128 / 183
異世界編 3章
第121話 便所
しおりを挟む
惑星の影に入ると、きらめく星々が宇宙を覆い尽くす。
渦巻き銀河の中心から離れた地球では、見ることのできない光景だ。
言うなれば、辺り一面が天の川なのである。
それはもう、川ですらないのだが……
「マサぁ、見つかった?」
「いや」
「何処に行ってしまったのでしょうかぁ」
衛星軌道に乗ってからモノポールリング探しが始まった。
地上からでもアレだけ大きく見えたので直ぐに発見できると思っていたが、まだ見つからない。
もっとも、まともに探しているのは正秀だけだが……
スイも一応は探しているのだが、如何せん砲手席のペリスコープでは周囲があまり見渡せない。
マヨーラに至っては、嬉しそうに正秀を見ているだけである。
「しょうがないなー、俺も探してみるかぁ」
「レオの調子はどうだ?」
「うん、問題は無さそうね」
為次は車両のチェックで探している暇が無かった。
だけども、それも今し方終わったようでペリスコープを覗き始めた。
「うーん、軌道が低すぎるか」
「地球が邪魔なんだぜ」
「地球じゃないけどね」
「分かってるけど、地球でいいだろっ」
「はいはい」
低軌道での速度は速い。
基本的に星から離れる程、遅くなる。
青い星の彼方より太陽が昇り始めると、夜明けは見るみる内にやって来た。
「おっ、太陽だぜ」
「眩しいのです」
「マサヒデの姿も眩しいわ」
太陽と共に銀色に輝くリングも、その姿を現し始めた。
どの位の距離に有るのだろうか?
宇宙では距離感すらも無くなる。
「おっ、見えてきたぜ」
「だね」
「私も見たいのです」
「ああ、そっからじゃ見辛いよな。スイちゃん砲手席に行くかい?」
「ごしゅ…… タメツグ様と一緒に見るです」
「おう、待ってな回してやるぜ」
「や、回さなくてもいいよ」
「遠慮するなよ」
「してないし、来られても狭いし」
「タメツグ様、今参りますよ」
「いやいや、来なくていいよ」
為次の拒否を無視して砲塔を旋回させる正秀。
即用弾薬庫への給弾位置、約右90度から更に少し回す。
ウィィィィィン
すると、砲手席の脇にある砲塔バスケットの大きな隙間が運転手席の後ろへと位置した。
そこからスイは嬉々として主の元へフワフワと泳いで行くのだ。
「お待たせしましたっ」
ゴチン!
「あいにゃっ!?」
「うわぁ」
勢い余って、消化器にぶつかってしまった。
「んも、壊さないでよっ」
「壊してないのです!」
「自動消火装置なんて修理できないのに、もぉー大丈夫かなー」
自分の心配よりも消火器を心配する主に、ちょっと不満そうな顔をする。
それでも、傍へと行きたいので慣れない無重力の中でも頑張って狭い車内を移動する。
なんとか辿り着き為次に抱き付いた。
「ちょ、狭い」
「狭い方がいいのです」
「んも」
文句を言いながらも、密着するおっぱいの感触にご満悦である。
「まあいいや…… それより見てよ、あれがリングだよ」
「んー?」
スイは体を捻り、ペリスコープを覗くとモノポールリングが見える。
地上から見るよりも更に輝き、その美しさを増していた。
「綺麗なのです」
「そうだねー」
「あそこへ行くのですね」
「そうだよ」
自分の前で浮かぶスイを抱き寄せると、コンスクを手に取る。
「よし! じゃあ近づいてみるかな」
「はいです」
「今度は、そこら辺にぶつけないようにしてねー」
「こっちはオッケーだぜ」
「おけって、砲塔前にしないと」
「おっと、そうだったな」
また加速で後ろへと体が押し付けられるので、砲塔の向きを前方に戻す。
横に向けたままだと、また変な所に押し付けられて怪我をするかも知れない。
「じゃ行くよー」
「おう」
パパン パン パン
小刻みにスラスターを吹かし車体をリングへと向ける。
「発車」
ドドドドドーッ!
