年下彼氏の策略

水無瀬雨音

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帰宅

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 樹の部屋に入った佑は、とんでもない恥ずかしいことをしたのではないかと後悔した。
 樹がお見合いに行ってしまう前にと口走ってしまったが、営業課の課長も同伴していたのに、変に思われただろう。突っ込まれていたら樹がうまく説明してくれていればいいのだが。
「ああー……」
 思わず頭を抱えてしまうが、もうやってしまったことは仕方がない。
「……よし」
 何もしないでいると後悔しか浮かんでこないので、佑は樹の部屋着を拝借して、掃除を始めることにした。佑がしばらく来ていなかったことでまた散らかっていたし、テレビなど見る気にはならない。見たところで右から左で頭には全く入らないだろう。


  ガチャ。

 一通り片付いたところで、玄関のかぎが開く音がした。
 樹だ。
 時計を見ると20時過ぎだ。思ったよりも早い。

「千堂君おかえり」
 
 ぱたぱたとスリッパを鳴らして玄関に迎え出ると、樹がにこっと笑って挨拶してくれる。

「ただいま。小鳩さん」
「……うっ」

 樹の全開のイケメンオーラがまぶしすぎる。
 佑は思わず顔を覆った。

「え?なんすか。オレなんかしました?そんな見るに堪えない顔してますか」
「……逆です。オーラがまぶしすぎて」
 恐る恐る手を外すと、怪訝な顔つきをしていた樹が吹き出す。
「ふふ。なんすか。オーラって。小鳩さん、オレの服着てるんですね」
「ごめんね、勝手に。スーツだと動きにくくて」
「いえ。嬉しいです」
 樹が嬉しそうに微笑む。
「……」
 佑は正視に耐えることができず目をそらした。
 普段見慣れているはずなのに、今日は樹の顔を見ることができない。特に笑顔。
 一週間顔を合わせてなかったからだろうか。だが一週間顔を合わさないなんてざらだったのに。

「小鳩さん?」
 樹が顔を覗き込んでくる。
「ふわっ!?」
「全然目合わせてくれないから寂しいんですけど?
 ……こっち見ないならキスしますよ」
「キス!?なんで?」
 近づいてきた樹の顔にひるんで思わず飛びのく。
「だって付き合ってるですよね」
 「普通でしょ?」と樹は飄々としている。
「そ、そうか。付き合ったらキス……するよね」
 そしてきっとそれ以外のことも。
 想像して佑は顔を赤くする。
「あんた本当顔にすぐ出ますね」
 クスクス笑った樹がすっと目を細める。
「可愛い」
 と声を低くして顔を近づけてくるのを
「ま、待って」
 佑が手のひらでガードする。
 ほんの数分の間に佑の心臓は破裂しそうだ。これからずっとこんな調子ならもちそうにない。
「なんで」
 またも遮られた樹が端正な顔をむっとしている。
「お見合い……どうなったの?
 てかつ、付き合うって僕のことす、好き、なの?
 その声変えるのもやめて」
 佑が早口でまくしたてると、樹がふふ、っと笑った。
「一つずつ話すからとりあえずリビング行って座りましょう」
 
 
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