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砂糖と嘘2
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——「気持ち悪い」
三時になったので、瀬奈はお茶の準備に給湯室に向かった。
瀬奈の課では始業時間前と三時過ぎにお茶を出すことが通例になっている。
他にも女子社員はいるが、大体瀬奈がお茶出しをしている。課の中で一番年下というのもあるし、瀬奈がお茶出しした時のほうが男性社員があからさまではないが喜ぶので嫌なのだという。
「今時お茶くみは女子社員の仕事なんて男尊女卑です!」など声高に言う女子社員もいるが、瀬奈にとっては個人でいちいち給湯室に入られるのは効率が悪いのでだったら自分でまとめて入れたほうがいい。
それに給湯室の使い方には暗黙のルールがあるが、年配の社員が守れるとも思えない。
私物のカップを覚え、好みを覚えるのは大変だったが、「覚えててくれてありがとう」と喜ばれると嬉しいし、そんなことで可愛がられるなら安いものだ。
やかんを火にかけている間に急須に茶さじですくった茶葉を入れ、カップを並べる。私物を持ってきている人もいれば、こだわりのない人は会社においてあるカップをそのまま使っている。
コーヒーの人はコーヒーウォーマーで保温されているものを注ぐだけなのだが、残り少ないので作っておいたほうがいいだろう。瀬奈の課の分にはなんとか足りそうだが、ほかの課の分がない。
「……沢田さん」
いつの間にか他の課の女子社員が二人後ろに立っていた。どっちもアラサーだったはずだ。
意外と女子社員ともそつない関係を保っている瀬奈だが、やはり気に入っていない女子社員も少なくない。この女子社員もその一人だった。
女子ウケしない性格なのは自覚してるし、男性ウケするほうが得なので気にはしていないが。
「先輩たちもお茶ですかー?おつかれさまでーす。すぐ入れちゃいますね」
恐らくそうではないのは分かっていたが、瀬奈はにこっと笑顔を向けると、沸いたやかんの火をとめてカップに注いでいく。
「あんたさー。樹にちょっかい出してたと思ったら小鳩にも手出してんの?どれだけ男好きなのよ」
ランチに行ったのを見られたらしい。
彼女たちは樹とも佑とも恋人関係にないはずなので、口出しされるいわれはない。
以前の佑ならランチに行こうがホテルに行こうがうるさく言われなかったはずだが、イメチェンによって競争率が上がったのだろう。
ちなみに樹は社内の女子社員に手を出さないというのは有名だったので、記念受験のような気持ちでちょっかいを出していただけだ。そして佑から話を聞いたので、今日からするつもりはない。
「樹先輩には後輩として親しくさせてもらってるだけですよ。
てかランチに行ったことでしたら高田さんも一緒でしたしー」
お茶の用意をする手を止めないまま、瀬奈は答える。
「高田なんていてもいなくても変わらないじゃないの!」
(高田先輩可哀想)
不細工ではないが、いわゆるフツメンなので眼中にないのだろう。
ちょっと女好きだけど、性格も悪くないのに。
「てか先輩が話してるのに、作業止めないで顔も見ないってどうなの?」
お局Aが声を高くする。
「私は『お茶くみ』っていう仕事中なんですけど、そのお話ってそれ以上に大事な仕事なんですかー?
