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異世界編 2章

第71話 再会

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 ポンタの街に着いて早々に、ゴタゴタに巻き込まれた戦車クルーの一同。
 しかし、1人の青年おかげでその場はなんとか収まった。
 その青年こそが目的の人物であるサダムネであったからビックリだ。
 それ以上に驚いたのが、為次の苗字を知っていた。
 確かにサダムネは言ったのだ『山崎』と。
 この異世界では一度も名乗ったことの無い苗字を……

 「あ、あの…… こんにちは」

 まだ、午前中だ。

 「おはようだぞ、山崎」

 「あ、はい」

 「挨拶くらいしっかりしろ! 相変わらずたるんどる奴だな」

 「え……」

 為次はハッチから頭を引っ込め、正秀を振り向く。

 「ねぇ、マサ」

 「ああ、アイツお前のこと知ってるみたいだが知り合いか?」

 「そんな分けないでしょ」

 「だよなぁ」
 
 正秀もサダムネが気になる。
 ペリスコープで見ることはできるが、砲手席からでは会話がし辛い。
 だから、マヨーラが半身を乗り出している車長ハッチ移動すると、一緒に頭を出した。
 
 「マサヒデ……(ち、近いわね…… だから、臭いのに)」

 為次も再び運転手ハッチから頭を覗かせる。

 「出たり入ったり、亀みたいな奴だな」

 「は、はぁ」

 「返事も、もっとシャキッとしろ」

 為次鬱陶しいガキだと思い、あからさまに嫌そうな顔をした。
 そんなことは、お構いなしに今度は正秀を見るサダムネ。

 「お前の教え方が悪いんじゃないのか?」

 「は? なんだお前は」

 「ふむ、まあそうか…… しかし、お前らは30年経っても全然変わらんな」

 「「え!?」」

 正秀と為次は驚いた。

 「ん? 何かおかしいか?」

 「なんだか、訳が分かんねーぜ」

 「ねーねー、サダムネさん」

 「どうした? 山崎」

 「とりあえずさ、荷物渡したいし、ちょっと聞きたいこともあるんだけど」

 「おお、それもそうだな。それに、何時までもこんなトコに戦車を置いといたら、往来の邪魔だしな」

 「やっぱり戦車も知ってるんだ」

 「当たり前だ。それよりうちに案内してやる」

 サダムネは勝手に砲塔へ飛び乗る。

 「俺は、ここで我慢するか」

 と、装填手ハッチをこれまた勝手に開けてしまうのだ。
 中ではスイが寝ている。

 「はむ~、むにゃむにゃですぅ」

 「……誰か居るぞ」

 「うちの装填手です。スイって言うの」

 「こいつが装填手?」

 「うん」

 「うん、じゃないだろ! はい! だ、はい!」

 「あうう…… あの、おっさんみたいだなぁ。もう」

 「…………」

 為次が愚痴を言うとサダムネはそれ以上何も言わなかった。

 「ついでに、あたしも自己紹介しとくわね」

 「知ってるぞ、ターナんとこのマヨーラだろ」

 「あら、知ってたの…… あたしも有名人ね。ふふ」

 「それじゃ、マヨーラ、下に移動してくれないか? 俺は砲塔でいいから、サダムネさんに車長席に入ってもらうぜ」

 気を使う正秀だが……

 「そう気を使うな水谷、俺は砲塔でいいぞ」

 「え?」

 「ん? どうした?」

 「どうして俺の苗字を知ってるんだ?」

 「ふむ、それも後で説明してやる、とりあえず移動だ。何時までも道の真ん中に戦車を置いとく分けにもいかん」

 「は、はぁ……」

 正秀の気の抜けた返事を聞くと、為次は再び移動を開始する。

 「じゃあ、動くよー。落ちないでね」

 「ああ」

 レオパルト2はサダムネを砲塔に乗せて動き出す。
 若干、定員オーバー気味だが問題ない。

 「で、どっち?」

 「このまま、真っ直ぐ行って、33本目の角を左だ」

 「33…… マサ、数えといて」

 「おう、任せな」

 ……………
 ………
 …

 あれから結構、進んだと思う。
 それなりの距離を走ったはずだ。
 予想以上に広い街である。
 それに、十字路が等間隔で並んでいるので同じ場所を走っている感覚になってしまう。

 「なんか、綺麗に建物が並べてあるな」

 正秀が言うと為次も感心して言う。

 「うん、道が測ったように通ってるし」

 「どうだ? 驚いたか?」

 何故かサダムネは自慢げである。
 正秀だって感心するしかない。

 「ああ、凄いなこれは」

 「道が完全に碁盤の目状になるよう、建物を建てたからな」

 「建てた?」

 為次は訊いた。

 「ん? それも聞いてないのか? この街を造ったのは俺だぞ」

 「「ええ!?」」

 正秀と為次は驚いた。
 この巨大な街を、この青年が造ったとは信じられない。

 「驚いてないで、次の角だぞ」

 「まじすか、マサ数えてよ」

 「悪りぃ、悪りぃ、途中で分かんなくなったぜ」

 「んもぅ」

 そして、33本目の角を曲がり更に3本目の角の右手にサダムネの家があった。

 「ほら、そこ右手の建物だ」

 示された家は他の建物同様にレンガ造りで素晴らしい建築物だ。
 しかし、そに横にある倉庫らしき建物だけが異様に違和感を放っている。
 どう見ても、日本の町工場のような見た目なのだ。
 この閑静な街並みには、とても似合わない。