後方から激しい連続爆発の音が聞こえると同時に、体がシートへと押さえつけられる。
レオパルト2はグングンと加速し、地上ならば音速を遥かに超えるであろう。
もっとも、スペースシャトルの周回軌道で時速約2万8千キロである。
低軌道に居た時点で、それ以上の速度は出ていたが……
宇宙では地上で考えるような速度は、あまり意味をなさない。
地球の公転速度で約時速10万8千キロ、太陽系の移動速度が約時速86万4千キロなのだ。
更には天の川銀河の移動速度まで考慮すれば……
人間は寝ていても尋常では無い速度で移動している。
だから、基本的に相対速度で考える必要がある。
「きゃぁぁぁ! マサヒデー」
マヨーラは嬉しそうに悲鳴を上げながら抱き付いている。
しかし、それも束の間。
ある程度スピードに乗っただろうと判断した為次は出力を弱めた。
後は慣性走行で近づく。
「キャー、キャー」
「マヨーラ……」
加速は終わったが、まだご機嫌に騒ぎながら抱き付いていた。
「もう終わったぜ」
「キャー…… ャー……」
「お、おう……」
「…………」
暫し、沈黙が流れるのであった……
……………
………
…
そんな、沈黙を破ったのは為次だった。
「ありゃりゃ」
「ど、どうした?」
「リングが何処かに行ってしまいましたです」
「そうだねー」
外を見ると確かに正面に見えていたリングが無い。
周囲を見渡すと、左手を通過して行くのが見える。
どうやら高度が全然違ったらしい。
「うーん、仕切り直しだな、こりゃ」
「仕方ないぜ」
「うん」
「ねぇ、ちょっと……」
「どうした? マヨーラ」
と、正秀が訊くも、マヨーラは為次に訊く。
「タメツグ、いつ着くのよ……?」
さっきまでご機嫌だったが、何やら神妙な顔付きになり正秀の上でゾモゾしている。
「さあ?」
「さあ、って…… ふざけないで!」
「え? どうかしたの? お腹でも空いた? マヨ」
「違うわよっ! ……ひっ」
「マヨーラ? 大丈夫か?」
マヨーラは正秀の心配も他所に何も答えない。
それよりも、顔を真っ赤にしながら股間を押さえ始めた。
なんだか涙目になりながらプルプルしてるし。
「なんだ、おしっこか?」
「ぎゃぁぁぁぁ! ち、違っ、違……」
どうやら正解らしい。
とうとう泣き出してしまった。
「うっ、うえぇ、うぅぅぅ…… まだなの……」
正秀の顔の前に、水玉となった涙が浮かぶ。
流石に、お股を押さえて涙を流すマヨーラを見れば、トイレへ行きたいのを察することができた。
「我慢できないのか?」
「うぇぇぇぇん、もう無理よぉー」
「スイの席におトイレがあるのです」
「嫌よ! あんなの只の箱じゃない、うわぁぁぁん」
「箱があっても無重力じゃ使えないんじゃないのか?」
「あっ、確かに……」
「うぎゃぁぁぁぁん! もう駄目ーっ! 外に出るわぁぁぁ!」
泣き叫びハッチに手を掛けるマヨーラを正秀は必死に抑える。
ジタバタと暴れるので、たまに引っ掻かれてしまう。
「痛ててて、マヨーラ落ち着けって」
「無理ムリむり! うわぁぁぁん、もう外に出してよォ!」
「それこそ無理だって! 死んでしまうぜ」
「こんなとこで漏らすくらいなら、死んだ方がマシよっ!」
「なあ、為次なんとかならないか?」
「んー…… 仕方が無い、一旦重力を作ろう」
「そんなことできるのか?」
「減速するだけだよ」
「そうか、よしマヨーラ隣に移動するんだぜ」
「だってぇ! あんな箱」
「本気で車内で漏らすのか?」
「うぎゃァァァァァ!」
このまま我慢するのは不可能なことを自分が一番理解している。
だからマヨーラは泣き叫びながらもスイの居る装填手席へと移動した。
正秀も隣の席はマズかろうと、砲手席に戻るのだった。
「マヨ、箱を床に押さえ付けて跨がったら教えてね」
「うっさい! 早くなさいよっ!」
「スイはタメツグ様を見張ってるのです」
「覗かないってば」
「ちゃんと見張ってるのよスイ」
「はいです」
「ほんとにもういい? 溢さないでね」
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!」
「紙は箱と一緒に置いてあるはずだけど」
「あああ、もうっ! 分かってるわよっ!」
正秀は車長席へ身を乗り出し、そっとマヨーラを見る。
どうやら大人しく、しゃがんでいる様子だ。
「為次、いいみたいだぜ」
と、為次に囁く。
「おけ」
「ちょっと待ちなさい! タメツグ、あんたの上着を貸してちょうだい」
「へ?」
「上着よ! その汚い上着をこっちへ寄こすのよっ!」
「なんで?」
「なんでもいいから、早くっ!」
「えー……」
「とにかく、貸してやったらどうだ?」
「んも、しょうがないなー」
上着を脱ぐと、正秀に渡す。
それからマヨーラに渡した。
「ほら」
「あ、ありがと」
受け取ったパーカーをしゃがみ込む自分の横に、カーテンのように掛けた。
どうやら仕切りのつもりらしい。
「いいわよ」
「ちょっと、もしかして俺のパーカー便所の壁にした?」
「いいって言ってるでしょ!」
「いやいや……」
「早くしなさいっ! 漏らすわよ、漏らしてもいいのね!?」
「おい、為次」
「くそっ」
渋々、メインスラスターの出力を上げ、徐々に加速する。
先程の加速と合わせて、かなりの速度となった。
そこで姿勢制御をし、ピッチを90度上げると同時に下部スラスターを噴射するのだ。
「んじゃ、行くよー、長くはもたないからねー」
「…………」
マヨーラは何も答えずに便所箱を股で挟んで押さえていた。
ドドドドドーッ!
