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砂糖と嘘3
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瀬奈はいわゆる腐女子だった。
見た目からは全く匂わせないようにしているので、腐バレした元カレには「擬態するな」と毒づかれたが、おしゃれも好きでしていることなので擬態ではない。それに若い女の子がおしゃれを楽しむことにどうこういわれる筋合いはない。
そのときもめて別れたので、「彼氏はしばらくいらない」と心底思ったことから作らないようにしている。
趣味自体もほめられたものではないのでバレた時が面倒なこともあるが、クリスマスなどのイベントのときははなにかとそっちの予定が入るので、浮気を疑われるのがめんどくさい。
でもいい人が入れば(スペックが高く趣味を許容してくれる)いずれ結婚したいし、暇なときはデートしたいしで、瀬奈は相手を探すため頻繁に合コンに行っている。
のだが。
「俺と付き合ってるのに、昨日他の男と歩いてるの見たけど?
瀬奈ちゃんってそんなにあばずれだったの?」
会社から家に戻る途中の駅近くなったところで捕まった男に、ものすごい剣幕でわめかれている。
「カップルの痴話げんかか?」と通行人が足を止め、遠巻きに二人を囲んでいる。
会社の人間が通りかかれば助けに入ってくれるかもしれないが。
あばずれって。
ひさしぶりに耳にして吹き出しそうになるのをこらえる。
昨日届いた新刊が読みたかったので、合コンの誘いを断って速攻で帰宅しようと思っていたのに。
てか。
(その前に聞き捨てならない言葉が)
「私たちつきあってませんよねー?お食事一回行っただけですし」
にっこりと瀬奈は口元に弧を描く。
ホテルにすら行っていない。
「二人きりで会うってことはデートだろ。
ってことは付き合ってるじゃないか!」
やだなぁ。
めんどくさいこいつ。
さっきはオツボネに絡まれるし、今日は散々だ。
合コンで知り合い、スペックがまあまあだったのでとりあえず食事くらいならと誘いに乗ったのがまずかった。こんな地雷物件だったとは。
(とりあえず幹事はあとで〆る)
「お友達同士で会うのくらい普通じゃないですか。
てかお付き合いしましょうなんてどっちからも言ってないですしー」
鉄壁の笑顔は崩さないままで、瀬奈は優しく言い聞かせる。
「じゃ、今言うから!『付き合おう!』。いいんだろ、これで」
今まで何度かされた告白の中で、一番最悪な告白だ。
特別告白にロマンチックさなど求めていないが、これはものすごくダサい。
「『お断りします』。これで終わりですね。じゃ、失礼します」
ぺこっと頭を下げて立ち去ろうとするが、当然男が見逃すはずがない。
腕をつかまれる。
「待てよ!なんで断るんだよ」
年収は一千万だし、持ちマンションだし、顔もまあまあだし、と続ける男に、笑顔を崩さないままで「性格がやばいからだよ」と小さく毒づく。
「助ける?」「男おかしくない?」という声がちらほら上がっている。
助けを求めて叫ぶかな、と瀬奈は息を吸い込んだ。
「すいません。ちょっと失礼します」
聞き覚えのある声が聞こえ、人ごみをかき分けて佑が顔を出した。
なぜここにいるのだろう。
この空気に不似合いなほんわかした笑顔を浮かべ、
「沢田さん、書類忘れてたよ。急ぎのだから持って帰らないと困るでしょ?」
忘れ物などなかったが、佑にのる。
「あ、そうでしたそうでした。取りに行かないとマズいんで、失礼しますねー」
瀬奈と男の間に割りいった佑を見て、男は舌打ちをすると人ごみを出て行った。
野次馬も散らばっていく。
安堵した瀬奈ははぁーっと長く嘆息した。
瀬奈も佑も使う駅は同じなので、とりあえず駅に向かった。もともと駅近くにいたので、直ぐに着く。
「かっこよく助けられなくてごめんね」
「いえ、十分です。ありがとうございます」
むしろ大人しい佑があんな行動に出てくれたことに驚いていた。
結果的に助けてくれたのでどんなやり方でもありがたい。
「家まで送ろうか?あ、女の子が家知られるの嫌だよね」
「小鳩先輩なら気にしませんけど、樹先輩に悪いです」
「え?なんで千堂君?」
佑が送りオオカミになる心配はみじんもしていない。
樹が出てくる意味が分からないのだろう、佑がきょとんとしているのを見て、瀬奈は吹き出した。
佑の家を聞くと、降りる駅も瀬奈と同じようだ。
「家、近所っぽいですね。じゃ申し訳ないんですけどお願いしていいですかー?」
樹に申し訳ない気持ちがあったのは本当だが、万一つけられていたら非常に困るので、今日くらいは誰かにいてほしかった。
「もちろん。暇だし」
佑が快くうなづいた。
見た目からは全く匂わせないようにしているので、腐バレした元カレには「擬態するな」と毒づかれたが、おしゃれも好きでしていることなので擬態ではない。それに若い女の子がおしゃれを楽しむことにどうこういわれる筋合いはない。
そのときもめて別れたので、「彼氏はしばらくいらない」と心底思ったことから作らないようにしている。
趣味自体もほめられたものではないのでバレた時が面倒なこともあるが、クリスマスなどのイベントのときははなにかとそっちの予定が入るので、浮気を疑われるのがめんどくさい。
でもいい人が入れば(スペックが高く趣味を許容してくれる)いずれ結婚したいし、暇なときはデートしたいしで、瀬奈は相手を探すため頻繁に合コンに行っている。
のだが。
「俺と付き合ってるのに、昨日他の男と歩いてるの見たけど?