 「着いた」

 為次は、とりあえず倉庫の前に戦車を停めた。
 目の前には倉庫の大きな横開きの扉がある。

 「ちょっと待ってろ、今開けるから」

 「うい」

 「まともに返事もできんのか……」

 サダムネはぶつぶつ言いながら砲塔から飛び降りると、倉庫の扉をあけ始める。

 ガランゴロン ガランゴロン……

 扉が開き日の光が倉庫内を照らし出す。
 倉庫の中を見た正秀と為次は、この世界に来てから、これほど驚いたことはないだろう。
 否、もはや驚くなんてものではない。
 その光景はにわかには信じられない。

 信じたくなかった……

 ターナの言った言葉が頭をよぎる……

 「あなた方の乗って来た陸上艇に似たのに乗ってらしたわ」

 ……と。

 「なんだよ、こりゃ……」

 そう言いながら正秀は降車すると、倉庫の中へと入っていく。

 「どうだ? 懐かしいか? 30年経った今でも現役でいるのか?」

 正秀は倉庫の中に置いてあった、陸上艇を目を見開いて見ている。

 「あんたは…… あんたは……」

 ヨタヨタとサダムネに近づき……

 「あんたは、何言ってんだよっ!!」

 サダムネの胸ぐらを掴みながら叫んだ!

 彼の正体が分かったから……

 「マサ……」

 「お、おい、どうしたんだ?」

 サダムネは突然に叫ぶ正秀にたじろぐ。
 怒っている理由が分からないのだ。
 
 「ちょっと、マサヒデ何してるのよ」
 
 マヨーラも驚いた様子で降車すると正秀に近づく。

 「ねぇ、やめてよマサヒデ」

 「うるさい! 俺はこいつに話があるんだ!」

 怒鳴りながら掴んだ胸ぐらを揺する正秀。

 「マサヒデ……」

 「分かったから、少し落ち着け」

 「これが、落ち着いていられるかぁ!」

 「何を怒ってるんだ?」

 「あんた一体、誰なんだよ!」

 「もう、分かっているだろ?」

 「くそぉ… くそぉ…… なんだよこれ……」

 サダムネから手を離し膝まずくと涙を流しながら言う。

 「ふざけるなよ…… 意味が分かんねーぜ…… ううっ」

 愕然とする正秀の前に、それは静かに鎮座していた……

 日本の主力戦車である『10式戦車』が。

 「山崎」

 「あ、はい?」

 「レオパルトは中に入れて、こいつの隣に置いとくんだ」

 そう言いながらサダムネは10式を指す。

 「はぁ」

 「気の抜けた返事だな」

 為次はレオパルト2を動かすと、倉庫内の10式の隣に移動させる。
 横から見ると、砲塔の横には変な魚の絵が描かれていた。
 その魚は全体は金色で模様が赤色で描かれている。
 頭はスッポンにような間抜け面をしており、尾ビレを上に跳ね上げた変なポーズ取っているのだ。

 見間違えるはずもない……

 それは正しく正秀と為次が所属していた、陸上自衛隊第10師団のエンブレム、金鯱きんしゃちであった。
 通称、金鯱きんこ師団。
 
 為次もレオパルト2を駐車すると車内から出て来た。

 「ねぇ、サダ…… 隊長さん」

 「さんを付けるな、このロン毛野郎!」

 「何、そのネタ……」

 為次の前にいる男、サダムネ。
 彼こそ正秀と為次、二人の所属している部隊の隊長『亀田 貞宗』であった。
 美濃加茂で敵部隊突破を敢行した二人を助けてくれた、あの隊員Aである。

 あの時は、おっさんであった。
 だが、今の貞宗は凄く若い。
 まだ二十歳はたちにもなっていないようにも見える。
 そので立ちも、戦闘服とは違い実に風流だ。
 まるで、昔の流浪人のような着流しを着ており、腰には5尺はあるだろうか? 太郎太刀クラスの大太刀をぶら下げていた。

 「で、なんだ? 山崎」

 「えっと、ですねぇ」

 「相変わらず、イライラする奴だな。30年経っても全然変わらんな」

 「いや、それなんすけど」

 「早く言え」

 「俺達は30年も経ってないんすよ」

 「ん?」

 「美濃加茂で変なミサイルが飛んできてから、まだ十二、三日くらいしか経ってないんすよ」

 「どういうことだ?」

 正秀は立ち上がると貞宗を睨みつける。

 「隊長、簡単なことですよ」

 「水谷……」

 「一緒に爆発に巻き込まれて、隊長だけ30年早くこの世界に来たんです」

 「それか、俺達が30年遅く来ちゃったか」

 「……お、お前達はあれから助かって、30年後に他の要因で飛ばされたのではないのか?」

 「違いますよ…… あの時、あの桜の木の場所ですよ……」

 うなだれる正秀を見ながら、為次は考える……

 あの時、美濃加茂の坂祝中で俺達と隊長は一緒に飛ばされたらしい。
 しかし、僅かな場所の差か? 時間の差か? は分からないけど、30年のズレが生じた。
 俺達、人間にとっては長い年月だ。
 でも、本当は誤差にもならない程の差なのかも知れない。
 この広い宇宙や時空にとっては、30年など瞬きすらできない僅かな時間かも知れない。

 既に30年過ぎ去った。
 帰れたとしても、それは、100年後、200年後……
 下手をすれば、数万年、数億年……

 為次は、それを正秀に言える勇気は無かった……
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