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番外編
一番星
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昼食を取って会社に戻るところでリクルートスーツをまとった大学生たちが緊張した面持ちで右往左往していた。昼過ぎからある就職試験のためだ。
「わぁー初々しいね」
「若いっていいなぁ」
隣にいた高田が年より臭い発言をする。
「あ」
前を歩いていたすらっと背の高い学生が手に持っていた書類を落とした。佑はそれを拾いあげて声をかける。
「書類、落としましたよ」
「すみません。ありがとうございます」
振り返った学生は芸能人のように顔立ちが整っていて、佑は思わず息を飲んだほどだった。
いかにもリア充といった風貌で、佑と真反対だ。
「はい。どうぞ」
平静を装って拾った書類を渡す。ふと学生の顔色が悪い気がして気になった。
「もしかして食事してない?」
「え?」
一瞬戸惑った顔をした学生は苦笑いして頷いた。
「ええ。オレ緊張すると食欲なくなるので。終わったら食べます」
「これならどうかな?おせっかいだけど、少しだけでも口に入れたほうがいいから」
残業の予定だったので購入しておいた飲むタイプのパウチゼリーを差し出す。
「でも」
初対面の佑からもらうのに抵抗があるのか、申し訳なさそうな顔で拒まれたので多少強引に押し付けように胸元に押し付ける。
「試験中にお腹が鳴ったら集中できないよ?」
それもそうだと思ったのか、やっと学生は受け取った。
「……じゃあ、もらいます。ありがとうございます。あのお礼したいので連絡先を」
たかだか百円やそこらなのに律儀な性格らしい。
連絡先を教えるのには抵抗ないが、もちろんお礼をもらう気はないので、佑は急かした。
「これくらい大丈夫だよ。遅れるから早く行ったほうがいいよ」
腕時計で時間を確認した学生は「あ」と声をあげると、ぺこりと頭を下げた。
「本当にありがとうございました。では」
小走りにビルの中に入っていく。
「営業だな。筆記で落ちなきゃ受かるだろ、あいつ」
数年前は自分が同じ立場だったはずなのに、偉そうに高田はそう学生を評した。
佑は苦笑いして、
「うん。イケメンだから営業かもね」
「てか初対面の学生に親切だなぁ、お前。つーかあんな強引なの珍しいよな。惚れた?」
ニヤニヤとからかってくる高田の肩を呆れ顔で軽く叩く。
「あのね。確かにイケメンだったけど。僕普通に女の子が好きだから」
なぜあそこまで強引にでも渡したのか。
自分でも分からない。
高田の予想通り入社してきた学生は、佑を見つけると律儀にお礼をしてきた。確かブランド物のハンカチで逆に申し訳なく思ったのを覚えている。そして平凡な顔立ちの自分を覚えていてくれたことに感心したものだった。
そしてその学生は今は佑の隣にいる。
今日は平日だが、珍しく樹が定時で帰宅で来たのでソファに隣同士で座ってテレビで放送されている映画を見ている。CMの間になんともなしに樹の顔を見上げていると、目線を感じたのか
「何?」
と樹が小首をかしげてきた。
「初めて会ったときのこと、覚えてる?」
「覚えてる。ゼリーくれたよな。で入社してしばらくしてやっと佑見つけてお礼できたから、肩の荷が下りたの覚えてる」
たかだかゼリーにそんなに「お礼をしなくては」と気負わせていたなんてちょっと申し訳ない。
今思えば樹は人に借りを作るのをきらいそうだから、それも致し方無いかもしれないと思ったが。
「あの時もらったハンカチ、まだ使ってるよ」
「そう?すっげー助かったからさ気に入ってくれたなら嬉しい。あの時のゼリーなかったら落ちてたかもなー。マジで」
嬉しそうににこにこ笑う樹。
なぜあの時、あんなに強引に渡したのか、そうまでしても樹に受かってほしかったのかは今でも分からないけれど。
そこまで接点のなかった樹が急に親しくしてくれるようになり、好意を打ち明けてくれて。
実を言えば樹の告白に応えた時は友情のような気持ちしか抱いていなかったのに、離れていくのが怖くて受け入れたところもあったかもしれないが。
誰よりもかっこよくて、正直で、佑を大切にしすぎるほど大切にしてくれて。
そんな樹が大好きだ。離れることなどもう、考えられないと思う。
佑は樹の首に手を回した。少し腰をあげて軽くキスをする。
「受かってくれてありがと、樹。だからこうして今一緒にいることができるんだから。……好きだよ」
「……佑」
真顔になった樹はリモコンをテレビに向けて消した。
「ん?映画は?」
女性向けの恋愛映画だったが、見たことがなかったので結末が気になってたのに。
「明日DVD借りてきてあげます。だから今日の映画はもう終わりです」
「う……うん」
急な敬語に警戒しながら佑はこくりと頷いた。本当は明日ではなく今日見たいが、断ったら何をされるか分からない。
だが、映画を見ないのならこれから何を?
