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異世界編 2章

第81話 迎撃その3

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 お肉大作戦を決行することにした為次。
 そこら辺にある陸上艇に、肉を詰め込んで囮にしようというのだ。

 もっとも、一人では無理に決まっている。
 なので、そこら辺の冒険者に協力を仰いで説明会を開こうかなと、そんな状況であった。

 「じゃあ説明します」

 「おう、どうしようってんだ?」

 船長はさっそく聞こうとするが……

 「と、その前にもうちょい人手が欲しいので、あそこの2人も呼んで来てよ」

 そう言いながら、為次は門扉を開けてくれた戦士風の冒険者2人を指した。

 「分かった、私が呼んで来よう」

 「よろ」

 シャルは戦士風冒険者を呼びに行ってしまった。
 その後ろに隠れていたシムリは隠れる場所を失い、おろおろしている。
 1人ぼっちになったせいだろうか、落ち着きもない。

 「あうう(ううっ、1人になっちゃった、お姉ちゃん…… でも…… これなら、助けてもらった、お礼を言うチャンスかも)」

 シムリは子供の頃から、何をするにしても姉と一緒であった。
 気が弱く人と話すのが苦手なシャイガールなのだ。
 この世界の女性は何かとエロい格好をしているのだが、シムリはロングスカートのエプロンドレスと言った感じの服装で露出は極めて控えめである。
 レオタードに胸当と腰巻を付けた程度の姉であるシャルとは正反対であった。
 だが、そんな気弱な性格を自分でも良くはないと思っていた。
 
 だから、勇気を出して為次に話しかけようとする。

 「あ、あの…… あの……」

 「あ、はい? なんすか?」

 「えっと…… その……(ちょっと、怖そうな人だけど…… 勇気を出さなきゃ、何時もお姉ちゃんに言われてるし。まず、自己紹介した方がいいよね。うん)」

 「どうかした?」

 「あの…… 私、私、な…… な、名前!」

 「え……? ああ、名前ね、為次だよ」

 「ううぅ(違うの、さっきお姉ちゃんと話してたの聞いてたから、名前は知ってるよ)」

 「……?」

 「あ、あううう…… その……」

 「んー? あ、ちょっと待って」

 「あ…… え? あうう……」

 シムリが話し掛けようとしているが、為次はゴブリンが迫って来ている方が気になる。
 話を聞くのも説明するのも、とりあえず敵をどうにかしないとマズい。
 仕方ないのでシムリは、ほっといてゴブリン達を少し追っ払うことにした。

 「スイは……」

 スイは何時の間にか少し離れた場所で、ライトブレードを振り回しながら戦っていた。
 為次にゴブリンを近づけさせないようにと、頑張っているようだ。
 流石に戦闘経験豊富なだけあって、他の冒険者を凌駕する身のこなしである。
 それでも、一人では多勢に無勢であるので呼び戻すことにした。

 「おーい! スイっ」

 「なーんでしょーかぁー!?」

 「こっち手伝ってよー!」

 「はーいっ、ですー」

 呼ばれたスイは直ぐに戻って来た。
 体じゅうにはゴブリンの血であろう、緑色の液体が沢山付着している。

 「どうしますか? ご主人様」

 「キャニスター入れて」

 「はいです」

 二人は戦車に搭乗すると、スイは何時もの場所で今しがた言われたキャニスター砲弾を即座に装填する。

 「装填です」

 「あいよ」

 為次はどっかに行ってる正秀の代わりに、車長席に座ると砲撃準備を始める。

 「とりあえず、正面に撃っときゃいいかな」

 比較的ゴブリンが多い場所へと、スティックを動かし適当に狙いを定める。
 
 「発射ぁー、どーん」
 
 爆音と同時に砲身からカートが射出されると、直ぐに破裂した。
 ワッズから無数の小さな弾がばら撒かれ飛散する。
 砲弾の前方に居たゴブリン達は避ける間もなく、弾丸を浴びまくるしかなかった。
 体液と肉が飛び散り、跡には無惨なゴブリンであったろう物が散乱するのだった。。

 「スイ、榴弾」

 「はいです」

 返事をしながら、直ぐさま後ろの弾薬庫から再装填を開始する。

 「装填です」

 「りょかい、喰らえ」

 キャニスター砲弾を撃った直後だが、続けざまに今度は榴弾を撃ち込む。
 仲間が│突如《とつじょ》ミンチになって慌てふためくゴブリンの元へと、更なる榴弾のプレゼントである。
 着弾した砲弾は破裂し、敵をふっ飛ばしながらの盛大な花火となった。

 「うぉぉぉ! 結構、│惨《むご》たらしいな」

 それを見ていた他のゴブリンやコボルトは、お肉が目当てでも流石に躊躇ちゅうちょした様子だ。
 こちらに向かって来るのをやめると、距離を取りながらウロウロし始めた。

 「こんなもんかな、スイ出るよ」

 「はいです」

 「と、その前にマサを呼んどくか」

 為次は無線のコールボタンを押して、正秀を呼び出し始めた。
 すると、直ぐに連絡が入ってくる。

 「どうした? 何かあったのか?」

 「もしもしぃ、遊んでないで、そろそろ戻って来てよ」

 「別に遊んでないぜ」

 「もしもしぃ、なんでもいいよ、とにかくこっちに来てよ」

 「……おう、俺もちょっと疲れてきたしな、それじゃ直ぐにそっちに向かうぜ」

 「もしもしぃ、早くね」

 「了解」

 通信が終わり二人は再び降車すると、戦車の周りには数人の冒険者がウロウロしていた。
 サダムネキャノンと呼ばれる武器を使用したので、その威力を│目《ま》の当たりにし興味本位で近づいて来たようだ。

