上 下
14 / 74

14

しおりを挟む
「これで正式に婚約者となったが、改めて尋ねる」
 クロードはソフィアを、優しく膝から下ろし立たせた。前にひざまづかれソフィアは狼狽したが、押し止められる。クロードはその手をとって、じっとソフィアの目を見上げる。

「私と婚姻を前提とし、婚約してくれるな?」

 国王の許しを得て、男爵が伯爵となった今、ソフィアが拒む理由はなかった。ソフィアが一人拒んだところで、すでに結婚式の招待状まで出されてはどうにもできないが。
 自分の心のままに答えて、いいのだろうか。
 迷ったのは一瞬だった。

「喜んでお受けいたします。クロード様」

 ソフィアは頷いた。 
 嬉しそうなクロードが、優しく抱きしめてくる。
 もっと伝えたいことはたくさんあったのに、言葉がつまって出てこない。
 過ごした時間はほんの数日であったにも関わらず、大好きだったクロード。もらった髪飾りを見ては、楽しかった時間を思い返した。
 クロードとの再会は叶うことなく、社交界デビューしたら言い寄られた誰かと結婚するのだろうと考えていた。会いたくてたまらなかったクロードと再び相まみえることができ、婚約することができた。こんな恐ろしいほどの幸福があっていいのかと、ソフィアはしみじみ思う。
 幸せを噛み締めていると、自然と涙が溢れてしまう。
「な、なぜ泣くのだ」
 あわてふためくクロードは涙に弱いらしい。指先で涙をすくいとりながら、困惑した顔で言う。
「ソフィアの笑顔は大輪の花のようだが、泣いている姿は朝露のついた薔薇のようだ。どちらも美しく見ていたいから困るな」
「クロード様、何をおっしゃっているのですか」
 思わず笑いが込み上げてしまい、ソフィアの涙は止まった。
「うむ。やはりソフィアは笑っている顔が一番よい」
 クロードは満足気に頷き、ソフィアのあごを掴んで優しく引き寄せた。
 ーーキスをされる
 ソフィアは自然と目を閉じた。
 もう少しで唇が触れる。


 と、そのとき。

「クロード殿下。謁見が終わったら、速やかにお戻りくださいと申し上げたはずですが!こちらにおられますよね?失礼します」
 激しいノックとともに扉が開き、青年がずかずかと入ってくる。あっけにとられているソフィアをよそに、クロードの手首をしっかり掴む。
「クロード様付きの文官のライナスです。ご挨拶はいずれきちんとさせていただきます。あわただしくして申し訳ありません」
 まるで嵐のような人物だ。そそくさと簡単に挨拶をすませると、クロードを引きずるように出ていってしまう。
 ーーいいところだったのだぞ。ずっと働きづめだったのだから、少しくらいの栄養補給バチはあたらぬ。
 ーークロード様が執務をおいておでかけになるからでしょう。
 二人の会話がどんどん小さくなっていく。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の記憶では飲み会に参加していたハズだった(エロのみ)

恋愛
魔術協会所属の女性が飲み会に参加していたハズなのに気付けば知らない男に犯されていた、なエロシーンのみ。 ムーンライトより転載作品。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

完結R18)夢だと思ってヤったのに!

ハリエニシダ・レン
恋愛
気づいたら、めちゃくちゃ好みのイケメンと見知らぬ部屋にいた。 しかも私はベッドの上。 うん、夢だな そう思い積極的に抱かれた。 けれど目が覚めても、そこにはさっきのイケメンがいて…。 今さら焦ってももう遅い! ◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎ ※一話がかなり短い回が多いです。 オマケも完結! ※オマケのオマケにクリスマスの話を追加しました (お気に入りが700人超えました嬉しい。 読んでくれてありがとうございます!)

【R18】根暗な私と、愛が重すぎる彼

夕日(夕日凪)
恋愛
私、乙川美咲は冴えない見た目と中身の女だ。 だけど王子様のような見た目の誠也は、私を『可愛い、好きだと』言って追い回す。 何年も、何年も、何年も。 私は、貴方のお姫様になんてなれないのに。 ――それはまるで『呪い』のようだと私は思う。 王子様系ヤンデレ男子×ぽっちゃり根暗な病んでる女子の、 ちょっぴりシリアス、最後はハッピーエンドなお話。 3話完結。番外編をたまに追加します。

睡姦しまくって無意識のうちに落とすお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレな若旦那様を振ったら、睡姦されて落とされたお話。 安定のヤンデレですがヤンデレ要素は薄いかも。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています

一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、 現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。 当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、 彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、 それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、 数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。 そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、 初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

腹黒伯爵の甘く淫らな策謀

茂栖 もす
恋愛
私、アスティア・オースティンは夢を見た。 幼い頃過ごした男の子───レイディックと過ごした在りし日の甘い出来事を。 けれど夢から覚めた私の眼前には、見知らぬ男性が居て───そのまま私は、純潔を奪われてしまった。 それからすぐ、私はレイディックと再会する。 美しい青年に成長したレイディックは、もう病弱だった薄幸の少年ではなかった。 『アスティア、大丈夫、僕が全部上書きしてあげる』   そう言って強姦された私に、レイディックは手を伸ばす。甘く優しいその声は、まるで媚薬のようで、私は抗うことができず…………。  ※R−18部分には、♪が付きます。 ※他サイトにも重複投稿しています。

処理中です...