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異世界編 2章

第109話 異界その2

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 ハチミツの血生臭い悪臭が漂う森の中……

 「えぇ…… っと」

 正秀は呆れていた。
 
 「おい! 武器を捨てるんだ!」

 「……なんて卑劣な」

 ティティを人質に、悪役となった為次。
 手っ取り早く、面倒な状況を解決しようとの彼なりの考えらしい。
 だが、どう見ても頭のおかしな人にしか見えない。

 「分かりました……」

 ミミィは木の上から飛び降り、為次の前に立つと武器を捨てる。

 「さあ、これで、宜しいですか?」

 「おっ!?」

 「私はどうなっても構いません、その子を放してください」

 「ミミィさん…… 違うんです……」

 「よーし、いい子ちゃんだ」

 「くっ」

 本当はこのまま返してしまおうとの考えだった。
 どっか行ってしまえば、面倒臭くはない。
 それで終わりのはずだった。

 「次は、どうするのですか?」

 「なんか…… 言うこと聞くのね」

 思わず下心が出てしまう。

 「あ…… えっと……」

 「何する気だ為次?」

 「じゃあ、スカートたくし上げて…… とか? ダメ?」

 「ええっ!? お前マジで言ってんのか?」

 「っ!? 私をはずかしめる気ですかっ」

 「えっと」

 「いいでしょう……」

 「まじっ?」

 「ですが! 決して、そのようなことで私は屈しません!」

 「うぉぉぉ、マジでやってくれんの!?」

 テンションゲージMAXになってしまった為次君。
 もう、いても立っても居られない。
 血走った目で、今から表れるであろう秘密の花園を凝視するしかない!

 「んっ……」

 赤くなった顔を背け、スカートを両手で掴み上げてゆく。
 徐々に露わとなる白い太もも。

 「ゴクリ」

 正秀だって健全な男子だ。
 一緒になってミミィの太ももを凝視して生唾を飲み込んだ。
 仕方ない、仕方ないのだ!

 「おぉ……(も、もう少し……)」

 「為次め……(うぉ、なんてヤらしいことを)」

 チラリと白い布が見える。
 恥ずかしがるミミィの姿と相まって、最高のシチュエーションだ。

 「もうちょっと」

 「負けるなミミィ、がんばれ!」

 最早もはや、何を応援しているか正秀自身も分からない。
 そんな時だった。
 誰かが袖を引っ張っている。

 「ん?」

 見ると、ティティが袖を掴みながら困った顔で自分を見上げている。
 その表情に、自我を取り戻すことができた。

 「ハッ!(俺は何をやってるんだ! 極悪非道な為次から彼女を助けないと)」

 未だ為次は悶えるミミィを凝視している。
 ちょっとだけ見えてから、中々スカートが上がらないのだ。
 でも、それがいい!

 「為次すまねぇ!」

 「へっ?」

 それは、正秀の叫びに振り向いた瞬間だった。
 目の前にはジャスティスプリンスが迫っていた。

 パッカーン!

 「どぶっへぇ!?」

 「ひゃぁ」

 ティティの頭を霞めながら振られた大剣は、平べったいとこで為次の顔面を殴打した。
 吹っ飛ぶ為次は何が起こったのか分からない。
 飛ばされて、地面へと叩き付けられた時には、もう意識は無かった。

 「ハァ、ハァ、やったぜ……」

 「……え?」

 ミミィは唖然としていた。

 「安心しな、悪党は退治したぜ」

 「良かったですね、ミミィさん」

 「え、えぇ……」

 「もう、スカートを下ろしても大丈夫だぜ」

 まだスカートを、たくし上げたままだった。

 「きゃぁ」

 言われて気が付くと慌てて手を離し、お股を押さえる。
 よほど恥ずかしかったのだろう、顔を真っ赤にしてうつむいた。

 「その、あ、ありがとうございました」

 「悪党を懲らしめるのは、ヒーローの努めなんだぜ」

 「マサヒデさん、カッコいいです」

 「へへっ」

 こうして、世界の平和は保たれた。
 だが、その平和は一時の休息でしかない。
 まだまだ、この世に悪党は蔓延はこびるのだ。
 真の平和が訪れる、その時が来るまで頑張れ水谷マン。
 僕らの大剣マスター水谷マン!

