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異世界編 3章

第128話 記録

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 モニターには慌てふためき切羽詰まった様子のターナが映っていた。

 「あら、ターナじゃない。どうしてこんなとこに居るの?」

 カメラに向って忙しそうに何やらごそごそしていた。
 時折、背後からは爆発音らしき音も聞こえる。

 「なんだこりゃ?」

 「ターナだよ」

 「それは見れば分かるぜ。なんで医者みたいな格好してるんだ?」

 「ガザフから貰った手紙に書いてあったでしょ」

 言われて正秀はガザフの手記の内容を思い出す。

 「ああ、そういや博士とか書いてあったな」

 「うん。それより、そろそろ始まるよ」

 「…………」

 正秀は黙ってモニターを見つめた。
 すると、画面の中のターナが話し始める……

 『大変な事態になったわ。作った魔獣が暴走してしまったの! これからダラス船長が最終手段として、体当たりをすると言ってるわ。なんとかして、やめさせたいのだけれど…… この船は戦闘艦ではないし、右舷アンカーが全てやられたわ。でも…… このままでは終われない』

 そこへ別の音声が割り込む。

 『ターナ、後は君だけだ。早く脱出するんだ。エリスも、そう長くは保たないぞ!』

 「あら、何処かで聞いたことがある声ね」

 マヨーラはモニターを覗き込んで言った。

 「ダラスでしょ」

 「ダラスって? タメツグの知り合い?」

 「なりたくはなかったけど、知り合いかも」

 「誰よ?」

 「マヨは知らないのか…… ニク…… ニクミの本名」

 「ええ!? 何よそれ、知らないわ。それじゃあ、ここから聞こえてくる声ってまさか……」

 「そう、ニクミだよ」

 「でも、ニクミ様は喋り方が違うわよ」

 「確かに…… いったい何処で間違えたのか……」

 「おい、そろそろ静かにするんだぜ」

 続きが気になる正秀は皆を黙らせた。

 『分かったわダラス船長、どうしても特別攻撃を中止してもらえないのね?』

 『なんども言っているだろう! アレを野放しにする分けには行かない。それこそリングをくぐられでもしたら……』

 『そう…… あと5分だけ待ってちょうだい』

 『……5分だけだぞ!』

 爆発音がして画面が揺れると、ノイズが走る。
 それに合わせてターナの顔も一層深刻になっていた。

 『これからすべての記録をモノポールリングに転送するわ。同時に機能を停止して通信ロックします。もしこの緊急通信を私以外の誰かが先に見たのなら、不足の事態になったことになるわ。そうならないことを願うばかりね……』

 「俺達が最初に見たのか?」

 正秀は訊いてみたが、為次にも確信がある分けでもない……

 「多分ね」

 「じゃあ不足の事態って何よ?」

 「そこまでの情報は無いよ。リングの持ってるデータはこの通信までだろうから」

 「なんなのよ……」

 曖昧な回答にマヨーラは不満そうであるが……

 続けてターナは語りかける。

 『実験は失敗に終わったわ…… でも、これまでのデータがあれば、まだ決まった分けではないはず。だからこうして記録に残しておくわ……』

 ―― ターナの記録 ――

 知ってるとは思うけど、私達は対宇宙魔獣の為に魔獣を作りに来たわ。
 生命が豊富な水の惑星アクア。
 魔獣は行き場を失った生物の魂が寄り添った存在。
 だから海洋生物が大半を占めるアクアを選んだの。
 1つだけ存在する小さな島を拠点として。
 この島には原住民も居たけれど、文明が遥かに劣る彼らは特に実験の障害とはならなかった。

 まず、ナノマシンを散布し水生生物の生殖能力を失わせ魂の行き場を無くしたわ。
 同時に生命活動を停止させ効率的に準備を進めたの。
 そのかいもあって魔獣の発生は意外と早かったわ。
 当然だけど原住民と一部の陸上生物は残したわ。

 魔獣を倒しエレメンタルストーンを回収する。
 そこまでは順調だった……

 エレメンタルストーンを集めて、まとめることによって、そこからより強力な魔獣を作りあげる。
 もっとも、ただ魔獣を作るだけでは意味は無いわね。
 どうにかしてこちらの指示通りに動かす必要があるわ。
 だから、核を操作して知性があり人間サイズの魔獣を造ったの。

 だけど……

 失敗だった。
 知能が低過ぎた……

 奴らは基本的により多くの魂を喰らい成長する。
 初めのうちは成功したかに思われたけど、対魔獣兵器として使えそうなレベルになった時だった。
 アイツは隠していた本性を現したわ。
 人間を喰らい始めたの……
 人が良質な生命の持ち主と学習したとたんに……

 特殊シールドを発生させられるまでに成長した魔獣は通常兵器では歯が葉が立たない。
 説明する必要もないわね。

 結局、この魔獣を処分するのにサーガを失った。
 小型といえど、特殊シールドを持つ以上はそれなりに質量が必要だったの。
 痛手だったわ。

 それでも、テラを守るにはなんとしてでも成果を出さないとならない。
 諦める分けには行かなかったわ。
 前回の失敗を活かして、今度はあらかじめ神獣レベルの魔獣を作り出し知性もある程度まで高めた。
 ドラゴンを上回る魔獣をよ。

 それなのに…… 何が駄目だったの……

 核の解析も99パーセント以上は終わっていたのに…… どうして!!

