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二章 スピード婚と結婚生活
里帰り3
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「んー。ないわね」
当然と言えば当然だけれど、私の部屋には特別気になるものはなかった。普段は見ないようなクローゼットの奥までみたけれど、何もない。
私の部屋に、私にみられたくないものを置くはずがないわよね。当然だ。
と、すると、あるとすれば私が普段行かないところ。
応接室なんかには置かないだろうし、物置にしているような部屋や、お父さまたちの部屋。そこしかない。
「お嬢様、どうなさったのですか?」
廊下を歩いていると、メイドに不思議そうに聞かれる。
「懐かしくて。散歩よ」
半分嘘で半分本当だ。
ちょっと罪悪感を感じたけれど、メイドはあっさり信じてくれた。
周りに人がいないのを確認して、物置にしている部屋に入る。
雑然と置かれている気はするけれど、ほこりがないから掃除されているらしい。変な置物とか花瓶とか、私からすれば「ガラクタ?」みたいなものばかりだ。
ひっくり返すようにしてみたけれど、やっぱり手掛かりになりそうなものはなにもない……。
やっぱりあるとすれば、
「お父さまたちの部屋、か……」
こそこそしながら誰もいないのを確認して、部屋に入る。
部屋の中は、お父さまたちが使っていた当時のそのままだった。
掃除をまめにしてくれているらしく、空気は綺麗で、埃が積もっている様子もない。
鼻の奥がつんとして、懐かしさで涙が出そうになった。
でもいつまでもそうしているわけにはいかない。
「探しましょう」
私は一人呟いて、探し始めた。あまり長時間私の姿が見えないと、使用人たちが探すはず。限られた時間できびきび動かないと。
まずは本だなの中を一冊ずつぱらぱらと改めてみる。
すべて見たけれど不自然なものはなさそうだ。棚にも違和感なし。
お父様の机の引き出しを開けてみる。引き出しの底をノックして、二重底ではないか確認して。
「……ん?」
一つだけ、音が違う引き出しがあった。
怪しい。
引き出しの底のほうに、はさみを差し込んで、ぐいぐいとこじ開けてみる。
ガタッ。
……外れた。
少しばかり緊張しながら、私は板を外した。
中には箱が入っていた。
ここで見ると時間がかかるから、自分の部屋に持ち帰って、ゆっくり見ることにしよう。
私はまた同じように板をはめ込んだ。胸の前に箱を抱え込む。
薄くドアを開いて、廊下に誰もいないことを確かめる。さっと廊下に出て、胸をドキドキさせながら自分の部屋に早足で向かう。
部屋の中にたどり着くと、私は安堵のため息をついた。
ソファーに座って、そっと箱を開けてみる。
箱の中には、
「……」
いくつかのアクセサリーに、しおりにした押し花。
アクセサリーは高価なものではない。なぜか、見覚えがある気がした。
「……!」
じっと見ていると、頭が痛くなって、私は頭を押さえた。
なんにせよ、隠してあるなんて怪しい。
私は食事の後、ウォルトに部屋にくるように伝えた。
「お嬢様、何の御用でしょうか? いくら私とはいえ、既婚者であるお嬢様の部屋に呼びだすなんてよろしくありませんよ」
来て早々、説教じみたことを言いだしたので、
「親子みたいなものなんだから、私とあなたの間に何かあるはずないでしょ。あ、ドアはきちんとしめてね」
私はウォルトにソファーに座るよう指示する。
だらだら雑談する気はないので、さっさと本題を切り出す。
「これ、何?」
箱をテーブルの上にのせると、ウォルトはぐっと息を飲んだ。答えに詰まっているようだ。
その反応からして、やはり見られては都合が悪いものだったらしい。
「旦那様たちのお部屋を、探したのですか」
咎めるように言われるのは予想の範疇だ。
「悪いとは思ったけどね。何かあるとすれば、そこだと思ったから。これ、アンセル様と私に関係があるものじゃないの? アンセル様と私会ったことがあるの? 知ってる? ごまかさないで教えてほしいの」
ウォルトは、たっぷり一呼吸分は考え込んで、ゆっくりとくちを開いた。
「……私からお伝えすることはできかねます。お二人のことに私が口出しする権利はございません。ですが、お嬢様」
一旦口を閉じて、迷うようにしてから
「隠された真実を暴くことは、必ずしも正解とは限りませんよ。本当に知りたいですか? お嬢様の求めている答えが、不都合な真実だとしても?」
まっすぐに見つめてくるウォルト。
覚悟ならもうしてる。
私に、迷いなど一切なかった。
「知らないとは、言わないのね。それでも私は、真実を知りたい」
私の答えに、ウォルトは軽くため息をついた。
「……そうですか。どちらにせよ私からお話することは出来ませんから。覚えていてください。パンドラの箱を開けてしまったら、その前に戻ることはできないと。隠されたものには、意味があると」
それだけ言い残して、ウォルトは部屋から出て行った。
