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惑星アクア編 終章

第6話 満身創痍

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 宇宙…… それは虚無の世界。

 人の持つ概念は意味を成さず、ただ静かに無を与えるだけの存在。
 否、その存在すら幻であり、その幻すらも存在しない。

 そこへ現れた1つの何か。
 それはいったいなんであろうか?
 誰も知る者は居ない。

 だが、その時に知らないことを知った何かがあった。
 知るという概念が何も無い宇宙から宇宙を創り出したのだ。

 記憶によって紡がれ始めた時間…… 歴史……

 そしてここでもまた1つ、失った過去を取り戻そうとしていた……

 「いつもにもなく意味不明な始まりね、頭のおかしな人が書きそうな作文だわ。それにしてもみんな、どうしたのかしら……?」

 大変失礼なことを言うマヨーラは周りの状況が上手く飲み込めていなかった。
 ターナと貞宗は頭を抱えて変なことをブツブツ言っているし、正秀とスレイブはチャンバラごっこをまだやめようとしない。

 「バハムートが動いてるわね。何処かに行きたいのかしら? きっとトイレね。でも…… 出口が無いし」

 辺りをキョロキョロしていると、震えていた壁が動き始めた。
 巨大な壁は中央から上下に割れ外に開こうとしている。

 ゴゴゴゴゴ……

 壁の隙間からは光が差し込み始める。
 外からはサテライトアンカーの下部を覆い尽くしていた石垣の崩れる音が聞こえてくる。
 上級国民区画の一部は崩壊し瓦礫と化してゆくのだった。

 「うわぁ、どうしよう、どうしよう」

 入って来たドアが開かないので為次は慌てふためいていた。
 何処からか外に脱出できないかと、手近な出入口のハッチへと駆け寄ってみる。

 「こっから出れるかな、ポチ」

 プシュー

 「ふぁっ!?」

 扉の開いた先は石垣で埋め尽くされていた。
 途方に暮れるしかない。

 と、そこへ通信が入ってくる。

 『無事か? タメツグ』

 アイ艦長であった。

 「今んとこはね。でもバハムートが起きちゃったし、出られなくなっちゃった」

 『ああ、分かっている。応援は必要か?』

 「……いや、こっちでなんとかするわ。エクステンペストの戦力じゃ厳しいかも」

 『そうか、危なくなったら救助には行くからな』

 「りょかーい」

 実のところ応援は欲しいものの、魔獣相手に不利なテラの装備ではかえって邪魔だ。
 寝起きのバハムートを叩いてしまいたいが、拳銃では無理そうだし愛刀特売品を持って来てない。
 重くて長いので持ち歩くのが面倒臭いからだ。
 この時ばかりは自分のズボラを後悔した。

 「うーん…… お、マヨ」

 「マヨ姉様です」

 見るとマヨーラだけは1人平然とバハムートを眺めている。
 とりあえず近づいてみる。

 「おーい! マヨ」

 「あらタメツグ、どうかしたの? スイを持ったまま何してるのよ」

 「マヨ姉様、スイはとんでもないことをしてしまいました」

 「まったくよ、どうしてイキナリお母さんにあんなことしたのよ」

 「はうう……」

 「ねぇマヨ」

 「何よ? タメツグ」

 「頭おかしくないの?」

 「はぁ? 失礼ね、あたしはあんたと違ってまともよ」

 「いや、まあ……」

 ターナと貞宗は頭がおかしくなっている様子だがマヨーラとスレイブはなんともなさそうだ。
 だが、確かにさっきターナのことをお母さんと言った。
 スイもお母様と言ったが、既にマインドジェネレーターへ登録済みなので有り得ない話ではない。
 ならばマヨーラも効果が出始めているだろうと考えるべきだが、至って普通だ。
 もっともは今はそんなことを考えている場合じゃない。

 「とにかく外に出よう」

 ゴゴゴゴゴ…… ガコンッ!

 そうこうしている内に巨大なハッチが中途半端に開いた所で止まった。
 瓦礫が邪魔で完全には開かないようだ。

 「あそこから出ましょ」

 と、マヨーラは開いたハッチを指した。

 「うん。おーい! ユーナぁー! マヨを外まで運んでよ」

 貞宗を見ていたユーナに向かって叫ぶと黙って頷いた。

 が……

 「待てぇ!! 山崎ぃ!! 逃さんぞっ!!」

 頭を抑えながら睨む貞宗。
 突如、刀を振り上げこちらへ突進して来た。

 「うわぁ、しつこ」

 ドンッ!

 発砲するも呆気なく避けられてしまう。

 「神獣復活の邪魔はさせんぞっ!」

 叫びながら刀を振り下ろす。

 ガシィンッ!

 「あなたの相手は私」

 寸前の所でユーナが受け止めてくれた。

 動けない時に足でもちょん切っておけよ、トロ臭いな。

 などと為次は思うが、助けてもらった手前言える筈もない。

 「よっしゃユーナ。隊長さんの相手はよろしくね」

 「タメツグに言われなくとも、そのつもり」

 両者は一瞬睨み合うと激しくブレードと刀をぶつけ合い火花を散らす。
 為次はその隙きにマヨーラを抱えると一目散でハッチへと向かう。

 「ちょっとタメツグ! どこ触ってんのよっ」

 「ああ、もうっ!! 少し大人しくしててよマヨ」

 両脇に少女を抱え面倒臭そうに気を集中し、出口目掛けて跳躍をした。
 中途半端な下部ハッチが今だ壁のようにそそり立つので、気の足場を使いピョンピョンと外に出るのだ。

