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異世界編 2章

第83話 襲撃その5

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 スイに担がれ、牽引される防衛艇へと連れて来られた正秀。
 コボルト混じりのゴブリン集団に襲われ、てんてこ舞いなのです。
 そんな時に為次からの勝手な依頼で、必殺バーニングハートによる敵殲滅をすることになったのだが……

 「どーすんだよ! 必殺技を使う暇も無いぜ!」

 「私がマサヒデ様を守るので、その隙きにお願いするのです」

 「無理だろ! こうも数が多くちゃな! っと、うりゃー!!」

 大剣をブン回して次々と襲い来るゴブリン達を薙ぎ払いつつもスイと相談する正秀だが、ぶっちゃけ埒が明かない状態だ。
 いくら斬っても、ぶっ叩いてもどんどんと湧いてくる。
 スイも頑張って応戦してはいるものの、どう見ても必殺技を使う余裕が確保できそうもない。
 それもその筈である、ポンタの街を襲撃に来た魔獣の殆どが、二人の居る防衛艇に集まっているのだから。

 「為次のヤロー、適当なことばかり言いやがって! くそー! 覚えてろよ!」

 「ご主人様の作戦は完璧なのです! 完璧な筈なのです! 完璧だったらいいような気がするのです……」

 「スイちゃん、あんな奴の言うことを真に受けてもしょーがないぜ」

 「ぬぬぬぅ…… でりゃぁぁぁ! とりゃぁぁぁ! うがぁぁぁ!」

 スイは自分のあるじを擁護する言葉がまったく思い浮かばず、ガムシャラにライトブレードを振り回す。
 もっとも、誰がいくら考えても為次の擁護をするなど不可能だ。

 「スイちゃん……」

 そんな時だった……

 「もしもしぃ、まだー? 早くしてよ」

 無線機から為次の声が聞こえる。
 先程、こちらが文句を言おうとしたら、一方的に電源を切ったくせにだ。
 しかも、催促の連絡ときたもんだ。
 最早、イライラはMAXである上に更に次の通信を聞いた正秀は驚愕する。

 「もしもしぃ、そっちのワイヤーが引っ掛けてあるとこを根本からぶっ壊して切り離してちょ。そしたらスイ、マサを担いで思いっ切り上にジャンプして蹴り落とすんだよ。落下中に必殺技を使えばバッチリだよ。もしもしぃ、もしもしぃ、さっさとよろしくね」

 「ふざけんなぁ! 俺を人間ミサイルにする気かぁぁぁ!!」

 もう送信ボタンを押す暇も無い正秀は文句を言うこともできず、ゴブリンの海で叫んだ!

 「うぉぉぉ! 流石、ご主人様なのです! ささっ、マサヒデ様やりますよ!」

 「待つんだスイちゃん、そんなことしたら俺が無事じゃ済まねぇ!」

 「大丈夫なのです、何も問題ないのです、スイにお任せ下さい」

 そう言って、スイはライトブレードをワイヤーの繋ぎ目に向けトリガーを引いた。
 すると、光の刃が柄から離れ飛んで行き、ワイヤーを引っ掛けてある船の先端にあったフックみたいな物を切断する。
 
 ズバッ! ガシャン!

 とうとう、防衛艇は切り離されてしまった。
 レオパルト2はどんどんと離れて行き、二人は置いてけぼりを喰らう。

 「スイちゃぁぁぁん! なんてことをっ!」

 「ご安心下さい。ご主人様の作戦なので多分絶対に上手く行くはずだと嬉しいです!」

 「多分ってなんだよ! 絶対じゃないのかよ、意味分かんねーぜぇ!」

 もう魔法の援護も無くなってしまった。
 こうなっては正秀も腹を括るしかない。

 と、そんな余裕も無く……

 「うわっぁ! スイちゃん!?」

 「行きますよマサヒデ様! とおぉぉぉぅ!」

 「ちょっと待ってく……… うわぁぁぁぁぁ……」

 スイは正秀の首根っこを掴み、気合のジャンプ!
 常識では考えられない高さまで飛び上がる。
 二人に釣られゴブリン達も山のように重なり合い襲い掛かる。
 しかし、スイの驚異のジャンプにギリギリ追い付けなかった。