佑が疑問を口にする前に、樹に抱き上げられた。にっこり笑顔がなんだか怖い。
「あんな可愛いこと言ったらオレ我慢できないから。ゆっくりお礼するね?」
もちろん佑に拒否権はなかった。
「わぁー初々しいね」
「若いっていいなぁ」
隣にいた高田が年より臭い発言をする。
「あ」
前を歩いていたすらっと背の高い学生が手に持っていた書類を落とした。佑はそれを拾いあげて声をかける。
「書類、落としましたよ」
「すみません。ありがとうございます」
振り返った学生は芸能人のように顔立ちが整っていて、佑は思わず息を飲んだほどだった。
いかにもリア充といった風貌で、佑と真反対だ。
「はい。どうぞ」
平静を装って拾った書類を渡す。ふと学生の顔色が悪い気がして気になった。
「もしかして食事してない?」
「え?」
一瞬戸惑った顔をした学生は苦笑いして頷いた。
「ええ。オレ緊張すると食欲なくなるので。終わったら食べます」
「これならどうかな?おせっかいだけど、少しだけでも口に入れたほうがいいから」
残業の予定だったので購入しておいた飲むタイプのパウチゼリーを差し出す。
「でも」
初対面の佑からもらうのに抵抗があるのか、申し訳なさそうな顔で拒まれたので多少強引に押し付けように胸元に押し付ける。
「試験中にお腹が鳴ったら集中できないよ?」
それもそうだと思ったのか、やっと学生は受け取った。
「……じゃあ、もらいます。ありがとうございます。あのお礼したいので連絡先を」
たかだか百円やそこらなのに律儀な性格らしい。
連絡先を教えるのには抵抗ないが、もちろんお礼をもらう気はないので、佑は急かした。
「これくらい大丈夫だよ。遅れるから早く行ったほうがいいよ」
腕時計で時間を確認した学生は「あ」と声をあげると、ぺこりと頭を下げた。
「本当にありがとうございました。では」
小走りにビルの中に入っていく。
「営業だな。筆記で落ちなきゃ受かるだろ、あいつ」
数年前は自分が同じ立場だったはずなのに、偉そうに高田はそう学生を評した。
佑は苦笑いして、
「うん。イケメンだから営業かもね」
「てか初対面の学生に親切だなぁ、お前。つーかあんな強引なの珍しいよな。惚れた?」
ニヤニヤとからかってくる高田の肩を呆れ顔で軽く叩く。
「あのね。確かにイケメンだったけど。僕普通に女の子が好きだから」
なぜあそこまで強引にでも渡したのか。
自分でも分からない。
高田の予想通り入社してきた学生は、佑を見つけると律儀にお礼をしてきた。確かブランド物のハンカチで逆に申し訳なく思ったのを覚えている。そして平凡な顔立ちの自分を覚えていてくれたことに感心したものだった。
そしてその学生は今は佑の隣にいる。
今日は平日だが、珍しく樹が定時で帰宅で来たのでソファに隣同士で座ってテレビで放送されている映画を見ている。CMの間になんともなしに樹の顔を見上げていると、目線を感じたのか
「何?」
と樹が小首をかしげてきた。
「初めて会ったときのこと、覚えてる?」
「覚えてる。ゼリーくれたよな。で入社してしばらくしてやっと佑見つけてお礼できたから、肩の荷が下りたの覚えてる」
たかだかゼリーにそんなに「お礼をしなくては」と気負わせていたなんてちょっと申し訳ない。
今思えば樹は人に借りを作るのをきらいそうだから、それも致し方無いかもしれないと思ったが。
「あの時もらったハンカチ、まだ使ってるよ」
「そう?すっげー助かったからさ気に入ってくれたなら嬉しい。あの時のゼリーなかったら落ちてたかもなー。マジで」
嬉しそうににこにこ笑う樹。
なぜあの時、あんなに強引に渡したのか、そうまでしても樹に受かってほしかったのかは今でも分からないけれど。
そこまで接点のなかった樹が急に親しくしてくれるようになり、好意を打ち明けてくれて。
実を言えば樹の告白に応えた時は友情のような気持ちしか抱いていなかったのに、離れていくのが怖くて受け入れたところもあったかもしれないが。
誰よりもかっこよくて、正直で、佑を大切にしすぎるほど大切にしてくれて。
そんな樹が大好きだ。離れることなどもう、考えられないと思う。
佑は樹の首に手を回した。少し腰をあげて軽くキスをする。
「受かってくれてありがと、樹。だからこうして今一緒にいることができるんだから。……好きだよ」
「……佑」
真顔になった樹はリモコンをテレビに向けて消した。
「ん?映画は?」
女性向けの恋愛映画だったが、見たことがなかったので結末が気になってたのに。
「明日DVD借りてきてあげます。だから今日の映画はもう終わりです」
「う……うん」
急な敬語に警戒しながら佑はこくりと頷いた。本当は明日ではなく今日見たいが、断ったら何をされるか分からない。
だが、映画を見ないのならこれから何を?
佑が疑問を口にする前に、樹に抱き上げられた。にっこり笑顔がなんだか怖い。
「あんな可愛いこと言ったらオレ我慢できないから。ゆっくりお礼するね?」
もちろん佑に拒否権はなかった。
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