今聞いた限りではそうじゃないみたいですけど」
鉄壁の笑顔のままで瀬奈が言うと、お局AとBはぐ、っと言葉につまった。
「興味があるなら先輩たちもお誘いしたらどうですか?」
誘ったところで樹はなびかないだろうし、佑も食事の誘いは断れないだろうから行くと思うが、彼女たちのどちらにも傾くことはないだろう。
瀬奈は心の中でんべ、と舌を出す。
作業が終わったので、お茶を乗せたトレーを持って彼女たちの横を通り抜ける。
「じゃ、失礼しまーす」
ぺこっと頭を下げるのを忘れない。
瀬奈の入れたお茶は普段通り好評だった。
三時になったので、瀬奈はお茶の準備に給湯室に向かった。
瀬奈の課では始業時間前と三時過ぎにお茶を出すことが通例になっている。
他にも女子社員はいるが、大体瀬奈がお茶出しをしている。課の中で一番年下というのもあるし、瀬奈がお茶出しした時のほうが男性社員があからさまではないが喜ぶので嫌なのだという。
「今時お茶くみは女子社員の仕事なんて男尊女卑です!」など声高に言う女子社員もいるが、瀬奈にとっては個人でいちいち給湯室に入られるのは効率が悪いのでだったら自分でまとめて入れたほうがいい。
それに給湯室の使い方には暗黙のルールがあるが、年配の社員が守れるとも思えない。
私物のカップを覚え、好みを覚えるのは大変だったが、「覚えててくれてありがとう」と喜ばれると嬉しいし、そんなことで可愛がられるなら安いものだ。
やかんを火にかけている間に急須に茶さじですくった茶葉を入れ、カップを並べる。私物を持ってきている人もいれば、こだわりのない人は会社においてあるカップをそのまま使っている。
コーヒーの人はコーヒーウォーマーで保温されているものを注ぐだけなのだが、残り少ないので作っておいたほうがいいだろう。瀬奈の課の分にはなんとか足りそうだが、ほかの課の分がない。
「……沢田さん」
いつの間にか他の課の女子社員が二人後ろに立っていた。どっちもアラサーだったはずだ。
意外と女子社員ともそつない関係を保っている瀬奈だが、やはり気に入っていない女子社員も少なくない。この女子社員もその一人だった。
女子ウケしない性格なのは自覚してるし、男性ウケするほうが得なので気にはしていないが。
「先輩たちもお茶ですかー?おつかれさまでーす。すぐ入れちゃいますね」
恐らくそうではないのは分かっていたが、瀬奈はにこっと笑顔を向けると、沸いたやかんの火をとめてカップに注いでいく。
「あんたさー。樹にちょっかい出してたと思ったら小鳩にも手出してんの?どれだけ男好きなのよ」
ランチに行ったのを見られたらしい。
彼女たちは樹とも佑とも恋人関係にないはずなので、口出しされるいわれはない。
以前の佑ならランチに行こうがホテルに行こうがうるさく言われなかったはずだが、イメチェンによって競争率が上がったのだろう。
ちなみに樹は社内の女子社員に手を出さないというのは有名だったので、記念受験のような気持ちでちょっかいを出していただけだ。そして佑から話を聞いたので、今日からするつもりはない。
「樹先輩には後輩として親しくさせてもらってるだけですよ。
てかランチに行ったことでしたら高田さんも一緒でしたしー」
お茶の用意をする手を止めないまま、瀬奈は答える。
「高田なんていてもいなくても変わらないじゃないの!」
(高田先輩可哀想)
不細工ではないが、いわゆるフツメンなので眼中にないのだろう。
ちょっと女好きだけど、性格も悪くないのに。
「てか先輩が話してるのに、作業止めないで顔も見ないってどうなの?」
お局Aが声を高くする。
「私は『お茶くみ』っていう仕事中なんですけど、そのお話ってそれ以上に大事な仕事なんですかー?
今聞いた限りではそうじゃないみたいですけど」
鉄壁の笑顔のままで瀬奈が言うと、お局AとBはぐ、っと言葉につまった。
「興味があるなら先輩たちもお誘いしたらどうですか?」
誘ったところで樹はなびかないだろうし、佑も食事の誘いは断れないだろうから行くと思うが、彼女たちのどちらにも傾くことはないだろう。
瀬奈は心の中でんべ、と舌を出す。
作業が終わったので、お茶を乗せたトレーを持って彼女たちの横を通り抜ける。
「じゃ、失礼しまーす」
ぺこっと頭を下げるのを忘れない。
瀬奈の入れたお茶は普段通り好評だった。
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