年下彼氏の策略

水無瀬雨音

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風邪

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 あれから一週間ほど佑と顔を合わせることなくすごした。あたりさわりのないやりとりをメールやラインでする程度だ。正直どんな顔をして会えばいいのか分からなかったし、それは佑も同じだろうから助かった。

「38度4分。そりゃだりーわ……」
 朝起きると全身が重怠く、熱っぽい気がしてなんとか体を起こして体温計を探し出して計ると、案の定熱があった。のども痛い。なんだか声もかすれている気がする。
 接待で日付の変わるころに帰宅し、そのままソファーで力尽きたのがいけなかったのだろうか。
 課長に連絡すると、「こっちは気にしなくていいから病院に行ってしばらく休むように」とありがたい言葉をもらった。渋る樹を無理やり二次会に引きずっていった負い目があるのかもしれない。
 取引先との予定も把握しているから大丈夫との心強い返事だ。何かあれば連絡がくるだろう。
 大した距離でもないのだが、歩くのもままならなかったので、開業時間ちょうどになるくらいにタクシーで病院に向かう。
 検査をしてもらったところ高熱は出ているものの、インフルエンザではなかったらしい。症状さえ落ち着けば仕事に行けそうで安心する。
 薬を処方してもらい病院を出ると、コンビニでゼリーやレトルトのおかゆなど当座必要になりそうなものをかごに放り込んで会計に向かった。
「1500円になります。お久しぶりですね。もしかして風邪ですかぁ?私もうすぐ上がりなんでよかったら看病に」
「結構です」
 数回しか行ったことのないコンビニで、樹はその店員を覚えていなかったが、向こうは覚えていたらしい。
 具合が悪くてイライラしているのもあって、樹はばっさりと断った。
 お金をちょうどトレーに入れると、きょとんとしている店員からもぎ取るようにレジ袋を受け取って店を出る。
「いつももっと愛想よかったよねー?」
「具合悪いから機嫌も悪いんじゃない?こんどまた声かけてみよ」
 ドアの閉まる直前に店員同士のひそひそとした会話が耳に入る。
(めんどくせー。もうこのコンビニ行くのやめよ)
 また流しのタクシーを拾い、帰宅した。
 食欲はなかったが、流し込むようにゼリーを食べ、薬を飲んでベッドに入る。


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