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異世界編 1章

第51話 必殺技その4

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 為次はこの状況がなんなのかよく分からなかった。

 目の前に立つスレイブは、受け取ったデザートイーグルを見ながら楽しそうに笑っている……
 その後ろでは、スイが悲しそうに為次を見つめている……

 どうやらスレイブは、ガザフ邸での出来事を知っている様子である。
 そして、今は自分の所持する唯一まともな武器である銃を取り上げられている。
 そのスレイブは自分に用があると言って、武器を見に訪ねて来た筈なのだが……

 「あの……」

 「ん? なんだ? タメツグ」

 「用って…… もう、いいのかな……」

 「ああ、そうだな」

 「じゃあ、デザはもう返してもらっても……」

 「まあ、そう焦るなよ」

 「焦ってないけど……」

 「おい、ターナ」

 スレイブは呼びかけると、デザートイーグルをターナに向かって放り投げてしまった。

 「あっ!? ちょ……」

 ターナはデザートイーグルを受け止めようとするのだが、手が滑ってしまい上手く受け取れなかった。
 その拍子にターナの手の中で跳ねると、そのまま、おっぱいの谷間に挟まってしまったのだ!

 「きゃっ! なんですの!」

 「うぉ……」

 「しっかり受け取りな」

 「もう、スレイブったら……」

 そんな、おっぱいに銃を挟みながら文句を言うターナを無視して、スレイブは為次ぐに向かって言う。

 「実はな、もう一つ用があってだな」

 「え? もう一つ…… 何?」

 「この奴隷の件なんだが」

 そう言いながら親指で後ろに居るスイを指した。
 
 「スイがどうかしたの?」

 「お前がもう要らなくて、捨てたそうじゃないか」

 「いや、そんなことは……」

 「それで、譲ってもらおう思ってな」

 「えっと……」

 「側に居られると、迷惑だって聞いたぜ」

 「…………」

 「どうなんだ?」

 為次はちょっとだけ悩んだ……

 しかし、答えは分かっている。
 少し前に自分が正秀に言ったことなのだ。
 スイを日本に連れて帰る分けにはいかない。
 必ず別れる時は来る。
 その時が来ても、スイが一人で生きて行くのが難しいのなら、誰かに預けるしかない。
 それが、ターナやスレイブならば、ちょうど良いかもしれないと思うのであった。

 「そうだね」

 「なんだ、本当にいいのか?」

 「う、うん……」

 それを聞いたスイは、今にも泣き出しそうであった。
 本当に自分はタメツグにとって不要な存在であり、迷惑なのだろうかと思ってしまう。

 「ご主人様ぁ……」

 「そうかい、それじゃ遠慮なく頂くぜ」

 スレイブはスイに近づくと、悲しそうにうつ向くスイの顎を片手で掴み、顔を無理矢理に持ち上げると……

 「ありがとよっ!」

 そう言いながら、もう一方の手でスイの腹を思いっ切り殴り飛ばした!

 「うっ! げはぁ!」

 大剣をも軽々と振り回す戦士の力は壮絶なものであった。
 華奢な少女の身体など、簡単に殴り飛ばされてしまう。
 スイは数メートルも飛ばされてしまい、ターナの足元へと転がって行った。

 「うっ…… げぇぁっ……」

 あまりの衝撃に、息もままならず、まともに呻くことすらできない。
 殴られたスイは、もがきながら口から血を吐くだけであった。

 突然の出来事に、為次は我が目を疑った。
 そ慌ててスイに駆け寄ろうとするのだが……

 「スイっ!」

 しかし、為次の前にスレイブが立ちふさがる。

 「どうした? タメツグ」

 「スレイブ…… 何をやって……」

 「何って、さっそく貰った奴隷で遊んでるだけだろ。何かおかしいか?」

 「だって……」

 「要らないんだよな?」

 「…………」

 スレイブは何も答えない為次に背を向けると、スイの方へと近づいた。
 すると、今度は倒れているスイの腹を容赦なく踏みつけるのだ。

 ぐちゃ!!

 「うっ、うぶぅぁ! ゴフゥ…… がぁ……」

 スイは泣き叫ぶこともできずに、吐き出す血でおぼれないようにするのが精一杯であった。
 モンスターと闘わされた時とは違い、今は何もできない。
 あるじに暴力を振るわれたならば、それを受け入れざるを得ない。
 奴隷なのだから……
 もっと言えば、殺されても仕方が無いのだ。
 主に死ねと言われれば死ぬしかない。
 それが、この世界に置ける奴隷の存在なのであった。

 「スレイブ!!」

 為次が叫ぶと、楽しそうにスイを見下ろしているスレイブがゆっくりと振り向く。

 「どうした? タメツグ」

 「なんで、こんなことを…… やめてよ……」

 「あ? 返してほしいのか? この奴隷を」

 「……そんな、酷いことするなら」

 「そうか…… それなら、お前の買った剣を持ってきな」

 あまりにも予想外な返答であった。
 為次戸惑ってしまう。

 「えっと…… あの日本刀かな?」

 「ああ」

 「はぁ……(今度は日本刀か…… そんなに武器が好きなら、自分で買えばいいのに。デザはともかく、日本刀なんて何本も売ってるし)」

 為次はぶつぶつ言いながらレオパルト2に戻ると、運転席を覗き込み適当に投げ置いていた日本刀を取り出す。

 「あった、あった、これだわ」

 そして、日本刀を手に持つと、スレイブに近づいて渡そうとする。

 「はい、これ」
 
 しかし、スレイブはそれを受け取らずに言う。

 「そんな物は要らないぜ」

 「は? なんで? 欲しくないの?」

 「なんか、勘違いしてるようだな」

 「勘違い? 何を?」

 勘違いも何も、意味が分からなかった。

 「奴隷を返してほしいんだろ?」

 「……まあ」

 「俺と決闘で勝てたら返してやるぜ」

 「決闘って……」

 「その剣で俺を倒してみな」

 「……無理っす」

 「ああ! そうかい!」

 ドカッ!

 スレイブはそう言うと為次を蹴り飛ばした。

 「ぎゃっ!!」

 軽く蹴られただけでも、その衝撃は凄まじい。
 為次は吹っ飛ばされてしまい、地面に転げる。

 「痛ってぇ……」

 「つまらねぇヤツだな…… もういい、お前はそこで奴隷がなぶり殺されるのを見てな」

 地面に転がる為次を見ながら、スレイブは言った。

 「お、おい…… スレイブ……」

 そして、スレイブはスイをボールのように蹴り始める。
 スイは何もせずに、ただ堪えるだけであった。

 「や、やめろ…… やめてくれ……」

 そんなスイを為次は成す術もなく、地べたに這いつくばって見ているしかできない。
 レオパルト2に戻ってMG3を取りに行けばいいかも知れないが、それを見れば多分スイを殺してしまうだろう。
 何が目的なのかは分からないが、すぐに使用できるデザートイーグルを奪ったことがようやく理解できた。

 しばらくすると、スレイブは飽きてきたようで、蹴るのをやめた。
 スイは倒れたまま、涙を流し呻いている。

 「う…… がっ、あぐぐ……」

 「はぁ、マジでつまんねぇな…… もう、終わりにするか……」

 「え……」

 スレイブは大剣を大きく振り上げる。

 「元々、処分予定だったんだ、いいよな?」

 スレイブはターナに訊いた。
 だが、何も答えない。

 「…………」

 「ターナ…… やめさせてよ」

 「じゃあな!」

 叫ぶスレイブはスイの頭部目掛けて大剣を振り下ろそうとした。

 「や、やめてくれ……」

 その時だった……

 「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 為次は叫ぶと同時に、刀を抜刀しつつスレイブに斬りかかる!

 それは、為次自身も予想外の出来事であった。
 あの時…… 加護を受けた後に、ターナのおっぱい目掛けてダッシュした時と同じように、もの凄い瞬発力で斬りかかることができたのだ。

 「うおぉぉぉ!」

 一瞬でスレイブとの間合いを詰めると斬撃が走る!
 しかし、、スレイブも手練れの戦士である。
 為次が突っ込んで来るのを見ると咄嗟に避けた。

 シャキーン!

 為次の持つ刀が空しく空を斬る。
 そのままの勢いで、向こうの方に転がってしまった。
 唐突な能力の発動に対応できず、上手く制御できていないのだ。
 しかし、直ぐに起き上がるりスレイブを見ると、スレイブも驚いた様子であった。

 「へぇ…… やるじゃないか、タメツグ」

 スレイブは頬に違和感を感じる。
 頬に手を当てると、ヌルリとした感触が伝わり、その手を見ると赤い液体が付いている。
 確かに避けたはずであった。
 為次の斬撃はかすってもいないはずである。
 それは間違いなかった……
 だが確かに斬られていた。

 「なんだこりゃ……」

 スレイブは驚いた表情で言った。

 そんなスレイブの様子を見る為次は呟く。

 「や、やれるのか……(うーん、どうかな? とりあえずやってみよう)」

 為次は刀を鞘に納めると、スレイブの方を向いて構える。
 そして、全神経を刀に集中すると……

 「うわぁぁぁぁぁ!!」

 叫びながら再び抜刀した。

 鞘から抜かれた刀は横一閃に空を斬る。
 スレイブとの距離が離れ過ぎているので、どう見ても届く分けもない斬撃だ。

 「っ!?」

 それを見たスレイブは、咄嗟に大剣を縦にして防御態勢をとる。
 次の瞬間、ガキィン! と凄まじい金属音と共に大剣から火花が散る!
 そして、両肩の鎧が切り落とされた……
 見えない斬撃がスレイブを襲ったのだ。

 「スレイブぅぅぁぁぁ!!」

 為次は透かさず間合いを詰めると、スレイブに斬りかかる。
 スレイブはそれを大剣で受け止めると、刀と大剣が軋みあう。
 しかし、為次の力ではスレイブに及ばない。
 そのまま、押し返されると為次は後ろにひっくり返ってしまった。

 スレイブは倒れる為次を見下ろしながら言う。

 「なんだ、できるじゃねーか。へへっ、こりゃぁ楽しめそうだ」

 「…………」

 為次は直ぐに起き上がると、再び刀を鞘に納めスレイブと対峙する。
 正直、何がなんだか訳が分からなかった。

 何故、自分がスレイブと斬り合っているのか?
 何故、自分はこんなにも必死になっているのか?

 だが、そんなことはどうでもよかった……

 只、倒れて苦しんでいるスイを、もう一度優しく抱きしめてやりたいと思うだけであった……
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