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 星朋樹、柳ヶ瀬凜、鴻巣高志、僕ら三人はずっと一緒に生きてきた。
 福岡県北部の糸原市。『いとはら』ではなく『いとばる』と読む。
 糸原小学校から糸原中学校をへて、現在、糸原高校一年生。
 履歴書を書くときに間違えようがなくて楽でいい。アルバイトをした経験はまだないので書いたことはないけどね。
 さすがに糸原には大学はないから、次でこの流れもようやく止まるはずだ。行くかどうかはまだ分からないけど、定員割れの底辺大学なら僕の頭でもどこか入れてくれるんじゃないだろうか。
 鴻巣高志の家は糸原工務店だ。大学に行かないと履歴書が同じ文字で終わってしまうと嘆いている。でも、家を継ぐならそもそも履歴書なんて書かないだろうから、それよりも二年生に進級できるか心配した方がいいと思う。
 僕の行動範囲は半径十五分だ。
 糸原小学校の時は歩いて十五分の範囲で遊び、糸原中学校に進んでからは自転車で十五分の範囲になり、たまに親の車で十五分のイオンに買い物に行くけど、糸原高校は歩いて十五分の範囲にある。
 もちろん親に連れられて電車で四十分の博多くらいは行ったことはある。でも、年に一回くらいだから、とにかく僕の世界は半径十五分で完結しているのだ。
 東西一直線の線路が街を南北半分に分けている。北側は国道が通っていてファミレスやらアメリカ式大型スーパーのフードアイなんかもあって賑やかだけど、僕の住む南半分は昔ながらの住宅地だ。狭い路地がクランク状になっていて、しょっちゅう車が鉢合わせする。老人が買い物カートを引いていたりすると、追い越しもできない。線路には何カ所か歩行者専用踏切があって、抜け道を歩いた方が早く国道まで出られるときも多い。小さいくせにそんな迷路みたいな街だから外に出るのが億劫なのかもしれない。
 学園七不思議なんてどこの学校にでもあるというけど、僕らの糸原中学校は田畑と住宅が混在した地域にある平凡な学校で、そんなものはなかった。そのかわり、町の七不思議というのはある。というより、高志が作った。
 糸原市には農業用のため池が多い。大小様々数え切れないくらいある。糸原高校の隣も町で一番大きなため池だ。もちろん、小学校の頃には近づかないようにと指導されていたけど、友達同士で魚釣りに行ったりするのは当たり前だった。そんなときに、高志が決まって、「水でふやけたエロ本を拾おうとして、ため池に落ちて死んだ地縛霊がいる」と話し出すのがお約束だった。
 リアリティもないし、全然怖くもないのでみんなで大笑いしていたものだけど、たまに本当に死体が浮かんでいる事件があって、警察がたくさん来ていることもあった。
 そんなときほど高志は僕の背中を押して池に落とそうとした。
「やめてくれよ」
「ビビるなよ」
 そんな高志も柳ヶ瀬凛の一言に弱い。
「よしなよ、高志。拾ったエロ本のページが全部朋樹の写真になるよ」
「うわ、マジでそれ怖いじゃん」
 今時エロ本なんて拾わなくたって困らないだろうに。
 もう一つは呪いの墓地だ。
 中学校近くの畑の中に古いお墓が並んでいるところがあって、樹木に囲まれているせいかいつも薄暗い。バレンタインの時にここでチョコを渡すと両想いになれるけど、チューをすると別れるという噂があって、毎年二月十四日以外は中学生が誰も近寄らない。まあ、そもそもお墓が好きな中学生なんているわけないから当たり前だと思うんだけどね。
 僕も高志もバレンタインに女子に呼び出されたことはないし、豆柴のぬいぐるみぐらいしかチューなんかしたことないから、噂の真偽は分からない。
 ……二つだけだな。
 しかも、つまらない。高志のせいだ。
 僕らの街なんてこんなもんだ。
 昨日までと同じ今日が明日も続く。そんな場所で僕たち三人はずっと一緒だったし、これからも一緒だと思っていた。
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