上 下
31 / 74

31

しおりを挟む
 モンブールの王女は夜半遅くの到着になるとのことだった。
「ソフィア」
 夕食を済ませ、食堂を出ようとしたところでソフィアは女王に呼び止められた。
 食事で顔を合わせる中で会話はあったが、二人で話したことなどなかったので少し緊張する。
「女王陛下。何か御用でしょうか?」
「マリアのことなのだけれど、私の部屋に来るように伝えてくれる?王宮に戻ってからあまり話せてないの」
「伝えておきます。女王陛下はメイドたちにも気をお配りになってお優しい方なのですね。マリアは私に仕えてくれているメイドですから私もうれしいです」
 ソフィアの言葉に女王は複雑な表情を見せた。
「そうね…」
 少し言い淀んでから、
「使用人は等しくかわいくはあるけれど、マリアはね特別なの」
「特別、ですか……」
「でも主人がこんなことを言ってはいけないから秘密にしておいてちょうだいね。マリアには伝えてくれてもいいけれど」
「はい、それはもちろん」
 マリアはクロードの思惑により王宮で使えていたのにアルデンヌ家に来ることになった。そんなメイドはそうそういないだろうから、思い入れがあるのかもしれない。

「女王様があとで部屋に来てほしいとおっしゃっていらしたわ」
 湯あみをすませ、夜着を着せつけてくれたマリアに、女王からの伝言を伝える。
 今日はクロードは用事で遅くなるようで、来ないらしい。それゆえに王宮に来てから初めてしっかりとした生地のや夜着を着ている。
「女王陛下が…。かしこまりました」
 女王の部屋に招かれたというのに一切マリアは動じた様子はない。
「マリアは特別だとおっしゃってらしたわ」
「クロード様のわがままに一番私が振り回されていますから、気にかけてくださっているのでしょう。戻った時にご挨拶させていただきましたが、一使用人の私が女王様に個人的にお話しさせていただくことはできませんから」
 マリアが苦笑する。
「では私は失礼します。今日のお出かけのお話は後日ゆっくりお聞かせくださいね」
 礼をしてマリアが出て行く。
 クロードも来ないことだし、今日は早く寝てしまおう。
 ソフィアは照明のろうそくを消してベッドに入り、ベスを抱きしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の記憶では飲み会に参加していたハズだった(エロのみ)

恋愛
魔術協会所属の女性が飲み会に参加していたハズなのに気付けば知らない男に犯されていた、なエロシーンのみ。 ムーンライトより転載作品。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

完結R18)夢だと思ってヤったのに!

ハリエニシダ・レン
恋愛
気づいたら、めちゃくちゃ好みのイケメンと見知らぬ部屋にいた。 しかも私はベッドの上。 うん、夢だな そう思い積極的に抱かれた。 けれど目が覚めても、そこにはさっきのイケメンがいて…。 今さら焦ってももう遅い! ◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎ ※一話がかなり短い回が多いです。 オマケも完結! ※オマケのオマケにクリスマスの話を追加しました (お気に入りが700人超えました嬉しい。 読んでくれてありがとうございます!)

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。 ※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。 ※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。

【R18】私の事が嫌いなのに執着する婚約者

京佳
恋愛
婚約者のサミュエルに冷たい態度を取られ続けているエリカは我慢の限界を迎えていた。ついにエリカはサミュエルに婚約破棄を願い出る。するとサミュエルは豹変し無理矢理エリカの純潔を奪った。 嫌われ?令嬢×こじらせヤンデレ婚約者 ゆるゆる設定

【R18】根暗な私と、愛が重すぎる彼

夕日(夕日凪)
恋愛
私、乙川美咲は冴えない見た目と中身の女だ。 だけど王子様のような見た目の誠也は、私を『可愛い、好きだと』言って追い回す。 何年も、何年も、何年も。 私は、貴方のお姫様になんてなれないのに。 ――それはまるで『呪い』のようだと私は思う。 王子様系ヤンデレ男子×ぽっちゃり根暗な病んでる女子の、 ちょっぴりシリアス、最後はハッピーエンドなお話。 3話完結。番外編をたまに追加します。

睡姦しまくって無意識のうちに落とすお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレな若旦那様を振ったら、睡姦されて落とされたお話。 安定のヤンデレですがヤンデレ要素は薄いかも。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

処理中です...