今までフワフワと車内を漂っていた、食料も体も下へと押し付けられる。
あたかも重力が発生したかのように感じる。
「よし、今だぜ! 思いっ切り出しな。すっきりするぜマヨーラ」
「もう嫌ぁぁぁぁぁッ!」
じょぼじょぼじょぼ……
じょぼ じょぼ
「「「…………」」」
ぶりっ ぶりぶり……
「うお……(大きい方もか)」
「ちょ……(うんちかよ)」
「はぅ……(うんこちゃんです)」
加速度を得ると、再び車内は無重力となる。
こうばしい香りと共に……
「終わったわ……」
「お、おう……」
「じゃあ次は俺ね」
「むむっ!? タメツグ様!」
「こっちに来たら殺すわよ、タメツグ」
「え? だって俺もおしっこ」
「駄目なのです! 絶対にタメツグ様は箱の中身を確認する気なのです!」
「うぎゃぁぁぁぁぁ! バカ! 変態! タメツグ!」
「おい為次、お前そんな趣味だったのか?」
「ち、ちが…… う、かも」
「むむー! 次はスイです! 私がするのです、タメツグ様はその次なのです!」
「なんで……」
「スイちゃん…… あ、俺もしたくなってきた」
「ううっ、もう帰りたい……」
無限に広がる大宇宙。
そこは謎と神秘が溢れる夢の世界。
誰しもが夜空に瞬く星々を見上げ、美しい世界に憧れたこともあるだろう。
しかし、現実は……
うんこ臭かった。
渦巻き銀河の中心から離れた地球では、見ることのできない光景だ。
言うなれば、辺り一面が天の川なのである。
それはもう、川ですらないのだが……
「マサぁ、見つかった?」
「いや」
「何処に行ってしまったのでしょうかぁ」
衛星軌道に乗ってからモノポールリング探しが始まった。
地上からでもアレだけ大きく見えたので直ぐに発見できると思っていたが、まだ見つからない。
もっとも、まともに探しているのは正秀だけだが……
スイも一応は探しているのだが、如何せん砲手席のペリスコープでは周囲があまり見渡せない。
マヨーラに至っては、嬉しそうに正秀を見ているだけである。
「しょうがないなー、俺も探してみるかぁ」
「レオの調子はどうだ?」
「うん、問題は無さそうね」
為次は車両のチェックで探している暇が無かった。
だけども、それも今し方終わったようでペリスコープを覗き始めた。
「うーん、軌道が低すぎるか」
「地球が邪魔なんだぜ」
「地球じゃないけどね」
「分かってるけど、地球でいいだろっ」
「はいはい」
低軌道での速度は速い。
基本的に星から離れる程、遅くなる。
青い星の彼方より太陽が昇り始めると、夜明けは見るみる内にやって来た。
「おっ、太陽だぜ」
「眩しいのです」
「マサヒデの姿も眩しいわ」
太陽と共に銀色に輝くリングも、その姿を現し始めた。
どの位の距離に有るのだろうか?
宇宙では距離感すらも無くなる。
「おっ、見えてきたぜ」
「だね」
「私も見たいのです」
「ああ、そっからじゃ見辛いよな。スイちゃん砲手席に行くかい?」
「ごしゅ…… タメツグ様と一緒に見るです」
「おう、待ってな回してやるぜ」
「や、回さなくてもいいよ」
「遠慮するなよ」
「してないし、来られても狭いし」
「タメツグ様、今参りますよ」
「いやいや、来なくていいよ」
為次の拒否を無視して砲塔を旋回させる正秀。
即用弾薬庫への給弾位置、約右90度から更に少し回す。
ウィィィィィン
すると、砲手席の脇にある砲塔バスケットの大きな隙間が運転手席の後ろへと位置した。
そこからスイは嬉々として主の元へフワフワと泳いで行くのだ。
「お待たせしましたっ」
ゴチン!