 などと、正秀は悦に浸っていた。

 「ティティ、怪我は無いですか?」

 「はい、マサヒデさんが助けてくれましたから」

 「そうでしたか」

 「おう、熊に襲われてたからな」

 「熊?」

 「そこで半分になってるハチミツです」

 「まあっ、ハチミツからも助けてもらったのですね」

 「はい」

 「えっと、マサヒデ…… さん、でよろしいですか?」

 「おう」

 「申し遅れました。私はエルフの戦士ミミィです。この度は、ティティが大変お世話になりました」

 「なんにせよ、無事で良かったぜ」

 「しかし、この不届き者はいったい……」

 「タメツグさんですよ」

 「タメツグ? 何者ですか?」

 ミミィは地面で転がるむくろに近づくと、汚物を見るような目で見る。
 注)死んでません。

 「それは……」

 正秀はなんと説明していいのか分からなかった。
 言葉を濁すしかない。

 「こいつは…… その……」

 「とにかく、今の内に縛っておきましょう」

 「お、おう……」

 「この蔦は戦士の力でも、魔法でも切れません」

 ポーチからロープ状になった蔦を取り出し、縛り始める。

 「凄いな」

 「はい」
 
 そして……

 為次の両手両足を縛り終わると一安心。
 是非とも、お礼がしたいので里へ来てほしいとミミィに言われる。
 このままでは、縛った為次を何処に持って行かれるか分かったものではない。
 それに、エルフの里もどのような場所か少し興味がある。
 だから為次を担ぐと、申し出を受けることにした正秀であった。

 「じゃ、せっかくだから」

 「良かった、私達は恩義には忠実ですから」

 「こっちですよ、マサヒデさん」

 そう言ってティティは正秀の腕を引っ張る。

 「おう」

 里に向かう途中、為次を担ぐ正秀はティティのことを少し聞いた。
 なんでも、久し振りに生まれたエルフらしく、とても大切にされているそうだ。
 現在は11歳で、約三百年振りの子供らしい。
 そんな子が里の結界から出てしまったとのことで、急いで探しに来たと説明してくれた。

 ※  ※  ※  ※  ※

 しばらく森の中を歩いた。
 途中から白い霧のようなもので一面が覆われる。
 数メートル先も見えなくなった。
 その霧を抜けると、信じられない光景が目の前に広がっていた。

 その美しい世界に正秀は感嘆する。

 「うぉぉぉ、すげーぇ」

 「お前かよっ! 俺って書いてあるじゃん!」

 いつの間にか為次は気が付いていたようだ。

 「細かいことは気にしないで」

 「って、起きてんなら自分で歩けよ!」

 「いやいや、縛られてますしお寿司」

 「ったく、何もんだよ」

 エルフの里……

 言葉では言い表せない程に幻想的であった。
 先程までの森とは違い、大木が立ち並ぶ。
 その木と木が橋で繋がれており、木の上には家が建てられている。
 見上げると、エルフがウロウロと歩いているのが見える。