 何がっ!?

 はぁ…… はぁ…… こんなことに……

 暴走は止められなかったわ。
 上手く行くはずだったのに。
 このままでは帰れない。

 今までの研究データのバックアップをモノポールリングに送っておきます。
 この通信と一緒に……

 帰ってたまるものですか、必ず成功して見返してやるわ。
 初めに言ったようにデータ送信後、モノポールリングは停止させ通信ロックをするわ。

 神の領域を手にするのは私よ……

 誰にも渡さない……

 ……………
 ………
 …

 ターナの通信はそこで終わっていた。
 激しい爆発音の中、カメラの前から去って行ったのだ。
 しばらくは誰も居ない何処かの部屋が映し出されているだけであった。
 その後、衝撃音と共に映像は途切れてしまった。
 それでも皆は黙ってモニターを見つめ続けていた。

 「消えてしまいました」

 初めに口を開いたのはスイだった。
 いつの間にか目を覚まし一緒に映像を見ていたようだ。

 「そうだねー」

 「所々に意味が分からないとこがあるんだぜ」

 「そうね…… ちゃんと説明なさい。タメツグ」

 「うん」

 「それじゃあ、まずアンカーとかサーガとかなんなんだ?」

 よく分からない単語から訊いてみた正秀。

 「それはこれを見て」

 為次が端末を操作すると空中投影スクリーンに、ずんぐりむっくりした船らしき物が表示された。

 「なんだこりゃ?」

 「ターナ達乗って来た宇宙船らしいよ。データバンクに入ってた」

 「なんだか船体が太いな。あまりカッコ良くないぜ」

 「それはこっちを見て。上から見た図」

 船体の中央部分が膨らんでおり、左右に3つずつ円が縦に並んでいる。

 「この丸い部分、分かる?」

 「おう」

 「これがアンカー。正確にはサテライトアンカーだってさ」

 「それどうしたのよ?」

 マヨーラは訊いた。

 「右舷にあるのが前から順番にサーガ、ギーガ、オーガで戦闘用になってるみたいだね。んで、左舷がアリス、リリス、エリスで研究施設かも。これらを搭載してるせいで太った船なんだね」

 「アリス、リリス、エリスって…… まさか……」

 マヨーラは国の名前と同じことに気が付いた。

 「そのまさかだろうねマヨ。サテライトアンカーはそれそのものを打ち込んで拠点を作る巨大モジュール。縦長の円柱状になっていて地中に埋め込むことも、地上に設置することも可能なんだってさ」

 「じゃあこのアンカーってのが……」

 流石に正秀も気が付いた様子だ。

 「そう、脱出の為に打ち下ろしたアンカーを中心に街を…… そして国を造ったんだろうね。もっともテアルの意味が分かんないけど」

 「テアルってのは集合体や集まりとかそんな意味よ。ってあんた達も普通に使ってる言葉じゃないの」

 「マヨ…… 俺達が使ってる言葉は日本語だから、テアルって発音はしてないんだよ」

 「ああ…… そうなの……」

 マヨーラは納得したらしい。
 別の世界からやって来た彼らはトランスレーションの魔法によって勝手に翻訳されている言葉を使っているだけであり、この世界の言葉を理解している分けではないのだ。

 「名前はともかく、右舷が吹っ飛んだら戦えないからヤベーって分けだな」

 「うん。暴走した魔獣への攻撃手段を失ったんで、ニクは特攻したんだろうね。よー生きてたわ……」

 「もしかして、その残骸があの雪山なのか?」

 「かもね。全長9.3キロの探査船って書いてあるし」

 「デカ過ぎるだろ」

 「ねぇタメツグ……」

 「ナニマヨ」

 「…………」

 マヨーラは何も言わずに窓の外を眺めた。
 そこには、きらめく数多の星々が静かに輝いている。

 「ターナは…… お母さんは何がしたかったの?」

 「見た通りだよ。自分の故郷を守りたいんだよ」

 「その為にあたしの生まれた場所の生命を奪ったのね……」

 「そうだよ」

 「おいっ、為次!」

 「いいのよマサヒデ、気にしてないわ」

 「そうそう、気にする必要はないよ。だって些細なことだから」

 「はぁ? 星に住む生き物の殆どを殺して些細なことってなんだよ!」

 「……彼らにとっては、だよ」

 「なんだよそれ……」

 「これを見てよ」

 そう言うと為次は別のスクリーンを投影させた。
 そこには青く美しい星が映っている。
 地形こそ違うものの、まるで地球のようだ。

 次の瞬間……

 それを見た正秀は言葉にならない程の驚きを感じるのであった……
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