年下彼氏の策略

水無瀬雨音

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番外編

ある休日1

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 包丁の小気味よい音が耳に響き、いい香りが鼻腔をくすぐる。紅茶とコーヒーの匂い。あとスープと……目玉焼き。匂いが何かぼんやり考えていると、
「おはよう。佑?起きられる?」
 耳元で優しい樹の声が聞こえて目を開ける。
「ん……おはよう」
 うすぼんやりと開けた目を開くと樹が佑の顔をのぞき込んでいた。
「うぁ!」
 視界にいきなりイケメン顔が映り思わずのけぞると、樹が傷ついた顔をした。
「そんなにオレの顔見るの嫌?割とへこむんですけど」
「ごめん。ち、違う!
 割と慣れたけど、朝からイケメンのドアップに耐性がないだけで……!樹の顔は好き!かっこいいし、きれいだし!」
 驚いただけで見たくないわけではないのだ。むしろ見たいのだと必死に説明する。
「そんなに気に入ってくれたら嬉しいわー。他の誰に言われても何とも思わないけど、佑に言われたら嬉しい。
オレも、佑の顔好きだよ」
 可愛い、と言う言葉とともに唇が下りてくる。ぬるりとした熱い舌が無警戒の佑の唇を割り入って入ってくる。
「ん……あっ、は……」
 警戒していなかった佑の口の中を思う様蹂躙される。
 前儀の一部のような激しいキス。とても朝からするような挨拶のキスではない。

 ぐー。

 甘い雰囲気を佑のお腹の音がぶち壊した。
「あ、ごめん……」
 顔を赤らめてお腹を押さえるが、空っぽのお腹は鳴りやむ様子はない。
「ふふっ。いいよ。用意してるから食べよう」
「ごはん作ってくれたんだ!ごめん、僕の仕事なのに」
 そのために生活費を少なく支払っているのに。
 申し訳なさそうに眉を下げるが樹は笑顔を崩さない。
「昨日やりすぎたせいだからいいよ。今日休みだし」
 確かに起きられなかった原因の9割以上は樹の責任だと思うので、甘えることにする。
「体痛くない?」
「平気」
 問題なく動かせることを見せるために、ベッドから降りて伸びをしたのにお姫様抱っこされた。
「だから!動けるって」
 バタバタしたが下ろしてもらえない。樹は平然とリビングに向かう。
「オレが抱っこしたかっただけだから」
 はい、とダイニングセットの椅子に座らされる。
「すぐ用意するから待ってて」
「あ、僕も」
 手伝う、と言おうとした口に人差し指を当てられてふさがれる。
「いいから座ってて」
 あっという間にテーブルの上に朝食が並ぶ。コンソメスープ、目玉焼き、サラダ、トースト、フルーツの入ったヨーグルト、紅茶。しっかりとしたメニューだ。
「樹、料理できるんだね?」
 何でもそしらぬ顔でこなしそうだが、料理もできるらしい。顔がよくてハイスペックで、望めばいくらでも素敵な女の子が寄ってきそうだが……。
「両親忙しかったから必要に駆られて。でも時間がかからなくて簡単な物しか作れないよ」
「そっか。共働きだったんだもんね。
 いただきます」
「そ。夜遅かったから。
いただきます」
 スープの野菜は太さの揃った千切りに綺麗に切られている。一口スープを飲むと、香りづけにローリエが入れてあるのが分かって感心する。
「おいしい」
「口に合ってよかった」
 樹は謙遜していたが、かなり料理のスキルが高そうだ。
 もっと他の料理も食べてみたい。
「いいよ?なんなら休みの日の料理はオレでいいよ。今日と明日は空いてるし。あとで一緒に買い物行こ」
 心の中の願望が出ていたらしい。
「でもそれだと」
 自分の仕事が減ってしまう。
「てかね分かってると思うけど、佑に家事を頼んだのは負い目を感じさせないためだから、絶対しないといけないわけじゃないよ。二人で暮らしてるんだから、二人で納得すればいいじゃん。
 気になるなら一緒に作ろ。何なら別の仕事頼むし」
「うん。ありがとう……」
 樹の言葉に嬉しく思いながら、なぜか最後の言葉が引っ掛かった。
 ……別の仕事?
 
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