ロマンチックな恋ならば

水無瀬雨音

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「後悔なんか、するはずがない。僕の望みが叶うのに」

 ゆっくりとベッドに押し倒すと、エディは不安げな顔をした。

「ダニーは、僕で……できるの?」
「何を今さら」

 抱いてほしいと言ったのはエディのほうなのに。今さら怖気づいたのだろうか、と思ったら違った。
 
「僕はダニーのこと好きだけど、……君はそういう意味で僕のことを好きじゃないの、分かってるから」

(本当は、俺もお前を好きだって言いたい。ずっと好きだったって)

 口にしたいのを、飲み込む。両想いだと伝えたところで、結ばれることはできないからだ。ならば、伝えない方がいい。
   エディはほんのり頬を赤くさせて、

「それに、人間だからいつでもできるけど、君は獣人だから発情期じゃないとできないだろ?」

 本来ならばそうだ。ダニエルの発情期は二カ月ほど先だ。だが。
 ずっと諦めていた、エディを抱くことができる、と考えただけで、体が熱くなるのが分かった。それがただ一度だけだとしても。
 そして、エディの普段よりも強い甘い香りが、余計にダニエルを煽った。

「余計な心配しなくていい」
「でも、あ……んっ、ふ……」

 まだ何か言おうとするエディの口を、自分のものでふさぐ。
 初めてのキスは、めまいがするほど甘美だった。
 オメガとのキスは、皆こんな風に甘いのだろうか。それともエディだけが、特別甘いのだろうか。
 夢中でエディの唇をむさぼっていると、胸に押し当てられた腕を突っ張られ、強引に唇を離させられた。

「ん……っ。もう! なが、い……! 苦しい」

 頬を赤く上気させ、荒く息を吐くエディが可愛い。肩で大きく息をしている。

「……キスをするときは、鼻で息しろよ」
「は、な……?」
「ほら、もう一度」
「んっ」

 軽い酸欠状態で、いまだぼんやりしているエディの口を、再びふさぐ。苦しがっていないか確認しながら、そっとエディのシャツのボタンをはずして開く。甘い香りがより強くなった。



「あっ……ん、ふ……」

 腹の裏側辺りを突くと、エディの嬌声はより強くなった。知識としては知っていたが、女のように濡れるのが不思議だった。ダニエルが腰を動かすほどに、ぐちゅぐちゅと水音が響くほどにより濡れているようだ。
エディが恥ずかしがって顔を手で隠すので、手をつかむ。嫌々と顔をそむけようとするのを、口づけて止める。

「顔、見せて」
「や……ぁ、恥ずか、しい……」

 恥ずかしそうにしながらも、エディは顔をそむけるのをやめた。思い出したからだろう。これが最初の最後の逢瀬だと。
 カーテンの隙間から照らされたエディは、とても美しかった。表情の一つ一つを、声を、絶対に忘れないようにしよう、と思った。
 エディの両足を抱え上げるように抱き上げる。

「あ……や……深いぃ……!」

向かいあってするよりも深い場所に当たるらしく、エディは高い声をあげてダニエルの首元に手を回した。最奥をがつがつと突くと、

「あっ……!」
 
 エディが背中をのけぞらせ、軽く身を震わせて達する。
 ダニエルの腹に白いしぶきが飛び散ったその途端、

 ぶわっ!

 エディの甘い香りが部屋中に広がる。

「……? な、なんだ?」

 めまいがしそうなほどの強い香りに、ダニエルはつながったままのエディをベッドに降ろすと、口元を手で覆った。
 気を張っていないと、すぐにでも意識を持っていかれそうだ。そうしてしまったら、エディに無体なことをしてしまうかもしれない。
 エディがうっすらと上気した顔で、荒く息を吐きながら言った。

「少し早いけど……始まったみたい」
「……ヒートか」

 『人よりも強い』とは言っていたが、ここまでとは思ってなかった。もしダニエルがアルファだったら、ラットになってしまったかもしれない。
 ダニエルは、自分の右腕を噛んだ。うっすらと血がにじむ。

「ダニー? な、何やってるの?」
「こうしないと、おまえのフェロモンに持っていかれそうだったからな。これでまだ意識を保っていられる」

 困惑しているエディに、ニヤッと笑いかけた。

「ヒートなら、まだイケるよな?」
「ま、だやるの……?」

 さんざんお互い出した後なのだ。エディの言い分はもっともなのだが。

「ウサギの獣人に迫るなら覚えとけよ。ウサギの性欲は桁違いってな。……今度は出さないで、いってみよっか?」

 耳元で囁いて、ダニエルは再び腰を動かし始めた。




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