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第7章 高志の失敗(7-1)
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木曜日。いよいよ期末試験だ。初日は地理と化学。強酸と弱酸、塩基とか。
でも、僕の頭の中には試験なんてどうでもいいことはさっぱり入っていなかった。そんなことよりも先輩のことが気になっていた。
幽霊と知り合いになった。先輩は僕の目の前で、正確には目を離したすきに消えた。でも、こんなことを信じてくれる人はいるだろうか。変なやつだと思われても仕方がないことだ。凛は分かってくれるだろうか。
一方で、それが僕と先輩だけの秘密のような気もして、ちょっとうれしくもあった。普通、自分のことを幽霊だなんて言う人はいない。もし、本当にそうだったとして、それを信用できない人には言わないだろう。今の僕が先輩との秘密を他人に言うのをためらっているように。ならば、それは先輩が僕のことを信用してくれているという証拠じゃないか。少なくとも嫌われてはいないはずだ。僕は自分にとって都合のいいように解釈していた。
昨日いちおう家で勉強はしたけど、その間もずっと先輩のことを考えていた。赤点取ったら先輩に文句を言おう。先輩のことを考えていて赤点取っちゃったじゃないですか。会う口実を思いついて僕はちょっと浮かれていた。今日は会えるんだろうか。
いつものように食パンマンションの前を通り過ぎると、凛が後から追いかけてきた。
「オハヨ」
妙に元気だ。こういう時はかえって危ない。凛が鞄を振り回して僕のお尻にぶつけながら言った。
「昨日、高志とチューしたよ」
「え、勉強しなかったの?」
凛が大笑いする。ふかしたての温泉まんじゅうのお店みたいな白い湯気がわき上がる。今日も澄んだ空が冷えこんでいる。
「そっちの心配かよ。少しは嫉妬してよ」
ん、チューした?
え、そうなのか。
僕はようやく意味をつかんだ。試験と先輩のことに関心が向きすぎて、凛の話が飲み込めなかったのだ。
「本当?」
「嘘だよ。してないよ」
「なんだよ、びっくりした」
「あんたの反応を試しただけ。ごめん」
「ホントにしてないの?」
「気になる?」
だから、そういうのやめろって。
「本気にしちゃうじゃないかよ」
僕の表情を見て凛が口元に手を当てて白い息を吐く。
「よかった、ちょっとは嫉妬するんだね」
「そりゃあ、気になるよ」
凛が急に黙り込む。僕らはそのまま校門をくぐって昇降口まで無言のまま来てしまった。
凛の話が突然すぎて、先輩のことを話そうとしていたことすら忘れてしまっていた。
今日も校門で高志とは出会わなかった。
「あのさ」
凛が靴を履き替えながらつぶやいた。
「ホントにしてないから。信じて」
真面目すぎて凛らしくない。
「どうした?」
「なんか、誤解されたくないから」
「自分から言い出しておいて、なんだよ」
僕の言葉に凛が怒り出した。
「わかったよ、朋樹にはあたしらのことなんかどっちでもいいんだろ。したってことにしとけよ。すげえいっぱいラブラブチューしたよ。もう知らない。バーカ」
登校してきた人たちがみな僕を見てくすくす笑っている。
あのさ、まわりの視線ぐらい気にしろよ。僕がさらし者じゃないか。
でも、僕の頭の中には試験なんてどうでもいいことはさっぱり入っていなかった。そんなことよりも先輩のことが気になっていた。
幽霊と知り合いになった。先輩は僕の目の前で、正確には目を離したすきに消えた。でも、こんなことを信じてくれる人はいるだろうか。変なやつだと思われても仕方がないことだ。凛は分かってくれるだろうか。
一方で、それが僕と先輩だけの秘密のような気もして、ちょっとうれしくもあった。普通、自分のことを幽霊だなんて言う人はいない。もし、本当にそうだったとして、それを信用できない人には言わないだろう。今の僕が先輩との秘密を他人に言うのをためらっているように。ならば、それは先輩が僕のことを信用してくれているという証拠じゃないか。少なくとも嫌われてはいないはずだ。僕は自分にとって都合のいいように解釈していた。
昨日いちおう家で勉強はしたけど、その間もずっと先輩のことを考えていた。赤点取ったら先輩に文句を言おう。先輩のことを考えていて赤点取っちゃったじゃないですか。会う口実を思いついて僕はちょっと浮かれていた。今日は会えるんだろうか。
いつものように食パンマンションの前を通り過ぎると、凛が後から追いかけてきた。
「オハヨ」
妙に元気だ。こういう時はかえって危ない。凛が鞄を振り回して僕のお尻にぶつけながら言った。
「昨日、高志とチューしたよ」
「え、勉強しなかったの?」
凛が大笑いする。ふかしたての温泉まんじゅうのお店みたいな白い湯気がわき上がる。今日も澄んだ空が冷えこんでいる。
「そっちの心配かよ。少しは嫉妬してよ」
ん、チューした?
え、そうなのか。
僕はようやく意味をつかんだ。試験と先輩のことに関心が向きすぎて、凛の話が飲み込めなかったのだ。
「本当?」
「嘘だよ。してないよ」
「なんだよ、びっくりした」
「あんたの反応を試しただけ。ごめん」
「ホントにしてないの?」
「気になる?」
だから、そういうのやめろって。
「本気にしちゃうじゃないかよ」
僕の表情を見て凛が口元に手を当てて白い息を吐く。
「よかった、ちょっとは嫉妬するんだね」
「そりゃあ、気になるよ」
凛が急に黙り込む。僕らはそのまま校門をくぐって昇降口まで無言のまま来てしまった。
凛の話が突然すぎて、先輩のことを話そうとしていたことすら忘れてしまっていた。
今日も校門で高志とは出会わなかった。
「あのさ」
凛が靴を履き替えながらつぶやいた。
「ホントにしてないから。信じて」
真面目すぎて凛らしくない。
「どうした?」
「なんか、誤解されたくないから」
「自分から言い出しておいて、なんだよ」
僕の言葉に凛が怒り出した。
「わかったよ、朋樹にはあたしらのことなんかどっちでもいいんだろ。したってことにしとけよ。すげえいっぱいラブラブチューしたよ。もう知らない。バーカ」
登校してきた人たちがみな僕を見てくすくす笑っている。
あのさ、まわりの視線ぐらい気にしろよ。僕がさらし者じゃないか。
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