不都合な真実。
パンドラの箱。
それでも私は、
「失ったアンセル様との時間を、知りたい」
当然と言えば当然だけれど、私の部屋には特別気になるものはなかった。普段は見ないようなクローゼットの奥までみたけれど、何もない。
私の部屋に、私にみられたくないものを置くはずがないわよね。当然だ。
と、すると、あるとすれば私が普段行かないところ。
応接室なんかには置かないだろうし、物置にしているような部屋や、お父さまたちの部屋。そこしかない。
「お嬢様、どうなさったのですか?」
廊下を歩いていると、メイドに不思議そうに聞かれる。
「懐かしくて。散歩よ」
半分嘘で半分本当だ。
ちょっと罪悪感を感じたけれど、メイドはあっさり信じてくれた。
周りに人がいないのを確認して、物置にしている部屋に入る。
雑然と置かれている気はするけれど、ほこりがないから掃除されているらしい。変な置物とか花瓶とか、私からすれば「ガラクタ?」みたいなものばかりだ。
ひっくり返すようにしてみたけれど、やっぱり手掛かりになりそうなものはなにもない……。
やっぱりあるとすれば、
「お父さまたちの部屋、か……」
こそこそしながら誰もいないのを確認して、部屋に入る。
部屋の中は、お父さまたちが使っていた当時のそのままだった。
掃除をまめにしてくれているらしく、空気は綺麗で、埃が積もっている様子もない。
鼻の奥がつんとして、懐かしさで涙が出そうになった。
でもいつまでもそうしているわけにはいかない。
「探しましょう」
私は一人呟いて、探し始めた。あまり長時間私の姿が見えないと、使用人たちが探すはず。限られた時間できびきび動かないと。
まずは本だなの中を一冊ずつぱらぱらと改めてみる。
すべて見たけれど不自然なものはなさそうだ。棚にも違和感なし。
お父様の机の引き出しを開けてみる。引き出しの底をノックして、二重底ではないか確認して。
「……ん?」
一つだけ、音が違う引き出しがあった。
怪しい。
引き出しの底のほうに、はさみを差し込んで、ぐいぐいとこじ開けてみる。
ガタッ。
……外れた。
少しばかり緊張しながら、私は板を外した。
中には箱が入っていた。
ここで見ると時間がかかるから、自分の部屋に持ち帰って、ゆっくり見ることにしよう。
私はまた同じように板をはめ込んだ。胸の前に箱を抱え込む。
薄くドアを開いて、廊下に誰もいないことを確かめる。さっと廊下に出て、胸をドキドキさせながら自分の部屋に早足で向かう。
部屋の中にたどり着くと、私は安堵のため息をついた。
ソファーに座って、そっと箱を開けてみる。
箱の中には、
「……」
いくつかのアクセサリーに、しおりにした押し花。
アクセサリーは高価なものではない。なぜか、見覚えがある気がした。
「……!」
じっと見ていると、頭が痛くなって、私は頭を押さえた。
なんにせよ、隠してあるなんて怪しい。
私は食事の後、ウォルトに部屋にくるように伝えた。
「お嬢様、何の御用でしょうか? いくら私とはいえ、既婚者であるお嬢様の部屋に呼びだすなんてよろしくありませんよ」
来て早々、説教じみたことを言いだしたので、
「親子みたいなものなんだから、私とあなたの間に何かあるはずないでしょ。あ、ドアはきちんとしめてね」
私はウォルトにソファーに座るよう指示する。
だらだら雑談する気はないので、さっさと本題を切り出す。
「これ、何?」
箱をテーブルの上にのせると、ウォルトはぐっと息を飲んだ。答えに詰まっているようだ。
その反応からして、やはり見られては都合が悪いものだったらしい。
「旦那様たちのお部屋を、探したのですか」
咎めるように言われるのは予想の範疇だ。
「悪いとは思ったけどね。何かあるとすれば、そこだと思ったから。これ、アンセル様と私に関係があるものじゃないの? アンセル様と私会ったことがあるの? 知ってる? ごまかさないで教えてほしいの」
ウォルトは、たっぷり一呼吸分は考え込んで、ゆっくりとくちを開いた。
「……私からお伝えすることはできかねます。お二人のことに私が口出しする権利はございません。ですが、お嬢様」
一旦口を閉じて、迷うようにしてから
「隠された真実を暴くことは、必ずしも正解とは限りませんよ。本当に知りたいですか? お嬢様の求めている答えが、不都合な真実だとしても?」
まっすぐに見つめてくるウォルト。
覚悟ならもうしてる。
私に、迷いなど一切なかった。
「知らないとは、言わないのね。それでも私は、真実を知りたい」
私の答えに、ウォルトは軽くため息をついた。
「……そうですか。どちらにせよ私からお話することは出来ませんから。覚えていてください。パンドラの箱を開けてしまったら、その前に戻ることはできないと。隠されたものには、意味があると」
それだけ言い残して、ウォルトは部屋から出て行った。
不都合な真実。
パンドラの箱。
それでも私は、
「失ったアンセル様との時間を、知りたい」
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