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三章 疑惑編
もう何も怖くない
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辻馬車を拾って、私たちはひとまず屋敷に戻ることにした。
座席に座った時、そっと手を重ねた。アンセル様はびくっとしたものの、振り払わなかった。
「ありがとうございます」
「え?」
怪訝そうなアンセル様に、さらに言う。
「私のこと、諦めないでくれて」
アンセル様が私に結婚を申し込んでくれなかったら。アンセル様がなにやら画策してくれなかったら(まあそれはアンセル様にお聞きしないとはっきりとは分からないけれど)。きっと私たちは結ばれなかった。だって私は引きこもりの伯爵令嬢だったから。
その途端。
アンセル様の両目から、ぽろっと涙がこぼれ落ちた。
「え、ええ……? ア、アンセル様大丈夫ですか?」
私は慌ててポケットからハンカチを取り出して、アンセル様の涙を拭いた。
「大丈夫、大丈夫だ。君が受け入れてくれるなら僕は、もう本当に何も怖くない……」
つい忘れがちだけど、アンセル様は成人したばかりで、私より年下なんだった。涙どころか落ち着いた姿しか見ていないから忘れてしまうけれど。
(怖い……。アンセル様は何が怖いんだろう)
理由は分からないけれど、アンセル様は私に全てを話してくださっていない。話してくださるのかも分からない。だけど。
「大丈夫ですよ。わたしたち二人なら、きっと大丈夫です」
「……ああ。そうだな」
アンセル様が、ぎゅうっと私を抱きしめてきた。わたしがそこにいるのを確かめているみたいに。力強く。
「これからは君に存分に「愛してる」だとか「好きだ」と伝えられて、いくらでも好きなだけ甘やかせると思うと、……たまらないな」
嬉しい反面恥ずかしくて、私は頬を熱くした。でもアンセル様にはバレてないから。肩口にそっと額を押し付ける。
「私も、あなたが好きです。アンセル様」
もう、気持ちを隠さなくていいんだ。まだ分からないことも多いけれど、私はアンセル様を信じる。アンセル様だけを。例え、結果的にアンセル様が私を裏切ることになったとしても、もういい。
「お帰りなさいませ。アンセル様。プリシラ様」
出迎えてくれたフェンリルの目が、潤んだ。
ぎゅうっと抱きしめてくれる。
「心配、したんですよ」
けして私を咎めることなく、静かな口調で、だからこそ私は申し訳なく思った。
「ごめんなさい」
「いいです。プリシラ様が不安になるのも当然だと思いますので。湯あみのご用意をいたしますね」
そう言って私を体から離して笑ったフェンリルは、すっかりいつもの笑顔だった。
座席に座った時、そっと手を重ねた。アンセル様はびくっとしたものの、振り払わなかった。
「ありがとうございます」
「え?」
怪訝そうなアンセル様に、さらに言う。
「私のこと、諦めないでくれて」
アンセル様が私に結婚を申し込んでくれなかったら。アンセル様がなにやら画策してくれなかったら(まあそれはアンセル様にお聞きしないとはっきりとは分からないけれど)。きっと私たちは結ばれなかった。だって私は引きこもりの伯爵令嬢だったから。
その途端。
アンセル様の両目から、ぽろっと涙がこぼれ落ちた。
「え、ええ……? ア、アンセル様大丈夫ですか?」
私は慌ててポケットからハンカチを取り出して、アンセル様の涙を拭いた。
「大丈夫、大丈夫だ。君が受け入れてくれるなら僕は、もう本当に何も怖くない……」
つい忘れがちだけど、アンセル様は成人したばかりで、私より年下なんだった。涙どころか落ち着いた姿しか見ていないから忘れてしまうけれど。
(怖い……。アンセル様は何が怖いんだろう)
理由は分からないけれど、アンセル様は私に全てを話してくださっていない。話してくださるのかも分からない。だけど。
「大丈夫ですよ。わたしたち二人なら、きっと大丈夫です」
「……ああ。そうだな」
アンセル様が、ぎゅうっと私を抱きしめてきた。わたしがそこにいるのを確かめているみたいに。力強く。
「これからは君に存分に「愛してる」だとか「好きだ」と伝えられて、いくらでも好きなだけ甘やかせると思うと、……たまらないな」
嬉しい反面恥ずかしくて、私は頬を熱くした。でもアンセル様にはバレてないから。肩口にそっと額を押し付ける。
「私も、あなたが好きです。アンセル様」
もう、気持ちを隠さなくていいんだ。まだ分からないことも多いけれど、私はアンセル様を信じる。アンセル様だけを。例え、結果的にアンセル様が私を裏切ることになったとしても、もういい。
「お帰りなさいませ。アンセル様。プリシラ様」
出迎えてくれたフェンリルの目が、潤んだ。
ぎゅうっと抱きしめてくれる。
「心配、したんですよ」
けして私を咎めることなく、静かな口調で、だからこそ私は申し訳なく思った。
「ごめんなさい」
「いいです。プリシラ様が不安になるのも当然だと思いますので。湯あみのご用意をいたしますね」
そう言って私を体から離して笑ったフェンリルは、すっかりいつもの笑顔だった。
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