 「す、すげぇ……」

 上から見るゴブリン山は圧巻であった。

 「ではでは、よろしいですか?」

 「……いいぜ、スイちゃん。こうなりゃヤケだ!」

 スイは首根っこを空中で離すと、正秀は大剣の重みを利用して体を下に向ける。
 そして、スイは体を捻らせ回転し空中回し蹴りをする。

 「どりゃぁぁぁぁぁ!!」

 スイの回し蹴りが正秀の足裏を蹴り落とす!
 凄まじい衝撃と共に、人間ミサイルが撃ち出された!

 「はぁぁぁ! 喰らえ、これが俺の渾身の必殺技だぜ!」

 蹴られた勢いでゴブリンマウンテンへと突っ込む正秀。

 「必殺ぁぁぁっ! バァァーニィィィング! ハァァァート!!」

 大剣を下に向け、剣気のオーラを全身に纏った必殺技が打ち下ろされる。
 正秀は緑色の蠢く大地へと、真っ逆さまに突っ込んで行くのであった。

 ※  ※  レオパルト2周辺  ※  ※

 戦車の居残り組は少し離れた場所から、光の矢がゴブリン目掛けて発射される様を眺めていた。
 防衛艇が離れてから、急いで距離を取ると反転し装甲の厚い車体前部を戦闘方向へと向けている。
 おかげで為次も、あの凄まじい必殺技を白黒のモニターではなく肉眼で観察できていた。

 「予想以上にすげーな、こりゃ」

 「マサヒデ…… 大丈夫かしら……」

 「彼は一体何者なのだ?」

 「マサヒデさんだよ、お姉ちゃん」

 「うむ、それは知っている」

 「うん……」

 剣気を纏い、光り輝く正秀がゴブリンの山に突っ込んで行く。
 そして、その直後には凄まじい爆音と衝撃波が伝わって来た。

 ズゴォォォォォーン!!

 「うひゃぁぁぁ!」

 大人しいシムリも叫びを上げながら、衝撃波から腕で顔を覆って見ていた。
 為次も、その威力にビックリ仰天だ。

 「ここまで届くのかよ……」

 大地を揺るがす衝撃波が次々と魔獣を襲い、飲み込んで行く。
 最初に使ったバーニングハートとは桁違いの威力である。
 吹き飛ばされた肉片は、レオパルト2まで届き降り注いで来た。
 あたり一面は、肉片と緑の液体の雨アラレといった感じで異様な情景を醸し出していた。