 それよりも、不思議なのが空であった。
 木々の狭間から見える空は、星も太陽も雲も無い。
 全ての色が混ざり合い、グラデーションの織り成す光の大河なのだ。

 「タメツグと言いましたね、気が付いたのですか」

 ミミィは為次を睨んだ。

 「あ、はい」

 正秀も呆れ気味に言う。

 「もう、悪さはするなよ」

 「俺はどうなっちゃうの?」

 「あなたには、長老に会っていただき、処分を決めてもらいます」

 「処分って?」

 「その命で償ってもらうか、良くても空へと流されるでしょう」

 「空へ…… 流す?」

 「はい」

 「ま、心配するな為次。俺が話を付けてやるぜ」

 「うん……」

 「あなた達、星屑の民に情けは無いと覚悟して下さい」

 「星屑の民って?」

 為次は訊いた。

 「天空から舞い降り、水の生命を奪った罪深い民です」

 「なんだそりゃ?」

 今度は正秀が訝しげに訊いた。

 「もう記憶は無いのですね」

 どうやら記憶を失うことを知っているらしいと、為次は思った。
 きっと、この住民であろうと考えているに違いないとも。

 「いや、勘違いしてないかな」

 「何がです?」

 「俺は、この世界の人間じゃないよ」

 「では何処から?」

 「日本って国で、いきなり知らない世界に飛ばされちゃったの」

 「……そう、時の放浪者ですか」

 そう呟くミミィは何か知っている様子だった。

 「時の…… 放浪者?」

 「時の狭間に飲まれ、流された人々のことです」

 「なるほどね」

 「どういうことだ? 意味が分からないぜ」

 「この空間自体が通常の宇宙じゃぁないってことかも」

 「んん?」

 「とにかく、長老とやらに会ってみましょ」

 縛られながらも軽口を叩く為次であった……

 ※  ※  ※  ※  ※

 それから少し歩くと、幹をくり抜かれ入り口となっている大木へと案内された。
 中は螺旋階段となっている。
 階段を登り外へ出ると、そこはまさにエルフの里だ。
 そこで出迎えてくれたのは、剣を携えた男のエルフであった。

 「お疲れ様でした、ミミィ様」

 「ただいま」

 「ただいまです」

 「ティティ、無事だったようだな。もう勝手に外へ出るんじゃないぞ」

 「はい」

 「ミミィって偉いさん?」

 為次は訊いた。

 「ミミィ様は、戦士団を率いる団長だ」

 「へー」

 「それで、この縛られている間抜けずらの奴は?」

 「彼は、ティティを襲い、私を辱めた不届き者です」

 「なんですって!?」

 「違うってばぁ」

 「お怪我はありませんか!?」

 「心配は要りませんよ、そちらのマサヒデさんに助けていただきました」

 「お、おう……」

 ちょっと後ろめたい正秀だが、まあいいかと思う。

 「君が助けてくれたのか、私からも礼を言うぞ」

 「う……」

 正秀はようやく、このままだとヤバイかなと思い始めた。
 女戦士のピンチを救ったヒーロー気取りなのはいい。
 だが、このままでは、どんどんと為次が仲間だと打ち明け辛くなってしまう。

 「それなんだが……」

 「ティティ、マサヒデさんを、おもてなしの部屋へ案内してくれますか?」

 「はい」

 「なあ…… ちょっと……」

 「ご苦労だったな、その間抜け面は私が運ぼう」

 「いや…… これは……」

 「マサヒデさんは、こちらですよ」

 ティティは正秀を引っ張って連れて行こうとする。

 「ま、待ってくれ」

 「どうかしました?」

 中々行かない正秀にミミィは聞いたが、ティティはお構いなしに正秀の欲望を誘ってくる。

 「マサヒデさん、向こうで美味しい料理とお酒に、お姉様方が待っていますよ」

 「お姉様? エルフのお姉さんか?」

 「はい」

 「エルフのお姉さん……」

 担いでいる為次をチラリと見ると、耳元で囁く。

 「悪りぃな、後で必ず助けにいくから」

 「はっ?(怒)」

 決心の決まった正秀は、縛られて芋虫みたくなっている為次を男エルフに渡す。
 そして、ティティに連れられ、きっとファンタスティックな世界であろう別の木へと向かうのだ!

 振り返ると、自分の仲間はミミィに悪態をつかれバシバシと叩かれている様子だ。

 そんな為次を見て、正秀は一言。

 「エルフのお姉さん!」

 と。
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