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現代編 序章

第3話 突撃

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 二人の眼下には敵と味方の激しい戦闘が繰り広げられていた。
 彼らは今からあの美濃加茂市街地へと向かうことを決めていた。
 それは、誰の目から見ても死にに行くだけの、愚かな行為としか思えない。

 「じゃあ、とりあえず作戦だが」

 「え? 作戦とかあるんだ!?」

 思ってもみなかった言葉に、為次は少し驚いた。

 「当たり前だろ! 俺が考え無しに、敵にバレませんよーにとか祈って突っ込むだけと思ったのか?」

 「あ、違うのね…… てっきり鉄砲玉みたいに突撃するだけかと……」

 「俺はお前と違って、元から軍人だ。いや、自衛隊か…… とにかくだ、とりあえず俺と端末をつないでマップを見ろ」

 「あー、はいはい」

 適当な返事を返す為次は、タブレットを取り出し互いに接続をする。
 すると正秀の見ている地図と同じものが画面に表示された。
 地図には周辺と敵味方の、おおよその位置や戦力が落書きの様に描いてある。

 「いいか? まず、このまま工業団地にある敵の拠点まで移動する」

 そう言いながら正秀が画面を操作すると、自分達であろうコマが移動した。
 それに連動しながら為次のタブレットも同じように動くので、ちゃんと画面を見ているのか確認すると説明を続ける。

 「もっとも、この時点で敵にバレちまったらヤバイがな。このレオ2だ、まず大丈夫だろう。正直言えば、これは神頼みだな」

 「え? やっぱり、お祈りしながら突っ込むだけじゃない……」

 「まあ、そう言うなよ。バレないように移動するのは、お前さんの仕事だからな期待してるぜ」

 為次は、あからさまに嫌そうな顔をして聞いている。

 「とにかく敵の拠点まで移動できれば、まずレーザー通信機を破壊する」

 ―― レーザー通信機

 EMP兵器の開発により、殆どの電波が使用できなくなってしまった。
 いや、電波そのものは使えるが、近距離に限られてしまう。
 つまり、遠距離通信やレーダーのたぐいが使用ができないのだ。
 その為レーダー式追尾のミサイルなども使えない。
 更にはドローンの高性能化もあり、既存の航空戦力がまともに使えない物になってしまった。
 これにより、米軍ご自慢の空母打撃郡も苦戦をいられ、アジア撤退の一因になっている。

 このEMP兵器を開発した科学者達は、原理をいまいち把握していなかった。
 何やら空間を振動させて次元を狂わせている、などと言っているのだ。

 戦闘において通信ができないのは当然、困った問題であった。
 そこでEMP兵器の影響を受けないレーザーを用いて、通信を行うことにした。
 レーザーでは直線方向にしか送受信できないし、遮蔽物の影響を受けやすい。
 また、送受信のどちら側でも動けば、通信ロックをし直さなければならない。
 そこで拠点は高台に置き、戦闘部隊は簡易通信機を戦闘区域のやや後方に設置する。
 部隊が移動すれば、それに伴い簡易通信機も設置し直し、拠点側が再通信ロックをする。
 今の通信手段は、そのような面倒なシステムとなっていた。

 正秀は説明を続ける。

 「主砲の発射レートはおおむね、速くても20秒程度はかかる」

 「あ、はい」

 「だから、初撃で通信機の破壊は必須だが、これは俺に任せといてくれ。お前がどんな機動をしようが必ず当てて見せるさ」

 「ん、それは心配してないよ」

 「後は全力で拠点を突っ切る」

 「その際に撃てるのは多分、2発程度だ。拠点を抜ければ敵前線ギリギリまで近づく。通信機を破壊できていれば、かなり近づけるはずだからな。敵が気が付けば、反撃開始。そして混乱に乗じて前線突破する。その際に味方が異変に気が付いてくれれば儲けものだ。お前の言うように味方にも撃たれるかもしれないがな。しっかり回避してくれよ、為次」