 そんな中で空中のスイも、衝撃波に煽られ体制を崩しながらジタバタしているのが見える。
 しかし、落下ダメージ程度では死ぬことはないので皆にスルーされるのであった。

 「……それでも、数が多過ぎるわね」

 マヨーラも顔を腕で爆風から庇いながら言った。

 「外側のゴブタソは耐えてる感じか……」

 為次の言うように防衛艇の中央の敵は殲滅したが、離れた周りには結構な数がまだ残っている様子だ。

 「マヨーラさん! 手伝って下さい!」

 「ぬおっ!?」

 唐突に叫ぶシムリに為次はちょっとビックリ。
 だがマヨーラはシムリの意図を直ぐに理解した。

 「分かったわ」

 シムリとマヨーラは砲塔の上に立つと、見つめ合い頷く。
 そして、手を繋ぎ片手で杖を天に掲げるのだ。

 「何すんの?」

 「ふふ、見てるがいいぞ、タメツグ君」

 二人は呪文を唱え始める……

 「「森羅万象を司いし精霊達よ、天空の彼方より彼の者を呼び寄せ、大いなる厄災と共にその比類なき力による劫火で焼き尽くす釁隙を現せ……」」

 空中に複数の魔法陣が形成される。
 その魔法陣は防衛艇のあった場所を中心に、円を描くように繋がっていた。
 遠目に見ると、それは円形に繋げた鎖のようにも見える。

 「な、なんだ……」

 為次は唖然として空を見上げた。

 「「究極魔法! メテオォォォ! ストラァァァーイク!!」

 ゴゴゴゴゴ……

 まるで天空より地鳴りが響き渡るかのように、不気味な音が鳴り響く。
 一つ一つの魔法陣から真っ赤に燃え盛る岩が姿を現し始めた。

 「「バァァァストォォォー!!!」」

 2人のかけ声に呼応するかの如く、複数の隕石が残った周りの魔獣目掛けて落下して行く!
 辺りは夜とは思えないほどに、赤く眩しく照らし出される。
 それはまるで、この世の終わりかと思える光景であった。

 そんな照らし出される夜空に、為次は何かが浮いているのを見つけた。

 「ん? 飛行艇? あの時のか?」

 よく見ると、横にも小さな飛行艇が接舷しているのも確認できる。

 「なんでこんなとこに……」

 ※  ※  究極魔法M.S.B中央付近  ※  ※

 正秀は仰向けに大の字になって倒れ、天を仰いでいた……
 夜空が赤く燃え盛る様を眺めているのだ。

 「はぁ…… はぁ…… どうなってんだ……」

 そこへスイが駆け寄って来る。

 「マサヒデ様、ご無事ですか?」

 「ああ、スイちゃん、なんとか生きてるぜ」

 「良かったのです」

 「でも、体が動かないぜ…… ヒールポーションをくれないか?」

 「はい…… ですが最後の一本なのです。これを飲んで下さいです」

 そう言いながら、スイは小瓶を差し出す。
 しかし、正秀はそれを受け取る力も残ってはいなかった。

 「はぁ…… すまないが飲ませてくれないか?」

 「はいです」

 スイは小瓶を正秀の口元に持って行き、流し込む。
 なんとか飲み込むだけの力はあるようだ。
 ゴクゴクと飲む正秀は少し安心した。
 ヒールポーションの性能はよく知っているから。

 「ふう、助かったぜ、ありがとなスイちゃん」

 「どういたしまして、です」

 「? まだ効かないぜ……」

 「申し訳ありませんが、ヒールは入ってないのです」

 「え? なんのポーションなんだぜ?」

 「プロテクションとアンチファイアですです、効果を上げる為にその2つだけです」

 正秀は落下してくる隕石を見ながら、その言葉を理解した。

 「スイちゃんも飲んだのか?」

 スイは返事をせずに、ただ黙って笑っている。
 辺りには不気味な音と熱が、恐怖を煽るかのように埋め尽くしていた。

 「おい! スイちゃん!」

 「大丈夫ですよ、ご主人様の保護者はスイが守るのです」

 スイは正秀に覆い被さった。

 「スイちゃぁぁぁん!!」

 叫ぶ正秀の声は爆音と熱風に遮られ、辺り一面は大量の砂埃に覆われ何も見えなくなった……

 ※  ※  ポンタ上空の王宮飛行艇甲板  ※  ※

 「おいターナよ、ちぃとやり過ぎじゃねーのか?」

 貞宗は地上を見下ろしながら言った。

 「あら、そうかしら? でも、勝負はついたようですわよ」

 「それより、サダムネのおっさんは、こんなとこで油売ってて良かったのかい?」

 スレイブは言った。

 「お前らを止めるのが、手っ取り早いと思ったんだがな……」

 「残念だったな」

 「本当に何がしたいんだ?」

 「分かっているでしょう、神々の降臨だと」

 「そんなもん来る分けねーだろ、ったく」

 「ふふっ」

 妖艶に微笑むターナを見ながら貞宗は少し戸惑っていた……
 神など居ない、来る分けもない。
 それは頭では理解している。

 だが、日に日にそれは正しいことではないかと言う感情が強まってくることに……
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