 「うお、スゲーなこれは」

 「俺も初めて見たが、これほどまでとは思わなかったぜ」

 「俺は昔に見たことがあるが、あの時も凄かったぜ、なにせグリフォンの体を突き破って一撃で葬ってたからな」

 「それ、マジかよ」

 「噂じゃ、少し前のマンティコアの頭部を消し去ったのも、サダムネキャノンらしいぜ」

 「嘘だろ、やーべって、絶対」

 「だよな」

 そんな、ざわつく冒険者を掻き分けながら、シムリが近づいて来た。

 「あ…… あにょ! あの! あう…… あううう」

 「えっと…… 何かな?」

 「……(今度こそ自己紹介するんだよ)」

 「……?」

 「あうっ!(そうだ、助けてもらったお礼も言わなくちゃ。がんばれ私)」

 シムリは為次に向って必死に話そうとする。

 「あう…… あう…… そにょ、タメツグさん!」

 「んふ?」

 シムリは頑張って話そうした。
 と…… 今度は、そこへシャルが戦士2人を連れて戻って来た。

 「連れて来たぞ。タメツグ君」

 「なんでも作戦があるって聞いたが?」

 「サダムネキャノンの威力は見せてもらったよ、期待していいのかな」

 「ぎひぃ!?(お姉ちゃん、どうしてこのタイミングで戻って来るの!?)」

 「どうした? シムリ」

 「うぅ…… 酷いよお姉ちゃん」

 「何がだ?」

 「せっかく…… せっかく、勇気を出して…… ううー」

 「どうしたというのだ? シムリ」

 「お姉ちゃんのバカー!! うぇぇぇん! えーん」

 シムリは泣き出してしまった。
 突然、理由も分からず馬鹿呼ばわりされた挙句、泣き出す妹にシャルはどうしていいのか分からない。
 シムリのそばでオロオロするしかなかった。

 「泣いちゃったね」

 為次は言った。

 「どうしたと言うのだ、シムリ! 泣いていては分からないぞ」

 「うわぁぁぁぁぁん! うぇぇぇぇぇん! お姉ちゃんのあんぽんたーん!」

 とそこへ、正秀とマヨーラも戻って来た。
 当然、二人も知らない女の子が泣いているこの状況が理解できない。

 「よう為次、来たぜ…… ってなんだこの泣いてるは?」

 「誰なの? タメツグが泣かせたの?」

 「シャルとシムリだよ、泣いてる方がシムリで2人は姉妹だってさ」

 「ふーん、で、なんで泣いてるのよ?」

 「さあ?」

 「さあって、あんたが泣かしたんじゃないの?」

 「違うって! なんもしてないよっ」

 「それならいいんだが、それより何か用があって呼んだんじゃないのか?」

 「そうです、そうなんです。とにかく、あまり時間もないしシムリには悪いけど、お肉大作戦の説明会を開きまーす」

 「なんだ? お肉大作戦? 大丈夫か? 為次」

 「いいから、みんな集まってよ」

 しかし、皆は好き勝手に行動して集まっては来ない。
 しかたないのでシャルが大声で叫ぶ。

 「おい!! みんな集まれ!! これより掃討作戦の説明を行うぞ!!」

 シャルの透き通った声が響き渡ると、ようやくぞろぞろと集まって来た。
 冒険者は基本的に個人プレイが多い。
 パーティー内での絆は強く連携が取れているのだが、パーティー同士はそれぞれがライバルとなる。
 その為に複数での行動は、あまり得意とはしないのだ。
 
 それでも皆は、今の戦況がかんばしくないのもあり、シャルの呼びかけに何とか集まった。

 「よっしゃ、これだけ居ればいいかな。隊長を全然見かけないけど、まあいいか。それじゃ聞いて下さーい」

 と、為次は皆が集まったのを確認すると説明を始める。

 作戦内容はこうだった……

 まず初めに、レオパルト2に積んである食料を全て防衛艇に移し替える。
 そして、身軽になったレオパルト2で、その防衛艇を牽引するのだ。
 この状態で魔獣の居る所を走り回れば、お肉欲しさに付いて来るはずである。
 こうして、ゴブリンどもを一ヵ所に集めてしまえば後は正秀の豪快な技で一気に殲滅させ、足らない攻撃力は闘魔導士の魔法で一斉射撃を行うのだ。

 もっとも、完全にすべての魔獣を集めれるとは思っていない。
 あぶれた魔獣はその都度、戦士が各個撃破すればいいので、走って戦車に付いて来てもらう。
 これならば、バラバラで戦っている冒険者も自警団もゴブリンもコボルトも総力戦で決着がつけれるであろうとのことであった。

 どうやら為次は、この作戦がパーフェクトであると思っているらしく、自信満々で話していた。
 正秀も自分の役目が最後の大取りに大変ご満悦である。

 そして、シムリは説明が終わる頃には泣き止んだ様子で、涙目ながらも為次を見ながら思うのだ。

 タメツグさん、この作戦が終わったらちゃんとお礼を言うからね。
 それに、言葉だけじゃなくて、ちゃんとしたお礼もしなくちゃ。
 何がいいのかな? 私の体をーって、きゃー!

 そんな、涙目で顔を赤くしながら恥じらう妹を、シャルは困惑した面持ちで見ているのであった……
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