年下彼氏の策略

水無瀬雨音

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キスしてください

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 固まった状態の佑がソファに座って待っていると、樹が紅茶を入れて持ってくる。
「砂糖二つでしたね。どうぞ」
「あ、ありがとう。帰ってきたばっかりで疲れてるのにごめん」
 差し出されたカップを受け取ると、樹も隣に座る。樹はコーヒーだ。
「まずお見合いのことですけど」
 樹が単刀直入に切り出し、佑は樹の横顔を見つめた。
「うまくいきました」
「!」
「ふふ」
 佑の顔を見て樹が含み笑いをする。
「お見合いっつってもオレじゃないですけどね。ネコです」
「……ネコ?」
「前小鳩さん泊まりにきたときオレ仕事で抜けましたよね?そんとき長引きそうだったので『知り合いのネコ預かってるから』っつって帰ったんですよ。相手の社長が愛猫家だったので。
 で、『その時預かってたネコの写真見せて』って言われたので大学の時の先輩でネコ飼ってる人に写真もらったら気に入っちゃって今日のお見合いです。先輩は当然社長と初対面なのでオレと課長はつきそい。で、めでたく決まり。
 ……さっきの小鳩さんの顔」
 樹が思い出したのかまたクスクスと笑う。
「だ、だって。普通お見合いって言ったら……娘って聞いたし」
「猫も家族なんだから娘なんでしょ。小鳩さんの耳に入ればと思って噂ばらまいたんだけど、うまくいきましたね」
「わ、わざと僕の耳に入るように紛らわしい情報流したの!?」
 意地が悪いと思わず佑は憤慨したが、樹は涼しい顔だ。
「だって一週間たつのに小鳩さん全然返事くれないから。
 で?その声やめてってなんですか?どんな声?
 オレの顔見てくれないのはなんで?」
 詰め寄ってくる樹に佑は顔をそらしながら答える。

「もともといい声だけど、たまに低い声出されると……ドキドキするから嫌だ。
 千堂君の顔見てるだけで心臓がおかしくなりそう。
 ……ごめんなんか僕今日変。さっきから動悸がすごくて。風邪かも」
 「やっぱ今日は帰る」と言って立ち上がると、
「……もうあんたどんだけ可愛いの」
 と樹がつぶやいて佑の手首を掴む。
「帰らないで。
 ……ねぇそれって、あんたオレのこと好きですよね?かなり」
 佑を見つめる樹の目が、「嘘は許さない」と言っている。
「……千堂君は?」
 聞き返した佑の声はかすれていた。

 その言葉を聞きたい。
 樹本人の口から。

「聞きたいですか?あんたのことどう思ってるか」
 こくん、と佑が頷くと、樹はぐっと佑の手首を引き寄せた。
 ぽすんと佑は樹の胸元に収まってしまう。離れようともがいた佑を収まった佑を樹がぎゅっと抱きしめた。もう離さないというように。
 耳元で囁く。


「じゃああんたからキスしてください」
 
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