 それは日の光の元へと辿り着くと同時であった。

 「グギャォォォォォォ!!」

 後ろから耳をつんざくような咆哮が轟き、激しい衝撃音が空気を震わす。

 「うぼぁぁぁ!? なんだこりゃぁぁぁ!」

 「きゃぁぁぁっ」

 「なうっ? 何ごとですかっ!?」

 頭上を黒く禍々しく巨大な影が飛び去る。
 まるで世界を漆黒に変えんばかりの波動と魔力を放ちながら……

 「「「…………」」」

 唖然とそらを見上げる3人。
 マヨーラは嬉しそうに言うのだ。

 「良かった…… トイレに行けるのね」

 「は? トイレ?」

 「そうよ、トイレに行きたいから起きたのよ。知らなかった?」

 「あ…… うん……」

 そんなどうでもいいことを話していると、急に辺りが暗くなった。

 「ん? なんだ?」

 「夜になったのです」

 「そうだねー」

 と、見上げると……

 上空から巨大なパネルが降ってきた。

 「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」」」

 どっかーんっ!!

 落下の衝撃で周囲に瓦礫を撒き散らし、土埃が宙に舞う。
 それは格納庫の巨大ハッチ上部であった。
 バハムートが飛び出す時に吹き飛ばしたらしい。

 「ゲホッゲホッ、うはぁ…… ペッペ」

 「ケホ…… なんなのよいったい!?」

 「お空から何か降ってきたのですぅ」

 幸い床の石畳が崩れ瓦礫と一緒に落ちたおかげで、ぺちゃんこにはならずにすんだ。
 上手い具合に石の隙間に落下したようだ。

 「あー、ビックリした」

 「なんだったの?」

 「多分ハッチの片っぽが、ぶっ飛んだんでしょ」

 「そう。もう少し静かに外出してほしいわ」

 「う、うん…… それよりアッチの光が差し込んでる方から出よう、そうしよう」

 見上げると石の隙間から光が見えていた。

 「ええ」

 「はいです」

 生き埋めになったが、1つ1つの石が大きいので隙間も人が通れる程度にはあった。
 今度は瓦礫からもぞもぞと脱出する3人であった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 その頃……

 ユーナは暴れる貞宗を静かにさせようと頑張っていた。

 「ふふ…… バハムートは行ったか」

 「サダムネ。あなたは頭が変」

 「ああ、頭が割れるようだ…… 本当におかしくなりそうだぞ」

 「…………」

 「来ないのか? ならばこちらから行くぞっ」

 刀をを振りかざし襲い掛かる。
 振り下ろされた斬撃をブレードで受け止めるが、恐ろしいまで力なので耐えるのがやっとだ。

 「くっ、このっ」

 ブレードには鍔が無いので鍔迫り合いでは不利だ。
 受け流しながらサイドスラスターで横に飛び避けるも、貞宗は空を蹴りすぐ様追撃をし突きを繰り出して来た。
 咄嗟に上昇するが、またも空を蹴って急停止する貞宗はそのまま飛び上がり空中を闊歩する。

 「飛んでも逃げれんぞっ」

 「嘘っ!? なんで人間が……」

 ユーナにとっては信じられない光景であった。
 只の人間が空を飛べる筈もない。
 なのに目の前で対峙する男は何も無い箇所を足場にして飛んでいるのだ。
 しかも、A.A.S.の加速に付いてこれる速度である。

 「お前さんはお散歩が趣味なのか? はぁぁぁっ!!」

 そう叫びながらユーナ目掛け、より高く跳躍した。
 寸前で避けるが、それはあまりにも予想外であった。
 貞宗は天地逆さまの状態で空中に着地したのだ。
 そのままいかづちを纏った斬撃を繰り出す。

 「どうした! 止まっているぞ!!」

 ガシィィィン!!

 「あっ!? しまった!」

 長い刀がA.A.S.の片翼を斬り砕き電撃がほとばしる。

 貞宗が死骸の床へ着地すると続けざまにユーナも木の葉のようにフラフラと落ちて来た。
 片肺の重力ウイングでは上手くバランスが取れないようだ。

 向こうの方では正秀とスレイブが、まだチャンバラをやっている。
 よほど楽しいのか貞宗とユーナには目もくれない。

 「ふふっ、向こうも楽しそうじゃないか。お前ももう少しくらいは楽しませてくれよっ!」

 「このままじゃ…… くっ」

 「おい、隙だらけだぞ? ふはははっ」

 降ってきたユーナを鋭い刀が襲う。

 斬!!

 「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 ブレードを持つ腕が切断される。
 直後に床へと叩き付けられた。

 ユーナにとっては不利な戦いであった。
 戦闘経験が豊富といえども、それは対魔獣戦闘である。
 A.A.S.も近接戦闘に特化している為に射撃武器が装備されていない。

 対人戦に関してはまったくの素人であった。
 しかも、科学力の遥かに劣る相手が故に慢心があったのだ。
 それに気が付いた時にはもう遅かった。

 必死に立ちあがり目の前に落ちている腕の付いたブレードを左手で拾おうするが……

 ザシュッ!

 無残にも残された腕すら切断されてしまい、顔面から腐乱死体へと突っ伏してしまう。

 「あ…… ああ……」

 床に這いつくばるユーナの目には誰かの足が見える。

 恐る恐る顔を上げると……
 声にならない悲鳴が口から洩れる。

 「ヒィィ……」

 貞宗が不敵な笑みを浮かべ黙ってこちらを見下ろしていた。
 今までには感じたことの無い恐怖が全身を襲う。

 「嫌…… 来ないで…… お願い……」

 気が付かないうちに涙を流していた……

 「この程度か、つまらんな」

 そう言いながら刀をユーナに向ける貞宗。

 「やめて……」

 言葉空しく刀が軽く振られた次の瞬間……

 ブシュァァァー

 鮮血が飛び散る。

 ドス黒く染まった血痕の床が真っ赤に染まるのであった……
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