年下彼氏の策略

水無瀬雨音

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佑の家

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 樹は話上手なのでいつの間にか閉店まで居座ってしまった。いつもはそこそこにぎわっている駅前も、歩いている人はまばらだ。
「やべーもう終電ねーなー。佑は歩いて帰れるからよかった。
 タクシーだと距離あるからマン喫かなー」
 樹がマンガ喫茶を調べるためスマホを操作し始める。
「樹がよければ、なんだけど」
 おずおずと佑が口を開くと樹はスマホを操作する手を止めて顔をあげた。
「うん、何?」
「うちくれば?明日休みだし」
 なんだか恥ずかしくて、だんだん声が消え入りそうになる。
 真顔の樹が鋭く佑の目を見据える。
「あんたの準備できるまで手出さないって言ったけど、さすがに酒入ってて一つ屋根の下じゃ自信ないんだけど」
「……いいよ。手、出して」
 樹の手が佑の手をつかんだ。 


「樹の家に比べたらすごく狭いけど……」
 樹と同じ1LDKの間取りだが、佑の部屋のほうが断然狭い。不自由はしていないが。
「別に気にしない。これが佑の部屋かー」
 リビングのソファに案内すると、樹は興味深そうに部屋の中を眺めた。
 それなりには綺麗にしているつもりだが、じろじろ見られるのはなんだか恥ずかしい。
「……晩飯作ってたんだ。ごめん」
 匂いで気づいたのだろう、樹が申し訳なさそうな顔になる。
「気にしなくていいよ。昨日作ってたものだから」
 それは本当だ。今日かけた手間と言えば温め直した作業くらいだが、日持ちさせるために食べなくてもしなくてはいけないことなので特に無駄ではない。
「佑が初めて作ってくれたのも、カレーだったな」
「そうだったね」
 あの時はまさか樹と付き合うことになるなんて思ってもいなかった。
「なんか飲む?コーヒー置いてないから紅茶でもいい?」
「いいよ。なんでも。あとカレー食いたい」
「さっき結構食べてた気がしたけど」
 樹は筋肉はついていても細身なのに、意外と大食いなのだろうか。
「カレーは別腹。この匂いかいだらあらがえない」
 女の子が「デザートは別腹」というのと同じような言い方だ。
「入るならいいけど、無理しないで。明日だって食べられるんだから。
 とりあえず少しつぐよ?入るならお代わりすればいいし」
「分かったー」
 カレー皿に普段の量の半分くらいをついで樹に差し出す。
「いただきます。んー?あの時作ってくれたのとちょっと違う?」
「あの時は時間なかったから市販のルー使ったけど、これは使ってないから。市販のルー苦手なんだよね。重くて」
「へぇー。カレーってルー使わないで作れんだ」
「そんなに大変じゃないよ?こだわればいくらでも工程増やせるけど。今度一緒に作ってみる?」
「うん。作る作る」
 
 樹とたわいのない話をするのは楽しい。

 
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