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テラ宙域編 4章

第22話 アクア帰還への始まり

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 プシュー

 「アイちゃん来たよ」

 「ああ、タメツグか。すまないな呼び出してしまって」

 開いた扉から為次がブリッジに入って来ると、艦長は振り向いて言った。

 「誰も居ないね」

 ブリッジを見渡すと艦長とメイという通信士しか居なかった。

 「皆、勝利の宴へと向かった。これもタメツグ達のおかげだな」

 「艦長ぉー、渡しも行きたいですよぉ」

 メイは涙目になりながら訴えかけた。

 「交代が来るまで我慢しろ。何度も言わせるな」

 「だってぇー」

 どうやらブリッジを完全に無人にする分けににもゆかず、メイだけ残されているようだ。
 AIに任せておいてもいいが、それでも不足の事態には人の手が必要な時もある。

 「私もタメツグと話が終わったら先に行くからな」

 「うう…… 酷いですよー」

 「じゃあ俺が見といてあげるよ」

 少しメイが可哀想な気もするので、為次はそう言ったが無理なのは百も承知だ。

 「本当ですかっ!?」

 「メイっ! いい加減にしろ!」

 「うひぃ」

 艦長に怒られて、慌てて前を見るメイは少しふて腐れていた。

 「まったく…… タメツグも後で行くのだろう?」

 「いや…… ユーナに来るなって……」

 「なんだと、仕方のない奴だな。気にする必要は無いぞ。タメツグ」

 「んー、とは言え俺も眠いしね。レオを完成させるのに徹夜続きだったし」

 「ふむ、そうか」

 「んで、話って?」

 「ああ。それだが、先程の戦闘データを本部に送ったら即座に返信がきてだな。明日にでもスラスキアスを寄こすと言ってきた」

 「スラスキアス? 何それ?」

 「モンスーン型の大型船だ。アクアで行方不明になったミストラルと同型になる」

 「へぇ、千年前と同じタイプの船をまだ使ってんのか」

 「外宇宙探査船としては完成された船だからな」

 「んで、何しに来るの?」

 「タメツグの希望通り、マインドジェネレーターを運んで来る。アクア行きが決定した。我がエクステンペストが水先案内人となるぞ」

 「お、マジで。凄くえらい早いね」

 「知っていたとは思うが、お前達が来てすぐに準備は始めていたからな。今回の戦闘で確実に決定した訳だ」

 「なるほどねぇ、艦隊を全滅させる程の百鬼夜行を一撃で葬れば、そうもなるか。それにしても百鬼夜行って……」

 為次は百鬼夜行という言葉に違和感を覚えていた。
 それだけではない、ふねの名前も何か引っ掛ける感じがする。

 「百鬼夜行がどうかしたのか?」

 「……いや、別に」

 思い過ごしかと、それ以上は考えなかった。

 「ふむ、まあ良かろう。出発は明日の10時だ。スラスキアスと護衛の次元潜行艦シータイガーと合流したのちにな」

 「そっか…… これで、どうなることやら。ははっ」

 為次は笑いながら外を見ると、一部を残し3百隻近くの艦艇が一斉にワープを始めていた。
 光の円盤にふねが吸い込まれると、一筋の閃光となり消えて行く。
 その光景は儚い流星群にも見える。

 「我々はなんとしてでも魔法の技術を持ち帰らなければならない。失われた千年を取り戻す為にな」

 「うん…… 俺達にとっては始まりにしか過ぎないけどね……」

 「母星に帰りたいと言っていたな?」

 「そだよ」

 「可能な限りは協力しよう」

 「ありがと。でも、もうじゅうぶんだよ。スターマップも貰ったし、レオさえあれば大丈夫」

 「不思議なものだな。ついこの間まではタメツグ達の戦車を馬鹿にしていたのに、今では我々の希望だ。あの時の非礼は詫びよう」

 「やっぱり戦車は最強なのだ。むふふー」

 「ふふっ、確かにな。聞くところによれば、モノポールキャノンまで搭載したと聞いたぞ」

 「まだ撃てないけどね。アクアで調整しなくちゃ。モノポールドライブが動かせればワームホールも生成できるし」

 「いったい何と戦うつもりやら……」

 「なんだろーねぇ。うひゃひゃ」

 為次が下品な笑いをすると、艦長は呆れた様子で言う。

 「何事も程々が肝心だぞ」

 「はいはい」

 「さて、話はそれだけだ。私も宴に顔を出してくる」

 「俺は寝るわ。っと、その前にミサイルでも作っといてやるかな。オートファクトリーあったよね?」

 「大規模ではないがオートファクトリーはあるぞ…… それにしてもミサイル? 何に使うのだ?」

 「俺達が戻るまで、こっちの防衛が手薄になるでしょ。誰でも使える対魔獣兵器を作っとくよ」

 「なるほど、さすがタメツグ。律儀なものだな」

 「別に律儀って分けじゃないけど。ねぇ……」

 「ふっ、まあいい。ではメイ、後はたのんだぞ」

 「はぁーい」

 まだ、ふて腐れているようで、返事をするメイ。

 「挨拶だけしたらすぐに戻って来てやる。それから行けばいい」

 「早く戻って来て下さいよ」

 「ああ」

 こうしてメイだけを残して、2人はブリッジを後にするのだった。

 ※  ※ パーティ会場 ※  ※

 その頃、正秀は……

 「よーし! 今度は俺の鍛えた筋肉を見せてやるぜ!」

 沢山の食事やドリンクが並べてある部屋で、女性達に囲まれながら酒を浴びるようの呑んでいた。

 「キャー、本当に! 見せて、見せて」

 「え? ここで脱いじゃうの!? キャー」

 「おっしゃ! 行くぜっ、どうだ」

 何を行くのか分からないが、服を脱いで上半身裸になる正秀。
 調子に乗ってマッスルポーズをとり悦に浸る。

 「うわー、これが男の体なのね」

 「なんだか変な気分になっちゃう」

 「ねーねー、触ってもいい?」

 「おう!」

 筋肉を触られるとピクピク動かしてみせる。
 そのたびに桃色の歓声が周囲から湧き上がりパーティ会場を包み込む。

 「うわっ、はっはっはっぁ! これがヒーローの肉体さっ!」

 度を越したハーレム状態である。
 緩みきった顔はとてもヒーローなどには見えず、キャバクラに来たおっさんでしかない。

 只々、ご満悦の正秀であった。

 ※  ※ デッキ ※  ※

 ブリッジを後にした為次はレオパルト2の元へと戻って来ていた。
 砲塔へ登り装填手ハッチを開けて中を覗いてみる。

 「寝とるか」

 スイは頭から落とされ変な状態で寝ていた。

 「おーい、スイ」

 「むにゃむにゃ、なのですー」

 「スイ! 起きてよっ」

 「んぐー、んぐー」

 起きる気配はない。

 「しょうがないなー」

 仕方なく中に入ると、スイを抱えあげる。

 「うりゃ!」

 と、外へ放り投げた。

 ドサッ

 「むぎゃっ」

 変な悲鳴が聞こえてきた。
 出て見ると、床の上でキョロキョロしながら呆けている。

 「スイ、起きた?」

 「はう? タメツグ様?」

 為次は降車すると、そっとスイに手を差し延べる。

 「仕事だよ」

 「はい? 眠いのです」

 「終わってからね。すぐ終わるから」

 「はい……」

 「じゃあ、砲弾渡すからアンチシールドかけといて」

 そう言いながら、再び搭乗すると砲弾メーカーを起動させた。
 製造できるのは戦車用の砲弾だけではなく、弾薬庫の筒サイズまでなら色々と可能だ。
 但し、砲弾に類似した物しか作ることはできない。
 ミサイルや鉄砲の弾丸、迫撃砲の砲弾、等々である。

 製造に必要な材料はなんでもいい。
 適当な物質を投げ込めば、勝手に原子転換してエネルギーとして貯蔵してくれる。

 本当は食事とかも作れるようにはしたかったのだが、サイズ的にどうしても不可能であった。
 それでなくとも、主弾薬庫の大半を占有してしまっているのだ。
 これ以上はどうしようもない。

 「えっと…… カメラ追尾でいいかな。ロケットモーターはコレにしてっと」

 登録していない砲弾は、操作パネルでパーツを組み合わせればいい。
 パーツも希望に沿う物が無ければ一応作ることは可能だが、非常に面倒臭い。
 アクアにあった食物プラントの砲弾バージョンみたいなものである。

 ……………
 ………
 …

 ―― 待つこと3分

 「できた」

 3発のミサイルが完成した。
 その内の1本を取り出す。

 「おーい、スイ。取りに来てー」

 「…………」

 返事が無い。

 のそのそとハッチから顔を出して下を見ると、スイは寝ていた。

 「とりゃ!」

 ゴチン

 「ひぎゃ!?」

 ミサイルが頭に当たったらしく、頭を抱えながら呻いている。

 「起きた?」

 「あうう…… 酷いのですぅ」

 確かに酷いが、一度寝てしまうとかなりの衝撃を与えなければ起きないので仕方がない。

 「それに魔法かけといて」

 「うぅ…… はい、なのです……」

 渋々、アンチマジックシールドを付与するスイ。
 眠くて疲れているのにコキを使われるのに不満はあった。
 それでもあるじの願いならばと頑張る。

 「ねぇスイ。嫌ならやらなくていいんだよ? 俺はスイに頼るしかないんだけどさ…… 無理なら他の方法も考えるよ」

 「え?」

 「俺達が向こうに帰ってる間は、残ったエンジェル達が頑張るしかない。つまり今まで通りに死んで行くってことだから」

 「タメツグ様……」

 「方法としてはマサをこっちに残して行く手段もあるし、レオ単体でも迎えに来れるしね」

 「いえ…… 手伝わせて下さい」

 スイはニコリと笑って言った。

 「……ありがとう」

 「いえ、私はタメツグ様のそんな優しい所も大好きですから」

 「別に優しくはないけど……」

 「ではでは、早く終わらせて一緒に寝床へ行きましょう」

 「そこは一緒じゃなくてもいいんだけど……」

 そして、二人はミサイル生産に勤しむこととなった。
 エンジェルの被害を抑える為に、なるべく早くこちらに魔道技術をもって来たいが、如何せんアクアの状況がどうなっているか分からない。
 だから、なるべく多くの対魔獣ミサイルを作っておきたい。

 「ところで、どれくらい作りますか?」

 「3百以上は作るよ」

 「え……」

 「終わったらスイは先に寝てていいよ。俺はランチャーの設計もあるから」

 「はう……」

 途方に暮れるスイ。
 久しぶりに一緒に寝ることもできないらしい。

 それでも、こうして大好きなあるじと一緒に作業をすることは嬉しかった……
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