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三章 疑惑編
奇跡
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「いつでも来てねとは言ったけれど、本当に急ね。たまたま用事がなかったからいいけれど、私も暇ではないのよ? 」
ため息をつきながら、ティーカップを傾けるグエン様。身を縮ませながら、私もお茶を飲む。
「すみません。グエン様……」
「まあ私がいなかったら屋敷で待っていてもらえばいいけれど」
なんだかんだ言いながら、急に来た私を受け入れてくれるので、やっぱりグエン様は優しい。
グエン様はテーブルに頬杖をついた。
「で? 何があったの? どうせアンセル様だろうけど。浮気された?」
「ぐふっ」
理由は聞かれるとは思ったけれど、グエン様の想像に私はお茶を吹き出しそうになるのをこらえた。ただ器官にお茶が入ったし、淑女らしからぬ声は出たけれど。しばらくせき込んだ私の背中を傍に控えていたメイドがさすってくれる。その様子を、グエン様はあきれた顔で見つめる。
「まぁ、プリシラにベタボレなアンセル様が、そんなことなさるはずはないでしょうけれど。じゃあ何? 家出なんて相当の理由がないとしないでしょう? 実家に帰るならまだしも、そうしないなんて居場所を特定されたくないってことだもの。まぁここだってそのうちそのうち探し当てられるでしょうけど」
「家出だなんて」
口ごもった私をジト目で見つめるグエン様。
「家出でしょ? 」
「ま、まぁそういう見方もあるかもしれません」
見方というか、確かに家出以外の何でもない。しかも離婚を突き付けているから、ただの家出ですらない。
「話したくないのなら、無理に聞く気はないけれどね」
グエン様がお茶を飲んで頬杖をついた。真面目な顔になって、
「プリシラ。大切な人とまた会えるっていうのは、当たり前じゃなくてよ?奇跡なのよ。それは、あなたが一番分かっているのではなくて?アンセル様にお伝えしたいことがあるのなら、今お伝えしなくては」
「そう、ですね……」
そう。両親を突然失った私には分かる。
大切な人とまた会うことができるということが、奇跡以外のなんでもないことを。
アンセル様に伝えたいことならある。ずっと私の胸に閉じ込めておこうと誓ったことだけれど。
伝えないままでいたのなら、アンセル様と会えないままでいたのなら、きっと私は後悔する。
でも、疑惑を持った私が、どんな顔でアンセル様に会えばいいの。
迷っている私に、グエン様が優しく言い募る。
「もちろんあなたがいつまで滞在してくれようと、私は一向にかまわないのだけどね?」
ため息をつきながら、ティーカップを傾けるグエン様。身を縮ませながら、私もお茶を飲む。
「すみません。グエン様……」
「まあ私がいなかったら屋敷で待っていてもらえばいいけれど」
なんだかんだ言いながら、急に来た私を受け入れてくれるので、やっぱりグエン様は優しい。
グエン様はテーブルに頬杖をついた。
「で? 何があったの? どうせアンセル様だろうけど。浮気された?」
「ぐふっ」
理由は聞かれるとは思ったけれど、グエン様の想像に私はお茶を吹き出しそうになるのをこらえた。ただ器官にお茶が入ったし、淑女らしからぬ声は出たけれど。しばらくせき込んだ私の背中を傍に控えていたメイドがさすってくれる。その様子を、グエン様はあきれた顔で見つめる。
「まぁ、プリシラにベタボレなアンセル様が、そんなことなさるはずはないでしょうけれど。じゃあ何? 家出なんて相当の理由がないとしないでしょう? 実家に帰るならまだしも、そうしないなんて居場所を特定されたくないってことだもの。まぁここだってそのうちそのうち探し当てられるでしょうけど」
「家出だなんて」
口ごもった私をジト目で見つめるグエン様。
「家出でしょ? 」
「ま、まぁそういう見方もあるかもしれません」
見方というか、確かに家出以外の何でもない。しかも離婚を突き付けているから、ただの家出ですらない。
「話したくないのなら、無理に聞く気はないけれどね」
グエン様がお茶を飲んで頬杖をついた。真面目な顔になって、
「プリシラ。大切な人とまた会えるっていうのは、当たり前じゃなくてよ?奇跡なのよ。それは、あなたが一番分かっているのではなくて?アンセル様にお伝えしたいことがあるのなら、今お伝えしなくては」
「そう、ですね……」
そう。両親を突然失った私には分かる。
大切な人とまた会うことができるということが、奇跡以外のなんでもないことを。
アンセル様に伝えたいことならある。ずっと私の胸に閉じ込めておこうと誓ったことだけれど。
伝えないままでいたのなら、アンセル様と会えないままでいたのなら、きっと私は後悔する。
でも、疑惑を持った私が、どんな顔でアンセル様に会えばいいの。
迷っている私に、グエン様が優しく言い募る。
「もちろんあなたがいつまで滞在してくれようと、私は一向にかまわないのだけどね?」
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