次は答える。

 「俺は強くないけどね」

 「タメツグ様は弱いのでスイが守るのです」

 「え、うん。ありがと」

 「えへへー」

 「いや。為次も戦闘時間が短いのを除けば、じゅうぶん強いぜ……」

 「なんにせよ強いに越したことはないのじゃ。これで次の作戦からははかどりそうじゃのう、うひょひょひょ」

 「でもさー、怪人も意外と強いから100体くらい同時に出したらイケてたんじゃないの?」

 為次の疑問はもっともであった。
 ヒーローものを見ても雑魚は多数出現するが、主力怪人は大抵1体しか出てこない。
 もちろん、それは物語における演出であるのは分かっている。
 しかし、現実ならば遠慮する必要もない筈だ。

 「馬鹿者、怪人を百も二百も出したら街の住人が怯えるであろう。それに、収集が付かなくなるしピーチエールも殺してしまいかねんわ」

 「……爺さん、見かけに寄らず優しいのね」

 「もっとも3体までは出したことはあるがの。じゃが焼け石に水じゃったわい」

 「うーん…… 怪人がもう少し強ければなぁ」

 「俺達がやってもいいが、為次の言うようにピーチちゃんを殺すまではしなくとも半殺しにはなってしまうぜ」

 「だよねぇ、スイですらヤバかったしポーション飲ませてなければ死んでたよね」

 「申し訳ないのです……」

 「いや、スイは気にしなくてもいいけど」

 「はいですぅ」

 「怪人の強化は実験中じゃ、もっとも手っ取り早いのは人間を怪人かさせることじゃがの……」

 「なんだって!? もりもり博士は人間でも実験したのか?」

 突然の人体実験発言に正秀は驚いた。

 「当然じゃ。じゃがのう…… 何れも失敗終わったわい」

 「人間はどうなったんだ?」

 「死んだに決まっておろうが」

 「駄目だろ……」

 「元々死にそうな人間を使っただけじゃ。放っておいても近い内に死ぬから問題はなかろう」

 「いや…… そういう問題じゃない気がするぜ……」

 「だよね」

 「です」

 「もっと強い肉体ならばあるいは……」

 そう言うと、正秀の体を舐め回すように見るもりもり博士。

 「ば、ばかっ。俺は御免だぜっ!」

 「仕方ないのう……」

 「……うーん、だったら俺が……」

 「はぁ!? 為次、お前何いってんだよ!」

 「ねぇ爺さん、どんな怪人があるの?」

 「おい…… 為次……」

 「興味があるかの?」

 もりもり博士は机に立て掛けたあったスケッチブックを手に取ると為次に渡した。
 中を開いて見ると様々な怪人の絵が何ページにもわたって白黒で綺麗に描かれている。

 「いろいろあるね、爺さんが描いたの?」

 「そうじゃ」

 為次はページをペラペラとめくり見ていると、あるページで手を止めた。

 「こ、これは……」

 正秀とスイも興味本位で横から覗いてみる。

 「何が描いてあるんだ?」

 「ぐにゅぐにゅです」

 「これだー! 俺はこれになる!」

 それは縦長のスライム状の物体らしき物の全体から、何本もの触手が生えている絵であった。

 「為次、正気か!? 頭がおかしくなったんじゃないのか!?」

 「ちょーかっこいい」

 「ぐちょぐちょタメツグ様になるですか……」 

 為次は触手怪人の描かれているページを開いたまま、バンッとテーブルに叩き付ける。

 「爺さん! 俺をこいつにしてくれよん!」

 「おおっ! お主がやってくれるか?」

 「おっけー」

 「おっけー…… じゃねぇよ! ヒーローの仲間が怪人とかおかしいだろ!」

 「大丈夫だって」

 「なんにも大丈夫じゃないだろっ、完全にイカレてるぜっ!! スイちゃんもなんとか言ってやってくれよ」

 「スイはタメツグ様なら、なんでもいいのです」

 「スイちゃん……」

 「俺は触手怪人になって、この街を悪の手から守のだぁぁぁ!」

 「怪人がヒーローになってどうすんだよ…… 第一、人体の改造ってそんなこと本当にできるのか?」

 正秀の問いに、もりもり博士はコンピューターのモニターをポンポンと叩きながら言うのだ。

 「儂が長年研究した成果じゃ、何も心配はいらん」

 「そうそう、マサだって見た筈だよ」

 「ん?」

 「この星の……」

 為次の言い分によれば、この星の文明レベルは20世紀程度だった。
 しかし、地下施設の技術レベルだけは23世紀なみである。
 とは言え研究所のコンピューターはどう見ても古臭い代物だ。
 お世辞にも地球より200年も進化しているとは思えない。
 では何故レオパルト2のコンピューターはレベル23と判定したのであろうか?

 答えは簡単である。
 怪人を作り出す技術が、この星の文明よりも遥に先を行くものなのだ。

 「だから、爺さんの研究は本物だってね」

 「そうは言ってもな……」

 「とにかく頼んだよ爺さん」

 「ふぉふぉ、儂に任せておくのじゃ」

 こうして為次は人体改造による怪人化をすることにした。
 不安が無いと言えば嘘であろうあが、それ以上のメリットはあると判断したのだ。

 今ここに、新たなる怪人が生まれようとしているのであった……
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