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番外編
佑の知らない樹の気持ち
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この世界は汚い。
信じたら裏切られるだけ。
迷子を助ければ誘拐だと揶揄されて捕まるし、悪人の悪事は暴かれないまま我が物顔ではびこっている。
だからオレは誰も信じない。
きっと死ぬまでそうだ。
そのことを悲しいとは思わない。裏切られるよりましだから。
そう思っていた。
目が覚めて隣を見ればすぐそばに幸せそうに眠る佑の顔がある。
自分が誰かと夜を共にして同じベッドで朝を迎えるなんて思ってもみなかった。ましてやかなり強引な手口で同棲させるほど誰かに執着するなど。
佑だけはこの世界で唯一美しい。誰も裏切らない。
もし、裏切られたとしても佑にならかまわない。それでも捕まえていたい。佑の心に踏み込みたいし、樹のことを知って欲しい。
きっと誰もが佑を欲しがる。イメチェンした今ならなおさら。
だから誰かに取られる前に手に入れたかった。
柔らかい髪を起こさないようにそっと撫でる。
佑の柔らかい髪は寝癖が付きやすいらしく、朝起きると必ずセットしないと外出できないのだといつも嘆いている。
「……あんただけが、オレは欲しい」
額に口づけると、
「……んん……」
佑が身じろいでそっと目を開けた。
ふにゃっとした笑顔で笑う。
「……あれ、千堂君……?ああそうか」
そんなに前でもないのに、ずいぶんと懐かしく感じられる呼び方で呼ぶと、佑は一人で納得した。
「なんですか?小鳩先輩」
からかい混じりに言うと、
「付き合う前の、夢見てた。でもそっか。樹はもう、オレの恋人なんだね」
まだぼんやりした顔で笑った佑が可愛く、思わず噛みつくようにキスをしてしまう。
「あっ。んんぅ……!
だ、だめ!」
佑は樹の胸に手を突っぱねた。
「今日仕事だから!」
だが樹はひるまなかった。
佑の両腕を束ねて頭上でベッドに押し付けてにっこり笑う。
「大丈夫。間に合うようには終わらせるから」
こんな幸福が自分に訪れるなんて、思っていなかった。
信じたら裏切られるだけ。
迷子を助ければ誘拐だと揶揄されて捕まるし、悪人の悪事は暴かれないまま我が物顔ではびこっている。
だからオレは誰も信じない。
きっと死ぬまでそうだ。
そのことを悲しいとは思わない。裏切られるよりましだから。
そう思っていた。
目が覚めて隣を見ればすぐそばに幸せそうに眠る佑の顔がある。
自分が誰かと夜を共にして同じベッドで朝を迎えるなんて思ってもみなかった。ましてやかなり強引な手口で同棲させるほど誰かに執着するなど。
佑だけはこの世界で唯一美しい。誰も裏切らない。
もし、裏切られたとしても佑にならかまわない。それでも捕まえていたい。佑の心に踏み込みたいし、樹のことを知って欲しい。
きっと誰もが佑を欲しがる。イメチェンした今ならなおさら。
だから誰かに取られる前に手に入れたかった。
柔らかい髪を起こさないようにそっと撫でる。
佑の柔らかい髪は寝癖が付きやすいらしく、朝起きると必ずセットしないと外出できないのだといつも嘆いている。
「……あんただけが、オレは欲しい」
額に口づけると、
「……んん……」
佑が身じろいでそっと目を開けた。
ふにゃっとした笑顔で笑う。
「……あれ、千堂君……?ああそうか」
そんなに前でもないのに、ずいぶんと懐かしく感じられる呼び方で呼ぶと、佑は一人で納得した。
「なんですか?小鳩先輩」
からかい混じりに言うと、
「付き合う前の、夢見てた。でもそっか。樹はもう、オレの恋人なんだね」
まだぼんやりした顔で笑った佑が可愛く、思わず噛みつくようにキスをしてしまう。
「あっ。んんぅ……!
だ、だめ!」
佑は樹の胸に手を突っぱねた。
「今日仕事だから!」
だが樹はひるまなかった。
佑の両腕を束ねて頭上でベッドに押し付けてにっこり笑う。
「大丈夫。間に合うようには終わらせるから」
こんな幸福が自分に訪れるなんて、思っていなかった。
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