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「10年前、雨の量が例年に比べかなり少ない年があり、作物が育たなかったので大変な飢饉が起きました。国民に分け与えるため、城に貯蔵されていた食料を民に分け与えることになったのですが、その時になって大半が盗まれていたことが分かったのです。
それは貯蔵庫の警備を怠った父上のせいだと非難され、議会が力をつけました。父を貶めるために議会の誰かが行ったのではと私は思っていますが、そのせいで、多くの民が命をおとしたのは事実で、父はその報いを甘んじて受けました。
オレーユに求婚されたのもそのころです」
朝食を食べ終えた後、フランソワはぽつりぽつりと話し始めた。
ソフィアは黙って隣で聞いていた。
今でこそ体の出来上がっていないときの出産を防ぐため成人してからの結婚を推奨されているが、10年前はむしろ早期に結婚し子をなすことをを勧める風潮だったという。
「本来王族には幼少期には婚約者がいるのが普通ですが、私は幼いころ病弱だったので不在でした」
オレーユが王宮でさらなる力をつけるためフランソワに求婚してきたのだが、議会の力が強いのに加え、オレーユはモンブール国王の甥でもあることから「オレーユとは性格が合わないので結婚したくない」という理由では断ることはできなかった。本来であればもちろん王族であるフランソワの意見が尊重されただろうが。
苦肉の策でかなり強引ではあるがすでに王妃の祖国に嫁いだ、ということにし、ブローニュ伯爵の家でかくまってもらっていた。伯爵は王族とかかわりの深い人物ではないため、見つかる可能性は低いと思われたが、王都にあるのでクロードからアルデンヌ家に行くように勧められたのは渡りに船だった。
アルデンヌ家と関わっていたのはクロードだけでそのことを知っているのも王宮のごく一部の人間だけで、アルデンヌ家は王都から遠く離れていたからだ。
この10年フランソワと会ったことのある人物との接触はできる限り避けるように過ごしていた。
王宮に帰ってからも王族の居室がある塔の出入りしかしていなかったのだという。先日ベルが来た時に急に休みを取ったのもベルに接触するのをさけるためだ。
「このことを知っているのはごく一部の人間だけです。使用人も10年で人が入れ替わっていますし。
クロードではなく私のほうがソフィア様を利用したと言っても過言ではありません。申し訳ありません」
フランソワは肩を落としたが、
「謝らないでください。フランソワ様。マリアとの生活はとても楽しかったのですから」
利用されたとは思っていないし、そうだとしてもこの10年楽しく過ごさせてもらったのだからいいと思う。マリアの存在がクロードと会えない寂しさを紛らわせてくれたと言ってもいいくらいだ。
「マリアがフランソワ様と知って色々と納得いたしました」
マリアはクロードを始めとした王族たちとよく言えば親密、悪く言えば馴れ馴れしすぎる態度でマリアの主人としてハラハラしたものだ。長年勤めている使用人でもマリアのように接しているメイドはもちろんいない。礼儀にうるさいメイド頭がむしろほほえましく見ているのも不思議だった。
「先日母上から呼び出されたのも『早く結婚するように』と口うるさく言われまして。何人か相手をすでに選んでいるそうですわ」
「そうですか……。フランソワ様にはお幸せになってほしいですが、少し、いえかなり寂しいですね」
「私もです。ですから10年もソフィア様にお仕えしてしまったのですけど。それと今まで通りマリアでかまいませんよ。そちらのほうが慣れていますから」
「王女様と分かったらそんなわけにはいきません。フランソワ様こそ私のことはソフィアとお呼びください」
「私も今さら呼びづらいです。
ソフィア様。先ほどの交渉は失敗しましたが、まだ交渉の材料はあります。ソフィア様は必ず私がーー」
「あらフランソワ様。お久しぶりです。
なんだか面白い話をされていますわねぇ。どういうことですの?」
それは貯蔵庫の警備を怠った父上のせいだと非難され、議会が力をつけました。父を貶めるために議会の誰かが行ったのではと私は思っていますが、そのせいで、多くの民が命をおとしたのは事実で、父はその報いを甘んじて受けました。
オレーユに求婚されたのもそのころです」
朝食を食べ終えた後、フランソワはぽつりぽつりと話し始めた。
ソフィアは黙って隣で聞いていた。
今でこそ体の出来上がっていないときの出産を防ぐため成人してからの結婚を推奨されているが、10年前はむしろ早期に結婚し子をなすことをを勧める風潮だったという。
「本来王族には幼少期には婚約者がいるのが普通ですが、私は幼いころ病弱だったので不在でした」
オレーユが王宮でさらなる力をつけるためフランソワに求婚してきたのだが、議会の力が強いのに加え、オレーユはモンブール国王の甥でもあることから「オレーユとは性格が合わないので結婚したくない」という理由では断ることはできなかった。本来であればもちろん王族であるフランソワの意見が尊重されただろうが。
苦肉の策でかなり強引ではあるがすでに王妃の祖国に嫁いだ、ということにし、ブローニュ伯爵の家でかくまってもらっていた。伯爵は王族とかかわりの深い人物ではないため、見つかる可能性は低いと思われたが、王都にあるのでクロードからアルデンヌ家に行くように勧められたのは渡りに船だった。
アルデンヌ家と関わっていたのはクロードだけでそのことを知っているのも王宮のごく一部の人間だけで、アルデンヌ家は王都から遠く離れていたからだ。
この10年フランソワと会ったことのある人物との接触はできる限り避けるように過ごしていた。
王宮に帰ってからも王族の居室がある塔の出入りしかしていなかったのだという。先日ベルが来た時に急に休みを取ったのもベルに接触するのをさけるためだ。
「このことを知っているのはごく一部の人間だけです。使用人も10年で人が入れ替わっていますし。
クロードではなく私のほうがソフィア様を利用したと言っても過言ではありません。申し訳ありません」
フランソワは肩を落としたが、
「謝らないでください。フランソワ様。マリアとの生活はとても楽しかったのですから」
利用されたとは思っていないし、そうだとしてもこの10年楽しく過ごさせてもらったのだからいいと思う。マリアの存在がクロードと会えない寂しさを紛らわせてくれたと言ってもいいくらいだ。
「マリアがフランソワ様と知って色々と納得いたしました」
マリアはクロードを始めとした王族たちとよく言えば親密、悪く言えば馴れ馴れしすぎる態度でマリアの主人としてハラハラしたものだ。長年勤めている使用人でもマリアのように接しているメイドはもちろんいない。礼儀にうるさいメイド頭がむしろほほえましく見ているのも不思議だった。
「先日母上から呼び出されたのも『早く結婚するように』と口うるさく言われまして。何人か相手をすでに選んでいるそうですわ」
「そうですか……。フランソワ様にはお幸せになってほしいですが、少し、いえかなり寂しいですね」
「私もです。ですから10年もソフィア様にお仕えしてしまったのですけど。それと今まで通りマリアでかまいませんよ。そちらのほうが慣れていますから」
「王女様と分かったらそんなわけにはいきません。フランソワ様こそ私のことはソフィアとお呼びください」
「私も今さら呼びづらいです。
ソフィア様。先ほどの交渉は失敗しましたが、まだ交渉の材料はあります。ソフィア様は必ず私がーー」
「あらフランソワ様。お久しぶりです。
なんだか面白い話をされていますわねぇ。どういうことですの?」
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