瀬奈ちゃんってそんなにあばずれだったの?」
会社から家に戻る途中の駅近くなったところで捕まった男に、ものすごい剣幕でわめかれている。
「カップルの痴話げんかか?」と通行人が足を止め、遠巻きに二人を囲んでいる。
会社の人間が通りかかれば助けに入ってくれるかもしれないが。
あばずれって。
ひさしぶりに耳にして吹き出しそうになるのをこらえる。
昨日届いた新刊が読みたかったので、合コンの誘いを断って速攻で帰宅しようと思っていたのに。
てか。
(その前に聞き捨てならない言葉が)
「私たちつきあってませんよねー?お食事一回行っただけですし」
にっこりと瀬奈は口元に弧を描く。
ホテルにすら行っていない。
「二人きりで会うってことはデートだろ。
ってことは付き合ってるじゃないか!」
やだなぁ。
めんどくさいこいつ。
さっきはオツボネに絡まれるし、今日は散々だ。
合コンで知り合い、スペックがまあまあだったのでとりあえず食事くらいならと誘いに乗ったのがまずかった。こんな地雷物件だったとは。
(とりあえず幹事はあとで〆る)
「お友達同士で会うのくらい普通じゃないですか。
てかお付き合いしましょうなんてどっちからも言ってないですしー」
鉄壁の笑顔は崩さないままで、瀬奈は優しく言い聞かせる。
「じゃ、今言うから!『付き合おう!』。いいんだろ、これで」
今まで何度かされた告白の中で、一番最悪な告白だ。
特別告白にロマンチックさなど求めていないが、これはものすごくダサい。
「『お断りします』。これで終わりですね。じゃ、失礼します」
ぺこっと頭を下げて立ち去ろうとするが、当然男が見逃すはずがない。
腕をつかまれる。
「待てよ!なんで断るんだよ」
年収は一千万だし、持ちマンションだし、顔もまあまあだし、と続ける男に、笑顔を崩さないままで「性格がやばいからだよ」と小さく毒づく。
「助ける?」「男おかしくない?」という声がちらほら上がっている。
助けを求めて叫ぶかな、と瀬奈は息を吸い込んだ。
「すいません。ちょっと失礼します」
聞き覚えのある声が聞こえ、人ごみをかき分けて佑が顔を出した。
なぜここにいるのだろう。
この空気に不似合いなほんわかした笑顔を浮かべ、
「沢田さん、書類忘れてたよ。急ぎのだから持って帰らないと困るでしょ?」
忘れ物などなかったが、佑にのる。
「あ、そうでしたそうでした。取りに行かないとマズいんで、失礼しますねー」
瀬奈と男の間に割りいった佑を見て、男は舌打ちをすると人ごみを出て行った。
野次馬も散らばっていく。
安堵した瀬奈ははぁーっと長く嘆息した。
瀬奈も佑も使う駅は同じなので、とりあえず駅に向かった。もともと駅近くにいたので、直ぐに着く。
「かっこよく助けられなくてごめんね」
「いえ、十分です。ありがとうございます」
むしろ大人しい佑があんな行動に出てくれたことに驚いていた。
結果的に助けてくれたのでどんなやり方でもありがたい。
「家まで送ろうか?あ、女の子が家知られるの嫌だよね」
「小鳩先輩なら気にしませんけど、樹先輩に悪いです」
「え?なんで千堂君?」
佑が送りオオカミになる心配はみじんもしていない。
樹が出てくる意味が分からないのだろう、佑がきょとんとしているのを見て、瀬奈は吹き出した。
佑の家を聞くと、降りる駅も瀬奈と同じようだ。
「家、近所っぽいですね。じゃ申し訳ないんですけどお願いしていいですかー?」
樹に申し訳ない気持ちがあったのは本当だが、万一つけられていたら非常に困るので、今日くらいは誰かにいてほしかった。
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