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第五章 絡まった糸の行方(5-1)
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あの日から二週間近く、僕は黄瀬川さんと連絡を取らなかった。スマホには間違いなく『私も』のメッセージが残っている。だけど、僕は連絡ができなかった。
別れ際に美来から言われた言葉が頭の中を回転し、膨脹して、思考力なんか吹き飛んでしまっていた。
美来にも会っていないし、連絡も取っていない。遠野とはどうなったのかも分からない。
僕の生活は最近急に変わりすぎたんだ。夢みたいな事が現実になると疲れてしまうのかもしれない。何をどうしたらよいのか分からなくて、結局何もしないまま時間が過ぎてしまう。過ぎた時間を後悔して、今更それにどう対処すればよいのかも分からなくなってますます何もできなくなってしまう。
考えるのを止めようとするとかえっていろんなことが頭に思い浮かんでしまう。そうすると疲れて眠ってしまう。昼と夜が逆転するようになった。
そんなとき、また僕はジェーン・グレイの夢を見た。
またあの薄汚れた部屋で僕とジェーンは抱き合っていた。
「ああ、ギルフォード。私たちの愛は嘘と偽りで塗り固められているのかしら」
「そんなことはないよ」
僕は彼女をきつく抱きしめた。
「今のこのぬくもりが何よりの証だからね」
ジェーンが僕を見上げている。口づけようとしたその瞬間、一人の男が乱入してきた。
「ジェーン騙されるな。そいつは偽者だ!」
そこにいたのはギルフォードだった。いや、正確には、遠野だった。どういうことなんだ。
「あんた、何者?」
聞き慣れた声に顔を向けると、僕の腕の中にいるのは美来だった。僕は思わず美来を突き飛ばしていた。
「ちょっと、なにすんのよ、ひどいわね」
何がなんだか分からない。
「こんなやつは放っておいて、さあ、行こう」
遠野が美来の手を取って小屋を出ていこうとする。僕は思わず美来の手をつかんだ。
「邪魔しないでよ」
美来が大鎌で僕の腕をなぎ払う。両腕が切り落とされ、血が噴き出す。美来が僕の血で真っ赤に染まっていく。
また僕は夜中に叫んでいた。自分の叫び声で起きたのは何度目だろうか。
嫌な夢だった。美来が他の男とつきあっている様子を目の前で見せられる夢は後味が悪かった。嫉妬なのか。僕は遠野に美来を取られたくないのだろうか。
夢みたいな現実と、現実をなぞる夢の間で僕は自分の気持ちがよく分からなくなってしまった。
僕は夏休みの宿題に逃げていた。こんなに宿題をやりたくなったのは人生で初めてだった。
おかげで全科目の課題を完了させてしまった。
八月十九日に遠野からグループメッセージが入っていた。
『明日から文化祭準備再開します。参加できる人はよろしくお願いします』
黄瀬川さんからも夜になって連絡があった。
『明日やっと会えるね』
ああ、やっぱり黄瀬川さんとのことは夢じゃないんだ。でも、その現実がかえって重たかった。うれしすぎることを受け止めるのは難しいんだなと思いながら、返信内容を考えていたけど、結局そのまま眠ってしまった。
別れ際に美来から言われた言葉が頭の中を回転し、膨脹して、思考力なんか吹き飛んでしまっていた。
美来にも会っていないし、連絡も取っていない。遠野とはどうなったのかも分からない。
僕の生活は最近急に変わりすぎたんだ。夢みたいな事が現実になると疲れてしまうのかもしれない。何をどうしたらよいのか分からなくて、結局何もしないまま時間が過ぎてしまう。過ぎた時間を後悔して、今更それにどう対処すればよいのかも分からなくなってますます何もできなくなってしまう。
考えるのを止めようとするとかえっていろんなことが頭に思い浮かんでしまう。そうすると疲れて眠ってしまう。昼と夜が逆転するようになった。
そんなとき、また僕はジェーン・グレイの夢を見た。
またあの薄汚れた部屋で僕とジェーンは抱き合っていた。
「ああ、ギルフォード。私たちの愛は嘘と偽りで塗り固められているのかしら」
「そんなことはないよ」
僕は彼女をきつく抱きしめた。
「今のこのぬくもりが何よりの証だからね」
ジェーンが僕を見上げている。口づけようとしたその瞬間、一人の男が乱入してきた。
「ジェーン騙されるな。そいつは偽者だ!」
そこにいたのはギルフォードだった。いや、正確には、遠野だった。どういうことなんだ。
「あんた、何者?」
聞き慣れた声に顔を向けると、僕の腕の中にいるのは美来だった。僕は思わず美来を突き飛ばしていた。
「ちょっと、なにすんのよ、ひどいわね」
何がなんだか分からない。
「こんなやつは放っておいて、さあ、行こう」
遠野が美来の手を取って小屋を出ていこうとする。僕は思わず美来の手をつかんだ。
「邪魔しないでよ」
美来が大鎌で僕の腕をなぎ払う。両腕が切り落とされ、血が噴き出す。美来が僕の血で真っ赤に染まっていく。
また僕は夜中に叫んでいた。自分の叫び声で起きたのは何度目だろうか。
嫌な夢だった。美来が他の男とつきあっている様子を目の前で見せられる夢は後味が悪かった。嫉妬なのか。僕は遠野に美来を取られたくないのだろうか。
夢みたいな現実と、現実をなぞる夢の間で僕は自分の気持ちがよく分からなくなってしまった。
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『明日やっと会えるね』
ああ、やっぱり黄瀬川さんとのことは夢じゃないんだ。でも、その現実がかえって重たかった。うれしすぎることを受け止めるのは難しいんだなと思いながら、返信内容を考えていたけど、結局そのまま眠ってしまった。
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