 「今更、文句を言っても遅いか……」

 「おう」

 「だいたい分かったかも、じゃあ行きますかね」

 「よし! 突撃!」

 合図と共に為次はレオパルト2のアクセルを踏み込んだ。

 ゴルフ場の高台から駆け降りると、速度を緩め巡行する。
 敵に怪しまれないようにする為だ。
 もっとも、敵でも味方でもない戦車が戦闘区域を1両だけ走っている時点で怪しさ満点である。

 案の定であった、工業団地までの半ば辺りで敵の高機動車が1台こちらに向かって来た。
 それを確認すると、正秀は車長ハッチから頭を覗かせる。
 すると耳の辺りを指でトントンと叩く仕草を見せてから手を振った。
 通信ができない旨を相手に知らせているのだ。
 その内に敵の高機動車がレオパルト2の横まで来て、停まれと合図をしているのが分かった。
 戦車を停めると、そのすぐ左横に高機動車も停まった。

 「やるよ」

 と、一言だけ為次は言った。

 「おう」

 突如、車体を超信地旋回をさせ、前方を高機動車に向ける。
 そのまま、アクセルをベタ踏みにした。

 ブルルルルォォォン!

 レオパルト2は、その巨体を物ともせず加速するのだ。
 高機動車にぶつかり、グシャグシャと踏みつぶす。
 車両と一緒に人間を……
 一瞬、悲鳴が聞こえたような気がした。
 だが、その声はエンジン音に掻き消される。
 サイドミラーを見ると高機動車から降りようとしていた1人であろう。
 下半身の無くなった人間らしきものが、地面でのた打ち回っているのが見えた。

 そのまま何事も無かったように、レオパルト2は走る。
 進路を工業団地に向け。

 その後も敵の車両や兵士が見える時もあった。
 しかし、何となく避けるように走り工業団地の手前まで着くことができた。
 そこからは全速力で坂を駆け上がった。

 敵拠点に着くと辺りに兵士数人確認でき、車両もそれなり見受けられた。
 通信施設の場所はすでに分かっていた。
 トラックから延びた高い塔に受信機とレーザー発振器が付いているのだから。
 それと、もう1つ予備通信施設もある。
 こちらも同様に目立つのですぐ分かった。
 二ヶ所攻撃しなくてはならない。

 レオパルト2の存在に気が付いた兵士が近寄って来る。
 何か叫んでいるが聞こえない。
 もっとも聞こえたところで言葉が分からないだろうが。

 だから、無視して走った……

 今度は前方に3人の兵士が居る。
 その内の1人が大きく手を振りながら叫んでいた。
 言っていることは聞こえないし、分からない。
 多分、停まれと叫んでいるのであろうことは推測できた。
 レオパルト2の速度を、その兵士の手前で緩めると兵士は近づいて来た。
 と、直ぐに急加速をする。

 ゴチャ バキャ

 鈍い音がした時、兵士2人は肉塊となった。
 肉塊となるのを避けれた1人の兵士が発狂している様子だ。
 アサルトライフルを無造作に発砲している。
 何ミリの弾丸かは分からなかったが、戦車にとっては豆でっぽうである。
 外でカンカンと弾の当たる音が少し聞こえたが、かまわず戦車を加速させる。
 すると、前方に目的の通信施設が見えた。

 「あれだな、よし!」

 正秀はそう言うと、直ぐに狙いを付け射撃スティックのトリガーを引く。

 バン! ドコーン!