「あいにゃっ!?」
「うわぁ」
勢い余って、消化器にぶつかってしまった。
「んも、壊さないでよっ」
「壊してないのです!」
「自動消火装置なんて修理できないのに、もぉー大丈夫かなー」
自分の心配よりも消火器を心配する主に、ちょっと不満そうな顔をする。
それでも、傍へと行きたいので慣れない無重力の中でも頑張って狭い車内を移動する。
なんとか辿り着き為次に抱き付いた。
「ちょ、狭い」
「狭い方がいいのです」
「んも」
文句を言いながらも、密着するおっぱいの感触にご満悦である。
「まあいいや…… それより見てよ、あれがリングだよ」
「んー?」
スイは体を捻り、ペリスコープを覗くとモノポールリングが見える。
地上から見るよりも更に輝き、その美しさを増していた。
「綺麗なのです」
「そうだねー」
「あそこへ行くのですね」
「そうだよ」
自分の前で浮かぶスイを抱き寄せると、コンスクを手に取る。
「よし! じゃあ近づいてみるかな」
「はいです」
「今度は、そこら辺にぶつけないようにしてねー」
「こっちはオッケーだぜ」
「おけって、砲塔前にしないと」
「おっと、そうだったな」
また加速で後ろへと体が押し付けられるので、砲塔の向きを前方に戻す。
横に向けたままだと、また変な所に押し付けられて怪我をするかも知れない。
「じゃ行くよー」
「おう」
パパン パン パン
小刻みにスラスターを吹かし車体をリングへと向ける。
「発車」
ドドドドドーッ!
後方から激しい連続爆発の音が聞こえると同時に、体がシートへと押さえつけられる。
レオパルト2はグングンと加速し、地上ならば音速を遥かに超えるであろう。
もっとも、スペースシャトルの周回軌道で時速約2万8千キロである。
低軌道に居た時点で、それ以上の速度は出ていたが……
宇宙では地上で考えるような速度は、あまり意味をなさない。
地球の公転速度で約時速10万8千キロ、太陽系の移動速度が約時速86万4千キロなのだ。
更には天の川銀河の移動速度まで考慮すれば……
人間は寝ていても尋常では無い速度で移動している。
だから、基本的に相対速度で考える必要がある。
「きゃぁぁぁ! マサヒデー」
マヨーラは嬉しそうに悲鳴を上げながら抱き付いている。
しかし、それも束の間。
ある程度スピードに乗っただろうと判断した為次は出力を弱めた。
後は慣性走行で近づく。
「キャー、キャー」
「マヨーラ……」
加速は終わったが、まだご機嫌に騒ぎながら抱き付いていた。
「もう終わったぜ」
「キャー…… ャー……」
「お、おう……」
「…………」
暫し、沈黙が流れるのであった……
……………
………
…
そんな、沈黙を破ったのは為次だった。
「ありゃりゃ」
「ど、どうした?」
「リングが何処かに行ってしまいましたです」
「そうだねー」
外を見ると確かに正面に見えていたリングが無い。
周囲を見渡すと、左手を通過して行くのが見える。
どうやら高度が全然違ったらしい。
「うーん、仕切り直しだな、こりゃ」
「仕方ないぜ」
「うん」
「ねぇ、ちょっと……」
「どうした? マヨーラ」
と、正秀が訊くも、マヨーラは為次に訊く。
「タメツグ、いつ着くのよ……?」
さっきまでご機嫌だったが、何やら神妙な顔付きになり正秀の上でゾモゾしている。
「さあ?」
「さあ、って…… ふざけないで!」
「え? どうかしたの? お腹でも空いた? マヨ」
「違うわよっ! ……ひっ」
「マヨーラ? 大丈夫か?」
マヨーラは正秀の心配も他所に何も答えない。
それよりも、顔を真っ赤にしながら股間を押さえ始めた。
なんだか涙目になりながらプルプルしてるし。
「なんだ、おしっこか?」
「ぎゃぁぁぁぁ! ち、違っ、違……」
どうやら正解らしい。
とうとう泣き出してしまった。
「うっ、うえぇ、うぅぅぅ…… まだなの……」
正秀の顔の前に、水玉となった涙が浮かぶ。
流石に、お股を押さえて涙を流すマヨーラを見れば、トイレへ行きたいのを察することができた。
「我慢できないのか?」
「うぇぇぇぇん、もう無理よぉー」
「スイの席におトイレがあるのです」
「嫌よ! あんなの只の箱じゃない、うわぁぁぁん」
「箱があっても無重力じゃ使えないんじゃないのか?」
「あっ、確かに……」
