43 / 52
四章 蜜月編
アンセル様のお見送り
しおりを挟む
気持ちが通じ合った後は、アンセル様はものすごく優しくなった。以前も優しいときは優しかったけど、全くつんつんしなくなった。甘くて優しくて、恥ずかしいくらいだ。
今日は仕事に行く時間が余裕があるらしく、珍しく一緒に朝食をとった。
私とアンセル様はテーブルに向かい合わせになってるのだけれど、真正面からじいっと凝視されているのでものすごく食べづらい。私を凝視しつつも、普段通りナイフとフォークを操って完璧なマナーで食事を取っているアンセル様はさすがだ。
緊張しながらもなんとかデザートまでいきついた。
今日のデザートは、季節のフルーツのコンポート。そもそも美味しい旬の果物を甘く煮てあって、美味しい……。
頬をほころばせていると、アンセル様が微笑しながら、
「プリシラ。今日のデザートはどうだ?」
「とても美味しいです。アンセル様」
「そうか。フェンリル、追加を持ってこい」
満足そうにうなづいたアンセル様が、控えていたフェンリルに命じる。
「かしこまりました。アンセル様」
調理室に向かおうとするフェンリルの手を私は慌ててつかんだ。
「アンセル様、追加はいらないです。そんなに食べられないので!」
私の胃袋は無尽蔵ではない。
そもそもの量が結構多いのに。
「……そうか。必要があったら遠慮なく言ってくれ」
残念そうではあったが、アンセル様は分かってくれたらしい。
「はい。ありがとうございます」
私のことを気にかけてくださるのは素直に嬉しい。
「いってらっしゃいませ、アンセル様」
朝食のあと、玄関ホールでアンセル様を見送る。
「君とわずかな間でも離れるのは苦痛だな」
「もう、アンセル様ったら」
フェンリルを始め、ほかの使用人たちもいるのにー!
みんな教育が行き届いているから、顔には出さないけれど。いや、フェンリルは多少ニヤニヤしてるー!後で絶対何か言われるー!
離れがたいのは私もだけれど、これ以上何か言われる前に、早くアンセル様を送り出そう。
「アンセル様、早く帰ってきてくださいね?」
暗に「早く帰るために早く行ってください」と伝えたつもりだったのだけれど、全く伝わっていなかった。
出て行くどころか、アンセル様は私をぎゅうっと抱きしめてきた。
「そんなこと言われたら一層離れがたくなるな……」
「もう! アンセル様ったら!」
だから! みんなが見てるのに!
フェンリルがこほん、と咳払いをする。
「アンセル様? 仲睦まじいのは結構ですけれど、本当にお時間が……」
「あ、ああそうだな」
アンセル様が名残惜しそうに私から腕を離した。
「できるだけ早く帰ってくる。今日もいい子にしていてくれ」
私の額に軽いキスを残して、アンセル様はようやく玄関から出て行った。
「ああー。恥ずかしかった……」
力が抜けて、私はぐったりとその場に座りこんだ。アンセル様を見送った使用人たちが、続々と自分の仕事に戻っていく。私をからかったりなんてもちろんしない。
フェンリル以外は。
「最近前にもまして仲がよろしいですね。使用人として嬉しいです。お子様ももうすぐですかねー?」
フェンリルが私の隣に座りこんで、にこにこと言った。
「子!?」
いや、まあできるようなことをしているのだけれど。できてもおかしくないし、跡継ぎのことを考えると、できないと困るのだけれど。
真っ赤になっている私に、フェンリルがにやにやする。
「最近流行っている下着でも使ってみます? 気持ちを高める媚薬とかー」
「いやよ!」
今日は仕事に行く時間が余裕があるらしく、珍しく一緒に朝食をとった。
私とアンセル様はテーブルに向かい合わせになってるのだけれど、真正面からじいっと凝視されているのでものすごく食べづらい。私を凝視しつつも、普段通りナイフとフォークを操って完璧なマナーで食事を取っているアンセル様はさすがだ。
緊張しながらもなんとかデザートまでいきついた。
今日のデザートは、季節のフルーツのコンポート。そもそも美味しい旬の果物を甘く煮てあって、美味しい……。
頬をほころばせていると、アンセル様が微笑しながら、
「プリシラ。今日のデザートはどうだ?」
「とても美味しいです。アンセル様」
「そうか。フェンリル、追加を持ってこい」
満足そうにうなづいたアンセル様が、控えていたフェンリルに命じる。
「かしこまりました。アンセル様」
調理室に向かおうとするフェンリルの手を私は慌ててつかんだ。
「アンセル様、追加はいらないです。そんなに食べられないので!」
私の胃袋は無尽蔵ではない。
そもそもの量が結構多いのに。
「……そうか。必要があったら遠慮なく言ってくれ」
残念そうではあったが、アンセル様は分かってくれたらしい。
「はい。ありがとうございます」
私のことを気にかけてくださるのは素直に嬉しい。
「いってらっしゃいませ、アンセル様」
朝食のあと、玄関ホールでアンセル様を見送る。
「君とわずかな間でも離れるのは苦痛だな」
「もう、アンセル様ったら」
フェンリルを始め、ほかの使用人たちもいるのにー!
みんな教育が行き届いているから、顔には出さないけれど。いや、フェンリルは多少ニヤニヤしてるー!後で絶対何か言われるー!
離れがたいのは私もだけれど、これ以上何か言われる前に、早くアンセル様を送り出そう。
「アンセル様、早く帰ってきてくださいね?」
暗に「早く帰るために早く行ってください」と伝えたつもりだったのだけれど、全く伝わっていなかった。
出て行くどころか、アンセル様は私をぎゅうっと抱きしめてきた。
「そんなこと言われたら一層離れがたくなるな……」
「もう! アンセル様ったら!」
だから! みんなが見てるのに!
フェンリルがこほん、と咳払いをする。
「アンセル様? 仲睦まじいのは結構ですけれど、本当にお時間が……」
「あ、ああそうだな」
アンセル様が名残惜しそうに私から腕を離した。
「できるだけ早く帰ってくる。今日もいい子にしていてくれ」
私の額に軽いキスを残して、アンセル様はようやく玄関から出て行った。
「ああー。恥ずかしかった……」
力が抜けて、私はぐったりとその場に座りこんだ。アンセル様を見送った使用人たちが、続々と自分の仕事に戻っていく。私をからかったりなんてもちろんしない。
フェンリル以外は。
「最近前にもまして仲がよろしいですね。使用人として嬉しいです。お子様ももうすぐですかねー?」
フェンリルが私の隣に座りこんで、にこにこと言った。
「子!?」
いや、まあできるようなことをしているのだけれど。できてもおかしくないし、跡継ぎのことを考えると、できないと困るのだけれど。
真っ赤になっている私に、フェンリルがにやにやする。
「最近流行っている下着でも使ってみます? 気持ちを高める媚薬とかー」
「いやよ!」
0
お気に入りに追加
1,380
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる