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異世界編 1章

第24話 加護その2

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 スイの魔法のおかげで重量が軽くなったレオパルト2。
 ブレーキが甘いのは仕方ないが、実に快調である。

 屋台の並ぶ冒険者区画の手前まで来ると、いつもの木の陰に駐車させた。
 そこから先は、戦車では入れないので徒歩で行くしかないのだ。

 ※  ※  ※  ※  ※

 降車してから、しばらく歩くと三人はようやく冒険者ギルドへと着いた。

 「やっと着いたわ、街にレオが入れないのが辛すぎる」

 「お前、ほんとに軍人かよ…… 田舎の年寄りみたいだな」

 「酷い言われようですな」

 「マサヒデ様ヒドイですぅ」

 「スイちゃんまで…… とにかく入ろうぜ。居るといいんだがな、ターナ」

 「うん」

 中へ入り周りを見渡すと、数人の冒険者が確認できる。
 しかし、ターナの姿は見当たらない。
 そもそも、何処に住んでいて、何時も何処に居るのか知らないのだ。

 上級国民なのは知っている。
 それならば、住んでいる場所が上の区画であろう。
 直ぐに行くことはできない。
 神官なら神殿に居るかも知れないが、神殿の場所も知らない。
 結局、心当たりが冒険者ギルドしか無いので、ここに来るしかなかった。

 「居ませんでした、帰る?」

 「帰らねーよ! 来たばっかりだろ。受付で聞いてみようぜ」

 「はいはい」

 とりあえず受付のおねーさんに聞いてみることにした。

 「えっと、すいません」

 正秀が話かけると、受付のお姉さんは笑顔で返してくれる。

 「はいはーい、なんでしょーか?」

 「おねーさん名前あったよね? ネームキャラだったよね?」

 と、為次は訊いた。

 「名前ぐらいありますよっ、だいたいネームキャラって何ですかっ! サーサラです。サーサラ! 忘れないで下さいよ、もう」

 「すまねぇ、サーサラさん、コイツのことは相手にしないでくれ」

 そう言いながら、鬱陶うっとうしい為次を押し退けるのだ。

 「それで、なんの用ですか?」

 「ターナを知らないか?」

 「ターナ様ですか? 今日はまだお見えになっていませんよ」

 「そうか」

 「何か用事でもあるのですか?」

 「ああ、ちょっとな…… どうする為次? やっぱターナ居ないっ…… て……」

 為次に話しかけようとするが、振り向くと二人が居ない。

 「どこ行ったんだよ」

 「あちらですよ、マヨーラさんの方に行かれたみたいです」

 サーサラが指す方を見ると、為次とスイはマヨーラと何かを話している。

 「一人ボッチの除け者ですか? マヨマヨ」

 「マヨマヨ様、こんにちはです」

 「いきなり失礼な人ね…… まあいいわ、あんた達も元気になったみたいね」

 「その節はお世話になりました、マヨマヨ」

 「マヨマヨ様、お世話になりました」

 「…………」

 二人がマヨマヨを構って遊んでいると、正秀もやって来た。

 「なんだ、マヨーラ居たのか」

 「ようやく話が通じる人が来たわね」

 「なんのことだ? それより、ターナ知らないか?」

 「そうね、そろそろ来ると思うけど……」

 「あら、お呼びかしら?」

 なんと、都合よくターナとスレイブがギルドへと入って来た。

 「よう、マヨーラ、来てたか」

 と、スレイブはマヨーラを見て言った。

 「ええ」

 為次はターナを目の前にすると先日のことを思い出してしまう。
 思わず目を逸らしながら顔を赤くするのだ。

 「あらタメツグ、もう元気になりまして?」

 「あ、は、はい、おかげ様で……」

 「それは良かったですわ。私でよければいつでも甘えていいですのよ、うふふ」

 「あ、うぅぅ……」

 下を向いて、返事になってない返事をするのが精一杯の為次。

 「なんの話だ?」

 「あっれー、もしかしてマサヒデは知らないの? ひひひ」

 「うぐっ。あ、あ、あのマヨーラさん、あのですね……」

 為次はしどろもどろになっている。
 それをスレイブとマヨーラは更に構って遊ぶのだ。

 「なんだ、マサヒデは知らないのか? この前、ターナの胸で泣き叫んでただろ、タメツグ」

 「おっぱいに顔を埋めてえーん、えーんって、いひひ」

 なんのことか知らない正秀は怪訝そうな顔をしている。

 「は?」

 最早、為次はあたふたするしかない。

 「ちょ…… まっ……」

 「俺にかまうな! えーんっ、えーん……」

 マヨーラは追い打ちをかけるようにニヤニヤしながら言った。
 為次は顔を両手で隠しながら叫ぶ!

 「ぎゃあぁぁぁぁぁ、も、もうやめてちょうだい」
 
 「あっれー? どうしたのー? タメツグちゃん」

 「酷い! 酷過ぎる! いやぁぁぁ。後は、マサちゃんが話を進めておいてちょうだい! もういやぁぁぁ」
 
 叫びながら、あっちの方へと走って行ってしまう。
 スイも主を追いかけるのだ。

 「ああ、ご主人様どこへ行くんですか! 待ってくださーい、私の胸ならいつでも使っていいですよぉ」

 「いやぁぁぁぁぁっ……」

 「ご主人様ぁー」

 結局、二人してあっちに走って行ってしまった……

 「お、おい、為次……」

 「そっとしといてあげた方がいいわよ、ふふっ」

 楽しそうにマヨーラは言った。

 「あ、ああ…… それよりターナに用があって来たんだが」

 「何かしら?」

 「生命の加護ってやつなんだが、俺達でも受けれるのか?」

 「唐突ですわね…… もちろん、あなた方が望むならできますわ」

 「そうか、それで元にも戻れるのか?」

 「ええ、それもできますわ。もっとも戻ったところで、何も良いことは無いと思いますけど」

 「あれじゃない、元の世界に戻る時には、元の人間に戻りたいってことなんでしょ?」

 「まあそうだぜ、マヨーラの言う通りだ」

 「そういうことでしたら何も問題ありませんわ。今からでも加護を受けに行かれては、いかがですか?」

 「やけにあっさりだな……」

 「この世界じゃ、当たり前のことだからな。珍しくもないさ」

 と、スレイブは言った。

 「当たり前…… か…… じゃ、ちょっと為次呼んでくるぜ、ってどこ行ったんだ?」

 マヨーラはカウンターの方を指しながら言う。

 「向こうのカウンターでなんか飲んでるわよ」

 「しょうがない奴だな」

 そう言いうと為次を呼びに行く正秀。

 ……………
 ………
 …

 カウンターでは為次が白い何かを飲んでいる。
 その横でスイは隠し持っていた洗面器に、せっせと食事を詰め込んでいた。

 「おい、為次、もう呑んでるのか?」

 「ヤケ酒にしようかと思ったけど、帰りの運転あるからキャベツジュースかも」

 「なんだよ、キャベツジュースって……」

 「美味しいよ」

 「それより、加護受けに行くぞ」

 「えっ? いきなり突拍子もなく唐突ですな」

 「スイちゃんの言った通り、元にも戻れるらしいからいいだろ。多分」

 「あ、はい」

 「えっ! ご主人様も、加護を受けて下さるんですか!?」

 「そうみたい、知らないうちに決まったかも」

 「やったー、えへへへ」

 スイはとても嬉しそうだった。

 ……………
 ………
 …

 正秀はキャベツジュースを持った為次と洗面器飯を持ったスイを連れて、ターナ達の所へと戻って来た。

 「戻ったかも」

 「お、もう復活したのか」

 スレイブは為次を見て言った。

 「あのような出来事、この無限の宇宙と永遠の時間に比べれば些細なことなのですよ」

  マヨーラはバカを見るような目で為次を見ている。

 「あんた、何言ってんのよ……」

 「為次の戯言はほっといて、早く加護とやらを受けに行こうぜ」

 「なんかイキナリ決まって、もう行くのね……」

 「おう」

 「なんつーか凄い行動力だは」

 「だわ、な」

 「ちょっと待ってちょ、コレ飲んでから」

 「早くしろよ」

 「しかし、このキャベツジュースは何からできてるんでしょ?」

 ゴク ゴク ゴク
 
 為次は一気にキャベツジュースを飲み干す。

 「ターナのおちちよ」 

 とマヨーラは言った。
 それを聞いた為次は思わず吹き出してしまう。

 「ぶほっ! げほっ、げほっ! な、な、何を言って…… あ……」

 なんと為次の飛ばした白いドロドロした液体は……
 マヨーラの顔面にブッかかっていたのだ!

 「タ・メ・ツ・グっ!!」

 「あ、いや…… なんと言いますか…… えっと、その方がエロくて素敵ですよ、マヨーラさん……」

 「問答無用! らいとにんぐぼると~」

 電撃が為次を直撃する。

 「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 痙攣けいれんしながら倒れてしまった。

 「はう、ご主人様!?」

 突如、電撃を喰らって倒れるご主人様にスイは慌てて駆け寄る。
 そして、ご主人様を守るように倒れた為次の前に立ちふさがる!
 洗面器飯を食べながら!

 「ひょひゅひんひゃま、もっちゅ、もっちゅ、みょ、もっちゅ、うごふっ、ぐふっ、ごほっ」

 何か叫んでいるが、洗面器飯が気管に入ったようでむせていた。
 
 「スイちゃん……」

 「あるじがアホだと奴隷もアホなになるのね……」

 「なんなんだよ、こいつら……」

 マヨーラとスレイブは呆れて見ていた。

 「1日で奴隷がこうなるなんて、ある意味凄いですわねタメツグ……」

 ターナは何故か感心している様子だ。

 「とにかく、為次を起こして行こうぜ」

 正秀は為次に近づくと、無理矢理に起こす。

 「おい、いつまで寝てるんだ、行くぞ」

 「あ、はい」

 起き上がったものの、まだ痺れている様子だ。
 ちょっとフラフラしながら立っている。
 その横でスイはまだ食べている。

 「もっちゅ、もっちゅ…… ごふっ、もっちゅ、う、げはっ、げはっ」

 ふらつきながらもスイを見た為次は洗面器を取り上げるのだ。

 「これはダメです」

 「ひゃにするんひゃすか、もっちゅ、もっちゅ、んぐっ。あ、ご主人様も食べたかったんですね」

 「違います」

 そんな茶番を見ていた、スレイブは言う。

 「ったく、お前ら何やってんだよ、早く行かないのか?」

 行先を知らないので、為次は訊いてみる。

 「あ、そう言えば、どこに行くの?」

 「はぁ? 神殿に決まってるだろ」

 「なんで?」

 「なんでって、加護受けるんだろ?」

 「うん」

 「神殿じゃねーと儀式できないからな」

 「そうなんだ」

 「ねぇ、ターナ。私も行っていい?」

 マヨーラは訊いた。

 「ええ、もちろんですわ」

 「やったぁ」

 「んで、神殿ってどこにあるんだ?」

 今度は正秀が訊いた。

 「上級国民区画の中心ですわ」

 「そこって、俺達は入れないんじゃなかったか?」

 マヨーラは嬉しそうに答える。

 「ターナが一緒だから大丈夫よ」

 「おお、さすが神官様ですな」

 「それ程でもありませんわタメツグ、ふふっ」

 「じゃ、行くか」

 と、正秀は皆に言った。

 「りょかーい」

 こうして正秀と為次は生命の加護を受ける為に、神殿へと向かうことになった。
 尚、洗面器飯は、またしても為次が食べる羽目になったのだ。

 「お二人ならきっと立派な戦士か魔導士になって下さいますわね。楽しみにしてますわよ。うふふ」

 ターナはとても満足そうに、微笑むのであった……
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