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千堂君もそうしたよ
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店を出た佑たちは、荷物になるロッカーにショップバッグと上着を預け、少し早い食事のためフードコートに向かった。
特にお互い食べたいものが決まってなかったので、フードコートなら店舗が色々並んでいるからという理由だ。
休日のフードコートはまだ11時過ぎという早い時間にも関わらずそこそこ混んではいたが、なんとか席を確保することができた。
「よく分かんないけど二万円くらいで足りる?」
ボディバッグから財布を出した祐を樹が制する。
「あのですね小鳩さん。一度払ったのに金渡されるって俺すげーカッコ悪いです。
俺が何言われたら嬉しいか、分かりますよね?」
両手を上げて一切受け取る気はないとアピールしている。
祐は出した財布を渋々しまいこみ、少し考えた。
「ありがとう、千堂くん」
佑のセリフは正解だったらしい。
樹は満面の笑みで答えてくれた。
「どういたしまして」
佑はうどん、樹は牛丼をそれぞれ注文し、席に持ってくる。
「小鳩さんがうどんって”らしい”っすね。社食でもよく食べてますよね?」
樹がうどんを食す佑を見て含み笑いをする。
ちなみに麺類をすすることはできないゆとり世代だ。樹は意外とすすれるらしい。
「まあ好きだけど、そんなに食べてるかなぁ」
気にしたことはないが、特にあまり食べたことがない店の場合あればうどんを選択することが多いかもしれない。単純に好きだからだが、調理法がシンプルだからか外れがないからだ。デメリットを上げれば燃費が悪いことくらいか。
先ほどからも思っていたが、樹と一緒にいるとものすごく視線を感じる。今は動いていないからなおさら気になる気がする。
あわよくば目が合わないか、声をかけられないかという思いをビシバシ感じる好意的な視線だ。色がつくなら間違いなくピンク色。
自分が見られていると思うほど佑はうぬぼれてはいない。
そんな視線にさらされている人の近くにいるのがこんなに平凡な自分というのは申し訳ないというか、居心地が悪い。
多少ましになったとはいえ、コンタクトにすればもう少し自信が持てるのだろうか。
「ここ眼科あったよね?コンタクトにしてみようかなあ」
佑の言葉に樹の笑顔が固まりなぜだか少し曇る。
以前はむしろ樹から勧めてきたのに。
「メガネだと目が小さく見えるって根本的な解決にはなりませんからね。
俺には止める権利がないので、まー止めませんけど」
煮え切らない樹に佑が当惑しする。それに気づいた樹がにこっと微笑む。
「似合うと思いますよ、コンタクトのほうが。
ほら、小鳩さんコンタクト入れるの怖いって言ってたので、どうなのかなって思ったんですけど」
樹の顔が曇ったのは本当にそれが理由だろうかと思ったが、追及はしなかった。
「確かにそうなんだけど……とりあえずやってみようかなって。僕が眼科いってる間どうする?」
「本屋に行ってます。営業のネタになるんですよね。あ、マンガだけじゃないですからね」
「マンガしか読まないとか思ってないから」
慌てて答えたが、思っていたことをズバリと言い当てられ、佑の声が裏返る。
樹は笑いながら本を読むようになったのは社会人になってからだと言う。
「イメージじゃないって言われるので別にいいんです。電子書籍は場所取らないんですけど、本屋でディスプレイされてるの買うとたまに面白いのあるんですよね」
「あーそれはわかる」
目立つところに展示してある本をついつい買ってしまったことはままある。もちろん合わなかったものも多々あるが、気に入ってそのまま続刊を買い続けているものも多い。
「あ」
何かに気づいたらしい佑が声を上げる。
「千堂君この席もう片づけちゃってもいい?」
「はい。もう食べ終わったので」
「じゃ、待ってる人がいるから言ってくる」
佑が立ち上がって、きょろきょろ席を探している様子の親子連れに話しかけに行った。母親と三歳くらいの子供だ。
もうすぐ席が開けられると言いに行ったらしい。
その間に樹はトレーに食器をのせて返却口に返しに行く。戻ってくると、佑が机をダスターで拭いているところだった。
「千堂君、僕のも片づけてくれてありがとう」
「いえついでなので」
返却する店は隣同士だったので、大した手間ではなかった。
「ありがとうございました」
親子連れは樹にもぺこぺこと頭を下げてお礼を言ってきた。
「お兄ちゃんたちばいばーい」
フードコートを出てちらっと振り返ると、子供がまだ手を振ってくるので振り返す。
「小鳩さん、どうしてわざわざ声をかけにいったんですか?」
佑はきょとんと眼を丸くする。
「わざわざっていうか。もう食べ終わったし、待ってた人が見えたからそれだけだけど?」
どうしてそんなこと聞くの?と不思議そうだ。
「千堂君もそうしたと思うよ。気づいてれば」
そんなことはない。
相変わらず佑は樹を美化しているのだ。
自分はそんなにいい人間じゃないのに。
特にお互い食べたいものが決まってなかったので、フードコートなら店舗が色々並んでいるからという理由だ。
休日のフードコートはまだ11時過ぎという早い時間にも関わらずそこそこ混んではいたが、なんとか席を確保することができた。
「よく分かんないけど二万円くらいで足りる?」
ボディバッグから財布を出した祐を樹が制する。
「あのですね小鳩さん。一度払ったのに金渡されるって俺すげーカッコ悪いです。
俺が何言われたら嬉しいか、分かりますよね?」
両手を上げて一切受け取る気はないとアピールしている。
祐は出した財布を渋々しまいこみ、少し考えた。
「ありがとう、千堂くん」
佑のセリフは正解だったらしい。
樹は満面の笑みで答えてくれた。
「どういたしまして」
佑はうどん、樹は牛丼をそれぞれ注文し、席に持ってくる。
「小鳩さんがうどんって”らしい”っすね。社食でもよく食べてますよね?」
樹がうどんを食す佑を見て含み笑いをする。
ちなみに麺類をすすることはできないゆとり世代だ。樹は意外とすすれるらしい。
「まあ好きだけど、そんなに食べてるかなぁ」
気にしたことはないが、特にあまり食べたことがない店の場合あればうどんを選択することが多いかもしれない。単純に好きだからだが、調理法がシンプルだからか外れがないからだ。デメリットを上げれば燃費が悪いことくらいか。
先ほどからも思っていたが、樹と一緒にいるとものすごく視線を感じる。今は動いていないからなおさら気になる気がする。
あわよくば目が合わないか、声をかけられないかという思いをビシバシ感じる好意的な視線だ。色がつくなら間違いなくピンク色。
自分が見られていると思うほど佑はうぬぼれてはいない。
そんな視線にさらされている人の近くにいるのがこんなに平凡な自分というのは申し訳ないというか、居心地が悪い。
多少ましになったとはいえ、コンタクトにすればもう少し自信が持てるのだろうか。
「ここ眼科あったよね?コンタクトにしてみようかなあ」
佑の言葉に樹の笑顔が固まりなぜだか少し曇る。
以前はむしろ樹から勧めてきたのに。
「メガネだと目が小さく見えるって根本的な解決にはなりませんからね。
俺には止める権利がないので、まー止めませんけど」
煮え切らない樹に佑が当惑しする。それに気づいた樹がにこっと微笑む。
「似合うと思いますよ、コンタクトのほうが。
ほら、小鳩さんコンタクト入れるの怖いって言ってたので、どうなのかなって思ったんですけど」
樹の顔が曇ったのは本当にそれが理由だろうかと思ったが、追及はしなかった。
「確かにそうなんだけど……とりあえずやってみようかなって。僕が眼科いってる間どうする?」
「本屋に行ってます。営業のネタになるんですよね。あ、マンガだけじゃないですからね」
「マンガしか読まないとか思ってないから」
慌てて答えたが、思っていたことをズバリと言い当てられ、佑の声が裏返る。
樹は笑いながら本を読むようになったのは社会人になってからだと言う。
「イメージじゃないって言われるので別にいいんです。電子書籍は場所取らないんですけど、本屋でディスプレイされてるの買うとたまに面白いのあるんですよね」
「あーそれはわかる」
目立つところに展示してある本をついつい買ってしまったことはままある。もちろん合わなかったものも多々あるが、気に入ってそのまま続刊を買い続けているものも多い。
「あ」
何かに気づいたらしい佑が声を上げる。
「千堂君この席もう片づけちゃってもいい?」
「はい。もう食べ終わったので」
「じゃ、待ってる人がいるから言ってくる」
佑が立ち上がって、きょろきょろ席を探している様子の親子連れに話しかけに行った。母親と三歳くらいの子供だ。
もうすぐ席が開けられると言いに行ったらしい。
その間に樹はトレーに食器をのせて返却口に返しに行く。戻ってくると、佑が机をダスターで拭いているところだった。
「千堂君、僕のも片づけてくれてありがとう」
「いえついでなので」
返却する店は隣同士だったので、大した手間ではなかった。
「ありがとうございました」
親子連れは樹にもぺこぺこと頭を下げてお礼を言ってきた。
「お兄ちゃんたちばいばーい」
フードコートを出てちらっと振り返ると、子供がまだ手を振ってくるので振り返す。
「小鳩さん、どうしてわざわざ声をかけにいったんですか?」
佑はきょとんと眼を丸くする。
「わざわざっていうか。もう食べ終わったし、待ってた人が見えたからそれだけだけど?」
どうしてそんなこと聞くの?と不思議そうだ。
「千堂君もそうしたと思うよ。気づいてれば」
そんなことはない。
相変わらず佑は樹を美化しているのだ。
自分はそんなにいい人間じゃないのに。
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