契約溺愛婚~眠り姫と傲慢旦那様には秘密がある~

水無瀬雨音

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四章 蜜月編

アンセル様のお見送り

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 気持ちが通じ合った後は、アンセル様はものすごく優しくなった。以前も優しいときは優しかったけど、全くつんつんしなくなった。甘くて優しくて、恥ずかしいくらいだ。
 今日は仕事に行く時間が余裕があるらしく、珍しく一緒に朝食をとった。
 私とアンセル様はテーブルに向かい合わせになってるのだけれど、真正面からじいっと凝視されているのでものすごく食べづらい。私を凝視しつつも、普段通りナイフとフォークを操って完璧なマナーで食事を取っているアンセル様はさすがだ。
 緊張しながらもなんとかデザートまでいきついた。
 今日のデザートは、季節のフルーツのコンポート。そもそも美味しい旬の果物を甘く煮てあって、美味しい……。
 頬をほころばせていると、アンセル様が微笑しながら、

「プリシラ。今日のデザートはどうだ?」
「とても美味しいです。アンセル様」
「そうか。フェンリル、追加を持ってこい」
 
 満足そうにうなづいたアンセル様が、控えていたフェンリルに命じる。

「かしこまりました。アンセル様」

 調理室に向かおうとするフェンリルの手を私は慌ててつかんだ。

「アンセル様、追加はいらないです。そんなに食べられないので!」

 私の胃袋は無尽蔵ではない。
 そもそもの量が結構多いのに。

「……そうか。必要があったら遠慮なく言ってくれ」

 残念そうではあったが、アンセル様は分かってくれたらしい。

「はい。ありがとうございます」

 私のことを気にかけてくださるのは素直に嬉しい。


「いってらっしゃいませ、アンセル様」

 朝食のあと、玄関ホールでアンセル様を見送る。

「君とわずかな間でも離れるのは苦痛だな」
「もう、アンセル様ったら」

 フェンリルを始め、ほかの使用人たちもいるのにー!
 みんな教育が行き届いているから、顔には出さないけれど。いや、フェンリルは多少ニヤニヤしてるー!後で絶対何か言われるー!
 離れがたいのは私もだけれど、これ以上何か言われる前に、早くアンセル様を送り出そう。

「アンセル様、早く帰ってきてくださいね?」

 暗に「早く帰るために早く行ってください」と伝えたつもりだったのだけれど、全く伝わっていなかった。
 出て行くどころか、アンセル様は私をぎゅうっと抱きしめてきた。

「そんなこと言われたら一層離れがたくなるな……」
「もう! アンセル様ったら!」

 だから! みんなが見てるのに!
 フェンリルがこほん、と咳払いをする。

「アンセル様? 仲睦まじいのは結構ですけれど、本当にお時間が……」
「あ、ああそうだな」

 アンセル様が名残惜しそうに私から腕を離した。

「できるだけ早く帰ってくる。今日もいい子にしていてくれ」

 私の額に軽いキスを残して、アンセル様はようやく玄関から出て行った。

「ああー。恥ずかしかった……」

 力が抜けて、私はぐったりとその場に座りこんだ。アンセル様を見送った使用人たちが、続々と自分の仕事に戻っていく。私をからかったりなんてもちろんしない。
 フェンリル以外は。

「最近前にもまして仲がよろしいですね。使用人として嬉しいです。お子様ももうすぐですかねー?」

 フェンリルが私の隣に座りこんで、にこにこと言った。

「子!?」

 いや、まあできるようなことをしているのだけれど。できてもおかしくないし、跡継ぎのことを考えると、できないと困るのだけれど。
 真っ赤になっている私に、フェンリルがにやにやする。

「最近流行っている下着でも使ってみます? 気持ちを高める媚薬とかー」
「いやよ!」
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