年下彼氏の策略

水無瀬雨音

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キス

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「よいしょっと」
 樹が佑を抱き直す。
 樹の膝の上で佑が横座りしている格好だ。
「これでしやすくなりましたね。はい」
「う……」
 正直キスをするなんて恥ずかしい。
 付き合った初日でキスは早い、と思うのは佑の考えが古いからだろうか。
 そう思う一方で、どうしても樹から気持ちが聞きたかった。
 そのために佑からのキスが必要なら。


 する。


 佑は樹の首を抱き込んだ。
 身長差があるので、必然的に座高も樹のほうが高い。
 少し体を浮かせると、目を閉じて唇を近づける。
 自分がひどく震えているのが分かった。

 佑の唇に触れたものは思ったより硬かった。目測を誤ったのか、樹の鼻に当たってしまったようだ。

「ご、ごめん。失敗した」
 ガッカリした反面、佑は唇に当たらなくて良かったと思った。やっぱりまだキスは緊張する。自分からするのならなおさら。
「ふふ」
 樹が嬉しそうに含み笑いをした。今日の樹は本当によく笑う。
「嬉しかったです。小鳩さんからしてもらえて」
「じゃあ教えて?」
 鼻に当たってもキスはキスだ。
 佑の当然の主張に
「どうしようかなぁ」
 樹はとぼけた口調だ。
「……ずるい」
 膨れた佑に樹は涼しい顔で応じた。
「大人はずるいんですよ、小鳩さん」
「千堂君はひどい」
 佑がにらみつけているのに、樹はそれすらも愛しいというような顔をしている。
「じゃ、教えますね」
 その瞬間佑はソファに押し倒された。
 樹の顔が近づいてきたと思ったら、あっという間にキスをされた。
「……っん」
 樹の唇はとても柔らかかった。自分も同じくらい柔らかいのかもしれないが、あいにく自分の唇を触ることはあまりないので分からない。
 すぐに樹の唇が離れ、ほっとしたのも束の間でまたほどなくして樹の唇が下りてきた。

 ちゅっ
 ちゅっ

 触れるだけの優しいキスを、角度を変え繰り返し樹は重ねた。
 佑に覚えこませるように。
 好きだと伝えているみたいに。

 触れるだけのキスであっても唇と唇が離れる瞬間には軽いリップ音がなり、佑は無性に恥ずかしかった。


 ……どれくらいの時間がたっただろう。
 繰り返されるキスに佑の頭が蕩けてきたころ、やっと樹は満足したらしい。

「……分かりました?オレの気持ち」

 そう言ってぺろりと唇を舐める樹は妙になまめかしかった。

「……うん」
 蕩けた頭で佑はこくりと頷く。

「ねぇじゃああんたも言って。
 あんたのしてほしいこと、全部してあげます。
 気づいてないことも、言えないことも」

 佑を見下ろす樹はすさまじいまでの色気があった。
 蕩けた頭で佑があらがえるはずがなかった。
 男同士でキスをしているというどこか非現実的な状況に、頭がおかしくなっていたのかもしれない。
 佑は樹の首に腕を回して、引き寄せた樹の耳にささやいた。

「僕も、ずっと前から千堂君が好きだよ」
 
 
 
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