 激しい発射音と共にあらかじめ装填してあった榴弾が発射される。
 次の瞬間、通信施設は轟音を響かせながら炎に包まれた。
 周りに居た兵士が人形のように飛び散る。
 そんなことはお構いなしに、急いで次の砲弾の装填に取り掛かる。
 と、装填しようとしたその時だった。
 ランチャーを持った兵士が、こちらに狙いを付けているのが右手に見えた。
 敵がロケットを発射したと同時に為次はフルブレーキを掛ける。
 いわゆる殺人ブレーキである。

 「うわぁぁ! 痛いってぇ」

 ガラン ゴロン

 正秀が騒いでいる声と砲弾が床を転がる音が聞こえる。

 為次は心配などしていられなかった。
 ペリスコープの数センチ先をロケット弾が通過したのだから。
 あと少しブレーキが遅れていたら直撃していた。

 「おぉぉぉ、やっべ~。マサ! 何時までも転がってないで、はょお次。つぎ」

 正秀は起き上がりながら再度装填しながら文句を言う。

 「少しはこっちの心配もしろ」

 「ペレットばら撒かないでよ、掃除めんどいからぁ」

 「急ブレーキするなら車内アナウンスするもんだろ!」

 「発車します、ご注意ください。やむを得ず急停車する場合がございます。停車するまでは、お席をお立ちにならないよう、お願い申し上げます」

 為次は何となく前の仕事を思い出して言ってみた。
 しかし、既にレオパルト2は加速し次の予備通信施設に向かっている。

 「発車の前に言えってば……」

 敵に狙われないように建物の陰に沿って走るレオパルト2。
 建物を抜けると正秀の覗くパノラマサイトから右手に予備通信施設が見える。

 「二つ目だな」
 
 その瞬間、前方の建物から敵の戦車が向かってくるのが見えた。
 ロシア製T-72である。
 為次は右へと戦車を旋回させる。
 正秀は敵戦車には構わず予備通信施設を撃った。
 榴弾をT-72に撃ち込んでも撃破できないと判断したからだ。
 多目的対戦車榴弾を装填しておけば良かった。
 だが、弾数が少ないのでケチっていた。

 予備通信施設も簡単に破壊できた。
 しかし、T-72の砲塔はこちらへ照準を付けている。
 そして攻撃してきた……
 同時に為次は左へとハンドルを切り車体をドリフトさせる。
 敵の砲弾はレオパルト2の車体左側面に被弾した。
 だが、T-72を正面に捉えるように急旋回した為に直撃は免れた。
 砲弾の進入角が極端に浅くなりすぎたのだ。
 信管は作動したらしく、虚しく空中にメタルジェットが飛び散っていた。

 「マサ!」

 車内に響く激しい衝撃音の中で為次は叫んだ。

 「あと10秒もたせろ!」

 装填手の居ないレオパルト2は圧倒的に不利であった。
 敵の次弾が再度こちらを狙うのを見て、咄嗟に近くにあった小屋の陰に車体を隠すように走らせる。
 正秀は既に車長席に居た。

 「よし! いいぞ!」

 そのまま小屋の陰を走り抜けると同時に、T-72に狙いを付け砲撃する。
 翼安定徹甲弾は敵戦車の正面に着弾したように見えた。
 敵戦車は何事もない様子だ。

 「くそ! 抜けなかったか」

 正秀が悔しがった次の瞬間。
 T-72の砲塔と車体の境目から激しく煙と炎が噴き出る。

 そして…… 

 ドカーーーン!!

 轟音が響くと共にT-72の砲塔が大空へ舞い上がった。
 初めて見る分けでもないが、数十トンもある砲塔が撃ちあがる光景に正秀は驚かされる。

 「さ、流石ビックリ箱だぜ」

 「マジ、ビックリですな」

 敵戦車は撃破したが後ろからは、まだ敵兵が追いかけて来ている。

 「くそっ、しつこい奴らだぜ」

 そう言いながら正秀はスモークディスチャージャーを操作した。
 レオパルト2からは複数の筒状のモノが打ち出される。
 すると、その筒が空中で爆発し辺り一面に煙が広がった。

 同時に為次は叫びながらアクセルを踏み込む。

 「行けっぇぇぇ!」

 煙の中に突っ込み全速力でレオパルト2は走る。

 そして……

 突入とは反対側の工業団地の坂を駆け降りた。

 通信施設の破壊は成功した。
 敵前線部隊への二人の存在は、かなり遅らさせれたはずである。

 そして、激戦区域へと向かって行くのであった……
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