年下彼氏の策略

水無瀬雨音

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行こ、佑

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(ほんとにされるかと思った)
 肩を組まれただけで驚いたのに、樹の精悍な顔が目しか見えないほど近くに来た時には失神しそうになった。寸止めされた至近距離で息がかかり、自分が女の子になったみたいにドキドキした。

 —―行こ、佑。

 恋人に言うように優しい声で名前を呼ばれたことも。
 心臓が掴まれるかと思った。
 逆ナンを追い払うための演技だと分かっているのに。
「驚かせてすみません。目の前で打ち合わせできなかったんで」
 ショッピングモールの中に入りしばらく歩いたところで、ベンチに座ると樹が申し訳なさそうにする。
 佑の心臓の鼓動も大分落ち着いてきた。
「え、えーと。大変だね、イケメンも」
 気の利いたことを言おうと思ったのに、口について出たのはそんな言葉だった。
「今日のはすげーしつこくて・・・。
 先輩もいくつか覚えたほうがいいっすよ、対処法」
「僕は大丈夫だよ」
 いいのか悪いのか逆ナンなど生まれてから一度もない。
「これからはありますよ。小鳩さんイケメンだから」
 なぜだか自信満々に樹が言う。
「・・・そう、かな」
 イメチェンしてからほめられることが多いが、樹に言われるとすごく嬉しい。
「素はよかったけど、磨いたんで」
「えっと。あのさ、僕ダサい?」
 話が続くのが照れ臭く、祐は次に気になっていた話題に反らす。
「んー」
 樹が祐をしげしげと眺めた。言いにくそうな表情で全てを悟る。
「正直ダサいっすね。会社のイベントで見たときも思ったし、だから今日誘ったんですけど」
「そっかぁ」
 ずばっと言われ、祐は肩を落とす。どれも買ったばかりで一応ググったコーデを真似たつもりだったのに。
「デニムジャケットにボトムもデニム・・・。好き嫌い分かれますが俺は嫌いじゃないっすけど、共布じゃないなら色味変えないと。上は黒とか。小鳩さんは色調微妙に似てて最悪です。
 あと背が低い小鳩さんは下にボリュームのあるアイテム着ちゃダメだから、バギーはだめです。つーかどこで買ったんですか、今時。
 中のシャツも絵柄個性的すぎて、かなりの上級者じゃないと着こなせません。
 極めつけがマフラーの赤。めっちゃ浮いてます。
 靴もデザインはいいとして色が……」
 つらつらと祐のコーデの問題点を指摘しているようだが、ダメだしされすぎて余り頭に入ってこない。
 しかもさり気なく「背が低い」って言われた。
 ……まあ日本人男性平均身長を約5センチ下回る165センチですけども。
 樹は恐らく180センチくらいだろうか。うらやましい。
 祐が色々なダメージを受けて遠い目をしているのを見て、樹がようやく口を閉じる。
「あ、すいません。全否定しちゃって」
「いいんだ。僕が聞いたんだからはっきり言ってもらったほうが」
「大丈夫です。小鳩さん!俺が完璧なイケメンにします!」
 樹は再び落ち込む祐の腕をつかんで歩き出した。


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