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「お兄様!」
プラチナブロンドに青い瞳、頭には環をのせていて、背中には羽もある。
(天使だ)
それほどまでに少女の美しさは神々しいほどだった。
不意に現れた少女が手をとった。
少女は人間で、天使ではなかった。環は祭りで買い求めたらしい白い花冠で、羽だと思ったのははためいたマントだった。
「こんなところにいらしたの?探したのよ、お兄様」
妹はいなかったが、男から離れるために便乗させてもらうことにした。
「あ、ああ。悪かったな」
「早く帰ろう」
ほどなくして優しそうな紳士も現れ、男は舌打ちをして離れた。
今さらながらに連れていかれたらどうなっていただろうと体が震えた。
「もう大丈夫よ」
「争っておいでのようでしたので、差し出がましいとは思ったのですが。……供のものはいないようですね」
アルデンヌ男爵と名乗った紳士は、誰なのか分かっているようだった。
「お一人で出歩くならば、少なくとも身なりのよい服を着てはいけません。そもそもお一人でお出掛けになるのは、いささか早いとは思いますが」
優しくいさめる男爵に無言で頷く。
とりあえず男爵家で休むことになった。城のものには連絡をつけてくれるという。
「いつもは夜に出歩いてはいけないけど、今日はお祭りだから特別なの。お父様と一緒なら怖いことはないのよ!でもジャンは小さいから留守番なの」
少女は屋敷に向かう道すがら、にこにこと話続けた。人懐っこいらしい。ずっと繋いだままの手が温かい。
「私はソフィア。あなたの名前は?」
「ソフィア。この方は……」
男爵に手で合図し、名乗った。
「クロード。私はクロードだ」
屋敷につくと夫人や使用人は驚きつつも温かく迎えてくれる。
湯あみをさせてくれ、温かい食事を用意してくれた。
「普段の食事のご用意しかできず申し訳ありません」
「急な訪問ゆえ、気にやむ必要はない」
申し訳なさそうな男爵にクロードは軽く頷く。
クロードを気に入ったらしいソフィアは、当然のように隣の席を確保する。
「うちの料理人の食事はとてもおいしいのよ。シチューなんて絶品で、きっと王様もこんなにおいしい食事は召し上がれないわ」
「……こら、ソフィア」
「良いのだ、男爵。ではいただこう」
シチューを口に運ぶクロードをソフィアはじーっと凝視している。
「うむ。確かに絶品だ」
ソフィアはその言葉に顔をほころばせた。
ほどなくして血相を変えた騎士たちが迎えに来た。
「…もう帰るの?また来る?もっと遊びたいわ」
男爵の後ろから潤んだ瞳で訴える少女に、クロードは目線を合わせて頭を撫でる。
「私はしばらく近くに滞在するからね。……また来るよ」
ソフィアは嬉しそうに頷く。
「きっとよ」
騎士たちに引きずられて屋敷に戻ったクロードは、騎士やメイドたちから大層絞られた。
男爵家の再訪は猛反対されたが、王都に戻ったらより一層勉学や剣術に励むからと熱心に頼み込み、一日一時間だけ騎士の監視つきという条件で認められた。
男爵家で過ごした時間はわずかだったが、ソフィアは兄のように慕ってくれ、赤子と幼児の狭間のようなジャンもおぼつかない足取りで後を追ってきたりとなついてくれてとても可愛かった。
その後10年アルデンヌ男爵家を訪れることはなかったわけだが、そのときの思い出を支えにクロードは王族となるための学業に励んだのだった。
プラチナブロンドに青い瞳、頭には環をのせていて、背中には羽もある。
(天使だ)
それほどまでに少女の美しさは神々しいほどだった。
不意に現れた少女が手をとった。
少女は人間で、天使ではなかった。環は祭りで買い求めたらしい白い花冠で、羽だと思ったのははためいたマントだった。
「こんなところにいらしたの?探したのよ、お兄様」
妹はいなかったが、男から離れるために便乗させてもらうことにした。
「あ、ああ。悪かったな」
「早く帰ろう」
ほどなくして優しそうな紳士も現れ、男は舌打ちをして離れた。
今さらながらに連れていかれたらどうなっていただろうと体が震えた。
「もう大丈夫よ」
「争っておいでのようでしたので、差し出がましいとは思ったのですが。……供のものはいないようですね」
アルデンヌ男爵と名乗った紳士は、誰なのか分かっているようだった。
「お一人で出歩くならば、少なくとも身なりのよい服を着てはいけません。そもそもお一人でお出掛けになるのは、いささか早いとは思いますが」
優しくいさめる男爵に無言で頷く。
とりあえず男爵家で休むことになった。城のものには連絡をつけてくれるという。
「いつもは夜に出歩いてはいけないけど、今日はお祭りだから特別なの。お父様と一緒なら怖いことはないのよ!でもジャンは小さいから留守番なの」
少女は屋敷に向かう道すがら、にこにこと話続けた。人懐っこいらしい。ずっと繋いだままの手が温かい。
「私はソフィア。あなたの名前は?」
「ソフィア。この方は……」
男爵に手で合図し、名乗った。
「クロード。私はクロードだ」
屋敷につくと夫人や使用人は驚きつつも温かく迎えてくれる。
湯あみをさせてくれ、温かい食事を用意してくれた。
「普段の食事のご用意しかできず申し訳ありません」
「急な訪問ゆえ、気にやむ必要はない」
申し訳なさそうな男爵にクロードは軽く頷く。
クロードを気に入ったらしいソフィアは、当然のように隣の席を確保する。
「うちの料理人の食事はとてもおいしいのよ。シチューなんて絶品で、きっと王様もこんなにおいしい食事は召し上がれないわ」
「……こら、ソフィア」
「良いのだ、男爵。ではいただこう」
シチューを口に運ぶクロードをソフィアはじーっと凝視している。
「うむ。確かに絶品だ」
ソフィアはその言葉に顔をほころばせた。
ほどなくして血相を変えた騎士たちが迎えに来た。
「…もう帰るの?また来る?もっと遊びたいわ」
男爵の後ろから潤んだ瞳で訴える少女に、クロードは目線を合わせて頭を撫でる。
「私はしばらく近くに滞在するからね。……また来るよ」
ソフィアは嬉しそうに頷く。
「きっとよ」
騎士たちに引きずられて屋敷に戻ったクロードは、騎士やメイドたちから大層絞られた。
男爵家の再訪は猛反対されたが、王都に戻ったらより一層勉学や剣術に励むからと熱心に頼み込み、一日一時間だけ騎士の監視つきという条件で認められた。
男爵家で過ごした時間はわずかだったが、ソフィアは兄のように慕ってくれ、赤子と幼児の狭間のようなジャンもおぼつかない足取りで後を追ってきたりとなついてくれてとても可愛かった。
その後10年アルデンヌ男爵家を訪れることはなかったわけだが、そのときの思い出を支えにクロードは王族となるための学業に励んだのだった。
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