「うぎゃぁぁぁぁん! もう駄目ーっ! 外に出るわぁぁぁ!」
泣き叫びハッチに手を掛けるマヨーラを正秀は必死に抑える。
ジタバタと暴れるので、たまに引っ掻かれてしまう。
「痛ててて、マヨーラ落ち着けって」
「無理ムリむり! うわぁぁぁん、もう外に出してよォ!」
「それこそ無理だって! 死んでしまうぜ」
「こんなとこで漏らすくらいなら、死んだ方がマシよっ!」
「なあ、為次なんとかならないか?」
「んー…… 仕方が無い、一旦重力を作ろう」
「そんなことできるのか?」
「減速するだけだよ」
「そうか、よしマヨーラ隣に移動するんだぜ」
「だってぇ! あんな箱」
「本気で車内で漏らすのか?」
「うぎゃァァァァァ!」
このまま我慢するのは不可能なことを自分が一番理解している。
だからマヨーラは泣き叫びながらもスイの居る装填手席へと移動した。
正秀も隣の席はマズかろうと、砲手席に戻るのだった。
「マヨ、箱を床に押さえ付けて跨がったら教えてね」
「うっさい! 早くなさいよっ!」
「スイはタメツグ様を見張ってるのです」
「覗かないってば」
「ちゃんと見張ってるのよスイ」
「はいです」
「ほんとにもういい? 溢さないでね」
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!」
「紙は箱と一緒に置いてあるはずだけど」
「あああ、もうっ! 分かってるわよっ!」
正秀は車長席へ身を乗り出し、そっとマヨーラを見る。
どうやら大人しく、しゃがんでいる様子だ。
「為次、いいみたいだぜ」
と、為次に囁く。
「おけ」
「ちょっと待ちなさい! タメツグ、あんたの上着を貸してちょうだい」
「へ?」
「上着よ! その汚い上着をこっちへ寄こすのよっ!」
「なんで?」
「なんでもいいから、早くっ!」
「えー……」
「とにかく、貸してやったらどうだ?」
「んも、しょうがないなー」
上着を脱ぐと、正秀に渡す。
それからマヨーラに渡した。
「ほら」
「あ、ありがと」
受け取ったパーカーをしゃがみ込む自分の横に、カーテンのように掛けた。
どうやら仕切りのつもりらしい。
「いいわよ」
「ちょっと、もしかして俺のパーカー便所の壁にした?」
「いいって言ってるでしょ!」
「いやいや……」
「早くしなさいっ! 漏らすわよ、漏らしてもいいのね!?」
「おい、為次」
「くそっ」
渋々、メインスラスターの出力を上げ、徐々に加速する。
先程の加速と合わせて、かなりの速度となった。
そこで姿勢制御をし、ピッチを90度上げると同時に下部スラスターを噴射するのだ。
「んじゃ、行くよー、長くはもたないからねー」
「…………」
マヨーラは何も答えずに便所箱を股で挟んで押さえていた。
ドドドドドーッ!
今までフワフワと車内を漂っていた、食料も体も下へと押し付けられる。
あたかも重力が発生したかのように感じる。
「よし、今だぜ! 思いっ切り出しな。すっきりするぜマヨーラ」
「もう嫌ぁぁぁぁぁッ!」
じょぼじょぼじょぼ……
じょぼ じょぼ
「「「…………」」」
ぶりっ ぶりぶり……
「うお……(大きい方もか)」
「ちょ……(うんちかよ)」
「はぅ……(うんこちゃんです)」
加速度を得ると、再び車内は無重力となる。
こうばしい香りと共に……
「終わったわ……」
「お、おう……」
「じゃあ次は俺ね」
「むむっ!? タメツグ様!」
「こっちに来たら殺すわよ、タメツグ」
「え? だって俺もおしっこ」
「駄目なのです! 絶対にタメツグ様は箱の中身を確認する気なのです!」
「うぎゃぁぁぁぁぁ! バカ! 変態! タメツグ!」
「おい為次、お前そんな趣味だったのか?」
「ち、ちが…… う、かも」
「むむー! 次はスイです! 私がするのです、タメツグ様はその次なのです!」
「なんで……」
「スイちゃん…… あ、俺もしたくなってきた」
「ううっ、もう帰りたい……」
無限に広がる大宇宙。
そこは謎と神秘が溢れる夢の世界。
誰しもが夜空に瞬く星々を見上げ、美しい世界に憧れたこともあるだろう。
しかし、現実は……
うんこ臭かった。
3
お気に入りに追加
158
あなたにおすすめの小説
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる