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異世界編 1章

第12話 運搬

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 レッドドラゴンの討伐を果たした二人は、ターナの別荘である借家へと帰還した。
 太陽は地平線の彼方へと沈みかけ、帰った頃には夕暮れ時となっている。
 空気の澄んでいるこの世界の夕焼けは鮮やかなグラデーションを醸し出し、とても美しかった。

 「やっと着いたね、おちかれー」

 「ああ、ほんと疲れたぜ」

 そう言いながら正秀は車長ハッチから外に出て後ろを振り向く。
 砲塔に載せてある大きな赤い石が目に入った。
 夕日を浴びた赤いエレメンタルストーンは、更に赤く不気味に輝いていた。

 「この石っころが1億ゴールド、日本だと1億円くらいか」

 「やったね、マサ」

 「結構ヤバかったけどな、それなりの見返りって分けか」

 「そだね」

 「とりあえず今日は休んで、明日にでもギルドに持って行くか」

 「賛成したいけど、今日のご飯は? 朝から何も食ってないけど」

 「冷蔵庫が無いからなぁ、昨日の残りはテーブルに放置したままだし。今夜はレーション食うしかないぜ」

 「えー、買って来てくれないの?」

 「街まで意外と距離があるんだよ、お前が買って来い」

 「いやどす」

 「なにもんだよ、ったく。嫌なら食わなくていいんだぜ」

 「食べます、食べますよ、しょうがないなー」

 「しょうがねーのは、お前の方だろ……」

 「はーあ……」
 
 不満げに降車する為次はレオパルト2を振り返った。
 この世界に来る前に自分で描いた日本の国旗が黒く焦げている。
 被弾した箇所を埋めたパテも溶けて垂れ固まっていた。
 
 そんな疲れた様子を見せるレオパルト2に為次はそっと触れる。

 「お前の食事も何とかするからね、もう少し頑張ってくれよ」

 そう語りかけ、借家に入って行った。

 それから二人は軽く食事を済ませると、その日はすぐに眠りにつくのであった。

※  ※  ※  ※  ※

 ―― 翌朝

 今日は報酬を貰いに行こうとする二人であったが、問題はどうやって運ぶかである。
 レオパルト2で行けるのは冒険者区画の手前までであり、そこから先は狭くて入れない。
 戦車の砲塔に載せてある石を見ながら悩んでいた。

 「さてと、どうするかな」

 「石は重いし、医師の意思に従っていいし」

 為次の凄まじいジョークが冴える。

 「朝は結構冷えるぜぇ……」

 「…………」

 エレメンタルストーンは朝露で濡れていた。
 素材に至ってはバスケットの蓋が完全には閉まらなかったので、グチョグチョしたのが更に気持ち悪くなっている。

 それを見て為次は言う。

 「石は重そうだから持ちたくないし、剥ぎ取ったよく分からないモノはキモイので持ちたくありません」

 「じゃあどうすんだよ」

 「マサを応援せざるを得ない」

 「無理だから、俺一人じゃ無理だからな。あと日本語間違ってるから」

 「がんばれよ! 諦めんなよ!」

 「今日は一段とウザイな」

 「んもー、分かったよ。じゃあ俺が街の手前まで運ぶから、後はマサが手持ちで往復してよ」

 「なんだよそれ」

 「我ながら良いアイディィィィィアァ!」

 「お前、途中まで運転するだけじゃねーか。却下だ」

 「んもー、マサは我がままだなー」

 「我がままなのは、お前だろ。ったく……」
 
 「しょうがないなー、じゃあちょっと待ってて、何か探してくる」

 そう言いうと、為次は借家の裏の方へと行ってしまった。
 残された正秀は為次をあてにする分けにも行かず、一人悩むのであった。

 やっぱ、あの3人に頼んだ方がいいのかな。
 困ったことがあれば頼ってくれとも言ってたし。
 そういや頼ってくれはいいが、居場所が分からねー、どうしたもんかな。
 スレイブならアノ大剣を片手で振り回してるし、丁度良かったんだが。
 ふぅ……

 などと考えていたが、特に良い案が浮かばない正秀。
 仕方ないので違うことを考え始める。

 それはそうと、為次の奴もだいぶ元気が出てきたみたいだな。
 こんな世界に飛ばされりゃ、誰だって不安になるよな。
 もし、このまま帰れなかったら……
 お前も、モスボール保存かな。

 正秀はそっとレオパルト2に振れながら、そんなことを思った。

 「はぁーあ、一人になると要らないことを考えちまうな」

 「ったく、為次の奴どこに行ったんだ?」

 正秀が一人ブツブツ言っていると、為次が帰ってきた。
 何処から持ってきたのか、荷車を引いている。

 「じゃじゃーん、こんなこともあろうかと用意しておいたのだ。その名も、その名も…… なんにしよう?」

 「なんでもいいだろ。それにしてもよく見つけてきたな、まったく期待してなかったんだが」

 「いや、だから、こんなこともあろうかと」

 「裏庭かどっかにあったのか?」

 「あ、はい。そうです」

 「じゃあそれに載せて、さっそく行くか」

 「めんどくさいので、街の手前まで牽引しよう」

 「燃料がもったいないんじゃなかったのか?」

 「そうだけど、めんどくさいし、大金を貰ったらしまっとけるし」

 面倒臭がりの為次は燃料より楽な方を取る。
 多少燃料を節約したところで現状が良くなる分けでもないから。

 「そうだな、ハッチ閉じとけばそう簡単に弄られるようなことはないだろうしな」

 「うん、そうそう」

 「じゃあ行くか」

 正秀はレオパルト2の後ろに荷車を縛り付けると言う。

 「よし、いいぞ、じゃあ出発だ」

 「りょかーい」

 こうして、冒険者区画の手前まで荷車を引いたレオパルト2を走らせるのだった。

※  ※  ※  ※  ※

 冒険者区画の近くに着くと、レオパルト2を木の陰に停車させ二人は降車した。
 そして、荷車ほどくとエレメンタルストーンと素材を荷車に乗せ始める。
 巨大な石を二人で積み替えるも、その重みに為次はプルプルしている。

 「うう…… 重い。お、下ろすよ」

 「おう」

 「よっこいしょ」

 「う、やっぱデカイなこの石」
 
 荷車からだいぶハミ出しているのを見た正秀は言った。

 「まあ、いいんじゃない。下の隙間にキモイの突っ込んでよ」

 「ああ、分かった ……って、おい、お前もやれよ!」

 「やだよ、気持ち悪し汚れちゃう」

 「俺はいいのかよ!?」

 「だって、俺の服は寝間着兼用ですし」

 「しょうがない奴だな、まったく」

 正秀は不満そうに素材を荷車に突っ込むのであった。
 載せ終わると、正秀は荷車を引き始めようとする。
 為次は荷台の後ろに座った。

 「じゃあ行くぜ」

 そう言いながら為次の方を振り向く。

 「って、おい! お前も押せよ」

 「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 「なんなんだよ」

 「お尻に汁が付いた」

 素材から赤黒い液体が垂れていた。
 そこに為次は思いっ切り座ってしまったのだ。

 「はは、ざまあ見ろ。さぼってばかりいるからだぜ」

 「ぐぬぬぬ」

 結局、為次はしぶしぶ片手で荷車を押すのであった。

※  ※  ※  ※  ※

 街に入ると、通りすがりの人々が一様にこちらを見てくる。
 しかも、二人を見ながら皆、何かを話している様子だ。

 「俺達、何か目立ってないか?」

 正秀はそっと囁いた。

 「やっぱこの石のせいだよね」

 「シートでも被せときゃよかったぜ」

 「そうすね、もう遅いけど」

 などと話している内に数人の冒険者らしき人物がこちらに近づいて来た。
 それを見た為次は腰のガンベルトにぶら下げたデザートイーグルに手を掛ける。

 「おいっ、お前達。それってまさか」

 荷車に載せられたエレメンタルストーンを指しながら1人が話しかけてきた。

 「ただの赤い石だよ」

 とぼけた風に為次は言った。

 「そんな分けないだろ、どう見てもレッドドラゴンのエレメンタルストーンじゃないか」

 「へー、あのレッドドラゴンを倒すととはねぇ、お前ら何者だ?」

 と、隣の冒険者も言った。
 正秀も知らないといった風に言い返す。

 「冒険者の新人だ。すまないがそこを通してくれないか?」

 「新人さんがレッドドラゴン討伐かい?」

 「たまたまだよ、たまたま」

 「偶然で倒せるようなモンスターかよっ」

 正秀のたまたまというセリフが気に入ったのか、為次も真似して繰り返す。

 「タマタマー、たまたまー」

 謎のセリフを言いながらデザートイーグルをホルスターから抜くとスライドを引いた。
 その行動を見た正秀はもう少し待てと為次に合図を送り冒険者集団に言う。

 「分前が欲しいのか?」

 「別にそんなつもりは無いんだがよ、へへへっ」

 「倒したドラゴンはまだ放置してある、素材もまだだいぶ残ってるぜ」

 それを聞いた別の冒険者も言う。

 「新人だから知らないのか? 俺達が回収しても素材の権利はお前達のままだぞ?」

 「そうなのか、じゃあ権利の譲渡はできないのか?」

 「それは…… ギルドで申請すればできるが」

 「分かった、残りの素材の権利はお前らにやるよ」

 面倒事はなるべく避けようと正秀は思う。

 「本当にいいのか? 見たところ素材は殆ど回収してない様子だが?」

 「構わないぜ、俺達はこれでじゅうぶんだ」

 「中々、話がわかるじねーか、よしギルドまで護衛してやるよ」

 他の冒険者も口を挟んでくる。

 「俺達が居れば安心だぜ、へへっ」

 「ここにはならず者も多いからな」

 それはお前らだろと正秀は突っ込みたかった。
 だが、ここは穏便に済ませようと承諾することにする。

 「ああ、頼んだぜ」

 「任せときなっ」

 と、リーダーらしき冒険者はニヤニヤしながら言った。

 「じゃあ行こっか」

 動き出す荷車を、また為次は片手で押し始める。
 もう一方の手にはデザートイーグルが握られたままであった。

 結局、何処の馬の骨とも分からない冒険者を数人ほど連れてギルドへと行くことになった。
 意外にも正秀の前で、睨みを効かせながら邪魔な通行人を追い払い、道を開けてくれるので便利である。
 不本意ながら、ならず者の連中のおかげで、その後は難なく冒険者ギルドまで行けたのだった。

 冒険者ギルドに着くと、ターナ達が出迎えてくれている。
 他にも、どんな奴がレッドドラゴンを倒したのか一目見ようと何人もの冒険者が集まっていた。
 二人の到着より先に、レッドドラゴン討伐の噂が広まっていたようだ。

 知らない土地、知らない人々の中、見知った顔を見て少し安心する二人であった……
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